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Z世代はテレワーク嫌いか 隠れた承認欲求に働きかけ テレワークと承認欲求 同志社大学政策学部教授 太田 肇

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日経BizGateで7月に掲載した「テレワークで行き場失う承認欲求 偉さ誇る時代の終わり」で、管理職の承認欲求がテレワーク普及の妨げになっていると指摘した。上司は目の前に部下がいなくなると承認欲求が満たせない。いろいろな理由をつけてテレワークをやめて元の勤務体制に戻そうとしたり、部下の出勤を促したりする。

一方、問題を抱えているのは管理職や中高年だけでない。20代半ば以下のいわゆる「Z世代」を中心に、テレワークで承認欲求が満たせず不安やストレスを訴える若者は少なくない (拙著『日本人の承認欲求 テレワークがさらした深層』新潮新書)。

■テレワークは「ラッキー」のはずが

2020年春、新型コロナウイルス禍でテレワークが一気に広がると、多くの若手社員はこれを歓迎した。通勤しなくてよいので楽だし、上司に細かく管理されることもない。勤務時間中でもちょっとくらい休めるし、プライベートな用事もこなせる。良いことばかりだ。

ところが1カ月もたつと彼らの反応が変わってきた。自宅に一日中いると刺激がなく退屈になる。社会から取り残されたような気分になって不安が募る。新入社員は同期との交流やつながりができなかったことが特に大きなダメージとなったようだ。

リクルートマネジメントソリューションズ(東京・品川)がインターネットで行った調査で、テレワークを経験した20年4月に入社した人と19年に入社した人を比較したところ、20年に入社した人が1年目に「もっとあったらよかったもの」のトップが「同期との交流」(40.3%)で19年の25.9%を大きく上回った(「新卒入社1年目オンボーディング実態調査」21年6月)。入社時に十分なコミュニケーションがとれなかった影響は後々まで残ると言われている。

さらに、未婚の男性ではテレワークで生活満足度が低下する傾向も表れているという(臼井恵美子・一橋大学教授、松下美帆・一橋大学准教授「ポストコロナの働き方 満足度指標 、政策に活用を」22年6月2日付日本経済新聞)。

■若者が求める「ヨコ」からの承認

他人からの承認はモチベーションや仕事の生産性を高めるだけでなく、仕事や生活への前向きな姿勢を引き出すうえでも大切なことが明らかになっている。日本人の特徴として子どもから大人まで、やればできるという自信にあたる「自己効力感」が低く、それを高めるために周囲からの承認を必要とするという研究結果もある。

このため、テレワークの導入にあたっては、働きやすさや効率性だけでなく、社会的・心理的な影響、とりわけ承認欲求への影響も考慮しなければならない。

ただ、若者の承認欲求は、親世代や管理職とは異なる表れ方をすることには注意する必要がある。親世代、あるいは管理職が主にタテの関係で承認欲求を満たそうとしてきたのに対して、Z世代を中心にした現在の若者は、どちらかというとヨコの関係で承認欲求を満たそうとする。

出世して高い地位に就いたり、上司から評価されたりするよりも、同僚から一目置かれたり、顧客から感謝されたりすることを重視するのだ。もちろん上司から認められることに無関心なわけではないが、上司からの承認を重荷に感じ、かえってモチベーションやワークエンゲージメント(仕事への熱意)を下げてしまう場合もある。

■「期待してる」がプレッシャーに

上司が若手社員を承認する際には、この点を頭に入れておかなければならない。これまで承認といえばほめることが定番だったが、ほめられることを嫌がる若者もいる。同様に「期待されたくない」という若者も少なくない。ライオンが12年に行った「新社会人のプレッシャーに関する意識調査」では新入社員時代にプレッシャーを感じた、心に重くのしかかる上司の言葉として「期待しているよ」が3位に入った。

ほめる、期待するといったタテ方向の承認は、それに応えなければいけないというプレッシャーを生む。上司からほめられたくない、期待されたくないというのは、それが呪縛をもたらすことを内心恐れているからだろう。

ベストセラーとなった『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著、ダイヤモンド社、13年)は心理学者アドラーの言葉を持ち出しながら、他者から承認を求めることを繰り返し否定している。こうした書籍が若い読者を引きつけるのは、自分の承認欲求に呪縛される若者がいかに多いかを物語っている。

■役立てる機会与え、「ハレの舞台」用意

若い社員の承認欲求にうまく働きかけ、やる気や働きがいを引き出すには、ヨコ方向で認めたり、あるいは認められる機会を与えたりすることがポイントになる。

小さなことでも他人や会社のために役立って、喜ばれ、感謝されたら、承認欲求が満たされると同時に自己効力感や自己肯定感も高まる。ボランティアや社会貢献に熱心な若者が多いことを見ても、彼らがそのような機会を欲していることがわかる。

そこで、例えば、中高年が苦手とするIT関係や、新しいセンスを要する仕事で若手を頼りにしたり、イベントや親睦行事を企画させて運営も任せたりしてはどうか。会社の役員になったつもりで経営課題について議論させる「ジュニアボード」を設置している会社もある。若手社員を表彰するだけでなく、表彰の企画や運営まで若手に担わせているケースもある。

タテ社会の日本では、職場においても若手が活躍し、認められる機会は少ない。それだけにハレの舞台を用意することが大切だ。承認欲求は表れ方によって益にも害にもなる。Z世代の若者にとってだけでなく、企業や社会にとっても有益な形につながるような承認欲求を満たせる場を提供したい。

太田肇(おおた・はじめ)
同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授。神戸大学大学院経営学研究科修了。経済学博士。専門は組織論、とくに「個人を生かす組織」について研究。日本労務学会常任理事。組織学会賞、経営科学文献賞、中小企業研究奨励賞本賞などを受賞。『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)、『「ネコ型」人間の時代』(平凡社新書)、『公務員革命』(ちくま新書)、『「見せかけの勤勉」の正体』(PHP研究所)、『個人尊重の組織論』(中公新書)、『「超」働き方改革』(ちくま新書)、『同調圧力の正体』(PHP新書)など著書多数。近著に『日本人の承認欲求 テレワークがさらした深層』(新潮新書)。

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