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中小の後継者難を一貫支援へ 社員教育から引退後までを再設計するサービスとは (1/2ページ)

 日本経済を支えている中小企業の経営者が高齢化し、後継者不足が本格化する「2025年問題」。オーナー社長の家族、親族に事業を継いでくれる適任者がいないというのが表向きの理由だが、多くの場合、経営者が本気で社内人材を育ててこなかったことがある。そこで、経営センスがある社員の教育のほか、経営理念の継続に理解のある投資家の紹介、社長引退後の幸せな人生再設計までをワンストップで支援するサービスがある。新型コロナウイルスの感染拡大による政府の緊急事態宣言により、中小企業の経営不安が高まる中、サービスを提供する会社は、経営者や社員に寄り添った取り組みにしたいと考えている。

 現組織のまま承継

 「事業継承の準備を3年前から始めていた。会社の利益が十分にあり、事業の先行きの展望がある今だからこそ、引退ができた」

 社会保険労務士の北村庄吾氏(58)は、3月26日付で人事労務サービス、ブレインコンサルティングオフィス(東京都千代田区)の社長を退き、営業・人事部門を統括していた社員に引き継いだことについて、安堵(あんど)の表情を浮かべた。

 同社は全国3000人以上の開業社労士と提携し、さまざまな人事・労務サービスを提供。北村氏が関与した、同社と社労士事務所など計3事業を合わせた年間売上高は最大で約9億円に達し、同社の年間経常利益はここ数年3000万円程度計上していた。同時に北村氏は、年金問題などの評論家としてテレビ出演や執筆活動で多忙を極めており、「すべてにおいて中途半端になっている自分に気づいた。売り上げを伸ばしていくことに魅力を感じなくなった」と考えて社長から引退を決めた。

 上場企業への売却を検討したこともあったが、「社員の多くが大企業ではなく中小企業で働くことに魅力を感じていた」(北村氏)こともあり、会社組織をそのまま残した形での事業承継を選んだ。

 北村氏が相談したのが、「経営を社長から社員へ」をビジョンに掲げるMMプリンシパルインベストメント(横浜市)の荒井隆是氏だった。荒井氏から紹介された投資家との打ち合わせで、社内から社長を選ぶことや、北村氏が事業に関して助言する立場(ファウンダー)として残ることなど、事業の安定的な継続に両者が合意したこともあり、交渉は順調に進んだ。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、日本経済の状況が暗転したものの、正式契約にこぎつけた。

 MMプリンシパルインベストメントは、弁護士や公認会計士、社労士などが会社の役員を務めるコンサルティング会社。士業で培った業界横断的なネットワークを生かし、MEBO(経営者と社員が一体となって自社の経営を承継する手法)の助言から、経営者の引退後のライフスタイルまで一貫して支援する。直近1年間で35件の無料相談に応じ、12件のMEBO支援を契約した。

 相談者の多くは65歳以上の高齢で、家族や親族に事業承継の後継者がおらず、社内の後継者育成をしていなかった。そこで、後継者としてふさわしい社員に対する講習会の実施や、投資先の紹介などを行い、円滑な事業承継を支援している。中には、引退後の社長にボランティアや大学の非常勤講師などの第二の人生を仲介したケースもある。

 新型コロナウイルスの影響で、中小企業の経営環境は悪化している。荒井氏は「万が一、国や自治体からの中小企業へのコロナ対策が遅れた場合、『他人に迷惑をかけたくない』という動機による廃業が増えることが心配」と話す。

 中小企業の事業承継問題は喫緊の課題だ。

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