思考するビジネスマンPhoto:PIXTA

2018年に経済産業省・特許庁が「『デザイン経営』宣言」を発表して以来、ビジネスにおけるデザインの役割が注目されている。これまで、日本の行政においてデザインは、「色や形(造形)」によって製品に特徴を与えることとして認識されていた。これは、大多数の企業経営者や一般社会の認識にも符合する。しかし、「『デザイン経営』宣言」では、企画構想からエンジニアリングまでを含む幅広いデザインを対象としている。その結果、デザインに対する注目度が高まる半面、従来の「狭義のデザイン」と、今日的な「広義のデザイン」に対する認識が混在し、「分かりにくい」状況が生まれている。本稿では、そうした混乱を読み解きつつ、経営にデザインをどのように活用していくのかを考えたい。

狭義のデザイン・広義のデザイン

 世界の国家元首は、異口同音に「デザインは国家の重要政策である」と公言している。例えば、2007年に温家宝中国首相が「工業デザインを重視せよ」とのメッセージを国家発展委員会に伝えているし、2016年のワールド・デザイン・キャピタルでは、台湾の蔡英文総統が「デザインは国家発展のエンジンだ」と語っている。

 それに対し、日本政府の認識は全く異なっており、私の知る限り、官邸のみならず経済産業大臣の口からもデザインを重要視する言葉が発せられたことはほとんどないと思う。なぜ、こうした違いが生まれてしまったのか。それはDESIGNを「意匠(造形)」と解釈してきた日本と、「設計(企画開発)」と認識している諸外国・地域との違いである。

 私はこの違いを「d(スモールディ)」と「D(ビッグディ)」(※)と位置付けている。「d」は、色や形の造形を主体とした20世紀型デザインであり、「D」は企画・サービス・エンジニアリングなどを含む21世紀型デザインを意味する。もちろんこれはどちらかが優れているということではなく、共に重要なデザインの価値である。ただし、しばしば誤解されるが、時代は「d」から「D」に「移行した」のではなく、「拡大した」にすぎない。「デザイン経営」においても、このどちらかだけを対象にするのではなく、それぞれの企業姿勢に基づき「何を重視するのか」が問われている。

「d」=造形を主体とした20世紀型デザイン(狭義)
「D」=企画から技術開発までを含む21世紀型デザイン(広義)

※    米国のデザイン史家であるヴィクター・マーゴリン (1941~2019年)によって提起された概念。元々は「d:生活を満たす身近なもののデザイン」と「D:大量生産を前提とした今日的デザイン」という意味であったが、「デザイン領域の大小」という意味でも使われるようになっている。ここでは、後者の観点から述べている。なお、大文字小文字を表す「ラージ&スモール」ではなく、領域の大小を示す「ビッグ&スモール」が用いられている。