リモートワークの普及により、転居を伴う転勤や単身赴任を見直す企業が出始めた。ここで問題となるのは住宅手当。ジャーナリストの溝上憲文さんは「住宅手当の性質・目的は転居を伴う転勤にかかる費用の補助。転居を伴う転勤がない正社員に住宅手当を支給していれば非正規社員にも住宅手当を支払わなければならず、住宅手当そのものを廃止する動きもある」という――。
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「転勤・単身赴任廃止」と引き換えにする大きな代償

リモートワークの普及に伴い、従来の転居を伴う転勤制度を見直す企業が徐々に増えている。転勤といえばよくも悪くも「正社員」の証しでもあった。

2021年9月にNTTグループが「転勤・単身赴任」を原則廃止する方針を打ち出した。同社の澤田純社長は「リモートワークが増えれば、居住地と働く場所の結びつきが薄くなり、転居を伴う転勤・単身赴任は自然に減る。いまは夫婦共働きの世帯が増え、転勤などはしづらい」(2021年10月20日、日経電子版)と語っている。

また6月中旬、NTTは主要7社の従業員の半分の約3万人を対象に、国内のどこでも自由に居住して勤務ができる制度を7月から導入することで労働組合と合意。居住地を移動することなく業務が可能になる転勤なしのリモートワーク勤務を加速させている。

例えば、地方支店に管理職として異動することになっても、居住地を変わることなく以前と同じように本社にいて、必要な会議や部下に指示を出すことも可能になる。

難しい案件が発生すれば出張ベースで移動すればよいだけだ。同社に限らず、リモートをフル活用し、転居を伴う転勤制度を廃止する企業も出始めている。

その背景には共働き世帯の増加で転勤を敬遠する社員の増加がある。昔は一家の大黒柱である男性が働き、女性が家事・育児を引き受ける専業主婦世帯が多かったが、今では専業主婦世帯は566万世帯に減少し、共働き世帯が1247万世帯と“逆転”している(2022年)。

エン・ジャパンの「転勤に関する意識調査」(1万165人回答、2022年6月20日)によると、「転勤は退職のきっかけになる」と回答した人は64%に上る(「なる」36%+「ややなる」28%)。

「今後、転勤の辞令が出た場合、どう対処するか」については「承諾する」が16%、「条件付きで承諾する」が36%であるが、「条件に関係なく拒否する」と回答した人が26%も存在する。世代別では30代が30%と最も多く、男女別では男性が22%、女性が30%に達している。

しかも、リモートワークが普及するコロナ禍前の2019年の調査に比べて転勤拒否派が一層増えている。

リモートワークによる転勤制度の見直しを進めているサービス業の人事課長は「会社の考えを上回るスピードで若年層の転勤に対する抵抗感が高まっている。いつまでも転勤の仕組みを堅持するのは難しく、会社も人材流出を抑えるための方針転換が求められている」と語る。