ソニーグループ、MIXIが注力する人材育成とは? 次世代リーダーの育成を強化し、競争力を高める

優秀な次世代幹部候補の育成は、企業が競争力を高めていく上で非常に重要な取り組みとなっている。ソニーグループの「ソニーユニバーシティ」やMIXIのマネジメント層の行動指針である「MIXI Management Beliefs」、サントリーホールディングスの企業内大学「サントリー大学」、コクヨの「KOKUYO DIGITAL ACADEMY」など、大企業においても社内人材のスキルアップ、能力向上を通して競争力を増していこうという動きが活発化している。今回の記事では、ソニーグループとMIXIの取り組みを紹介し、人材育成の意義とその効果について考えてみる。(文:太田祐一、編集:日本人材ニュース編集部

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なぜ、人材育成に注目が集まるのか

少子高齢化に伴う生産年齢人口(労働人口)は減少の一途を辿っており、総務省の「令和4年版高齢社会白書によると、2021年の7450万人から2050年までに29.2%減の5275万人まで減少することが予測されている。
(参考:内閣府「令和4年版高齢社会白書」

このような少子高齢化による労働人口の減少や、転職市場の活況により、優秀な人材の確保や定着が難しくなっている中、内部人材の育成は企業の持続的な成長に欠かせない要素となっている。特に、次世代の経営幹部候補の育成は、競争力を左右する重要な戦略の一つだ。

優秀な次世代幹部候補の育成に注力することで人材の質を高め、組織力の強化につなげることができる。さらに、内部育成の取り組みは、社員のエンゲージメントや帰属意識の向上にも寄与し、優秀な人材の定着にも効果があると考えられる。

今後、企業間の競争がますます激化する中で、優秀な次世代幹部候補の育成は、競争力を高めていく上で欠かせない施策となるだろう。各企業が、自社の強みを活かした人材育成プログラムを構築し、継続的に取り組んでいくことが求められている。 今回は、その中でもマネジメント層や将来の幹部候補育成に特化した取り組みを行っているソニーグループとMIXIの施策を紹介する。

ソニーグループの次世代経営人材育成「ソニーユニバーシティ」とは?

ソニーグループでは従来から人材育成に注力してきた。そして、社内で行っている人材育成施策の中でも取り分け大きな位置を占めているのが「ソニーユニバーシティ」だ。

「ソニーユニバーシティ」は将来の経営を担う人材を育成する目的で2000年に設立された。「経営ビジョンと戦略を描きリードする人材の創出」「ソニースピリットの継承」「グループ経営を行うための人的ネットワークの形成」をミッションに掲げている。累計参加者数は現在までに約1400人。

「ソニーユニバーシティ」の参加者内訳の変化

コースは部長・課長・リーダーの3階層に分かれ、グローバル向けと国内向けそれぞれ3つ実施。各コースには数10人が参加し、職場推薦や一部自己推薦によりメンバーを決定する。基本的に秋頃からスタートしグローバルコースは半年間、国内コースは約4カ月のスケジュールだ。

同社は2021年度からグループアーキテクチャを変更。グローバルでの参加者も増加し、現在では全世界の多岐にわたる事業から満遍なく多様な社員が参加しているのが特長だ。「University of California」「Berkely」「IESE Business School」「Singularity University」など世界トップクラスの教育機関と提携し、2024年度からは全6コースが揃い、最高峰のビジネスが学べる。

ソニーグループ グループ人事部の太田優香氏は、提携する教育機関の選定について「各事業の人事責任者やタレントマネジメント責任者から意見を取り入れ、単なるリーダーシップの育成ではなくソニーグループのPurposeである『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす』や『人に近づく』という経営の方向性に即した教育機関を選んでいます」と語る。

例えば、グローバル部長コースでは半年間の間にModule1とModule2の2つの期間があり、Module1では提携先のビジネススクールのキャンパス、Module2ではソニーグループの品川本社でそれぞれプログラムを実施する。講義内容は、ビジネス変革、イノベーション、ビジョンと戦略の紐づけ、リーダーシップなど多岐にわたり、ディスカッションを多く行うインタラクティブな形式を取り入れている。

研修期間中はチームごとに、AI、DX、エンタテインメント、モビリティなどからトピックを選び、将来の経営構想を練るという課題も課す。

こうした課題を設定した背景について、太田氏は「さまざまな事業と連携し参加者が相互に学び合いながらグローバルで何かを作り上げていくことを肌で感じてもらい、現在や将来の業務に活かして欲しいという期待を込めています」と話す。

課題の最終発表・修了式はModule2で行われ、役員との対話セッションなどを通し経営トップの考え・人柄についても触れる機会を設けている。

今後は「ソニーユニバーシティ」のコミュニティ強化に注力していくという。参加した年度やコースを超え、参加者同士のネットワークの拡大と深化を図ることで、仕事での連携や相談できるような人脈を広げていきたい考えだ。 「グループを横断する横串となるコミュニティを維持・強化することでグループシナジーを下支えすることを目指しています」(太田氏)

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MIXIのマネジメント層育成の取り組み

ソーシャルネットワークサービスなどを提供するMIXIでは2020年に、マネジメント層の行動指針を策定し評価制度の刷新や新たな評価者研修の設置といった抜本的な人事施策を行った。

同社では、それまで人事部門が存在せずそれぞれの部内で人事機能を担っていたため、マネジメント層の育成にリソースを割くことができない課題があった。そこで2018年に人事本部を発足、人的投資の一環でマネジメント層の育成に注力することを決定した。

その後、マネジメント向けの施策を行う上で基準が必要だと感じ、2020年4月にマネジメント層の行動指針である「MIXI Management Beliefs」を策定。マネジメント層の役割を「組織成果の最大化」とし、その役割を達成するための行動として「組織のゴールを定める」「組織のフォーメーションを組む」「組織がゴールへ向かえるように指揮する」「組織のメンバーを育成する」の4区分19項目で定義した。内容は、ドラッカーが提唱しているマネジメント理論を基に考えたという。

マネジメント層の⾏動指針「MIXI Management Beliefs」

「MIXI Management Beliefs」策定で注意した点について、MIXI人事本部 人事戦略部長の杉村元親氏は「ドラッカーの理論は5つの要素がありましたが、代表の木村とも相談した結果、同社の行動指針は4区分としています。特に、『組織』を意識してほしかったので、行動指針の各名称の頭には全て『組織』という言葉をつけました。 現在は、従業員にとってさらに理解しやすく日頃から意識しやすい行動指針になるように、役職ごとの役割定義の策定も進めています」と話す。

報酬・等級・評価に関わる人事制度も改定した。

「報酬」では、多様な人材に対応するために報酬レンジの上限を引き上げた。レンジ内を最大で3つのゾーンに分解し昇降給テーブルを定め、早期に昇格すればベース給は上げやすくなるような仕様に変更した。

一方「等級」は、上位等級に限り能力と職務を掛け合わせた「役割等級」を採用。従来は職能給のみだったことで、役職に就いて求められる役割が変わっても評価されづらいという課題があった。しかし、G4以上を「役割等級」にすることで、能力だけでなく役割に課された責務や期待された成果を加味した等級になるように心掛けたという。

最後に「評価」は、経営層にヒアリングした「MIXIのリーダー/ 全従業員に期待する要素」の内容を基に、コンピテンシー評価基準を再定義。各等級において重要だと思う要素を抽出し、全⾯的に具体化・細分化を⾏った。

これらの人事制度を改定したおかけで、「給与の上げ下げを行った際、部下の納得感の醸成につながった」とマネジメント層からは好評だという。

また、杉村氏は「新しい人事制度ではG4以上は役割等級が導入されているため、能力が同じでも、この人は担っている役割があり重責や期待される成果が異なるので給料を上げよう、と客観的な給与の引き上げがしやすくなったと喜ばれています」と効果について語った。

さらに同社では、「新任マネジャーキックオフ」「新任役職者オリエン」「評価者研修」を新たに就任したマネジメント層向けに行っている。

特に「評価者研修」では、まず人事制度のポリシー、等級・報酬制度、評価者の役割など基本的な内容をe-ラーニングでインプットする。その後、会場型研修と説明会を半期ごとに計4回開催。方針・期待をメンバーに伝える方法、人材育成を踏まえた「目標設定」について、メンバーに行う中間面談やフィードバックの方法・意義・構造、評価の付け方とその評価を伝えるフィードバックの意味や事前準備まで、部下を評価する際のポイントを一通り学ぶことができる。

ほかに、「1on1」をより効果的に行えるノウハウが身に付く「1on1アカデミア」も用意。普段実践している内容を振り返りながら、トレーニングを通して体系的な知識を取り⼊れられる内容になっているという。また、各部署のマネジメント層から「このような研修を受けたい」などの相談があった場合は、その人に合った適切な外部研修も紹介している。

「さまざまな人事施策を行っていくことで、マネジメント層の意識の高まりが予想されます。そうすると評価の仕方や、部下の育成方法も自然と沁みついていくと思います。最終的には人事から手離れといいますか、マネジャーの自発的な行動に変容していくことを期待していますし、その兆しも見え始めています」(杉村氏)

今後は、マネジメント層の育成に対する取り組みを引き続き注力しつつ「何を指標に成果とするか、人事施策の成果がどうすれば業績につながっていくのか」など、数値の可視化を行っていき「MIXI流の人的資本経営」を実現していくとしている。

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まとめ

今回は、ソニーグループとMIXIの社内人材育成の取り組みについて紹介した。

両者に共通するのは、将来の会社を担う人材を内部で育成し、企業として競争力を高めたいという想いだ。

人材不足が深刻化する中、従業員に対する手厚い育成制度は、個々のスキルアップだけでなく、「ここまで会社が期待してくれている」というロイヤリティの醸成という副次効果も生むかもしれない。

優秀な人材の流出を防いで自社内で人材を育成し、企業を大きく成長させたいと考える企業の人事担当者は、今回の2社を参考に新たな人材育成カリキュラムの策定、既存施策の強化などに着手してもいいだろう。

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太田祐一

フリーライター/1988年生まれ。業界紙の新聞記者を経て、2020年に独立。現在は、さまざまな媒体において取材・執筆活動を行っている。また、「ニューノーマル時代の働き方」に着目しており、ワークプレイスに関わる人事・総務関連の取材も積極的に行う。大手人事・総務Webメディアで、革新的なオフィスを紹介する連載も不定期で行っている。

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