ひらめきブックレビュー

同僚を推すのが良い理由 「推し活」と心の成長の関係 『「推し」で心はみたされる?』(熊代亨 著、大和書房)

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好きなアイドルのグッズを身につけ、毎週ファンイベントに出かける。ひと昔前ならオタクと呼ばれていた「推し活」がブームになっている。活動の対象となる「推し」なしには生きていけない人もいるだろう。

社会に浸透した感のある推しや推し活について、心理学の面からその効用や注意点を説くのが本書『「推し」で心はみたされる?』だ。推しが人を幸せにする理由や長続きする推し方などを、心理学の用語を使いながら説明していく。本書によると、推しは身近な人間関係に対するアプローチにも関わる。推し活に縁がないという人にも示唆がありそうだ。

著者の熊代亨氏は1975年生まれの精神科医、ブロガー。

推しにも巧拙がある

著者が最初に説くのが、推しの意義だ。推しを通して幸せな気持ちになったり、心が満たされたりする。それだけでなく、何かを始めるきっかけになったり、努力を続けるモチベーションになったりする。確かに漫画『キャプテン翼』を読んでプロのサッカー選手を目指したという話はよく聞く。推しが人生を左右するという著者の言は、けっして大げさではない。

だからどんどん推した方がいいのだが、推し方にも巧拙があるというのが本書のポイントだ。心理学的にいうと、推しとは自分の理想やロールモデルを引き受けてくれる対象のことである。応援したり尊敬したりする体験を通して、心理的な充足感を得ている。これは学問的には、ナルシシズム(自己愛)を満たす行為だという。ナルシシズムというとあまり良い印象を抱かないかもしれないが、ナルシシズムが充足して成熟することは、心的成長や良好な社会生活をもたらす。誰にとっても大切なことだ。

ナルシシズムが未成熟、あるいは扱い方がうまくない人は、推し方にもバランスの悪さが見られるようだ。欠点の見えない、キラキラしたインフルエンサーやキャラクターだけを推しの対象と見なし、一度嫌いになったらそれで終わりとなりやすい。推しを崇拝するあまり、無意識的に周囲の人を見下すこともあるという。こうした傾向が見られたら、手軽にナルシシズムを満たすために、推しを都合よく使っている可能性がある。

適度な幻滅を通して心的成長を

では、うまく「推す」にはどうすればいいのか。「適度な幻滅」がキーワードになる。適度な幻滅とは、子どもが親に幻滅しながら大人になるように、憧れの対象に欠点が見つかってがっかりしながらも、関わっていくことだ。こうした経験を経てナルシシズムが成熟し、心理的な充足が得られる「相手」が多くなる。推し上手は、憧れの存在だけでなく、欠点がちらほら見える身近な存在であっても推せる、と著者は説く。だから職場の同僚や上司、友人だって推しの対象だ。あなたは同僚の推しどころが見つかるだろうか。

身近な人の良いところに多く気づくことは、日々を楽しく、満ち足りたものにしてくれるはずだ。本書をお供に、さらに豊かで奥深い「推し道」を歩んでほしい。

今回の評者 = 安藤 奈々
情報工場エディター。11万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。

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