オピニオン・小林味愛

更年期女性の不眠、男性管理職も知っておくべき乗り越え方とは

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私たち「株式会社陽と人(ひとびと)」は、生物学的女性に特有の健康課題を改善するための事業を展開しています。

福島県の地域資源を活用したデリケートゾーンケアブランド「明日 わたしは柿の木にのぼる」の開発に始まり、女性の健康やセルフケアの重要性を知ってもらうための研修を企業・自治体で行っています。その中でここ数年、「女性の更年期の悩み」に関する相談が多く寄せられるようになりました。

女性の方々から話を聞いてみると、身体に不調が表れる背景として、加齢に伴う身体の仕組みの変化だけでなく、女性たちが置かれた「環境(会社、家庭)」が大きく影響を与えていることが分かりました。環境が改善されない結果、「眠れない」「寝る時間が少ない」といった「睡眠」に関する悩みも聞かれました。

そこで、睡眠の専門集団であるパラマウントベッドと共同で2023年から、更年期の女性の健康課題と睡眠に関する研究を始めました。

働く更年期女性「睡眠不足」8割超え

パラマウントベッド×陽と人のプロジェクトメンバー(2023年12月、福島県国見町で)
パラマウントベッド×陽と人のプロジェクトメンバー(2023年12月、福島県国見町で)

女性の生涯において「更年期」とは、閉経を挟んで前後5年ずつの合計10年間を指します。閉経年齢の平均は約50歳なので、一般的に45~55歳の時期が更年期です。

更年期には、卵巣の機能が低下し、女性ホルモンの一つであるエストロゲンの分泌量が急激に減少していきます。女性ホルモンは脳の視床下部の指令によって卵巣から分泌されますが、更年期に卵巣機能が低下すると、脳の指令通りに卵巣がエストロゲンを分泌できなくなり、脳がパニックを起こします。

そのため自律神経が乱れ、心身にさまざまな不調が生じていくのです。頭痛やめまい、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)など、更年期の症状は人によってさまざまで、200種類ものバリエーションがあるともいわれています。

これらの症状が、日常生活に支障が出るほどの不調となって現れる状態が「更年期障害」です。50代の女性の38%が更年期障害の可能性があるという調査結果もあります。

更年期に現れる不調の要因は、女性ホルモンの減少に加え、「元々の気質や体質」「職場や家庭など環境によるストレス」などが複雑に絡み合っています。

ところで、更年期の女性の睡眠にはどのような特性があるのでしょうか。更年期に女性ホルモンが減少すると、「睡眠の質」にも影響を与えます。更年期に入ると、「寝つきが悪くなる」「中途覚醒が増える」「早朝に目覚めてしまう」といった睡眠の悩みを訴える女性の割合が増加します。

さらに、ホットフラッシュがある場合には、不眠を訴える割合が高くなります。また、女性ホルモンの減少が中枢神経に作用し、睡眠障害が起きやすくなると考えられています。

私たちがこのほど、40~59歳の働く女性200人にアンケート調査を行ったところ、睡眠状態が悪い人ほど、更年期の症状も強く、睡眠と更年期症状に相関関係があることも明らかになりました。「睡眠時間が足りない」と自覚している人の割合は、8割を超えました。

改善方法は?

では、どうしたら改善できるのでしょうか。私たちはパラマウントベッドとともに、更年期症状がある40~59歳の働く女性30人を対象に、約1か月間の「更年期の不調改善プログラム」を実施しました。

「更年期の不調改善プログラム」の内容は以下の通りです。

〈1〉動画で女性の心身にまつわる基礎知識を学ぶ
〈2〉睡眠計測センサーで自分の眠りの状態を知る
〈3〉睡眠カウンセラー、更年期カウンセラーとの対話を通して、自分の状態を理解する
〈4〉自分に合ったセルフケアを日常生活に継続して取り入れる

対象者30人を半数に分けて、A群の人たちは〈1〉と〈2〉に、B群の人たちは〈1〉~〈4〉に取り組みました。

B群は、共通でセルフケアとして専用ソープとオイルで洗って保湿するデリケートゾーンケアを行い、アロマディフューザーで寝室にリラックス系の香りを取り入れました。そのほか個別に、スキンケアの見直し、サプリメントの摂取、ヨガやストレッチの実践、睡眠時間の増加や昼寝の導入など、カウンセラーと相談しながら、それぞれに合ったセルフケアに取り組みました。

その結果、B群の人たちに、自分の状態を理解して適切なセルフケアを取り入れる「セルフマネジメント力」の向上が見られました。

更年期症状を主観で判断する「簡略更年期指数」は、B群に改善の傾向があり、特に「腰や手足が冷えやすい」「イライラする」「頭痛・めまい・吐き気がある」「疲れやすい」といった症状に効果が見られました。また、睡眠の質を評価する世界標準指標「アテネ不眠尺度」は、B群が大きく改善しました。

研究結果概要図
研究結果概要図

更年期を含む女性の心身にまつわる知識を身につけ、不調の原因を認知する。そして、その原因に応じたセルフケアを日々の暮らしに取り入れる「セルフマネジメント力」を向上させる。この二つが、睡眠と更年期の不調の改善につながる可能性があると分かったのです。

また、カウンセリングという他者が介在したパーソナルなサポートと具体的なセルフケアの提案が、セルフマネジメント力の向上に高い効果がある可能性も示されました。

更年期問題は社会の課題

この結果を見ると、やはり自らヘルスリテラシーを身につけ、セルフマネジメントを行っていくことが大事ということになります。でも、なぜそれが難しいのか。

不調改善プログラムの参加者の話を聞いて、 愕然(がくぜん) としたことがあります。それは、更年期世代の働く女性たちに「自分の時間」がないということです。あくまでも一例なので、全ての女性に共通するわけではありません。ですが、このような方々もいるのだということを、あえてお伝えしたいと思います。

まず、家庭の問題として、以下のような話が多く聞かれました。

◇家事の負担が全て自分に偏っている。共働きなのに、夫からは「家事は何もしない」とくぎを刺されている。
◇仕事の後は毎日、子どもの塾の送り迎えや食事・お弁当の準備に追われている。寝る時間は毎日深夜1時か2時。朝は5時頃に起きて、家事をしてから出勤する。
◇親の介護が重なり、自分のケアよりも親のケアを優先する必要がある。

職場については、以下のような話がありました。

◇男性であれば聞かれないような質問や声掛けが多く、女性というだけで常に試されているような感覚になり、過度なプレッシャーを抱えている。
◇管理職のため、日中は決裁に追われ、自分がやるべき他の仕事は帰宅してから深夜に行っている。
◇女性の上司から「私の時代はもっと大変だった」「体調は自己管理で我慢できる」などと言われるため、耐えなければ上にはいけないと感じる。
◇ここまで出世させていただいたということを謙虚に受け止め、でしゃばらずにわきまえて行動する必要性を職場の空気として感じる。

自分自身のケアをする時間が少なすぎる――。
時間に追われすぎて、そもそも自分を大事にしようと思うきっかけがない――。
職場では、女性というだけで過度なストレスやプレッシャーがかかる場面が想像以上にある――。
気づいた時には心身ともに疲れ果てて、不調症状が顕在化している――。

このような状態で、個人が本来持っている素晴らしい能力を十分に発揮できるでしょうか。話を聞けば聞くほど、「身体の仕組み」の違いだけでなく、社会的役割や環境が及ぼす要因が大きすぎると痛感しました。これを「個人」で対処すべき問題とするのは、「マッチョな社会すぎる」と感じます。

人口が増え続けていた時代には効率的だった組織のあり方は、もうすでに大きく変わってきています。管理職・役員の女性が少ない日本において、女性の更年期の問題は「マイノリティーの問題」として捉えられるかもしれません。

だからこそ、企業にとっては、これまでできていなかった「マイノリティー性」を、経営の意思決定や人材育成に反映するチャンスとも言えます。

これまでの人口増加時代と異なり、確実に人手不足が深刻化する中、多様な人材確保が企業にとって必須でしょう。そして、ライフスタイルや価値観の多様化に直面する多くの企業が、それらに対応する新たな事業の創造を迫られています。

今、無意識的に抱いている固定観念から抜け出して、物事を新しく捉える視点を身につけるためには、どうすればいいのでしょう。組織には実に多様な個人がいて、その中で見過ごされてきたマイノリティーの課題に 真摯(しんし) に向き合うこと。多様な人たちと仕事をしながら、認識のズレやギャップを知ること。そのように試行錯誤していくことで、新たに必要とされる幸せなイノベーションを生み出せる組織になっていくのではないでしょうか。

今回の更年期と睡眠の研究が、「女性の健康課題は決して個人の問題ではない」という気づきになり、マイノリティーの視点で課題に対応する優しい社会になっていくための、一つの材料になったらうれしいです。

そして、その先にはきっと、女性の健康課題のみでなく、様々な多様性に気づく「思いやり」ある組織のあり方につながっていくでしょう。そうなることを願っています。

(起業家 小林味愛)

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4965376 0 大手小町 2024/02/01 06:00:00 2024/02/01 06:00:00 /media/2024/01/20240124-OYT8I50002-T.jpg?type=thumbnail

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