マネジメントやリーダーシップの在り方は時代と共に変化しています。でも、変わらないことは「人を動かして事業を前に進めること」。
この「ズルいマネジメント」特集では、そのために必要なさまざまな裏技や新しいマネジメントスタイルについて、実例を交えながらご紹介していきます。
第1回は、『ダークサイド・スキル 本当に戦えるリーダーになる7つの裏技』の著者で経営共創基盤の共同経営者、木村尚敬さんにインタビュー。ダークサイド・スキルとは何か? 今求められるリーダー像とはどんなものなのか、詳しくお聞きしました。今回は上編です。
▼中編、下編はこちら
人間関係で退職や転職を考えたこと、ありませんか?
仕事の悩み=職場の人間関係の悩み、という人は少なくありません。日本労働調査組合の「職場の人間関係に関するアンケート(2021年)」によると、「職場の人間関係を理由に退職、転職を検討したことがある」と答えた人は58.5%に上りました。
「職場の人間関係」について、「良好」と答えた人は32.1%に留まり、「職場の人間関係に疲れている、悩んでいる」「職場の人間関係にストレスを感じている」と答えた人は合わせて29.2%という結果でした。
上司との関係に悩む人が多いと思いますが、最近は「部下からの逆パワハラ」という問題もささやかれるようになってきています。いずれにせよ、上司・部下との関係性がポイントになるということでしょう。
ライフハッカー読者は、会社においては部下や後輩を抱えるチームリーダーでもある一方、経営陣や部長などの上司からさまざまなプレッシャーを受けている、そんな立場にある人が多いかもしれません。まさに上司と部下の板挟みにあるわけです。
経営共創基盤の共同経営者として、数々の大企業の経営改革、事業再編などの支援を行なってきた木村尚敬さんは、「そんなミドルリーダーこそが会社の基盤」と語ります。
トップと現場に挟まれたミドルリーダーこそ、会社を変え、事業を推進するための要だと考えています。
経営トップは会社が大きくなるにつれて、事業の最前線で起こっていることは見えなくなっていきます。そんなトップが経営判断を下すときに判断材料となるのが、現場で指揮を執るミドルリーダーからの報告です。
ミドルは現場が見えているし、トップと話す機会もあるはず。現場の一次情報を持ちながら、経営の一次情報もとれる、恵まれたポジションなのです。
ブライトサイド・スキルとダークサイド・スキル
そんなミドルや若手リーダーにこそ身に付けてもらいたいマネジメント技術、それを木村さんは「ダークサイド・スキル」と呼び、自著『ダークサイド・スキル 本当に戦えるリーダーになる7つの裏技』(日本経済新聞出版)という本にまとめています。
ダークサイド・スキルと聞くと、悪の中枢のようなイメージを持たれるかもしれませんが、要は生身の人間を説得し、組織を動かしていくために必要なヒューマンスキルのようなものです。
単なるコミュニケーションスキルのようなきれいごとではなく、もっと人間としてドロドロした部分も飲み込んで利用する。人の感情を動かし、組織に対して影響力を発揮し、空気を支配するような力、そんな泥臭いスキルがダークサイド・スキルなのです。
ビジネスパーソンのスキルというと、ロジカルシンキング(論理的思考力)や財務・会計知識、営業・マーケティングに関する知見など「ハード的なスキル」がクローズアップされがちです。
木村さんはそれらを「ブライトサイド・スキル」と呼び、ダークサイド・スキルの反対の概念としています。
もちろん実際に事業を行なっていく上で、これらのスキルも重要であることは間違いありません。しかし、人間を説得し、実際に組織を動かしていくには、それだけでは足りないのです。
経歴がピカピカな良い子ちゃんでは、時に痛みを伴うような「改革」は実行できません。古いものをやめて新しいものに変えていくときには、ひずみが出たり、反対が巻き起こったりするもの。
しかし、社内のエリートと呼ばれる人たちは、ブライトサイド・スキルは際立って高いものの、人心掌握力に欠けたり、社内の情報に弱かったり、打たれ弱かったりする人が少なくない。そんなときに必要なのがダークサイド・スキルを備えたリーダーなのです。
ブライトサイド・スキル
- 論理的思考力
- 財務会計知識・スキル
- プレゼンテーション力
- 資料作成スキル
ダークサイド・スキル
- 人や組織に影響を与え、動かす力
- 空気を支配する力
- 人を正しく見極める力
- 厳しい意思決定を断行できる力
決断の質とスピード感を兼ね備えたリーダーが必要
ここで一度、今必要とされるリーダーとはどんな人材か、ということに立ち戻ってみましょう。木村さんは、昔と今では必要とされるリーダー像が全く違う、と指摘します。
日本経済が右肩上がりで成長の道筋がはっきりと見える中、そこへ向かって改善改良を積み重ねた連続的な変化が求められていた時代は、経営上の重要課題はいかにオペレーションを効率的・精緻に回すかということが中心でした。
そのため、社内の利害対立ということがあまり起きないよう、社内の意見を集約して最大公約数的にまとめるような調整型のトップが重宝されました。
今はCX(コーポレートトランスフォーメーション)やDXなどの非連続な変化が求められており、時には事業の取捨選択や構造転換などの戦略的な経営判断を、スピード感を持って下すことが求められています。
改善改良ではなく、改革・変革マインドを持って事業をドライブさせる、決断の質とスピードの両方を兼ね備えたリーダーが必要なのです。
これはトップに限った話ではなく、現場にいながらもトップの視点を持つリーダーが、事業を客観的な視点で俯瞰し、自分のレイヤーで決めるべきことを決める。そうした現場のボトムアップとトップダウンがうまくかみ合って初めて、会社全体が前に進むことができる時代なのです。
ダークサイド・スキル「7つの裏技」
そういったリーダーにとって必要な技術がダークサイド・スキルです。木村さんはダークサイド・スキルを以下の「7つの裏技」にまとめています。
7つのダークサイド・スキル
- 思うように上司を操れ
- KYな奴を優先しろ
- 「使える奴」を手なずけろ
- 堂々と嫌われろ
- 煩悩に溺れず、欲に溺れろ
- 踏み絵から逃げるな
- 部下に使われて、使いこなせ
次回、この7つの裏技について、それぞれご説明していきます。
▼中編、下編はこちら
木村尚敬(きむら・なおのり)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者マネージングディレクター。ベンチャー企業経営の後、日本NCR、タワーズペリン、ADLにおいて事業戦略策定や経営管理体制の構築等の案件に従事。IGPI参画後は、製造業を中心に全社経営改革(事業再編・中長期戦略・管理体制整備・財務戦略等)や事業強化(成長戦略・新規事業開発・M&A等)など、様々なステージにおける戦略策定と実行支援を推進。IGPI上海董事長兼総経理、モルテン社外取締役、りらいあコミュニケーションズ社外取締役Japan Times ESG推進コンソーシアム アドバイザリーボード。著書に『ダークサイド・スキル 本当に戦えるリーダーになる7つの裏技』(日本経済新聞出版)など。
Source: 日本労働調査組合/Image: GettyImages