企業で働く人事労務担当者の大半は、メンタル不調に陥っている社員への対応に苦慮しているはず――。『社員がメンタル不調になる前に』(藤田康男 著、日本能率協会マネジメントセンター)の著者はそう指摘しています。

もちろん、それらには業務としてしっかり対応する必要があります。しかし現実的に、従来どおりの対応によって「社員が心地よく働ける環境」をつくることはなかなか難しくもあります。

本書は、そんなことを感じている人事労務担当者のために執筆しました。人事労務担当者の「本当は分かっているけど、口に出せない声」を代弁しています。

また、その状況に気付いている経営者の方にも手に取っていただきたいのです。社員のメンタルヘルスに対する新しい対応策をごりかいいただけるはずです。(「はじめに」より)

こう語る著者は、法人向けオンラインカウンセリングサービスを提供する「Smart相談室」を運営している人物。これまでの組織マネジメント経験から、「メンタル不調に陥ってから」ではなく、「メンタル不調になる前」に対応することが、本当の解決策になると強く信じているのだそうです。

メンタル不調は風邪などのよくある病気と違い、一度罹患するとすぐには治りません。罹患すると中期的に治療を重ね、治療が完了した後も長い人生において、つかず離れず付き合っていく疾患です。であれば尚更、罹患しないことが重要になります。(「はじめに」より)

そこで本書ではこれまでの実績に基づき、そうした問題にどう対応し、解決していくべきかを明かしているわけです。きょうはそんな本書のなかから、第3章「『モヤモヤ』したら、まずは相談してイイ」に焦点を当ててみたいと思います。

「モヤモヤ」したら、まずは相談してイイ

日々を過ごすなかで、「なんとなくモヤモヤするなぁ」と感じることはよくあるもの。しかし、それは誰かに相談しづらいことでもあります。過去の著者も同じで、たとえ仕事上の問題が原因であったとしても、よほどのことがない限り相談することはなかったのだといいます。

でも、今ならハッキリと言えます。本当は、「モヤモヤ」したら相談してイイんです。いえ、した方がイイんです。まずは相談してみること。今、そんな文化の醸成が必要な時代になったのだと思います。

個々人が自らの行動を変えることは当然ですが、企業としてもそのような文化を創り、社員が個人として相談できるような環境づくりをサポートするべきだと思います。(58〜59ページより)

しかし、モヤモヤを抱えながらも“相談しない人”は少なくありません。それは、人に相談すると「相手に嫌な印象を与えてしまうのではないか」「迷惑をかけてしまうのではないか」と考えがちであることが原因であるようです。

そればかりか、「相談することで自分の評価が下がるのではないか」と心配する人もいらっしゃるのではないでしょうか。あるいは、相談できそうな人がいないとか、「相談したってどうせなにも解決しないだろう」という思い込みが影響する可能性もあることでしょう。

しかし実際のところメンタル不調は、問題が解決することによってだけでなく、不安、苦しみ、つらさの「受け取り方」や「考え方」を変化させることでも改善されるもの。30分程度の相談だけでも気分が楽になり、活力が湧いてくることもあるそうです。

「問題の解決に焦点を当てる」だけではなく、「相談できること自体」に効果があることも理解しておく必要があります。以前の私は、「相談とは、誰かからアドバイスをもらって問題を解決すること」だと理解していました。しかし実際は、不安やストレスを緩和し、メンタル不調に陥るのを防止する作用があるのです。いわゆる「ガス抜き」に似ているかもしれません。(60ページより)

そう考えていくと、相談できる相手がいることの重要性にも気づくことができるはず。また、相談する相手の位置づけは日々変化していくものなので、「いまならこの友人に相談するべきだろう」というように、相談するタイミングに応じて、相談相手を自分で「設定」することも大切だといいます。(57ページより)

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「もっと早く相談しておけばよかった」という社員

著者がメンタル不調を抱えた人にインタビューした際、多くの方が「もっと早く相談しておけばよかった」との思いを話してくれたのだそうです。そして、その方にも2つの共通点があったのだとか。

一つめは、メンタル不調に陥った際、どこからが病気で、どこまでが健康だったのかが分からなかったという点です。重要な点として挙げたいのは、どこまでを健康な状態として「頑張らなければならなかったのか」と、未だに疑問を持たれている方も多くいらっしゃったという点です。(62ページより)

とくに責任感や達成意欲が強い方ほど、自分自身への対応を後回しにする傾向があるようです。その結果、ちょっとモヤモヤするという自覚があったとしても、「まだ大丈夫」「もっとやれる」「がんばりたい」というように、無理して自分を励ますようなかたちで進んでしまうわけです。

そして、どこかの時点で限界点を超えてしまう。つまり、自分では自分の不調に気づけないものなのです。そのため、「もし、もっと早く相談できれば、罹患を防げたかもしれない」ということは往々にしてあるということです。

二つめは、メンタル疾患の「治りにくさ」に罹患して初めて気付くという点です。メンタル疾患に対する治療は、数日で終わるものではなく、数ヶ月、数年に及びます。

また、治療が完了した後も心のどこかにメンタルダウンした際の感覚が残っていて、その感覚と付かず離れず共に過ごしていくことになります。

この過程を多くのメンタル不調者が実感として持っています。誰にでもなる可能性がある病気にも関わらず、その実態を十分に理解しておらず、罹患した後に後悔している、そのような心境を吐露されます。(63ページより)

つまり、こうした状況を改善するためには、日ごろから社員に対し、働くうえで必要となる「メンタル不調に関する知識」をインプットし、啓蒙する必要があるのです。(62ページより)


実際の相談者、人事労務担当者、カウンセラーと、それぞれの立場からの実例を豊富に掲載した一冊。

これからの社会に求められる人事労務担当者の姿、そして社員と企業の労使関係のあり方などにも踏み込んでいるため、メンタル不調に悩む社員と向き合う際に大きく役立ってくれそうです。

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Source: 日本能率協会マネジメントセンター

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