ひらめきブックレビュー

プロが教える海外での危機管理 想像して「自分ごと」化 『海外に送り出した社員の命をどう守る?』(有坂鍊成 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

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数年前、米国に駐在していたことがある。あるとき日本からの出張者を迎えようとしたら、彼が予約したホテルが治安不良地域内にあることが発覚。ホテルを急いで変更したことがあった。

治安がよいとされる都市でも、通りを一本入れば状況が変わる。こういうことを知らない日本人は案外多い。そんな日本人社員の身の安全をどう守っていけばよいのか。それを説くのが本書『海外に送り出した社員の命をどう守る?』だ。企業の海外危機管理の考え方やノウハウを、送り出す会社側、送り出される社員側双方の視点からまとめている。

著者の有坂鍊成氏は、安全サポート(東京・港)代表取締役。これまでに2000社を超える企業向けに海外での危機管理について助言してきた。

「自分の頭」で安全対策を考える

まずは海外派遣者自身がとるべき安全対策を見てみたい。本書によれば、いの一番にすべきことは「日本との違いを考える」ことだ。日本と比べると、ほとんどの国が安全とは言えない。財布を落としても戻ってくる、女性が深夜に出歩ける、といった日本の常識は通用しない。これを意識するとともに、外務省海外安全ホームページや在外公館のウェブサイトで、赴く国の治安情勢概況を確認するのがよい。

治安情報を得た後は、暴動や発砲事件、テロなどに巻き込まれた当事者に自分を置き換え、身に起こり得ることを具体的に想像してみる。その危険に、自分がどの程度対応できるかをイメージすることが大切だという。すると自力の限界が見えてきたり、危機感が募ったりする。こうしてリスクを「自分ごと」化しておけば、具体的で実行可能な対策を講じられる。これらは一般の旅行者の心得としても有効だ。

本書には「想像」や「イメージ」という言葉がたびたび登場する。読み進めるうちに、これこそが危機管理の鍵だとわかってくる。「他人から教えられた」受け身の安全対策は役に立たないと著者が指摘するように、起こり得る状況を自分自身で具体的に思い描いておくことが、いざというときの身を守る力になる。

台湾有事など増え続ける海外の脅威

会社側の準備や安全対策はどうするか。派遣国の脅威を調べて分析する、24時間365日の連絡受付体制を整えておくなどが並ぶが、なかでも大事なのは「危機管理担当者」を定め、責任の所在を明確にすることだと著者は説く。担当者は、責任を負ってはじめて本気で危機管理に向き合えるからだ。

近年は世界情勢が激しく動いている。台湾有事など日本周辺のリスクも小さくない。日本が戦争に巻き込まれる可能性を著者は警戒する。有事に対して個人レベルの危機管理では限界があり、会社による危機管理の重要性はますます高まっている。

実際の事件をもとにしたQ&A形式のシミュレーションも示している。誘拐被害に遭ったらどうするか。会社が最初にすべきこと、人質となった個人がしてはならないこと、それぞれ行動事例が載っている。本書を手引きにまずはイメージトレーニングをしてみてほしい。

今回の評者 = 高野 裕一
情報工場エディター。医療機器メーカーを経て、技術動向を分析するフリーライターの道を歩む傍ら、11万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。長野県出身。

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