多くの就活生でにぎわう幕張メッセ。
撮影:横山耕太郎
3月1日に採用説明会が解禁され、2022年卒業予定者(現在の3年生)の就職活動が本格化した。
ベンチャー企業や外資系企業などでは、すでに内々定を出している企業も少なくないが、日系の大企業や中小企業は3月以降に採用活動を本格化させる企業も多い。
新型コロナウイルスの影響で、オンラインでの説明会や面接が一気に普及。大規模な合同企業説明会は軒並み中止に追い込まれ、集客型の就活イベントを敬遠する傾向が強まると思われた。
しかし大規模イベントの人気は根強かった。
緊急事態宣言下の2021年3月2日、千葉県の幕張メッセで開かれた「マイナビ就職EXPO」には、就活生約6400人が参加(2部の入れ替え制の合計)。
このイベントはオンライン視聴もできるにも関わらず、会場での参加を希望した就活生は多く、対面イベントへの期待の高さを感じさせた。
実際に会場を取材してみると、就活生からは「オンライン就活ばかりで、他の就活生の顔が見えない不安があった」という声が聞かれ、会場は就活生の熱気に包まれていた。
上限に迫る予約数
会場の入り口では検温や手の消毒が実施された。
撮影:横山耕太郎
都心から電車を乗り継ぐこと約1時間、午前11時30分頃のJR京葉線の海浜幕張駅。黒いリクルートスーツに白いワイシャツを来た就活生たちが、黙々と幕張メッセに向かう姿が目立った。
2021年の「マイナビ就職EXPO」は、現地での説明会に加え、参加企業がそれぞれオンラインでも配信する「ハイブリッド型」だ。
参加企業は東京海上日動火災保険や、ソニー、伊藤忠商事、ヤクルトなど就活生に人気の高い大企業も含め、265社が集まった。
政府のイベント開催要項に基づき、会場への入場は上限5000人に設定。完全予約制で2部に分けて実施した。事前の参加予約数は1部が4868人、2部が4227人とそれぞれ上限に迫る数の予約数だった。
会場に入るまでにサーモグラフィーでの検温に加え、就活生の手にアルコールを吹きかけて消毒も。資料は机に置き、手渡しを避けるなどの感染予防策がとられた。
就活生で埋まる人気ブース続々
人気企業の講演を聞くため、会場内で列を作る就活生。
撮影:横山耕太郎
会場に足を踏み入れて感じたのは、予想以上に「就活生が多い」ということだ。
オンラインの就活が普及したことで「合同企業説明会離れ」が進んだと思っていたが、人気企業のブースはマスク姿の就活生で埋まっていた。
熱心にメモをとり、説明が終わると、社員を囲んで質問する姿も見られた。
立ち見する場合は足もとに立ち位置が示されており、立ち見の数も制限されていた。
撮影:横山耕太郎
今回のイベントでは、就活生の「密」を避けるため、企業ブースの間隔は従来よりも広く取り、就活生が座るイスとイスの間隔も1メートル開けるように設定。立ち見の数も制限された。
就活生が感じている「オンライン疲れ」
友人らとイベント会場をまわる就活生の姿も目立った。
撮影:横山耕太郎
オンラインであれば自宅から参加できるものの、都内から1時間以上かけて会場に来ていた就活生いた。
都内の私立大学に通う3年生の男子学生(22)は、オンラインだけで展開される就活への不満を口にした。
「2020年の9月頃から説明会やインターンに参加しているが、参加した30社のうちで実際に社員と対面したのは1社だけ。
合同企業説明会は、今までは見えていなかったライバルの顔も見える。3月になってこれから面接が続く。負けてられないと闘争心に火がついた」
また、飲食業界を志望しているという都内の私立大学の女子学生(22)は、オンラインだけでは孤独を感じたという。
「2020年の秋ごろからオンライン面接を受けていますが、誰にも会わず、部屋にいながら就活を続けるのは不安が大きかった。説明会で他の就活生の姿を見ることは、やる気にもなる。ただ、思ったよりも他の就活生との距離が近くて、コロナがちょっと心配」
企業側が感じる「対面の価値」
企業向けのオンライン配信ブース。
撮影:横山耕太郎
企業ブースが並ぶ会場から、徒歩数分の位置にある幕張メッセ内の別会場には、白い壁で仕切られた個室がずらりと並んでいた。
あるブースに入ってみると「皆さん、こんにちはー」と、男性2人がカメラに手を振りオンライン生配信中だった。
企業ブースに出展した企業は、各社30分のオンライン配信枠が割り振られる。開始時間を5分ごとにずらして、午前11時の時点では約30の企業が同時に放送していた。
オンライン配信する日本交通の仲尾有史さん(右)ら。
撮影:横山耕太郎
大手タクシー会社・日本交通のオンライン配信は約110人の就活生が視聴したという。
オンラインで企業説明をおこなった日本交通の新卒採用担当・仲尾有史氏は、「チャット機能で気軽に質問してもらえるのもオンラインの魅力。今回は会社の強みや、女性活躍、なぜ入社を決めたのかなど、約30件も質問が集まった」と振り返る。
日本交通の企業ブースを訪れた就活生は、朝から夕方まで合計で約180人。オンライン配信はたった1回で110人が視聴したことを考えれば、オンラインの方が効率的ではある。
「オンラインでは全国の就活生が見てくれるが、対面でこそ伝えられる雰囲気も大事だと思っている。今日の説明を聞いて『絶対に入社したい』と言ってくれた就活生もいた。リアルでこそ伝わる熱量もある」(仲尾氏)
知名度がある大企業が参加する理由
空席が目立つブースも。イスの間隔は1メートル開けられている。
撮影:横山耕太郎
イベントを主催するマイナビ側は、「就活生は対面の場で得られる情報を欲している」とする。
「不況になると就活生の活動量は増え、イベントへの関心が高まる傾向にある。それに加え、コロナ禍によって就活生が会社の雰囲気をリアルに感じられる場所が減った。今後もオンラインと対面の併用は続くとみている」(マイナビの新卒イベント責任者・落合和之氏)
知名度が課題の企業にとっては、合同説明会は学生との接点になっている。
介護施設運営・元気村グループの採用担当、鯨井敦氏は「オンラインで弊社の名前を検索してくれる就活生は多くない。就活生の中には、まだまだ業界を絞れていていない層もいる。たまたまブースを訪れた就活生にも会社を知ってもらうきっかけになる」と話した。
一方、知名度の高い企業はどうか?
匿名で取材に応じたサービス業の有名企業の担当者も、オンラインだけを重視はしていないという。
「オンライン就活でエントリー数は大幅に増えたし、オンライン面接でも対面と同じ質を確保はできる。ただ、2022卒はインターン時期から、全く対面できないままでの就活が続いており、今後は内定辞退などの懸念も残る。できる限り直接会える場は確保したい」
マスクを着け、熱心に企業の説明会を聞く就活生。
撮影:横山耕太郎
オンライン就活が本格化してはや1年。2022卒の就活生は、昨夏以降のインターン時期からほとんど企業と対面で会うことがないまま、3月の就活シーズンに突入した人も多い。
緊急事態宣言下であっても大規模就活イベントが人気を集めているのは、就活生のオンライン就活への不安の裏返しとも言えるだろう。
(文・横山耕太郎)