コンサル就活の登竜門? 「選抜コミュニティ」って何
人気過熱のコンサル就活事情(2)

早稲田大3年の女子学生は今年1月、急ぎ足である会場に足を踏み入れた。まもなく「選抜コミュニティ」の選考が始まろうとしていた。
「2020年卒生の内定率、外資系戦略コンサル・投資銀行合わせて93%――」
そんな高い内定実績を売りにトップ学生を集め、就活対策のサポートをしているのが「選抜コミュニティ」と呼ばれる、塾のような会員組織だ。女子学生がその存在を知ったのは、1カ月ほど前。周囲の学生の動向を探ろうと作ったツイッターの就活専用アカウントに、情報が流れてきた。コンサルは「興味がある」程度だったものの「そのコミュニティに入らないと乗り遅れるかも」と危機感を持ったという。
選考会場では、50人近いコンサル志望の学生たちが6、7人のグループに分かれてディスカッションをすることになった。そこで女子学生はがくぜんとする。「まだ2年生なのに、みんなコンサルの1次選考を受けるくらいの気合で準備してきていて、私は全く歯が立ちませんでした。今、思い返してもあれはすごく特殊な世界でしたね」
エリート大学生の「就活対策塾」
戦略コンサルや投資銀行といった、いわゆる「難関企業」を狙う学生たちからよく聞くのが、この選抜コミュニティ。

その元祖と言えるのが、2013年にスタートした「YC塾」だ。その後、学生の間でコンサルの人気が上昇するとともに、人材サービスのベンチャー企業が相次いで参入。「オルタナティブインターンシップ」(通称オルタナ。アイベックが運営)や、「FactLogic Executive」(通称ファクロジ・エグゼ。スローガンが運営)、「外資就活アカデミア」(ハウテレビジョンが運営)などが立ち上がった。
卒業生による非営利団体のYC塾以外は企業からスポンサー料を得て運営しており、いずれも学生は無料で利用できる。会員数はコミュニティによって異なり、人数を公表していないところもあるが、10人弱から30人程度と少人数で、この組織に入るにも選考がある。参加者のほとんどは、東京大・東京工業大・一橋大・早稲田大・慶応義塾大の学部・大学院生が占める。
ただ、最近はGMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)からコンサルを志望する学生も増えており、学習院大3年の男子学生は「いまは大学名より、選抜コミュニティに入れるかどうかが重要になってきている」と話す。
2年生から始まっている
この選抜コミュニティの選考は極めて早く行われる。というのも、コンサルの選考自体が、入社の1年半~2年前に行われるからだ。21年卒であれば、19年の夏と冬に2回、企業によっては夏・冬・翌春と3回行うケースもある。そこに照準を合わせるとなると、学部生であれば、早ければ2年生から選抜コミュニティに入り、半年近く対策にいそしむ。

その選考内容は筆記試験やグループディスカッション(GD)、面接などコンサルの本選考さながら。東大大学院1年の男子学生はYC塾、オルタナ、ファクロジ・エグゼを受けて、ファクロジ・エグゼのみ合格した。同コミュニティを運営するスローガンによると、合格できるのは約500人中30人程度だという。
「当時は『フェルミ推定』や『ケース面接』も知りませんでした。今考えれば、公式も知らずに数学を解こうとしていたようなものです。ファクロジ・エグゼには選考直前に友達にハウツーをレクチャーしてもらったおかげで、なんとか滑り込みました」(東大大学院の男子学生)
この「フェルミ推定」とは、「日本にある車の数はどのくらいか」など調査しなければわらかないような数量を、いくつかの手がかりをもとに論理的に概算する問題。ケース面接とは、「日本の自動車市場の規模を5年で倍にするためにはどうすればいいか」といった問いに対して、論理的に解決策を導き出す力を見る面接。どちらもコンサル業界特有の選考手法だ。
では、この選抜コミュニティではどんな「対策」が行われているのか。ファクロジ・エグゼに参加した前出の東大院生によると、1、2週間に1度集まり、グループディスカッションやケース面接の練習をしたり、外資コンサルから来た講師によるセミナー・ワークショップを受けたりしたという。
講師の前でディスカッションをし、フィードバックをもらうこともあり「もし優秀であれば、そのコンサルから特別選考に呼ばれるかもしれない、と言われました」。ファクロジ・エグゼではホームページでも「外資戦略コンサルをはじめ、難関企業の早期特別選考ルート&特別採用枠をご紹介」とうたっている。
「コミュニティに参加してよかったのは、一人一人に、1学年上の内定者がメンターとしてついてくれること。勉強との両立法を指南してもらったり、週に1度みっちり1時間半、ケース面接の練習をしてもらったりしました」(東大院生)
実際の選考で有利になるのか?
こうした選抜コミュニティでの対策は実際、内定に結びつくのか――。ファクロジ・エグゼを運営するスローガンの川野真太郎・執行役員は「対策したからといって受かるわけではありませんが、場慣れできること、学生同士やメンターとのつながりができることで、他ではなかなか入手できない情報を手に入れられる効果は大きい」と話す。
では、選考での優遇措置はあるのか。
「企業によってはエントリーシートの免除などを行っています。選抜コミュニティに所属する学生はある程度スクリーニングされた集団なので、選考の効率を上げたいと考えるコンサル企業側にとっては、選考の一つの目安にはなるのでしょう」(川野さん)
戦略コンサルの採用担当者にも、選抜コミュニティはどう映っているのか聞いてみた。
「グループディスカッション講座などで協力はしていますが、来ている学生を優遇まではしません。不公平になりますから。各コミュニティも年によって内定実績に変化があり、かなり移ろいゆくものだという印象です。普通に考えて、塾のようになってしまっているのはちょっと気持ち悪いですけど、適度にお付き合いしようという感じです」
この会社では、本選考ではフェルミ推定は出さなくなったという。「近年対策され過ぎて、みんなできるようになったから」だ。となるとケース面接などでも、あまり差がつかなくなっているのか?

「いや、そんなことはないです」と笑ったのは、ベイン・アンド・カンパニーの採用担当パートナー、堀之内順至さん。
「実際の面接では、いろいろな角度から質問をしますが、我々は『コーチャビリティ(coachablity)=コーチを受ける能力』を含め、多角的に人物を見ているからです。意見やアドバイスを素直に受け入れた上で、一段上の答えを生み出せるかどうか。さらに1回面接するたびにフィードバックをし、次の回でどれだけ進化しているかを見ています。そうした力は、練習だけでのばすには限界があります」
さらに、同社が重視するのは、スムーズな対人関係を築くために欠かせない冷静さや謙虚さ、共感力などの「EQ(心の知能指数)」だという。「コンサルティングというは、クライアントの『心』を動かせなければ、仕事にならないですからね。そしてこの能力は一朝一夕で得られるものではないので、『対策』は難しいでしょう」
選抜コミュニティの存在感が増すと、そこに入らなければダメかのように錯覚しがちだ。しかし、入れたとしても、それは一定以上の知力があると認められたにすぎない。コンサル企業が求めているのは、クライアントの信用を得られる人物。「お受験」のような風潮に振り回されるのは禁物だ。
(石臥薫子)
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