株式会社パーソル総合研究所(本社:東京都港区、代表取締役社長:萱野博行)は、「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」の結果を発表いたします。
2000年代以降、メンタルヘルス不調の早期発見と対応の重要性が広く認識され、精神障害の労災認定基準の厳格化やストレスチェックなどの義務化といった法整備が進められてきました。しかし、職場におけるメンタルヘルス不調は依然として大きな課題です※1。特に、2020年以降、社会的不安やSNSの影響、パンデミックの影響、職場環境の変化などが若年層のメンタルヘルスに大きな影響を与え、メンタルヘルス不調の増加が指摘されています※2。
本調査では、若年層におけるメンタルヘルス不調の背景を解明し、企業が取り組むべき具体的な対策を示唆することを目的に実施しました。
※1 厚生労働省(2019-2024). 「労働安全衛生調査(実態調査)」
※2 日本生産性本部(2023). 「第11回「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果」、労務行政研究所(2022). 「企業におけるメンタルヘルスの実態と対策」 労政時報第4034号
■正規雇用者では、若年層ほど過去3年以内のメンタルヘルス不調経験率が高い。20代男性の18.5%、20代女性の23.3%が経験。
<メンタルヘルス不調の定義>
本調査におけるメンタルヘルスの不調とは、生活の質に影響を与えるような強い不安や悩み、気分の落ち込み、ストレスからくる体の不調などを指します。
■主なトピックス ※トピックスの詳細については「主なトピックス(詳細)」をご確認ください
<実態>
1. 過去3年以内のメンタルヘルス不調経験者(当時正規雇用)のうち、勤務先を退職したのは4人に1人。20代では約4割と多い。
2. 部下のメンタルヘルス不調対応経験のある管理職のうち、約5割は「精神的な負担が大きかった」、約4割は「業務上の負担が大きかった」と回答。「もっと早く相談してほしかった」といった、早期相談の希望も約半数にのぼる。
3. 部下のメンタルヘルス対応における課題は、「他のメンバーの業務量増(35.2%)」が最多、「業務調整(26.2%)」がそれに次ぐが、「メンタルヘルス不調の予兆が見抜けない」「本当にメンタルヘルス不調かわからない(仮病が疑われる)」も各2割。
4. メンタルヘルス不調による休職のうち、「仮病」をつかった休職は全体のわずか1%。
<要因>
5. 若年層ほど、「拒否回避志向(怒られたくない、人目を気にする、受け身の姿勢、失敗への恐れ、対立回避)」が高い傾向。拒否回避志向が高いと、上司などからの叱責でストレス反応が高まりやすい。背景には、保護的な教育環境やインターネット利用の影響などが可能性として考えられる。
6. 若年層ほど「スクリーンタイム(スマホ等のデジタル画面の使用時間)」が長く、特にテレワーク実施者やIT・間接部門・事務職で長い。スクリーンタイムが長いほど、脳疲労や眼精疲労、ストレス反応が高まる。
7. メンタルヘルス不調を「職場内で相談・報告」したのは2人に1人であり、傾向に年代差はない。一方、相談しなかった20代の退職率は35.2%と他年代に比べ高い。
8. 職場にメンタルヘルス不調を相談しない理由は、「相談しても解決につながらないと思った」が34.5%と最多。他方で、相談者の約8割は職場からの支援的な対応(相談に乗る、業務負担の軽減、医療受診の勧奨など)を受けたと回答。
<解決策>
9. 正規雇用者の約4割が、職場で相談しても相談後の職場の対応イメージがないと回答。また、正規雇用者の約4割が、職場にメンタルヘルス不調を相談したら自身の評価が下がる、職場に居づらくなると認識。いずれも20代では特に多い傾向。
10. 相談後の職場の対応についてのイメージのなさや、相談により評価・評判が下がるとの予期は、職場にメンタルヘルス不調を相談・報告する抵抗感を強く高めている。
11. 非管理職にも職場の対応イメージをつけるため、研修や社内報を通じた非管理職向けの啓発施策が有効。
■主なトピックス(詳細)
<実態>
1. 過去3年以内のメンタルヘルス不調経験者(当時正規雇用者)のうち、勤務先を退職したのは、25.3%。20代は35.9%と他年代と比べて多く、退職しやすい。
2. メンタルヘルス不調になった部下の対応をした管理職の4~5割が、業務上や精神面の負担が大きかったと回答。業務のしわ寄せで他の部下が疲弊したとの回答も45.2%と多い。
部下のメンタルヘルス不調対応の負担感
3. メンタルヘルス不調になった部下対応の課題は、「他のメンバーの業務量増加」が35.2%と最も多く、次いで「業務の調整負担(26.2%)」が続く。「予兆が見抜けない」「仮病が疑われる」も各2割弱にのぼり、外面から分かりにくい点も課題のひとつ。
部下のメンタルヘルス不調対応の課題
4. 過去3年以内にメンタルヘルス不調で休職した人のうち、「仮病」を使ったと回答したのはわずか1.0%(105人に1人)であり、身体的な病気やけがによる休職と同程度の割合。一方で、トピックス3にあるように、管理職の16.6%が「部下が本当にメンタルヘルス不調なのか分からない」「仮病が疑われる」と感じている。実態として「仮病」の割合は低いものの、職場では仮病への懸念が根強く存在し、この認識ギャップが適切なメンタルヘルス対応の妨げとなる可能性が示唆される。
病気・けがによる休職における仮病の割合
<要因>
5. 近年強まっている若者の特徴と指摘される※3以下5つの志向は、若年層ほど高い傾向。他者からの否定的評価を避けたい志向が背景にあると考えられるため、本調査ではこれら5つの志向を「拒否回避志向」と定義。拒否回避志向が高いと、上司などからの叱責でストレス反応が高まりやすい。
拒否回避志向 年代別
※ いずれも、20代と他のいずれかの年代との間に統計的有意差・有意傾向あり
※3 参考文献:金間 大介(2022). 先生、どうか皆の前でほめないで下さい ーいい子症候群の若者たち 東洋経済新報社、舟津 昌平(2024). Z世代化する社会-お客様になっていく若者たち 東洋経済新報社 など
拒否回避志向の高さと関連する「保護」「従順さの期待」「情報過多」の経験は20代で最も多く、世代による違いがうかがえる。そのため、若年層の拒否回避志向の高さは、子供~学生時代に保護的な教育環境やインターネットの利用が広がっていたために、人間関係の対立や叱責、失敗、自分なりに考える機会が減り、またSNSなどで人目を気にする機会が増えたことが一因として考えられる。
子供~学生時代の経験の年代差
6. 正規雇用者(非管理職)のうち、1週間のスクリーンタイム(スマートフォン等の画面付きデジタル端末の利用時間)が長い人ほど、脳疲労や眼精疲労が高く、ストレス反応も高い。30代以上でも同様の傾向。先行研究においても、脳疲労、眼精疲労を通じてストレス反応が高まることが指摘され※4、本調査でも同様の結果が確認できた。
なお、1週間のスクリーンタイムを職種別でみると、テレワーク実施者や、情報処理・通信技術職、間接部門、事務職といったデスクワークの多い職種で、特にスクリーンタイムが長い傾向があり、注意が必要。
※ 群分けは等分割。性別・業職種・職位・残業時間を統制した重回帰分析でも1週間のスクリーンタイムが脳疲労・眼精疲労・ストレス反応を高める傾向(20代)。
※4 榊 浩平・川島 隆太(2023).スマホはどこまで脳を壊すか 朝日新書、松岡 俊行(2024).スマホアイ 眼科専門医が教える目と脳と体を守る方法 アスコム
7. メンタルヘルス不調者の行動として、「職場内での相談・報告」は46.1%と、およそ2人に1人。上司に相談した人は30.6%であった(非管理職者の行動に限定しても同程度)。なお、「医師やカウンセラーに相談した・治療を受けた」は49.3%で最多。
メンタルヘルス不調者の行動
メンタルヘルス不調者の「職場内での相談・報告」率の傾向に年代差はないが、職場に相談しなかった20代のうち、35.2%が退職しており、他年代より退職率が高い。
メンタルヘルス不調者の職場への相談行動 年代別
8. メンタルヘルス不調者が不調を職場に相談しなかった理由は、「相談しても解決につながらないと思った」が34.5%と最多。他方で、相談者の約8割は職場からの支援的な対応(相談に乗る、業務負担の軽減、医療受診の勧奨など)を受けたと回答※。 ※相談後の職場からの支援的な対応についての調査結果は報告書のP.66を参照
メンタルヘルス不調を職場に相談しなかった理由
<解決策>
9. 正規雇用者の約4割が、職場で相談しても相談後の職場の対応イメージがないと回答。20代では特に多い傾向。また、正規雇用者の約4割が、職場にメンタルヘルス不調を相談したら自身の評価が下がる、職場に居づらくなると認識。20代では他年代よりやや高い。要因として若手で強いキャリア不安や仕事上の失敗への恐れが影響していると考えられる。
職場のメンタルヘルス不調対応への認識と低評価予期(偏見)
10. メンタルヘルス不調者のうち、職場に相談した後の職場からの対応がわからない「相談後の職場の対応イメージ」がない人ほど、職場にメンタルヘルス不調について相談・報告することに抵抗がある(左図)。また、職場にメンタルヘルス不調を相談したら自身の評価が下がると感じる「相談後の低評価予期」がある人ほど、相談・報告に抵抗がある(右図)。
11. 「相談後の職場の対応イメージ」および「職場の対応についての知識」をどれだけ持てているのかを、非管理職と管理職で比較すると、認識ギャップが大きい。相談後の職場の対応イメージを高める施策として、「社内広報やメール等での情報提供・啓発」「セルフケア研修」「職場環境改善ワークショップ」といった非管理職向け啓発施策が実施されていると、相談後の職場の対応イメージを非管理職が持っている傾向が強い。
上司・部下間の認識ギャップ
しかし、「セルフケア研修」や「情報提供・啓発」といった非管理職向けの啓発施策の実施率は34.7%と低い。 一方、「ストレスチェック」や「ラインケア研修」といった管理職向けの啓発施策の実施率は79.8%(管理職の回答)と高く、上司・部下間でギャップがある。※ここでは、ストレスチェックの集団分析結果のフィードバックを管理職向け啓発施策と捉えており、個人結果フィードバックは職場の対応についての知識を増やさないので啓発施策と捉えていない。
職場のメンタルヘルス対策の実施率(従業員の認識)
■調査結果からの提言
人手不足の中、若手従業員のメンタルヘルス不調による退職は頭の痛い問題だ。休退職者の業務調整で、管理職の負担もふくらむ。法令にもとづき多くの組織で相談体制が整備されたが、なぜ若年層のメンタルヘルス問題は解消しないのだろうか。
その大きな理由のひとつは、上司・部下間の認識ギャップにある。現在、管理職の多くは早期相談を推奨し、メンタルヘルス不調による不利益な取り扱いの違法性も認識している。しかし、現場では同じ認識が行き渡っておらず、「相談すれば評価・評判が下がる」との根強い認識や、相談後の職場の対応の不透明さから、職場に相談せず重症化するケースが依然として多い。加えて、休職中の収入や復職支援についての知識不足が休職への抵抗感を生み離職につながっている。特に、キャリアへの不安が強い若手は、相談による評価低下や休職による成長機会の喪失を懸念しがちだ。研修や上長との面談機会などを活用し、職場の対応・評価への影響を周知し、上長との間にある認識ギャップを埋めていきたい。
若手特有の問題もある。教育環境の変化などの影響もあってか、若手は他者からの否定的評価を避ける「拒否回避志向」が強く、上司からの叱責をストレスと捉えやすい傾向がある。叱責によらない成長支援には、成長につながる業務分担やフィードバックの提供が有効だ。また、近年指摘されることの多いスマートフォンなどのデジタル端末の過剰利用は若手に多く、眼精疲労や脳の疲労を通じてストレス耐性を下げるリスクがある。デスクワークが多い職種では、健康増進策として啓発を進めることも検討に値する。
早期相談を促す人事施策
●本調査を引用いただく際は、出所として「パーソル総合研究所」と記載してください。
●調査結果の詳細については、下記URLをご覧ください。
URL: https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/young-mental-health.html
●構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合があります。
■調査概要
■【株式会社パーソル総合研究所】<https://rc.persol-group.co.jp/>について
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、人材開発・教育支援などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
■【PERSOL(パーソル)】<https://www.persol-group.co.jp/>について
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記事引用:PR TIMES「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」を発表 若年層で増える深刻なメンタルヘルス不調」