“総合格闘技”の時代に
鶴田「欧米の企業にも目を向けると、日本はGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルの4大企業)みたいな存在に過度なおびえみたいなものがあるのではないですか。彼らから見たら自分たちは小さな存在にすぎないと萎縮して、後れを取ってしまう。それは日本のガバメントの責任なのか、カンパニーの責任なのか。私は日本の企業の在り方そのものに問題があると感じています。海外の企業はスピード感を持ってどんどん先に走っていくのに、日本の企業はなかなかかじが切れない。それはやはり、トップの判断がすごく遅いからでしょうね」
安田「私は誰かの責任にしてそれを解消しさえすれば全てが解決されるという見解には懐疑的です。おのおのの役割で自分にできることを少しずつ進めていくべきです。経営者の視点で言えば、自社の強みにデジタルテクノロジーを活用して、どう会社全体の付加価値をあげていくのかを早急に考えるべきです。技術者の視点で言えば、盲目的に特定の技術に飛びつかず、常にこれは誰のどんな役に立っているのかを考えるべきです。企画者の視点で言えば、最新技術にキャッチアップし、自社の業務をどう変革できるかを考えるべきです。日本の事業会社はデジタルテクノロジーを活用して経営変革、業務効率化をしようとするときに、全てITベンダーに任せればよいという思い込みが強い。ですが、業務のプロセスを熟知していないと正確な業務フローは描けない。正確な業務フローが分からなければ、ベンダーも改善案を思いつけません。それが今の日本企業でDXプロジェクトが進まない大きな理由だと思います。その点、アメリカの企業は、テクノロジーの内製化が進んでいて、自分の業務をどう効率化するかという観点で進めることができる企業が多いです。つまり、全員がひとごとにせず、まず自分から学び実践する姿勢が必要だと思います」
鶴田「それは業種、業態によっても格差があるのではないですか」
安田「いえ、最近は業種、業態の垣根がなくなり、全てが総合格闘技のように変わってきていると思います。例えば、今やトヨタ自動車とソフトバンクが同じ土俵でビジネスをする時代です。トヨタの顧客は、自動車というよりも、便利で快適な移動手段としての価値が欲しいわけです。そこで、ドライブレコーダーなど自動車に取り付けられたカメラやセンサーから得られる車内や車外のデータを使って、自動運転やMaaSの領域に取り組みます。一方、ソフトバンクは通信事業の強みからそれらにアプローチしています。私は一昨年、SBドライブの自動運転車両に乗ったのですが、ちょうどその時にソフトバンクの通信障害が起きて、走行が止まってしまいました。安定的な通信を供給するということが自動運転においては、とても大事なことなのですね。つまり、自社が活用できそうなデータを把握して、それらのデータをどのように生かせば今以上に顧客に価値を与えられるかということを、今までの業態にとらわれず、みんなが等しく考える。そのスピード感によって、次の時代を担える企業というのが決まるのだと思います」