部下にどんな言葉をかければいいか悩んでしまう、上司の言っていることの真意が分からない。同じ日本語を話しているはずなのに、なぜ、伝わらないのか。そんな世代間ギャップに注目し、コミュニケーションのノウハウや言葉の使い方を分かりやすく物語形式で解説したひきたよしあきさんの著書『人を追いつめる話し方 心をラクにする話し方』(日経BP)は発売後約2週間で増刷が決定! 今回は同書から、「人のいい行動を見たときに効果的に褒める言葉」を紹介します。

登場人物
太陽上司(左)
総合イベント会社ホワイトベア制作一課課長。1977年生まれ、45歳。41歳の前厄で腎臓がんを患い、1年間休職。復帰後は、人材育成と新規事業に力を入れている。「彼と話すとなぜか仕事が楽しくなる」「やる気が湧く」と、他部署からも多くの相談が集まる。

野本優里(右)
2年目。事務担当の派遣社員。

 このイベント会社に派遣されて2年がたつ。制作一課の太陽上司は、「働きがいは、人の役に立っていると思えることだ」とよく口にする。本当にそう。私みたいに一般事務のような仕事をしていても、「人の役に立っている」と思うとやはりうれしい。先日、10人分の資料をコピーして、隅をホチキスで留めて太陽上司に持っていった。

 太陽上司は、にっこり笑って、「ホチキスが同じ位置にピシッと決まっていて、気持ちいいね。野本さんは、仕事がいつも丁寧だ」と言ってくれた。それだけなのに、仕事がすべて認められたような気持ちになる。

 他の人に太陽上司が掛ける言葉を聞いていても、「この企画書、レイアウトがすごくきれいだね。色数が少ないのもオシャレだ」「さっきのメール、ナイスタイミングだった。ありがとう」と、誰かが何かをすれば、すぐに褒める。それも、未来を期待したり、過去と比較したりするようなことはない。「今やったこと」をサッと褒めるだけだから、胃にもたれない。爽やかな風が吹くような感じだ。

 以前、太陽上司と子育てについて雑談したことがある。そのときに「私は、上の息子をいつも厳しい言葉で叱っちゃいます。どうすれば太陽上司のように褒められるようになりますか?」と尋ねたら、「おだてず、こびず、心を込めて、その瞬間の行動だけを褒めるように心がけている」と言っていた。だから、太陽上司は「昔に比べて」や「将来こうなるぞ」みたいな褒め方はあまりしないんだ、と感心したことがある。

 「親は、子どもの悪い面にばかり気が付く。当たり前だよ。走るのが遅くて、ライオンに食われたら終わりだ。だから『おまえは足が遅い!速く走れ!』というのが親の本能なんだ。でも、悪いところばかり指摘していたら、子どもの自己肯定感は育たない。親が、子どものいいところを見つける努力を、他人の2倍も3倍もして、やっと子どもは『お母さんお父さんが褒めてくれた』と思えるものなんだよ」

 なるほど。でも、なかなかできないんだよね。私も太陽上司のように、褒め上手になりたい。息子のいいところ、ちゃんと見てあげなくちゃな。