AIの進化で企業が直面しうる6つのシナリオ
Pepino de Mar studio/Stocksy
サマリー:AI(人工知能)は、これまでのビジネスにおける常識を根底から覆す可能性を秘めている。AIの進歩はあまりに速いことから、コンサルティング会社のデータ提供を受けて議論するといった従来のアプローチでは間に合わな... もっと見るい。自社でさまざまなシナリオをつくったうえで、構造化された議論を進める必要がある。本稿では、企業が検討すべき、AIがもたらす可能性がある6つのシナリオを紹介する。 閉じる

AIによる影響をシナリオにまとめて議論する

 AI(人工知能)は破壊的な力を持ち、既成のさまざまな経済的側面を根底から覆す可能性を秘めている。取締役会がAIについて最も効果的に話し合う方法は、シナリオを利用して、AIが自社のビジネスにどのような影響を与えるかを理解することだ。AIの進歩はあまりに速く、戦略チームやコンサルティング会社から世の中の傾向に関する確実なデータを提供されて議論するといった従来のアプローチでは間に合わない。

 その代わりに、AIが企業文化にどのような影響を与え、ビジネスをどのように再構築しうるかについて、さまざまなシナリオを用いて構造化された議論を進めるのだ。これによって、将来の可能性がより明確になり、適切な計画を立てて将来を予測し、さらによい方向へと向かうことができる。

 筆者らが開発してきた有用なシナリオは、業務上の急激な変化の予想や、競争のための新しい戦略的方法の予測、ビジネスを消滅させかねない存亡の危機の予見など、多岐にわたる。この手法を適切に活用できるように、すべての取締役会が検討すべき6つの質問を中心に6つのシナリオをまとめた。そうした議論をもとに、自分たちのビジネスモデルに最も大きな影響を与えるシナリオに対して行動を起こすのだ。

 まず、AIによって業務がどのように激変するか、3つのシナリオを考えてみよう。

精度がもたらす利益

 EBITDA(利払・税引・償却前利益)を牽引するすべての変数を自分たちが(あるいは競争相手が)管理する複雑性がさらに増すことで、どのような機会や脅威が生まれるのだろうか。

 ビジネスモデルの設計は、長年にわたり、規模と複雑性の間でもがきながら行われてきた。価格、マーケティングのメッセージ、サービスの提供、製品の機能など、無限に広がる変数の管理は難しいという認識から、パーソナライゼーションは常に、ビジネスをするうえで視界に入ってこなかった。

 しかし、AIはいまや、あらゆる顧客、モーメント、チャネルについてテストを行い、学習を重ね、最適な選択肢を生成することができ、企業のEBITDAを牽引するあらゆる変数について、精度を高めて価値を生み出す機会をもたらす。

 あるB2B流通企業の取締役会は、新しい競合相手が登場するシナリオを検討して難局と向き合った。物理的な制約がなく、「平均値」に基づく機能管理で妥協せずに、AI予測モデルを使ってバリューチェーン全体のあらゆる機能の意思決定を導くような競争相手だ。彼らのAIモデルは、価格設定と歩留まりの管理を最適化するために、すべてのSKU(最小在庫管理単位)についてミクロな地理的条件で市場価格の傾向を明らかにし、注文一つひとつに対応するコストを見積もって、顧客に新しい取引を提案する際のコストと価格の影響をモデル化する。

 さらに、顧客獲得を改善するために、見込み客への働きかけを具体的なニーズの予測に基づいて調整することや、AI搭載のチャットボットで質問に答えたり、最初の注文を受けたりすることによって、営業担当者がより大規模で複雑な問い合わせに対応する余裕をつくる。最後に、サプライチェーンを調整するために、顧客、位置情報、SKUレベルで需要を予測して、在庫をより効率的に管理し、最適な出荷ルートと方法を特定する。

 競合相手にさまざまな機会の可能性があることを理解した取締役会は、これらの機会を順番に検討してコスト削減を実現し、さらなる変革を行うための自己投資計画を会社に要求した。そして、進捗管理の目標を設定し、AIがどのように業績を向上させるかということだけでなく、市場シェアの拡大につながるかどうかを示す新しいスコアカードも求めた。

再構築されたパートナーのエコシステム

 AIの世界では、パートナーのエコシステム、コラボレーションの性質、パワーバランスはどのように変化するのだろうか。

 すでに企業はデジタルサプライヤーやテクノロジーサプライヤーへの依存を高めており、リスク評価において、こうした関係を重視して監視する必要が生じている。ただし、AIがパートナーシップのエコシステムを根本から変えることを考えれば、それも始まりにすぎない。サプライヤー、チャネルパートナー、カスタマーエクスペリエンスを提供するコラボレーターなど、利害関係の大きい関係が必然的に出てくるだろう。

 取締役会の観点からは、これによって管理すべき新たなリスクが生じるだけでなく、独占的な取引を確保し、規模を拡大して、差別化を図る機会も生み出す。したがって、戦略的思考とゲーム理論を十分に理解して、パワーバランスを強化したエコシステムを構築する必要がある。

 エコシステムの変化が起きた最も極端な例の一つは、自動車業界だ。自動車のOEM(相手先ブランド製造)はすでに、化石燃料からEV(電気自動車)へ、リース・所有からレンタルへ、ドライブ(運転する)からドリブン(運転してもらう)へという3つの大きな移行を管理している。これらはすべて、まったく新しい協力の形による新しいパートナーシップにつながっている。そしてAIは、この進化をさらに加速させている。

 自動運転では、自動車メーカーはテック企業と提携し、車両にAI機能を統合しようとしている。AIソフトウェアは、その多くが外部プロバイダーからの提供で、OEMの予知保全、在庫管理、需要予測の原動力になっている。コネクテッドカーは膨大な量のデータを生成するため、自動車メーカーはデータ分析企業やクラウドサービス・プロバイダーと提携して、車両の性能、安全性、カスタマーエクスペリエンスを、時にはリアルタイムで改善する。

 こうした機能の多くは、OEMブランドが自社を差別化する基盤となり、おそらく従来の自動車より高いパフォーマンスを実現する。では、誰が誰のためにブランド価値を創出しているのだろうか。

 さらに、EVの普及に伴って大規模なインフラが必要になる。OEMは充電ネットワークを展開するために、電力会社、充電インフラのプロバイダー、エネルギー会社とのパートナーシップに完全に依存している。ここでも充電ステーションの場所を最適化して充電効率を向上させるために、AIが活用されている。