就活はなぜ変わらない? キャリアの達人たちが語る、就活生が今知るべき5つのカギ

滝川 麻衣子[編集部]

滝川 麻衣子[編集部] and 有馬知子

Feb 26, 2019, 5:00 PM

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田中先生と寺口さん。
「#就活をもっと自由に」でも話題になった就活サイト、ワンキャリアの寺口浩大さん(左)と、田中研之輔・法政大学キャリアデザイン学部教授。
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3月1日に、2020年卒対象の就職活動が実質、解禁となる。

SNSやクチコミサイトと情報を得る手段が多様化した現代でも、就活ルールが形骸化したり、インターンが実質選考になっていたり——。ホンネとタテマエに学生が翻弄される、受け身の就活スタイルが変わらないのはなぜか。

キャリア教育の最前線に立つ田中研之輔・法政大学キャリアデザイン学部教授と、2019卒シーズンに「#就活をもっと自由に」キャンペーンで賛否を巻き起こした就活サイト「ワンキャリア」の寺口浩大氏に、現代の就活にどう向き合い、どう乗り切るべきかを尋ねた。2人が指摘した、5つのキーポイントをみてみよう。

1. 就活は学生救う「ベルトコンベア」、道具は賢く使い倒せ

就活
撮影:今村拓馬

Business Insider Jpana(以下、BI): SNSにクチコミサイト、情報を得る手段が多様化しても、大手就活情報サイト主流の就活が、あまり変わっていないように見えるのはなぜでしょうか。

田中研之輔・法政大学キャリアデザイン学部教授(以下、田中): 私と寺口さんは、新卒一括採用など不要だと主張する「アンチ就活派」だと思われているようです(笑)。でも正確には、戦い方を間違わないようにして、システムを賢く使え、と言っているにすぎません。

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「ワンキャリア」の寺口浩大氏(以下、寺口):ナビサイトに代表される就活システムを批判する学生もいますが、少々的外れではないかと思うこともあります。新卒採用を取り巻く一連のシステムは、学生を無職のまま社会に出さないよう、救済措置として設けられた就職へのベルトコンベアです。あれはあれで便利なんです。

ナビサイトに使われていると思うからイヤになる。ベルトコンベアに文句を言っても仕方がないし、どうせなら使い倒した方がいい。

田中 :すごく賛同できますね。何ができるかを考えたほうがいい。構造を変えるのはすごく難しい。就活生の立場で孤軍奮闘して構造を変ようと、旗揚げしない方がいいかもしれません。でも、戦略は練れるよね、と学生には伝えています。変えるのは10年後のあなたかもしれない。だから就活生である今は、巧みに戦略的に、就活を生き抜いた方がいい。

田中先生
この先で「変化を起こすために、この就活システムや構造の中で、巧みに、戦略的に生き抜くべき」と、田中教授は語る。

就職とは苦しくつまらないベルトコンベアのようなシステムに乗せられるのだと思い込み、始める前から就活に対してアレルギーを持つ学生も多く見られます。この「洗脳」を解く方法として大学で取り入れていることが、できるだけ早いうちに社会で活躍している大人の話を聞く機会をつくることです

私は1年生に対しても、授業に社会人を招き、インターンに行くよう勧めます。もちろん、1年生のうちは必修科目の受講負担もあるので、インターンとしてフルコミットすることは難しいと思います。ポイントは、働く現場を近くに感じることです。オフィス見学でもいいのです。さまざまな場や機会に社会人と接するうちに、働くことや就活システムに対する学生の見方もポジティブに変わっていきます。

寺口:なるべく早く、というのは大事です。就活が近づくと、社会人は学生の利害関係者となり、組織人としてのポジショントークが多くなります。1、2年のうちに会う方が、個人の本音を話してもらえます。ただ社会人の中には、事業の最前線で活躍できない自分を棚に上げて、学生に無責任なアドバイスをしたがる人もいます。極論を言えば、こういう人のアドバイスは聞かなくていい。

田中 : もう一つ、大事な注意点があります。年上で、情報量も関係性も上の社会人に会いに行くということは、セクハラなどのリスクが生じます。実際に、大手企業の社員が逮捕されるなどして社会問題化しています。懇親会など多くの人がいる場で話す、1対1にならないよう友人と一緒に訪問するなど、必ず自己防衛の策を講じるべきです。

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2. 消費者から生産者になるために、なるべく早く社会に出よう

寺口さn
就活生は一刻も早く、生産者側の視点をもつことが大事だと話す、ワンキャリアの寺口さん(左)。

BI : 売り手市場で雇用の流動性が高まりつつある今でも、学生は内定がとれないと人生が終わったような気持ちになるなど、就活を思いつめてしまうことは少なくないです。

寺口:就活がうまくいかない根本的な理由は、学生の多くが「やりたいことが見つからない病」にかかっていることです。無理もない話で、彼らは人生の大半を消費者として過ごし、何かを生産した経験が非常に少ない。就活で初めて「生産者として、何をしたいか」と聞かれても、仕事をして価値を生み出す姿をイメージできません。

例えば「今は動画の時代。文章の記事は読まない」と言う学生がいます。そういう人は、動画が、文章で書かれた仕様書を元に作られているという事実に、想像力が至っていない。(本人の問題というより)生産活動を教えてこなかった、社会の責任です。

田中 : 学びの過程が変わっていないのも、大きな原因です。中学高校と成績で選別され、大学では4年間ものモラトリアム期間が与えられる。就職への「ギア」が上がりません。

寺口:僕は大学には進学しないつもりだったのですが、高校生の時、卒業証書に価値があるらしいと分かって「いい大学」を目指しました。

田中 : その通りです。日本における大学の価値は、卒業証書に代表される「象徴価値」で、学生も企業も、偏差値に踊らされています。もちろん、大学での専門的な学びも大切です。ただ、経験的にみて、アカデミックな専門性の大切さに気がつくのは、社会人としてさまざまな経験を積んでからのようです。

そこで、私はあえて1年生の最初の授業で、「今日から大学生をやめてください」と、極端な言い方で学生に伝えることがあります。高校を卒業して働いている同級生もいるわけです。「生徒」ではなく、「学生」というのは、自ら必要とされる社会経験を積んで、専門的な学びも深めていく、欲張りな姿勢を貫くべきなのです。象徴価値に寄り掛からず、一人の大人として、社会に出る準備をなるべく早く始めてほしいと考えています。

3. 五感を駆使し、情報を血肉に。就活はプリミティブ(原初的)に

就活シーン
毎年、リクルートスーツに身を包んだ学生たちが、不安に包まれながら就活に奔走している。

BI : 就活生は、SNSやインターネットはじめ、就活を通して得られるたくさんの情報を、どう使いこなせばよいのでしょうか。

田中 : 就活で重要なのは、嗅覚、触覚、聴覚といった五感を研ぎ澄ますことです。実際にオフィスへ行き、匂いや雰囲気を味わうだけで、合同説明会のような無機質な空間では分からないことを感じ取れます。

あるIT企業へインターンに行った女子学生が、「職場に会話がなくてつらかった。私には合わない」と言って、そこの企業を志望から外しました。彼女にとってコミュニケーションは、働く上での大事な軸だったのです。こういう『私の感性』から立ち現れるプリミティブな感覚、原初体験を大事にすれば、正しい企業選択ができるようになります。

ただし、繰り返しますが、合同説明会のような形式的な場面のみでは、そのような判断はできません。企業の中に身をおき、自らの感性を養うのです。

寺口:多くの企業に行くことで「ここは何だか合わない」「前の会社より良さそうだ」といった感覚も育ちます。

田中 : 情報に対する嗅覚も磨いた方がいいですね。今は企業情報から社員のインタビューに至るまで、スマホで入手できます。しかし学生の多くは、視野を通り過ぎた情報を知った気になっているだけで、血肉になっていません。必要な情報を選び出し、体の一部に取り込むことが大事です。例えばうまく就活している学生は、得た情報を消化し、改めて書き起こしています。「身体化」するための効果的な方法です

寺口:ウェブは結局のところ、現実とは違う。多くの人が社会に出て、リアルの人脈を広げるのに苦労しています。「お前のここはすごい」と、自分で気づかなかった強みを指摘してくれるのも、多くの場合、目の前にいる友人です。おっさんが「今の若い子は…」みたいな事を言ってるよ、と思われるかもしれませんが、結局、リアルの人間関係は大事社会に出て痛感しています

田中 : 確かに学生は、友人同士向かい合っているのにスマホを見ていて、大切なことを話せていない印象があります。SNSは社会人と手軽に接触できるなど、就活の効率化には非常に有益ですが、あくまで自分の成長を助けるためのツールにすぎない。

寺口:ウェブに時間を奪われるのか、ウェブを使ってリアルを超充実させるのかが、就活の勝敗も分けるかもしれません。

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4. ポジティブストレスで自分を「プチ」壊す

学生
SNSのコミュニケーション、同世代との会話に慣れた学生が、リアルに就活で社会人とぶつかることに、戸惑いもあるかもしれない。

BI : とはいえ、リアルに他者とぶつかりあうことが、怖いという感覚もあるのではないでしょうか。何かいい実践方法はありますか。

寺口:受験を勝ち抜いてきた学生ほど、五感ではなく偏差値的な評価軸に頼りがちではないでしょうか。彼らはある教科で突出した成績を取るより、全教科まんべんなく60点を取ることにたけています。その方が結果が出やすかった。しかし企業のニーズは徐々に、「オール60点」人材から、ある特定の分野で突出したを取れる人材へと移りつつあります

田中 : 「オール60点」から抜け出すには、大学時代に自分を「壊す」必要があると思います。壊すと言うのはそれまでの人生を見つめ直し、自己認識なりプライドなりを、いったん内側から瓦解させるという意味です

ある女子学生は、1年生のインターン先で能力不足を痛感させられ、ゼミでは毎週のように「自分は何もできない」と泣いていました。社会で求められていることができない悔しさを共に味わい、共有し、そこから打開策を見つけ出していく「同志集団」としてこれからの大学は、機能すべきなのだと思います。

その女子学生は、1年も経つと、1つ1つの成功体験から自信を積み重ね、複数のインターンを経験し、最後はゼミ生40人のリーダーになりました。

田中先生
「学生時代に、一度自分を内側から"壊す”体験は必要」と話す、法政大の田中教授。

寺口:自分を見失わない程度に「プチ壊す」には、負荷のかかることに挑戦する、つまり自分にポジティブなストレスをかけるのも有効です。僕の場合は講演で、最初は10人の前で話すのも吐き気がするほど緊張しましたが、今は聴衆が300人いても平常心でいられるようになりました。ストレスを乗り越えた時の達成感は、癖になります。

田中 : 授業でも、学生に人前で話をさせるのは効果があります。話し手にとっては相当なストレスでしょうが、ただ聞いているより話す方が、圧倒的に得るものが大きいことを実感してもらえます。人前で話すことは、ひとつの生産行為でありビジネスの入り口です。

ただ、負荷が大きすぎると折れてしまう学生もいるので、まず鏡を見て練習、次は1人を相手に話し、徐々に聴衆を増やすというように段階を踏みます。ただし練習相手は毎回変え、違う価値観の人とも話をするよう指導します。就活で、社会人と話すための訓練にもなります。

90分の授業で、教員が話し続ける講義は、もういらないのです。講義を聞くだけなら、動画で十分です。時間と場所を共有して、その場で、共に考え抜き、考えたことを伝え合い、さらに考える、そんな講義を心がけています

5.就活は通過点。他者に惑わされず、自分の軸を大事に

BI : まもなく3月には実質、2020卒の就活が解禁されます。学生が大切にすべきこととは。

田中 : 思うように内定を取れず、深刻に悩む学生も多いです。しかし就活は、何十年も続く人生の通過点にすぎません。思いつめたら、就活と全く関係のない所に出向いてみると、いかに、就活がこの世の中でちっぽけなことなのか、再認識できますよ。気を取り直して、自分の力で次のストーリーを積み上げればいいのです。

むしろ就活では、好奇心のままに企業訪問や社会人との出会いを楽しんでほしい。今は多くの学生がひとりっ子で、何歳か年上のキャリアモデルと接する機会は昔と比べて減っています。社会で活躍する先輩たちに会うだけでも、人生の役に立つと思います。

寺口さん
内定を取れずに落ち込む学生の一方で、「人を採用できずに悩む企業もいる」と、ワンキャリアの寺口さんは言う。

寺口:一方で、思うように人を採れず、深刻に悩む企業も多いです。内定を取れない、と悩む学生は、「多くの人から認められたい」という承認欲求を満たす肩書を求め、行き詰まっているように思います。でも、人生はマーケットイン(市場のニーズに応えようとするやり方)だけで考えない方がいい。

他人の評価ではなく、自分が「イケてる」と思える選択を試してほしいです。それに肩書は、社外に出ると何の役にも立ちません。僕は初職のメガバンクで、企業調査部という頭取を多数輩出したエリート部署に配属されました。しかし今、これを人に話しても「何か調べてたんですか」という程度の反応です。

田中 : 承認欲求に踊らされず、自分が大切だと思う軸を守って生きている人は、社会でも仕事を楽しんでいます。大学時代には、自分自身を認めてあげる「自己承認」の力も育ててほしいですね。

就活イベント必死なのはむしろ企業。学生集まらずガラガラのブースも…【就活2019】

就活イベント必死なのはむしろ企業。学生集まらずガラガラのブースも…【就活2019】

(聞き手・滝川麻衣子、文・構成、有馬知子)


田中研之輔:法政大学キャリアデザイン学部教授。博士:社会学。専門はライフキャリア論、組織分析。米カリフォルニア大バークレー校客員研究員などを経て現職。大学生に対する実践的なキャリア教育を展開し、2015年には法政大学ベストティーチャー賞を受賞。「先生は教えてくれない就活のトリセツ」、「ルポ 不法移民」など著書20冊。社外取締役・社外顧問を13社歴任。

寺口浩大:新卒サイト運営会社「ワンキャリア」経営企画室・採用担当。1988年生まれ。京大卒業後、三井住友銀行に入行。デロイトトーマツなどを経て現職。メディアやイベント、対談などの場で、新卒採用の現状に対する問題提起を続けている。

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