パタゴニアでは「責任ある行動」が連鎖する
写真提供:サム・ビエ
サマリー:責任のある企業としてすばやく対応できるようにしたければ、人が持つ優れた点が発揮される環境を整えなければならない。パタゴニアの歴史においても、感覚が変わった節目がいくつもあった。責任ある企業として前進し... もっと見る、モチベーションが高まった瞬間である。本稿は、『レスポンシブル・カンパニーの未来──パタゴニアが50年かけて学んだこと』(ダイヤモンド社)の一部を抜粋し、紹介したものである。 閉じる

会社と自分の価値観は一致しているか

 いまのパタゴニアには、早い段階で自分の適性に気づき、そちらに進んだ人が大勢いる。子どものころから色に興味があった人や10歳のころには自分で服をデザインし、仕立てるようになっていた人、大学院で繊維化学を学んだ人などだ。MBA(経営学修士)を持つ人も働いている。そのなかにはビジネスそのものが大好きだからMBAに進んだ人もいるし、裕福な暮らしがしたくてMBAを取った人もいる(アントレプレナーが大勢いるわけではない。彼らは他人の下で働くことをよしとしない人種だからだ)。

 そのほか、ベンチュラで育ち、そこが気に入っていて引っ越したくないと思っており、かつ、そのあたりでは一番おもしろそうだと感じたからパタゴニアに入ったという人もいる。女性にとっては最高の職場だろう。逆に、経営陣のなかには、家族がほかの町に住んでいるなどの理由からベンチュラに住みたくないという人もいる。そういう場合は、通勤すればいい。

 どの会社も似たようなことになったわけだが、パタゴニアも、コロナ禍で2年間、職場を閉鎖した。机は閉鎖する前の日、社員が退勤したときのままで、放棄された事務所という雰囲気だ。社員の多くは、街を離れて山のほうに移動したり、自宅で仕事をしているあいだ子どもの面倒を見てくれる祖父母のところに身を寄せたりした。

 パタゴニアに入りたいと思う人は、その理由として、会社と自分の価値観が一致していることを挙げることが多い。このように深い部分で会社とつながっていると社員のモチベーションが高まり、仕事が大変になったときにも冷静沈着な対応が可能になる。毒性染料が使われていない新しい生地を探さなければならないときも、がんばりが利く。換気改善のためにびっくりするような額を投資してくれと工場と交渉するときも、配送センターの建設候補地に農地を提案してくるなと不動産業者を説得するときも、同じだ。

 正しいことをしようとするからモチベーションが高まり、ふつうならあきらめることもあきらめずにがんばるようになる。有意義な仕事というのは、大好きなことをするだけでなく、世界に報いるものでもある。このふたつが組み合わされば、人がふつうに持ち、また、力を尽くしたいと考える優れた点が発揮されるのだ。

人が力を発揮する環境を整える

 責任のある企業としてすばやく対応できるようにしたければ、人がふつうに持つこの優れた点が発揮される環境を整えなければならない。それまで無理だと思われていたことを始めるたび、会社の文化は大きく前進し、実はさまざまなことが可能なのだと感じられるようになる。いま、ふり返ってみると、パタゴニアの歴史においても、なにが可能なのかという感覚が変わった節目がいくつもあった。責任ある企業として前進し、モチベーションが高まった瞬間だ―そういうことなのだと、そのときには気づかなかったりもしたが(我々としては、ただ、衣料品を売って生計を立てようとしていただけだった)。

 そうしていると、責任感や責任ある行動を起こす能力が高まる出来事が起きたり人が集まってきたりする。そして、そういうことは連鎖する。実例をいくつか紹介しよう。自慢がしたいわけではない。ただ、「ああ、こういうこともあるのか」と思い、参考にしていただければと願う次第である。

 事業を始めた人々が環境責任や社会的責任に気づき、そういう責任を果たそうと行動を変えた例を紹介する。また、ひとつの気づきが次の気づきをもたらすことも示したい。

 まずは背景を説明しよう。