岸田首相が日経リスキリングサミット登壇 「地方と成長産業の掛け算必要」
日経リスキリングサミット2024
日経リスキリングサミット2024でスピーチする岸田首相
首相、3年連続の登壇
このサミットには、2022年から3年連続で参加させていただいています。私が掲げた「新しい資本主義」の考え方の下で、「人への投資」は、大変重要な位置づけを占めます。政府として、「ジョブ型人事の導入」「労働移動の円滑化」「リスキリングによる能力向上支援」からなる、三位一体の労働市場改革を進めてきましたが、これらの改革を社会に根付かせる観点から、このサミットは大きな役割を果たしています。
3年前初めてこのサミットに出席させていただいた当時、まだリスキリングという言葉自体が日本の経済、社会において十分定着していなかったことを考えると、この3年間の変化は大変大きなものがあったと感じています。
さて、総理就任以来、「新しい資本主義」の下で、成長と分配の好循環を目指してきました。過去30年間日本を覆い続けた「低物価、低賃金、低成長」「縮み志向」のデフレ型経済から抜け出し、成長型経済に移行していくこと。これを何としても実現しなければならない、こういった強い思いで取り組んできました。
その結果、実に30年ぶりとなる5パーセントを超える春季労使交渉の賃上げ、100兆円を超える攻めの設備投資、海外投資家が評価する企業ガバナンス改革、史上最高値水準の株価、そして名目GDPも初めて600兆円の大台を超えるなど、新たな経済ステージへの移行の兆しが確実に見えてきています。
「このチャンスを逃さない、絶対に後戻りさせない」。こうした強い決意をもって、取組を進めていく必要があります。
「社会課題を成長のエンジンに」がカギ
日本が、この正念場を乗り越えて、成長型経済へと移行していくためには、DX・GXなどの社会課題解決を成長のエンジンにできるかがカギになります。
非連続的なイノベーションが絶え間なく起こる、DXやGXの潮流は、個人に必要とされるスキルや、労働需要を、大きく変化させることになります。人生100年時代に入り、就労期間が長期化する一方で、DX・GXによって産業の成長・衰退のサイクルが短期間で進む中、働き方は、大きく変化しています。
「キャリアは会社から与えられるもの」から、「一人ひとりが自らのキャリアを選択する」時代となってきました。職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、働き手が自分の意思でリスキリングを行え、職務を選択できる制度に移行していくことが重要です。若い方もシニアの方も、年齢にかかわらず、能力を発揮して働くことができる環境整備をしていきます。
また、今年に留まらず、来年も、再来年も、持続的な賃上げの定着のためには、春季労使交渉における労使の協力に加え、労働生産性やマークアップ率の向上を通じた、付加価値の拡大が必要です。
ジョブ型人事指針を公表
内部労働市場と外部労働市場をつなげ、社外からの経験者採用にも門戸(もんこ)を開き、働き手が自らの選択によって、社内外に労働移動できるようにしていくことが、持続的な賃上げの推進と日本経済の成長のためにも急務であり、ジョブ型人事の導入の重要性がここにあります。
先月末には、ジョブ型人事を先行して導入した20社の企業に御協力いただき、導入範囲、等級・報酬制度、採用・キャリア自律支援などが具体的に分かるように情報提供いただいた「ジョブ型人事指針」を策定し、公表しました。
そもそも、我が国では、いったん就職をすると、学び直しをしなくなる傾向がありましたが、この背景には、年功賃金制などの、戦後に形成された人事システムがあります。
従来は、新卒一括採用中心、人事異動は従業員でなく会社主導、企業から与えられた仕事を頑張るのが従業員であり、将来に向けたリスキリングが生きるかどうかは人事異動次第。従業員の意思による自律的なキャリア形成が行われにくいシステムでした。
先行企業を見ると、ジョブ型人事の導入により、社員のエンゲージメントスコアが向上し、リスキリングの受講者が3倍になった例も見られます。本日、ご参加の企業の皆さまにも、自社のスタイルに合ったジョブ型人事の導入を検討するにあたって、ジョブ型人事指針を参考にして頂ければと思います。
教育訓練給付の給付率80%に引き上げ
リスキリングサミットの初日は、「人的資本経営」をテーマに、リスキリングに取り組まれている企業の最新事例がいくつも紹介されたと聞いております。
政府としても、三位一体の労働市場改革の取組の中で、個人のリスキリングを直接支援する施策の強化や、生活安定性を維持したままでリスキリングを推進するための環境整備を進めています。
まず、働く個人が、主体的にリスキリングに取り組むことができるようにするため、個人への直接給付である教育訓練給付の給付率を、これまでの最大70%から80%に今年10月から引き上げます。
また、働く個人自らの選択による労働移動の円滑化という観点から、失業給付制度について、自己都合で離職する場合にも、在職中などからリスキリングに取り組んだ場合には、会社都合の離職と同様に給付制限期間なく失業給付が受け取れるよう、雇用保険法の改正を行ったところであり、来年4月から施行します。
さらに、人手不足が目立つ、自動車運送、建設、製造・加工、介護、観光、飲食といった職種について、業界団体などによる民間検定を政府が認定する新たな枠組みを創設しました。既存の公的資格でカバーできていなかった産業・職種のスキルの階層化・標準化を進めるとともに、そのスキルの習得を行う場合には、本年秋から、新たに教育訓練給付の対象に追加し、支援します。
リスキリングで地方経済を成長
2日目となる本日は、「地方創生とリスキリング」をテーマに、議論が行われると伺っております。
これまでも言われてきた通り、地方経済では、そもそも雇用機会がない、あるいは、職種に見合った人材がいないがリスキリングも難しい、といった、深刻な課題があると認識しています。
この課題を乗り越えるために必要なカギが、「地方」と「成長産業」の掛け算であると、私は確信しております。
例えば、台湾の半導体メーカーが熊本県に工場建設を決定したことをきっかけに、熊本市に、半導体エンジニアを育成するリスキリング施設が設けられました。
また、九州を皮切りに、半導体企業と大学・高専などが参画する「産学官連携の半導体人材育成コンソーシアム」が、北海道、東北、関東、中部、中国地方など、全国的に次々と組成されております。
こうした取組は、企業の成長や、賃上げ、雇用の拡大にとっても大きな機会になると同時に、地方経済の成長につながることを期待しています。
30年続いた「縮み志向」から脱却し、日本経済を確実に「成長型経済」に移行するためには、こうした事例を全国各地で、様々な分野で、増やしていく必要があります。
経済対策で措置した7兆円規模の国内投資支援などをフルに活用して、全国で良質な雇用機会が創出されるよう、政府としても取組を進めてまいります。
日本全体でリスキリングを推し進めていくためには、政府、企業、教育機関、そして個々の働き手の意欲が結集して、三位一体の労働市場改革を進めていくことが不可欠です。
本日お集まりの企業、そして個人として参加されている皆さんリスキリングによる日本の成長に向けて、共に取り組んで参りましょう。