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自社の意思決定にデータを活用しようとする場合、高度な専門性を有するデータサイエンティストを集めて、多くのデータを入手できる領域で活動させようとする企業が多い。しかし、これでは戦略上の重要性が高くなく、専門性をそれほど必要としない領域で、データサイエンティストという貴重な人的資源を浪費することにつながりかねない。筆者らは、データサイエンスを「民主化」し、全社員をデータ活用の取り組みに参加させることで、より効果的にデータサイエンス・トランスフォーメーションを遂行すべきだと主張する。本稿では、それを実現するための4つの方法を紹介する。


 データサイエンスを導入しようとする企業は、まず高い専門性を有する人材を集めた「センター・オブ・エクセレンス」を社内に設けることから始めるのが一般的だ。できるだけ優秀なデータサイエンティストを採用し、データがふんだんに手に入る領域で活動させようとするのだ。

 これは意外なことではない。人工知能(AI)や機械学習を巡るお祭り騒ぎに乗り遅れたくない企業は、どうしてもこのような選択をすることになる。加えて、データサイエンティストたち自身も最新のツールを誇示したいものだろう。

 しかし、データサイエンティストという希少な資源の活用法として、これは本当に最良の方法なのか。そうとは言えないケースがほとんどだと、筆者らは考えている。筆者らは企業に対して、データサイエンスをより戦略的に、そしてより広い視野で見るよう助言している。

 戦略的データサイエンスとはどのようなものかを考えてみよう。企業が取り組むべき戦略的課題の数は比較的少ないが、そのような問題は、その会社にとって極めて大きな意味を持つ。戦略的課題とスケールの大きな意思決定に関して分析すべきデータはあまり多くないが、企業はそうした課題にすべての資源をつぎ込むべきだ。

 データサイエンスがもたらせるものは、ビッグデータのアルゴリズムだけではない。問題をより明確に設定したり、入手できる「スモールデータ」を分析したり、実験を行ったり、質の高いグラフィックスを作成したりといったことにも道が開ける。データサイエンスがより質の高いインサイトを生み出す力は、極めて大きいのだ。

 また、データサイエンスの本格的な導入に当たっては、突き詰めればその会社の上級幹部たちが旗振り役を務めなくてはならない。そこで、そうした幹部たちをデータに触れさせることが好ましい。そうすることで幹部たちはデータサイエンスを取り入れることの利点をいっそう深く理解し、そのために自分がどうすべきなのかが見えてくる。

 しかし、上層部が関わるだけでなく、社内でデータサイエンスを「民主化」して、幅広い社員を参加させることも重要だ。データサイエンスによって会社を真に変えるためには、すべての社員がその取り組みに参加しなくてはならない。

 データサイエンスを専門家にすべて任せれば、その取り組みの可能性が狭まってしまう。専門職のデータサイエンティストにしか目を向けないデータサイエンス・プログラムは、大多数の人たちを無視し、その結果として多くのビジネスチャンスを逃すことになる。

 たとえば、企業が直面している問題や意思決定の中には、ごく少人数の知識労働者とミドルマネジャーとパートナーが2~3カ月程度、少量のデータを用いるだけで対処できるものがたくさんある。そのような人たちは現場の最前線で仕事をしているので、自社のビジネスについてすでに熟知し、データサイエンティストたちと違ってビジネスの内容をわざわざ教える必要がない。

 また、最近はいくつもの企業が多様な新しいツールを発売している。そうしたツールを用いることにより、データサイエンスのさまざまな要素を簡単に行ったり、自動化したりすることができる。たとえば、データを整えたり、アルゴリズムをつくったり、モデルを使って生産を行うためのコードを作成したりといったことが可能だ。

 全社規模でデータサイエンス・トランスフォーメーションを遂行すべきだと言われると、途方もない難事業に思えるかもしれない。しかし、その一歩を踏み出すためにできることはある。

 筆者らがこれまで行ってきたコンサルティング、シニアリーダーたちとの会話、そして研究成果を基に、以下のいくつかの(互いに関係のある)行動を提案したい。これらを実践することで、データサイエンス関連の取り組みをより戦略的なものにし、より幅広い社員を参加させることができるだろう。