新型コロナの緊急事態宣言は解除されたが、今後、企業のテレワークは定着していくのだろうか。そのキモとなるのが「テレワーク下のマネジメント」の問題だ。これまでと違い、目の前にいない「見えない部下」を相手に、どのように育成し、管理し、評価していけばよいのだろうか? その課題さえクリアになれば、テレワークは、マネージャ―にとっても部下にとっても生産性のあがる働き方として、定着していくに違いない。パーソル総合研究所による大規模な「テレワーク調査」のデータをもとに、テレワーク下のマネジメントの課題の具体例を提示し、経営層・管理職の豊富なコーチング経験を持つ同社執行役員の髙橋豊氏がその解決策を執筆した本が『テレワーク時代のマネジメントの教科書』だ。
立教大学教授・中原淳氏も、「科学的データにもとづく、現場ですぐに使える貴重なノウハウ!」と絶賛する本書から、テレワーク下での具体的なマネジメント術を、解説していく。

日本人が<br />抜群のチームワークを発揮できる<br />組織の特徴とは?Photo: Adobe Stock

日本人がチームワークを発揮できる条件

 唐突ですが、日本人はチームスポーツが得意だと思いますか?

 私は“ある条件”をクリアしたときのみ、日本人はチームスポーツで抜群の強さを発揮すると思っています。

 その条件とは、チームメイトが“同じ釜の飯を食っている”ときです。

 寮生活や長期の合宿生活で寝食を共にし、お互いに“阿吽の呼吸がわかる”という状態に至ったとき、日本人のチームは素晴らしい成績を残すのです。

 古い例になりますが、1964年の東京オリンピックでソ連を破って金メダルを獲り、「東洋の魔女」の異名を誇った女子バレーボールチームがあります。

 彼女たちは日本代表でしたが、同時にほぼ全員が日紡貝塚という実業団でもあり、繊維工場の女工として毎日早朝からともに働き、終業後に深夜まで練習をし、同じ寄宿舎で眠っていたのです。チームを金メダルに導いた大松博文監督は、同じ工場の庶務課長でした。驚異的なチームワークは、まさに“同じ釜の飯”から生まれたのです。

 最近の話で言えば、ラグビーのワールドカップで、日本代表は2015年と2019年に好成績を残しました。この2年に共通しているのは、大会に向けて半年以上の合宿をしていることです。まさに“同じ釜の飯を食った”ことによる日本的な勝利パターンだったと言えるでしょう。

 話を企業に戻すと、高度経済成長期、多くの企業人は終身雇用のもとで社宅に住み、プライベートも含めて家族ぐるみで過ごしていました。そして、そこで築かれた絶妙な関係性が、そのまま仕事上のチームワークにつながっていました。あの右肩上がりの経済を支えていたのは、長い時間をかけて寝食を共にしながら“阿吽の呼吸”を生み出すという、まさに日本式チームビルディングだったのです。

 それに対して、欧米人は“同じ釜の飯を食う”などという発想をもっていません。寄せ集めのメンバーであっても、短期間でチームワークを築きます。

 なぜかというと、彼らは目的を、そしてひとつひとつの細かな要求を、すべて言葉で伝え合ってチーム内で共有するからです。伝えづらいことであってもはっきり言葉にするというのは、日本人が最も苦手としていることではないでしょうか。

「テレワーク」への転換は、日本人が得意とする「阿吽の呼吸」に頼れないということ。新たなチームビルディングの在り方を模索する時がきているのです。

 本書では、テレワークのマネジメントに必須のICTを使ったコミュニケーションの方法についても詳しくお話ししています。リアルでのコミュニケーションとは違った方法論が必要です。どうぞ、ご参考にしてください。