戦略に対する社内の認識は、あなたの想像以上にずれている
Helin Loik-Tomson/Getty Images
サマリー:戦略に関する認識は社内でどれほど一致しているだろうか。イメージの上では一致していると考えていても、文章に落とし込んで分析をしてみると大きく乖離していることが少なくない。戦略に関する認識の不一致は企業に... もっと見る大きな損害をもたらす。リーダーはこうした事態に対してどのような行動を取れば良いだろうか。 閉じる

戦略の認識違いは価値創出を妨げる

 想像してほしい。あなたがある中規模企業のCEOを務めているとしよう。あなたの会社では、莫大なコストを費やして、マネジメントチームの全員を集めた合宿を行い、数日間にわたって戦略を話し合ったばかりだ。この合宿で自社の戦略を事細かに検討し、それまでになく戦略に関する社内の認識のすり合わせができたと、あなたもチームのメンバーも感じている。しかし、本当に、あなたの会社のマネジメントチーム内で、戦略についての認識が一致しているのだろうか。

 筆者らが行った新しい研究によれば、メンバーの認識は一致していない可能性がしばしばある。実際、戦略に関する社内での認識の不一致は、一般に思われている以上に深刻であり、それがもたらす弊害もかなり大きいようだ。

 筆者らは目下継続中の研究の一環として、12の組織で働く500人以上の現場レベルの従業員、ミドルマネジャー、上級幹部たちを対象に、企業戦略に関して自社内の認識がどれくらい一致していると思うかと尋ねた。すると、調査対象者たちはおおむね、この点に関して楽観的な回答をした。平均すると、戦略に関する社内の認識の一致度が82%に達すると回答したのだ。

 しかし、この人たちに、自社の戦略について詳しく文章の形で記してもらい分析したところ、実際の認識の一致度は23%に留まった。認識の一致度は、人々が記した概念や言葉がどれくらい重複しているかに基づいて評価した。つまり、実際の認識の一致度は、人々が抱いているイメージの2分の1~3分の1程度にすぎなかったのである。

 このような現実とイメージの乖離は問題を生み出す。ギャップが大きい会社ほど、従業員は自社の戦略の有効性と戦略の実行に関して懐疑的なのだ。そして、そのような会社で働いている人たちは、自社の戦略実行のペースが遅く、その活動の質も低いと回答する傾向がある。

 たとえば、ある教育関連テクノロジー企業の従業員たちは、戦略に関する社内の認識の一致度を77%と評価していたが、書面での回答を分析すると、実際の認識の一致度は26%だった。その会社のCEO(業界経験25年のベテランだ)はこの調査結果を知って驚いた。「社内の認識が完全に一致しているとまではさすがに思っていませんでしたが、これほどまでに食い違いが大きいとは予想外でした」と、このCEOは打ち明けた。「調査結果を見ると、社内の誰もが自分の部署の狭い視点でしか戦略を解釈していないように思えました。その点では、戦略チームも例外ではありません」

 同様に、ある人材サービス会社のミドルマネジャーと上級幹部たちは、戦略に関する社内の認識の一致度を90%と評価していたが、実際の認識の一致度は30%にすぎなかった。この会社の人たちが戦略上の優先課題として挙げた要素は、プロダクトの多角化、地域コミュニティのための価値創出、強力なプラットフォームの構築など、ばらばらだった。

 一部には、戦略に関する理解が社内で真っ向から衝突しているケースもあった。たとえば、ある会社の場合、ある人物は、高度で高価なサービスに注力することを自社の戦略として挙げていたのに対し、別の人物は、シンプルで素早く提供できるサービスを大量に販売することを自社の戦略と考えていた。

 企業幹部や従業員たちは、いわゆるエコーチェンバーにはまり、自分と同じ考えの意見ばかりを聞いている場合があまりに多い。その結果、自社の戦略についてみんなが同じ認識を共有していると思い込んでしまう。しかし、実際には社内の人々がばらばらの目標を追求していたり、場合によっては反対の目標を追求していたりするケースがあるのだ。

 このような状態に陥ると、どうしても社内で政治的駆け引きや対立が生まれたり、会議の生産性が落ち込んだり、対人関係の問題が持ち上がったりする。こうしたことはすべて、人々が業務に集中する妨げになり、真の価値創出の足を引っ張る。

 社内で戦略に関する認識を一致させることが不可能なわけではない。筆者らの研究によると、社内の認識をすり合わせ、誰もが真の意味で足並みを揃えられるようにするために、リーダーが取れる行動が3つある。