“うきうき・わくわく・いきいき”した職場でみんなが働くようになるために

厚生労働省の雇用動向調査によれば、新卒入社3年以内の退職者が退職者全体の3割を占めている。「現在の職場に魅力を感じない」「もっと良い職場に出合いたい」といった理由が考えられるが、そうした新人やベテラン従業員が職場を魅力的に感じるために、経営者や人事担当者はどうすればよいだろう? ワークエンゲージメント、エンプロイアビリティ、パーパス……カタカナ語が目立つなか、職場と仕事に求められるものはシンプルな日本語で表すことができるようだ。研修講師として活躍を続ける板谷和代さん(株式会社タンタビーバ 取締役)が、日本航空勤務時代の人材育成の話を中心に、組織に「元気をもたらす種」を語る。(フリーライター 狩野南、ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

「うきうき」「わくわく」「いきいき」という3つの研修

 板谷さんは、短期大学卒業後に日本航空株式会社(JAL)に入社し、2016年3月に退職するまで、37年間にわたって勤務を続けた。2010年の経営破綻時に人材育成を手がける部署にいた板谷さんは、「現場に元気の灯をともしたい」という一心で、「うきうき」「わくわく」「いきいき」という3つの日本語をキーワードにした研修を企画した。

板谷 当時、私は人事本部で研修担当のマネジャー(管理職)をしていましたが、経営破綻の直前から、社内における研修はすべてストップしていました。2010年1月の経営破綻直後に、「意識改革推進準備室」が発足し、やがて、私が在籍していた「人づくり推進室」と合併し、「意識改革・人づくり推進部」という部署になりました。「意識改革」の姿勢で、新たな企業理念や「JALフィロソフィ」の浸透を進めるなか、ようやく、「人づくり」となる研修も再開することになったのです。そのとき、改革を進める会長の稲盛(和夫)さんから言われたのが、「“マインド”を高める研修を“自分たち”でやりなさい」ということでした。研修を外部に委託するのではなく、JALフィロソフィを共有する社内の者が研修を行うべきだ、と。

 研修が止まっている間、私は、現場社員の人たちへのヒアリングを行っていました。誰もが仕事に希望を持てず、心がズタズタな様子でした。会社が立ち直るには、「仕事って楽しい!」と、良い笑顔でみんなが働くことが大切で、それが、お客様が戻ってきてくれることにつながると、私は思いました。そのための“モチベーション”と“コミュニケーション”の研修を行おうと決め、浮かんだ言葉が、「うきうき」「わくわく」「いきいき」でした。

 当初、板谷さんが考えた研修名は「うきうき研修」「わくわく研修」「いきいき研修」だったが、担当役員とのやりとりを経て、「モチベーション&コミュニケーション研修」とし、「仕事うきうきコース」「仕事わくわくコース」「仕事いきいきコース」というふうに、「仕事」という言葉を付け、「うきうき」「わくわく」「いきいき」は研修名ではなくコース名で表現した。それぞれが、入社半年〜3年目の若手社員、入社3年〜7年の社員、入社7年以上の社員と、キャリアごとに設定されていたが、全体を通して板谷さんがこだわったのは、「みんなが対話すること」だったという。

板谷 研修は、基本的にはワークショップ形式にしました。「仕事うきうきコース」は、模造紙の真ん中に自分たちで飛行機の絵を描き、自分自身の仕事も描き添えて、自己紹介&仕事紹介をするというアイスブレイクでした。研修には、グループ企業の枠を超えて、さまざまな職種の人が全国から集まってくるので、そうしたアイスブレイク的な方法で他の人の仕事を知ることができ、「自分も飛行機を飛ばすJALグループの一員なのだ」という意識が生まれました。ワークショップでは、ポジティブな気持ちになるテーマを選び、みんなで徹底的に話し合い、研修後には多くの人の“元気スイッチ”がオンになりました。

「仕事わくわくコース」では、参加者が仕事における悩みを語り、その中のひとつをグループみんなで問題解決の手法で掘り下げて“自分にできること”を考えました。つまり、他人事にしないということを大切にしました。「仕事いきいきコース」では、参加者がそれぞれのキャリアに向き合い、自分への期待を高め、仲間とエールを送り合いました。

 自分自身のことや自分の仕事内容を客観的に振り返ることで働くことの意味づけができ、その結果、研修参加者のみんなに活力や元気が戻ってきたと、私は実感しました。

“うきうき・わくわく・いきいき”した職場でみんなが働くようになるために

板谷和代 Itaya Kazuyo

株式会社タンタビーバ 取締役 (共同創業者/元気の種まき担当)

1979年東京女子大学短期大学部英語科卒業後、日本航空に入社。支店総務、カウンター・セールス、リゾート開発、法人セールス等を経験した後、会社初の女性海外支店長として2005年6月よりウィーンに単身赴任。2009年5月末に帰国し、JALグループの人財育成を担当。大学の通信教育課程(編入)を経て、産業能率大学大学院経営情報学研究科(夜間・土日)へ進学。2002年 MBAを取得。2015年、株式会社タンタビーバ設立。2019年より東京経済大学客員教授にも着任。