コストを削減する時、組織の長期的な戦略を見失ってはならない
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サマリー:市況の変化に伴って、企業がコスト削減、リソース削減を実行することはしばしば起こる。その際、短期的な視点で判断をしてはならないというのが筆者の主張だ。本稿では、長期的な戦略に則って取り組むことの必要性を... もっと見る説く。コスト、リソース削減を行なうとしても、企業をより強くするために競争力のある仕事は守らねばならない。では守るべき仕事と削減すべき仕事は、どのように分類すればよいのだろうか。 閉じる

近視眼的なコスト削減を行っていないか

 2023年が進むにつれ、景気後退への不安が多くの企業にのしかかっている。テクノロジー業界ではレイオフの発表が続き、困難な時期を予見して守りを固める企業が少なくない。2023年度の設備投資を抑制する企業もあれば、出張旅費、採用や昇給、従業員の福利厚生まで切り詰めようとする企業もある。

 この3年間、企業は新型コロナウイルス感染症によるパンデミックで混乱したビジネス環境に適応してきたが、いま、リーダーはインフレの余波と不況への不安から、収益の伸び悩みに合った予算を組むため奔走している。選択を誤って、つらいニュースを伝えざるをえなくなることへの不安から、リーダーはコスト削減に当たり、しばしば近視眼的な決断を下してしまう。そしてコスト削減の成果を持続するという点では、ほとんどの企業がひどい状態だ。ある研究によると、初年度に目指したコスト削減を達成した企業は43%に留まり、3年経ってもコスト削減という堅実な行動を続けた企業は11%にすぎない。究極の失敗は、将来から目を背けたことに起因する。たとえば、長期的目標を支える成長とイノベーションの能力を備えている企業は、わずか9%である。

 リーダーは、藁にもすがる思いで「最も痛みが少なそうな」ことをするのではなく、長期的目標と企業文化を断固として守り続けるべきである。もしあなたがコストを切り詰める必要性に直面しているならば、企業の長期的な健全性を犠牲にせずにコストを削減する重要な方法がある。これまでのリーダーたちが採用してきた方法を紹介しよう。

コスト目標ではなく、戦略に重点を置き続ける

 成長が実現していないからといって、あるいは外的要因によって収益が低下し、コストが上昇したからといって、組織の戦略が不健全だということにはならない。戦略を再確認して必要ならば調整するという段階を踏まずに、コスト削減を行うリーダーは、会社に損害を与える可能性が高い。もし現在の業績や結果と照らし合わせても、なお長期的戦略が健全であるなら、その戦略を積極的に追求すべきである。長期的目標を放棄するのではなく、それを確実に実現するための短期的なコスト削減を考えるのである。

 短期的なコスト削減と長期的な目標のバランスを上手に取るリーダーは、「これらのコストのうちどれが、未来の目標よりも過去の業績と結びついているのか」と問う。そして、意図する競争優位性と市場での成功に必要なケイパビリティを明確にしたうえで、経費削減を指揮する。コスト削減の目標が戦略達成の一部となり、これが企業経営において継続されれば、戦略の実現が加速することさえある。

 一例を挙げると、最近、筆者らのあるクライアント企業は、18カ月間で収益が25%低下した。同社は徹底的なコスト削減の必要に迫られて、戦略の実現に再度、本腰を入れて取り組むことにした。それは一つの圧倒的に強い事業部門(収益の85%)への集中から、3つの部門に分散したバランスのよいポートフォリオを構築するという長期的な戦略だったが、レガシー事業のマネジャーが変化に抵抗したため、進展していなかったのである。だがコスト削減に迫られた状況が変化を生んだ。特にレガシー事業を中心にコストが削られ、売上原価の20%削減を達成することができた。それによって新興の2部門に同時に投資することができ、目標達成に拍車がかかった。不況と収支への悪影響を戦略的に利用すれば、リーダーは必要な権限を手にして、過去に後戻りせずに未来の戦略へと迅速に、決然と移行することができるのである。

会社をより強くするため、競争力のある仕事を守る

 コストを「公平」に削減しようとして、会社全体に対して一律でコスト削減を展開するリーダーが、あまりにも多い。だが、これは公平とはほど遠い。このアプローチには、すべての仕事とその結果生じるコストが「等しい」という前提がある。削減を検討している活動の価値を正しく理解するため、あなたの戦略に照らし合わせて、自社の仕事を3つのカテゴリーに分けて分析してみよう。

 1つ目は「競争力のある仕事」である。通常、すべての活動の15~20%を占め、戦略的に最も重要な仕事で成り立っている。この仕事に1ドル投資すれば、5ドルのリターンがある。競合他社と差別化できる価値を直接的に生み出す仕事だ。

 2つ目は「何かを可能にする仕事」である。これも活動の15~20%を占め、競争力のある仕事を直接的にサポートする仕事だ。たとえば、顧客サービスで差別化を図る場合、顧客分析が「何かを可能にする仕事」に当たる。

 3つ目は、残りの60~70%を占める「必要な仕事」である。その役割はコンプライアンスを維持し、仕事を継続させることである。

「競争力のある仕事」と「何かを可能にする仕事」は、最大の効果を目指して組織化すべきである。ここにこそ、ほかよりも集中的に人材とテクノロジーを注入する。一方、「必要な仕事」は最大の効率化を目指すべきである。可能な限りコストを抑えて、競合他社と同等のことをする。この最後のカテゴリーこそ、コスト削減のターゲットとすべきものだ。リーダーが誤って、「競争力のある仕事」や「何かを可能にする仕事」を切り捨てていたら、事態が好転した時に会社が成長するための力を知らぬ間に弱体化させていることになる。