一橋大学大学院 小野浩教授と、一橋大学大学院 特任教授 兼 Institution for a Global Society 株式会社 代表取締役社長 福原正大が、共同座長を務める「人的資本理論の実証化研究会」は、2023年度の研究成果を発表いたしました。一部の参画企業13社の協力を得て「能力(人的資本)」が事業パフォーマンスにどう影響するのか検証しました。その結果、「能力(人的資本)」を点数化したところ、部長職のイノベーション力が10点(100点満点)向上すれば、事業のKGIおよびKPI達成率を約2%押し上げることがわかりました。これにより、「人的資本の投資対効果(ROI)」を明確にすれば、企業の収益性や競争力への貢献を見込んだ人材育成と能力に基づく賃上げが可能であると考えられます。

 

■「人的資本の投資対効果」を見込んだ、人材育成と能力に基づく賃上げを

本研究会がノーベル経済学者のゲーリー・ベッカー氏の理論を応用した「ミンサー型賃金関数」(※1)を用いて、どのような項目が賃金に影響を与えているのか、ある企業のデータを分析した結果、経験年数や学歴などで賃金分散の約68%が説明可能でしたが、「能力(人的資本)」の説明力は1%未満となりました。

連合が4月4日(木)に公表した2024年春闘第3回集計結果(※2)によると、賃上げ率は5%を上回っています。政府は「成長と分配の好循環」を掲げ、企業は労働力維持を目的とした従業員への「分配」を進める一方、日本企業の賃金体系では、①従業員の能力・生産性、②物価上昇を売り上げに転嫁した分を賃上げに反映しているか不透明といえます。

23年度の研究では、部長職の能力向上と企業パフォーマンスについて分析しました。その結果、従業員(部長職)の能力向上こそが事業成果に貢献していることが判明しており、賃上げが能力向上と無関係に行われてしまうと、企業の収益性や競争力への貢献が見込めず、企業価値に悪影響を及ぼす恐れがあります。

さらに、これまでは研修が売上にどの程度貢献しているのかが不透明という声が企業から挙がるなど、人的資本(能力)の投資対効果の検証が課題となっていました。従業員の能力を測定し、「人的資本の投資対効果(ROI)」を明確にできれば、企業の収益性や競争力への貢献を見込んだ人材育成と能力に基づく賃上げが可能になります。

※1) 労働経済学の父と呼ばれる経済学者ジェイコブ・ミンサーが提唱。50年後の今でも広く使われ、すでに多くの研究機関等で実データを使った実証が行われている

※2)引用:連合「2024年春季生活闘争 第3回回答集計結果について」

 

■2023年度研究成果の詳細

企業のパフォーマンス/リスクに対して、「人的資本の潜在ファクター」(※詳細:末尾)各要素がどのような影響を与えているか、13社の実データで実証しました。

企業のパフォーマンス「前事業年度のKGI/KPIの達成率」に対し、能力「スキルを活用する力(イノベーション力)」の関係性を見たところ、部長職の能力を測定したスコアが10点(100点満点)向上すると、事業のKGI/KPI達成率が約2%押し上がることがわかりました。

<ポイント>

・前事業年度のKGI/KPI達成率に対して、スキル活用力(イノベーション力)は、全ての企業で回帰係数がプラス(0.196)

・能力をあげる研修費用などが分かればROIを計算可能

<備考>

*前事業年度KGI/KPI達成率は、数値選択による自己回答だが、回答の自信度も尋ね、自信のない回答は分析から除外することでデータの客観性を向上させた。

*90%未満,90-100%未満,100-110%未満,110%以上をそれぞれ85%,95%,105%,115%と置き換えている。

*紫色の細い直線は、各社個別データに基づく回帰直線。その全社平均が赤く太い回帰直線で示されている。

  13社での回帰係数

HDI_2.5%

HDI_97.5%

0.196

0.133

0.260

 

・分析項目

 

・データ概要

測定時期

2024年1月

企業数

13社

役職

本部長・部長クラス

データ数

445名

所属業界(東証分類)

情報通信業3社、陸運業2社、食料品2社、銀行業2社、化学1社、電気ガス業1社、サービス業1社、その他製品1社

■2024年度取り組み:「人的資本の投資対効果検証」ができる企業を増やすために

人的資本の測定~投資対効果検証まで一気通貫で行い、各社の財務指標に人的資本の潜在ファクターがどの程度寄与するか分析いたします。

 

<人的資本の投資対効果検証の流れ>

特定:経営戦略に基づいた能力の定義。動的な人材ポートフォリオとスキルマップを作成

測定:バイアスをできる限り排除し他社と横比較可能な測定ツールで能力計測

スキル測定のバイアスを排除した結果イメージ

分析:企業価値や業績などの企業KGI/KPIにたいして、人的資本の潜在ファクターがそれぞれどの程度寄与しているのか投資対効果分析

<会員プラン>

本研究会は2024年度(2024年6月~2025年3月)の参画企業を募集しています。

2024年度は、ライト(200万円)とスタンダード(500万円)のいずれかのプランでご入会可能です。

・会員プラン詳細:https://hc-cv-research.jp/plan

【APPENDIX】

■人的資本理論の実証化研究会概要 

<発足背景>

2023年3月期決算から義務化された「人的資本の情報開示」に向けて、多様な人的資本の指標に関する議論が行われています。本研究会は、日本企業がこれらの開示にとどまらず、「そもそも人的資本が企業価値にどれだけ寄与するものか(人的資本の投資対効果)」を明らかにすることで、経営者へデータに基づいた人材施策の投資判断を促し、かつ投資家への戦略的な情報開示を実現するために発足しました。2023年度は33社の企業が参画しています。(2023年12月末時点)

本研究会では、ゲーリー・ベッカー氏のもと学んだ小野教授の人的資本理論に基づきながら、人材能力データ・財務データ等を含めた企業の実データを分析し、研究を進めています。

 

■当研究会の人的資本に関する考え方

本研究会は、人の能力こそが企業価値の源泉であり、「人的資本」と捉えています。エンゲージメントやダイバーシティは人的資本(能力)を企業価値に効果的に繋ぐための条件として位置づけ、これらを「人的資本(能力)の発揮度」としています。持続的な企業価値向上のためには、人的資本そのものと、人的資本の発揮度を含めた「Human Capital Potential Factor(人的資本の潜在ファクター)」を定量化し、企業価値にどのように寄与しているのかについての投資対効果(ROI)を検証していくことが重要であると考えています。

<人的資本(能力)と企業価値のフレームワーク>

 

 

■本件の問い合わせ先

・研究会へのお問い合わせ:「人的資本理論の実証化研究会」運営事務局

 E-mail: hc-cv-research@i-globalsociety.com

・取材に関するお問い合わせ:メディア限定欄に記載

 

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