リーダーは数字と期日で指示する チーム動かす伝達力

架空の企業アニマル商事に入社して3年がたつ営業女子リス子。彼女と同じ部署で入社10年目、チームリーダーに就任したばかりのアリス先輩の目下の悩みは、チームのメンバーが自ら動いてくれないこと。コミュニケーション力を発揮して伝えているつもりという彼女に、カフェ店長で副業で経営指導をしている、るり子店長がシビアに助言します。
◇ ◇ ◇
今日のリス子は珍しく二人連れ。営業部のチームリーダーの先輩と一緒にカフェにやってきました。
リス子 「こんにちは! るり子さん、うちのチームリーダーのアリス先輩を連れてきました」
るり子店長 「いらっしゃい!」
アリス先輩 「こんにちは。最近、リス子の活躍が目覚ましくて、これは絶対何かあると思って問い詰めたら、悩んだらカフェに行くと聞いたのでついてきちゃいました。カプチーノショコラにキャラメルソースとクリーム増量2つ! クルミも4個お願いします」
るり子店長 「はい、ありがとうございます。アリスちゃんも、リス子ちゃんに負けないぐらいお悩みのようね」
アリス先輩 「分かります? ……聞きたいんですけど、うちのチームの子たち、なんか消極的で、自分で考えて動いてくれないんですよ。こちらが1から10まで言わないとダメなんで疲れるんです。それだけ言っても、なかなかその通りにやってくれないし。私もチームリーダーに指名されたばかりなので、みんなに協力してほしいのに。新米だからなめられてるんですかねえ」

るり子店長 「なめられてるねえ。……というのは冗談で、それ、単なるコミュニケーションスキルの問題ね」
リス子 「アリス先輩はコミュニケーション力ありますよ! みんなとうまくやれるからチームリーダーに指名されたんですけど」
アリス先輩 「リス子ちゃん、ひまわりの種おごるから、そこで黙ってて!」
るり子店長 「はい、追加注文ありがとう。あのね、コミュニケーションというのは、日本語で言うと『伝達』。だからコミュニケーションスキルは『伝達技術』だと解釈したら分かるわね、伝え方の工夫が足りてないのよ」
アリス先輩 「伝え方の工夫?」
チームのメンバーにも「伝えたつもり」
るり子店長 「そう。この前、リス子ちゃんにも伝え方について話したわよね。リス子ちゃんの場合は、後輩1人への伝え方だった。アリスちゃんはチームリーダーだから、特に伝え方を磨かなければだめなのよ。伝え方が悪いとチームのメンバーが各自違った解釈をして、ばらばらに動いてしまうからね」
アリス先輩 「私、リス子より、1から10までちゃんと伝えてますけど」
るり子店長 「あぁ、アリスちゃんもリス子ちゃんと同じ『伝えたつもり病』ね。処方箋を出すわね」
アリス先輩 「えぇー? 私が、リス子と同じ? それは、すごくショックです……。全員が一丸となってやっていきたいという思いで私、頑張ってきました! 全員が分かるように細かく説明していたのに」
るり子店長 「一生懸命さは分かるけど、チーム全員の解釈が同じになるように伝わっていないとだめよ」
アリス先輩 「一生懸命に気を使って、全員にちゃんと伝えてますよ。皆、分かったと言ってます! でも動いてくれないのは、なめてるに決まってます」
るり子店長 「なめられとんじゃなく、全部あんたの自分よがりの伝えたつもり。相手には伝わってないだけじゃ言うとろうね! みんなが悪いんじゃなく、あんたのスキルが悪いんよね!」
リス子 「出た~! 広島弁! るり子さん、落ち着いて。アリス先輩は今日初めてなので、許してください」
アリス先輩 「こ……怖いです」
るり子店長 「要するに、アリスちゃんが伝え方の工夫をすることが先決。1から10まで伝えても肝心なことを伝えていなければ無意味。しかもいちいち細かいことを伝えるから、相手は余計に考えなくなるわけよ。全部自分でまいている種!」
アリス先輩 「はぁ……」
最初に「どう動いてほしいか」を簡潔に伝える
るり子店長 「1から10まで言うのをやめることね。それじゃ、自分で考えて動くわけない。考えさせてあげようね」
アリス先輩 「考えさせるんですか?どうやって?」
るり子店長 「どうやったら、考えられる?」
アリス先輩 「え? ウ~ン……」
るり子店長 「と、質問すれば今、アリスちゃん考え始めたわよね」
アリス先輩 「あ! ……はい」
るり子店長 「これよこれ。1から10までいちいち言わずに、考えてもらうこと。でも、肝心なことははっきり言うこと。まずは、『どう動いてほしいか』を一言で言うこと」
アリス先輩 「どう動いてほしいか?」
るり子店長 「そう! 動いてほしいことをはっきり言わない『お察しくださいの人』が多いのよね。
例えば『暑いね~』『暑いね~』と連呼して、相手がエアコンをつけるのを期待しているようなもの。これだと『暑いですね』と共感を得るだけでエアコンをつけてもらえなくても不思議ではないのよ。『エアコンをつけて27度に設定して』と言えばいいの。どう動いてほしいかの部分を、最初に一言で伝える」
アリス先輩 「最初に、動いてほしいこととか」
るり子店長 「そう、そして次に、それをするとどうなるのかを言ってあげること。多くの場合『言わなくても分かるよね』になって言わないのね。チームならなおさら、チームリーダーだけが分かっていて、メンバーは勝手な解釈で想像してしまうわけ。
例えば『結果として、職場の全員が仕事を快適にできるから』と言えば、あぁ、快適に仕事ができるために動くのかと分かるわね。そこを言わないと、エアコンをつけて22度に設定するかもしれないし、寒くて仕事どころではない人もでてくるでしょ。冷やせばいいってものじゃないから。でも、仕事を快適にするためだと考えていない人は、冷やせばいいやとがんがん冷やすかもしれない」
アリス先輩 「あぁ……そうですね。1から10までいちいち言ってたけど、それは言わなくても分かるだろうと思って言ってませんでした」
るり子店長 「そうでしょうね。そして、1から10というのが、エアコンはここ。このボタンを押して、ここを……ってな感じで言ってたでしょ」
アリス先輩 「はい! その通りです」
リス子 「うわ。るり子さん、現場のぞいてませんでしたか」
アリス先輩 「クルミもあげるから、これ食べて黙ってて!」
「数字入り」「期限付き」で伝える
るり子店長 「ここまでまとめると、どういうことかな?」
アリス先輩 「最初に『こうしてほしい』という動きを言った後に、『その結果どうなるか』を明確に伝えること」
るり子店長 「そうそう。そして、できるだけ数字で伝えること。さっきの『エアコン27度』のように言わないと、暑い寒いでは分からないでしょ。さらに期限を伝えること。『いつまでに』をしっかり言わないといつまでも後回しにされるから。お手すきのときにとか、手が空いたら、なんて言うとずっと後回しよ」
アリス先輩 「確かに、手が空いたら後でやっといて、って言ってました」
るり子店長 「やはり。『手が空いたら』って言うと、重要度が低く感じるでしょ。さらに、期限が明確にされないと忘れる確率が高くなります。期限があるとメモも取るけど、期限がないとあぁ後でいいやと思い、つい忘れるのね。『明日の午前11時まで』としっかり言わないとなかなか動いてくれないわね」
アリス先輩 「私、全然だめなんですね……ショック」
るり子店長 「全然ダメじゃなく、これまで知らなかっただけだから、これから伝え方を工夫すればいいでしょ」
アリス先輩 「はぁ……」
るり子店長 「アリスちゃんもひまわりの種を食べて元気になろう! はい、これサービス」
アリス先輩 「わぁ! ちょっと大きめですね~」
リス子 「あ~、リス子のより大きい!」
具体的な手順は相手に考えてもらう
アリス先輩 「……私、みんなに協力してもらいたくて、嫌われないようにと思って、ちゃんと伝えられてなかったんですね」
るり子店長 「仕事だからはっきり伝えるべきことは伝えましょうね。そして、そのためにどうするかの手順まではいちいち説明しない! どうするかは、こちらから質問して確認すること」
アリス先輩 「いちいち説明しない……」
るり子店長 「アリスちゃんが勝手に、1から10まで説明して疲れてるだけだから。私たちだって考えてできるわよって思ってるかもしれないからね」
アリス先輩 「へぇ~」
るり子店長 「そう! もう一回、まとめてみてくれる?」
アリス先輩 「最初に、どう動いてほしいかを伝える。次に、その結果どうなるかを伝える。期日も伝える。数字で話す。そして、いちいち説明するのではなく、質問していく」
るり子店長 「はい! そして最後にもう1度、動いてほしいことを言って念押しすると、より動いてもらいやすいからね。これ、ご褒美のスペシャルアーモンドをお二人に」
リス子 「やった! 棚ボタ~」
アリス先輩のメモ
1. 「どう動いてほしいか」を伝える
2. 「動いた結果、どうなるのか」を伝える
3. 具体的な数字を示す。期限を伝える
4. 自分で考えて動いてほしい部分は、こちらから質問する
5. 最後にもう1度、動いてほしいことを念押しして伝える


(文 沖本るり子、イラスト つぼいひろき)
[日経doors 2019年6月17日付の掲載記事を基に再構成]
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