オピニオン・小林味愛

男性育休「推進」なのに父親を育児から引き離し続ける三つの課題

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東京都豊島区で今年2月に実施された男性の育児環境に関する調査で、大変興味深い結果が発表されました。調査を担ったのは、父親支援を行うDaddy Support協会。父親の育児サポートを通じて母親、そして子どもたちを守り、それぞれの家族のあり方で歩んでいける環境を目指している専門家と当事者で構成された団体です。

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「育休を取るから今のうちに仕事をがんばる」

2023年5月、都内の公園にて(小林さん提供)
2023年5月、都内の公園にて(小林さん提供)

男性育休は近年、取得率が向上しており、かつ長期化しています。以前は「5日間」でも「取得してすごい!」となっていた時期もありましたが、現在は1~3か月間取得する男性の割合が増えてきました。3月国会に提出された育児・介護休業法の改正案には、育休中のみでなく、「育休後」の働き方を柔軟にする措置を企業が講じることも明記されています。

しかし、「育休推進」はされているものの、本当に男性が育児をできる社会的環境や支援があるのだろうかというと、そうではない、というのが現在の状況だとDaddy Support協会の平野翔大代表理事は言います。

例えば、男性は、育休を取る前の妻の妊娠中、「育休を取るから今のうちに仕事をがんばる」と育休前に長時間労働を続ける方もいます。また、育休明けは「妻はまだ育休なので」という理由で、フルタイムかつ残業有りで復帰するケースが多く見受けられます。

でも、育休取得前の夫婦に必要なことは、育休後の方針をしっかりと話し合う時間を作ること、そして、いつ何が起こるかわからない妊婦の緊急事態に備えることです。また、育休明けに夫婦ともに仕事と育児を両立できる体制づくりと、子どもが2歳になるまでの最も大変な1、2年を乗り切る準備をすることです。

育休明けに、再び男性が柔軟性のない働き方で長時間労働に戻れば、女性が仕事をセーブするしかなくなってきます。つまり、男性が「育休を取得する」というところだけに着目されていて、その前後のサポートができていないのです。

そればかりか、社会にはまだまだ父親を育児から引き離し続ける仕組みが残っています。例えば、子どもの健診に父親が1人で連れていくと、「お母さんは何と言っていますか?」と聞かれることが多くあります。自治体や企業が行う子育て講座の多くに、「ママのための~」という枕ことばがついています。育児関連グッズのマーケティングも、ターゲットはほぼ女性です。これらは、子育ての主体者は母親であるという先入観があるからです。

父親が出産や育児について妊娠中から学ぶ機会はどれくらいあるでしょうか。父親の多くが妊娠初期は「ノータッチ」、父親教室などに参加する機会を逸して「基礎知識がなく」、育児をしてから「初めて問題に気づく」というシナリオをたどることになります。

「何を知ればいいか、それすらわからない」という状態であり、男性が育休を取得して育児をしようと思っても、誰に、何を聞いたらいいかも分からない、つまり社会的に孤立するリスクを抱えているのです。

「相談したかったが、相談先がわからなかった」

冒頭で触れた豊島区の調査は、まさにこうした社会背景を裏付ける結果になっていました。このアンケート結果からは大きく三つのことがわかります。

【1】父親の長時間労働は減っていない

1つめは、父親の仕事関連時間(仕事+通勤時間)は、妊娠前から産後にかけて微減しているものの、半数近く(45.3%)が10時間以上となっており、十分な家事育児時間が取れているとは言い難い状況がわかりました(国立成育医療研究センターの調査によると、「父親が家事育児時間を十分に確保するためには、仕事関連時間を9.5時間以内にすることが必要」という調査があります)。

【2】睡眠時間の削減による父親の精神的な不調

2つめに、半数近い父親が精神的な負担・不調を感じており、その背景として、子どもの出生後に父親も著しく睡眠時間が減少していることが挙げられます。つまり、仕事関連時間が減らない中で育児や家事との両立を図ろうとして、結果的に睡眠を削っているということです。

【3】父親の相談のしにくさ

3つめに、父親が周囲に相談しづらい現状が調査でも明らかになっています。実際に精神的な負担を感じたことのある父親の半数以上が「相談したかったが、相談先がわからなかった」「負担を感じても特に相談しようとは思わなかった」と回答しています。

男性は育児においてマイノリティー

「長時間労働や仕事関連の時間が減らない」中で、夫婦ともに睡眠時間を削減して子育てをするのでは、精神的にも肉体的にもあまりにも負担が大きすぎます。

企業としては、働き方の柔軟化を含め、働き方改革が必須ではありますが、アンケート結果と社会背景を併せて考えると、妊娠前~妊娠初期といった早期の段階から、男性が出産や育児に関する知識にアクセスできる機会があることも大切になります。男性育児が「推進」されているわりには、男性を「子育ての主体者」として捉えた支援がまだ社会には圧倒的に少ないのではないでしょうか。

思い返してみれば、「母子手帳」は妊娠中のみならず、産後の子育てでも医療機関などで使用するにもかかわらず、いまだに「母子」手帳です。女性は「社会」に出ると組織の中でマイノリティーであることが多くあります。一方、男性は「育児」においてまだまだマイノリティーであることが多く、女性活躍と同様、「マイノリティー」だからこそ見過ごされてきた課題が山積しているように思います。

社会状況が刻々と変わっている中で、今一度、私たちは働き方や子育てを含むあらゆる分野で「見過ごされてきた声」にどう向き合うのか、今の制度はこの時代にも本当に公正と言えるのか、それらに向き合う必要性を強く感じています。(起業家 小林味愛)

【2023年度 東京都豊島区 男性の育児環境に関する調査】
対象:豊島区在住の2歳未満の子と同居する父親
期間:3256世帯
有効回答数:1557回答(有効回答率47.8%)

プロフィル

小林味愛
小林味愛(こばやし・みあい)
起業家
1987年東京都立川市生まれ。慶應義塾大学を卒業後、衆議院調査局入局、経済産業省出向、日本総合研究所を経て、福島県国見町で株式会社陽と人(ひとびと)を設立。福島県の地域資源をいかして、農産物の流通や加工品の企画販売など様々な事業を展開。あんぽ柿の製造工程で廃棄されていた柿の皮から抽出した成分を配合した国産デリケートゾーンケアブランド「明日 わたしは柿の木にのぼる」を立ち上げた。2人の子育てをしながら福島県と東京都の2拠点生活を送る。
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5338532 0 大手小町 2024/05/09 11:55:00 2024/05/10 08:21:01 https://www.yomiuri.co.jp/media/2024/04/20240425-OYT8I50085-T.jpg?type=thumbnail

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