「多様な人材活躍」、「組織若返らせる」…人手不足の中で定年制は必要?

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 「人生100年時代」と言われるようになりました。人手不足が続く中、多様な人材に活躍してもらうため定年制度を廃止する企業がある一方、「組織には定年制が欠かせない」との意見もあります。海外には定年のない国も多くありますが、皆さんは定年制の意義をどう考えますか?

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[A論]組織を若返らせる 「第二の人生」節目

 大阪市で食品製造会社を経営する渡辺潤一さん(65)は「どこかで線を引かないと、若い世代にしわ寄せがいく。定年制がないと、社会が成り立たない」と話します。以前は会社員だった渡辺さんは経営者の立場になり、こうした思いを強めたといいます。

 日本では、企業が定年を定める場合は原則、「60歳を下回ることはできない」と規定されています。65歳まで働く機会を確保するため、企業は〈1〉定年制の廃止〈2〉定年の引き上げ〈3〉継続雇用制度の導入――のいずれかを義務づけられています。従業員が21人以上の会社では、100%近くが65歳まで働ける制度を導入していますが、定年制を廃止したのは4%未満です。

 2006年に定年制を廃止した日本マクドナルドが12年に復活させた例もあり、定年制は日本に定着した仕組みと言えそうです。これは、企業と従業員の双方にメリットがあるからこそとの見方があります。

 独立行政法人の労働政策研究・研修機構の藤本真・副統括研究員は「日本では、従業員の不利益になる処遇の変更や解雇が難しい。雇用契約を一律で終了できる定年制には、人事を調整して組織を若返らせる機能がある。従業員にとっても、安定した長期雇用という利点がある」と説明します。

 近年、定年制は多様化しています。りそな銀行と埼玉りそな銀行は21年に「選択定年制」を導入しました。60歳だった定年を延長し、65歳までの間で自分で決めた年齢まで正社員として働くことができます。部署によっては残業もあります。

 りそな銀で人事を担当する佐久間仁美さん(36)は「60歳を過ぎた後の働きぶりには個人差も大きい。選択肢を広げ、全世代に活躍してもらいたい」と話します。りそな銀には、60歳を超えた社員の処遇を変更し、再雇用する制度もありますが、約9割が選択定年制を利用しているそうです。

 定年は「人生の節目」と言われます。57歳で会社を辞め、都内に喫茶店を開業した柴山弘さん(71)は、定年後を見据えて50歳代に入ってから勉強会に参加するなどして起業を準備してきたといいます。

 柴山さんは「定年後に何をするのかを55歳までに決めようと思っていた。定年制がなければ、区切りなく勤め続けていたかもしれない」と話します。

 シニア世代を対象とした起業支援会社、銀座セカンドライフ(東京都中央区)の片桐 実央みお 代表は「定年は決して、働くのをやめるタイミングとは限らない。定年があるからこそ、自分の人生を考えるきっかけにもなる」と話します。

[B論]年齢で区別「不公正」 米国は法律で禁止

 中古 厨房ちゅうぼう 機器の販売を手がけるテンポスバスターズ(東京都大田区)で、仕入れや販売を担う部門で部長として働く湯川彰雄さん(73)は「仕事は生きがい。体が動くうちは続けたい。働きたい高齢者は多い」と話します。

 1997年創業の同社は事業拡大で人手が不足し、2005年に定年制を廃止しました。希望すれば何歳でも働くことができます。最高齢の社員は87歳で、中途採用でも60歳以上の人が月に5人ほど応募してくるそうです。親会社の人材事業部の森美和子さん(39)は「生き生きと働く高齢社員の姿を見て、若手も刺激を受けている」と話します。

 人手不足に陥っている中堅・中小企業は、定年制を廃止するケースが多いと言われています。厚生労働省の23年の調査によると、社員数が300人以下の企業では4・2%が定年制を廃止していました。

 301人以上の企業では0・7%とごくわずかですが、ファスナーやサッシで知られる社員4万人超のYKKグループは、21年度に国内事業会社の定年制を廃止しました。会社の求める役割を果たせる人であれば、年齢にかかわらず正社員として雇用しています。

 人事部長の寺田創さん(54)は「スキル伝承の観点で、ベテランが残ってくれるメリットは大きい」と話します。子会社のYKKAPで40年以上、生産現場で金型を管理する仕事を続けてきた谷井哲夫さん(65)は、この制度で働き続ける一人で、「手順書では分からない技術やノウハウを伝えていきたい」と言います。

 YKKが定年制を廃止したのは、採用難が理由ではありません。YKKは企業理念として「公正」を掲げており、年齢を基準に退職させることは「不公正なのでは」との声が1990年代からあったそうです。

 定年制は、米国で「年齢による差別」と考えられており、法律で禁じられています。欧州でも多くの国で廃止されており、今も維持しているのは日本や韓国などアジアの国が中心です。

 経済協力開発機構(OECD)は1月、日本に定年制の廃止を提言しました。定年制を終身雇用などとともに「日本の伝統的な労働モデル」と位置づけ、「高齢者や女性の雇用、労働力の流動性を阻害している」と結論づけました。

 人口減少が続く中で、定年制を廃止すれば「雇用が増え、女性や若年労働者にも利益をもたらす可能性がある」とも指摘しており、マティアス・コーマン事務総長は「縮小する労働力を有効活用することは、日本の課題に対処するカギになる」と話しています。

55歳→60歳→65歳も

 近代産業で記録が残る日本最古の定年制度は、1887年(明治20年)に海軍の火薬製造所が定めた規定だと言われています。退職の年齢を55歳とし、それまでの雇用を約束することで、工員が引き抜かれるのを防ぐ狙いがあったようです。その後、「55歳定年」は、造船業界などの民間企業にも慣行として広がっていきました。

 日本人の平均寿命の延びもあり、政府は1970年代半ばから定年を引き上げる施策を進めてきました。86年には「60歳定年」が企業の努力義務となり、98年の改正高年齢者雇用安定法の施行で60歳定年が義務づけられました。

 2021年からは、継続雇用やフリーランス契約への移行なども含め70歳まで働く機会を確保する努力義務が企業に課せられています。

 この結果、現在は65歳を定年とする企業が徐々に増えています。厚生労働省の23年の調査では、定年を65歳以上とする企業は、全体の26.9%を占めるまでになっています。

 定年の年齢を引き上げる背景には、引退後の生活を支える公的年金制度の変化もあります。現在の受給開始年齢は原則として65歳ですが、22年からは希望に応じて75歳まで繰り下げることもできるようになりました。

 ニッセイ基礎研究所の金明中・上席研究員は「現在の労働力不足もあり、将来的には65歳定年の義務化が検討される可能性がある」と指摘します。何歳まで、どのように働くか。企業や働き手が共に考えていく必要があるでしょう。(経済部 青木佐知子、田中俊資)

[情報的健康キーワード]ダークパターン

 通販サイトなどで消費者に不利益を被る可能性がある選択をさせる手法を「ダークパターン」と呼びます。

 最近、世界中で問題視されており、経済協力開発機構(OECD)は2022年、その手法を七つに分類して注意を呼びかけました。

 例えば、カウントダウンタイマーを表示し、時間内に購入すれば「商品を安く購入できる」とせかす手法があります。制限時間が刻々と迫ると消費者は冷静な判断ができず、焦って購入してしまうからです。

 商品の定期購入を解約しようとすると、<本当にやめますか?>などと、思いとどまらせようとするメッセージを表示して、妨害する手法もあります。なかなかキャンセルできずあきらめてしまう人もいます。

 欧米では、ダークパターンを禁じる動きが進んでいます。日本でも規制する法律を整備すべきだとの声も上がっています。

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5272717 0 経済 2024/04/19 10:50:00 2024/04/19 11:00:12 2024/04/19 11:00:12 https://www.yomiuri.co.jp/media/2024/04/20240418-OYT1I50138-T.jpg?type=thumbnail

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