【調査結果サマリー】
- 人材育成上の課題は「自発的に学ぶ風土づくり」が約6割と最多に。 「OJTのレベルアップ」「教育計画の見直し」と回答が続くことから、デジタルの活用だけでなくリアル研修の価値を再確認しており、教育計画の見直しを検討していることが分かります。
- 不足している(強化したい)人材は約6割の企業が「マネージャー(管理職)」と回答。前年度に引き続き、管理職強化に課題を持つ企業が大半を占めていることが分かります。
- 企業が求める人材像は「指示以外のことも自律的に行動できる人材」が約7割と最多!スキルに関する回答は比較的低く、固有のスキルよりも対人関係能力が求められていることが分かりました。
- 約半数の企業が自社の人材ビジョンに「取り組めていない」と回答。経営戦略、人事制度、人材ビジョンの連動が喫緊の課題となっています。
【各データ詳細】
■人材育成上の課題は「自発的に学ぶ風土づくり」が約6割と最多!
人材育成上の課題について尋ねると、「自発的に学ぶ風土づくり」(58.5%)と回答した企業が最多となり、次いで 「OJTのレベルアップ」(52.5%)という結果となりました。自社オリジナルの教育を考える企業が昨年よりも増加していることがうかがえます。また、コロナ禍が落ち着いたことにより、「教育計画の見直し」(51.6%)が依然高い状態に。デジタルの活用だけではなく、リアル研修の価値を再確認することができており、教育計画の見直しが検討されていることが分かります。
■育成・研修で注力したい手法は「社内研修」が半数以上という結果に。
今後の育成・研修で注力したい手法について尋ねると、「社内研修」(54.4%)が最多となりました。新型コロナウイルスの脅威が収まった昨今、「外部研修(Web受講)」や「外部e-ラーニング」、「自社e-ラーニング」よりも、「社内研修」や「外部研修(リアル受講)」などオンサイトでコミュニケーションがとれる場での学びが求められていることがうかがえます。また、各回答の伸び率を見ると、2022年度と比して「外部研修」が減少し、「社内研修」が増加傾向にあります。働き方が多様化し、人材の流動化が進む中で、企業の育成文化醸成や社員の早期活躍を目的として社内研修に注目が集まっていることがうかがえます。
■不足している(強化したい)人材は約6割が「マネージャー(管理職)」と回答。
階層別の不足している(強化したい)人材について尋ねると、「マネージャー(管理職)」(58.5%)が最も多い結果に。2022年度に引き続き、管理職強化に課題を持っている企業が大半を占めていることが分かります。また、「経営企画・戦略に携わる人材」(35.5%)、「デジタル活用に携わる人材」(35.0%)、「マーケティングに携わる人材」(18.4%)はいずれも2022年度と比して増加しており、1つの分野に特化したスペシャリスト人材が求められていることがうかがえます。
■企業が求める人材像は「指示以外のことも自律的に行動できる人材」が約7割と最多!
求める人材像について尋ねると、昨年度と同様「指示以外のことも自律的に行動できる人材」(68.2%)が最も高い結果となりました。2022年度と比して10.3ポイント増加しています。それに対し、「指示を正確に行動できる人材」(20.7%)を求める企業の割合は比較的低い結果に。指示を正確に行動することに加え、主体的に行動する人材が求められていることが分かります。
■約半数の企業が自社の人材ビジョンの策定および活用に「取り組めていない」と回答。
自社の人材ビジョン(わが社において「あるべき人物像」とは何か、どのように育成していくべきなのか、その方針)の取り組み状況について尋ねると、自社の人材ビジョンに「取り組めていない」企業は48.1%と半数近くあるのに対し、「取り組んでいる」企業は39.5%となりました。
「取り組んでいる」企業の内訳として、「自社の人材ビジョンが明確になっている」という回答が64.4%と最多に。一方、「人材ビジョンと連動した人事制度が適用されている」が20.8%、「人材ビジョンがパーパス・MVV(Mission・Vision・Value)・成長戦略と連動している」は15.8%にとどまったことから、人材ビジョンを策定している企業においても、経営戦略や人事制度と人材ビジョンが連動していないことがうかがえます。
■半数以上の企業が「評価制度」が課題に。「制度運用」を課題とする企業は昨年対比で10.8ポイント増加。
人事制度上の課題について尋ねると、「評価制度」(54.8%)を課題と感じている企業が2022年度に引き続き最も多い結果となり、次いで「経営戦略との連動」(37.8%)となりました。また、「制度運用」(24.0%)が昨年対比で10.8ポイント増加となり、「制度運用」を課題と感じる企業の割合が他の回答と比べて最も増加していることが分かります。制度自体に対する課題に加え、制度の運用を課題としてとらえている企業が増加していることがうかがえます。
■専門コンサルタントによる総括・ポイント
自律的な成長促進に向けて「OJTの強化」「社内外研修」など、 デジタルからリアルへの転換が課題
人材育成上の課題は「自発的に学ぶ風土づくり」と回答した企業が最も多く、次いで「OJTのレベルアップ」であることから、社内や現場の中で先輩が確実に教える・指導させるという傾向がより高まりつつあることが分かります。これらの実現を図る習得方法については「社内研修」が最も多く、次いで「OJT」「外部研修(リアル受講)」と続いていることから、昨今の教育コンテンツのデジタル化への移行から、対面で指導するオンサイト化への傾向が高まりつつあると言えます。
管理職強化が依然として割合が高いものの、プロフェッショナル人材の強化が高まりつつある
階層別の不足人材に関する結果を見ると、58.5%の企業が「マネージャー(管理職)」と回答しており、昨年度に引き続き、管理職強化に課題を持っている企業が大半を占めています。一方、本年度の特徴は「経営企画・戦略に携わる人材」「デジタル活用に携わる人材」「マーケティングに携わる人材」はいずれも2022年度と比して増加しており、1つの分野に特化したプロフェッショナル人材が求められている点にあります。これは、企業における事業戦略の推進・組織戦略上の役割・機能の変革によるものであると拝察されます。
企業が求める人材像は「自律型人材」。経営戦略と人事制度との連動が喫緊の課題に。
企業が求める人材像は「指示以外のことも自律的に行動できる人材」が最も多く、より主体的に行動する人材が求められていることが分かります。
求める人材像は、「理念・戦略を実現する人物像」と言えます。特に、戦略は経営環境に準じているものであることから、求める人物像も変えていかなければなりません。アンケート結果から、人事制度上の課題は「評価制度」が2022年度に引き続き最も多い結果となっており、起因となっているのが「求める人材像が不明確」である回答からうかがえます。そして起点となるのが「経営戦略との連動」であり、2022年度と比して増加していることから、経営戦略と連動した人事制度が重視されている傾向にあると言えます。
経営環境の変化に応じた人事戦略の再構築
2020年9月に人的資本経営についてまとめられている人材版伊藤レポートによると、人材戦略における3つの視点・5つの共通要素に記載があるとおり、経営戦略と人材戦略の連動が最重要事項に示されています。従って、人事制度の見直しを図る前に、まずは自社の理念を起点に事業・組織戦略を確認し、あらためて自社の人事戦略を紐づけた上での制度構築が求められるでしょう。
■執筆者プロフィール
株式会社タナベコンサルティング HRコンサルティング事業部 エグゼクティブパートナー 盛田 恵介
セミナー責任者を経てコンサルティングに携わる。人づくりをデザインする総合プロデューサーとして、中堅企業の人事・教育制度構築から運用に至るまでトータルでサポート。特に、様々な業種・業態の企業内大学(社内アカデミー)設立の実績を有し、多くの社員の成長を促すプログラム開発にクライアントから高い評価を受けている。
■調査概要
[調査対象] 全国の企業経営者、役員、経営幹部、管理職、人事責任者・担当者
[調査期間]2023年7月10日~2023年7月25日
[調査エリア]全国
[有効回答数]217件(インターネットによる回答)
■関連リンク
当社メディア『TCG REVIEW』(「2023年度人材採用・育成制度に関するアンケート調査」リポート)
https://review.tanabeconsulting.co.jp/column/pick-up-topics/40893/
「2023年度人材採用・育成制度に関するアンケート調査」資料ダウンロードページ
https://www.tanabeconsulting.co.jp/hr/download/corporate-questionnaire-survey.html
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タナベコンサルティンググループ(TCG)概要
TCGは、1957年(昭和32年)に創業し、創業60年を超える日本の経営コンサルティングのパイオニアです。「企業を愛し、企業とともに歩み、企業繁栄に奉仕する」という経営理念のもと、現在地から未来の社会に向けた貢献価値として、「その決断を、愛でささえる、世界を変える。」というパーパスを定めています。
グループで約660名のプロフェッショナル人材を擁し、「経営者・リーダーのパートナー」として大企業から中堅企業まで17,000社以上の支援実績があります。
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記事引用:PR TIMES「約半数の企業が「人材ビジョン(の策定および活用)に取り組めていない」と回答。「2023年度 人材採用・育成制度に関するアンケート調査」結果を発表」