働き方改革などの影響を受け、社員が自分で働く場所を選べる「ABW」を導入する企業が増えています。

 

日本ではまだ馴染みのない働き方ですが、さまざまなメリットを得られるため、ABWの概要や導入のメリット・デメリットについて解説します。

 

ABWの導入手順や導入事例もご紹介しますので、ぜひご覧ください。

 

ABWとは

ABW(Activity Based Working)とは、その日の気分や仕事内容に応じて、働く時間と場所を自由に選べる働き方です。

 

たとえば、事務作業を行うときはオフィスのデスク、新商品のアイデアを考えるときはカフェやコワーキングスペース(共同オフィス)、のような働き方ができます。

 

フレキシブルに働けることから、生産性の向上やモチベーションアップといった効果が期待されています。

 

ABWの歴史と注目されている背景

ABWは、1985年にハーバード・ビジネス・レビューの論文『Your office is where you are』で触れられたのがきっかけです。

 

その後、1990年からオランダの企業「Veldhoen + Company」がコンサルタントとして、世界中の企業のABW導入を支援してきました。

 

日本では、働き方改革の推進や新型コロナウイルス感染拡大によるテレワークの推奨に伴って、注目が高まり導入する企業が増えつつあります。

 

ABWとフリーアドレスの違い

日本ではABWと似た働き方として、フリーアドレスが浸透していますが、両者は自由度が異なります。

 

  働き方 働く場所
ABW 時間も場所も自由に選べる働き方 自宅・カフェ・オフィス・コワーキングスペースなど
フリーアドレス 自席はなく、自由に席を選べる働き方 オフィス内のみ

 

ABWの場合、オフィスのデスクや会議室はもちろん、自宅やカフェ、コワーキングスペースなど、働く場所はオフィス内外問いません。

 

また、勤務時間にも縛られないため、自由度の高い働き方を実現できます。

 

一方、フリーアドレスは固定の席を設けず、好きな席を選べる働き方です。

 

オフィス内であればどこでも働けますが、勤務時間は変えられないため、ABWと比べると自由度は低くなります。

 

ABWを導入するメリット

では、自由度の高いABWを導入すると、どのようなメリットを得られるのか詳しく見ていきましょう。

 

社員のモチベーション向上

ABWは、業務内容やそのときの事情に合わせて、時間や場所を自由に選択できます。

 

最適な環境で働けるようになれば集中力が高まりますし、プライベートとも両立しやすくなります。

 

その結果、従業員満足度が高まり、モチベーション向上につながるのです。

 

コミュニケーションの活性化

ABWはコミュニケーション活性化も期待できます。

 

固定席の場合、自席に近い社員にコミュニケーションが偏ってしまい、他部署や席の遠い社員との交流が極端に少なくなることも多いでしょう。

 

社員が好きな場所で働けるようになれば、関わりがなかった社員と交流できる機会が増えるため、コミュニケーションが活性化します。

 

普段と違う環境での仕事や交流関係の広がりは、思考に刺激を与えるため、新たなアイデアの創出にも役立つでしょう。

 

生産性向上

人によって集中できる場所は異なりますし、業務内容によっても適した場所は異なるため、オフィス内では十分にパフォーマンスを発揮できないこともあるでしょう。

 

ABWであれば、デスクや個室の執務スペースで事務作業を進め、カフェや共同のスペースで企画のアイデアを考えるなど、柔軟な働き方ができます。

 

個々の好みや事情、業務に合わせて最適な環境で働けるため集中して取り組めます。

 

また、ABWの導入でペーパーレス化が進めば紙での管理が不要となり、業務効率もアップするでしょう。

 

コスト削減

ABWはコスト削減にもつながります。

 

というのも、ABWは働く場所を限定しないため、オフィス内に全社員分の席を設置する必要がないからです。

 

従来よりも省スペースで済むため、オフィスの賃料や光熱費といった毎月かかる固定費を大幅に削減できます。

 

離職率の低下

時間や場所に縛られた従来の働き方は、ワークライフバランスが取りづらく、育児や介護、配偶者の転勤などを理由に離職する人も多いです。

 

しかし、働く時間や場所に縛られないABWであれば、社員一人ひとりに合った働き方を実現しやすくなるため、家庭の事情による離職を抑制できます。

 

個人の事情に合わせて無理なく働けるようになれば、従業員満足度が向上し組織全体の離職率も低下するでしょう。

 

優秀人材の獲得

ABWは、社員が自らの意思で働く時間や場所を選べるため、ABWの導入を対外的にアピールすれば、求職者に好印象を与えられます。

 

現代の労働者はワークライフバランスを重視する傾向が強く、出産や育児といったライフステージの変化に合わせて、柔軟な働き方ができる企業を探す人も多いです。

 

そのため、ABWのような自由度の高い働き方を導入すると、自社の競争優位性を高め、優秀人材を獲得しやすくなります。

 

ABW導入のデメリット

ABWの導入は、企業にさまざまなメリットをもたらす反面、注意しなくてはならない点もあります。

 

ここでは、ABW導入のデメリットについてご紹介します。

 

労務管理が難しくなる

時間と場所が決められている働き方と違い、ABWは社員自身が働く時間と場所を選ぶため、労務管理が難しくなります。

 

中には、通常の定時よりも早い時間に仕事をしたり、仕事に集中するあまり長時間働いてしまったりすることもあるでしょう。

 

また、仕事ぶりも見づらくなるので、業務管理やコミュニケーションの方法、人事評価も見直す必要があります。

 

セキュリティリスクがある

ABWは、自宅やカフェ、コワーキングスペースなど、オフィス外で働く可能性があるため、オフィス内の勤務と比べるとセキュリティリスクが高いです。

 

たとえば、

  1. 社内情報の持ち出しによって情報漏洩する
  2. 第三者からPC画面をのぞき見られる
  3. セキュリティ対策が不十分なデバイスの使用でウイルスに感染する
  4. デバイスの盗難・紛失

などが考えられます。

 

こうした情報漏洩などのトラブルは、企業の信用を大きく失墜させるため、事前のルールづくりやセキュリティ対策が欠かせません。

 

コミュニケーションの最適化が必要になる

ABWは働く時間も場所も自由なため、通常の働き方やフリーアドレスと比べると、社員同士で顔を合わせる機会が減ります。

 

物理的な距離が広がると、チームメンバーとの日常的なコミュニケーションが取りづらくなるため、チームワークが低下する可能性があります。

 

仕事を円滑に進めるためにも、コミュニケーションツールなどを導入し、気軽に連絡・相談できる環境を整えましょう。

 

ABWを導入する手順

では、ABWのメリットを最大限引き出すにはどうすれば良いのか、ABWの導入手順について見ていきましょう。

 

1.目的の明確化

ABWに限った話ではありませんが、目的のない施策は失敗のもとです。

 

まずは、

  1. 社内コミュニケーションの促進
  2. 従業員満足度の向上
  3. 人材確保

など、何のためにABWを導入するのか、目的を明確化させましょう。

 

現状のオフィスや働き方の課題を明らかにし、課題解決の手段としてABWが有効かどうか検討します。

 

2.オフィスや働き方の状況を調べる

目的の明確化と並行して、現在のオフィスや働き方に関する不満・要望を、社員にヒアリングしましょう。

 

社員の意見を把握すると、どこをどのように改善するべきかが明確になり、実態に即した運用ができます。

 

対面では言いづらいこともあるので、社員の意見を集める際はアンケートツールを活用するのがおすすめです。

 

3. オフィスレイアウトを考える

次は、社員の意見をもとにオフィスレイアウトを考えましょう。

 

人や業務内容によって最適な環境は異なるため、

  1. 集中ブース
  2. ミーティングスペース
  3. 共同のワークスペース

など、さまざまなタイプを設けることが大切です。

 

また、どのスペースでもスムーズに仕事を進められるよう、電源や導線、必要な機材についても検討します。

 

一度工事を進めてしまうと簡単には変更できません。

 

今後の事業展開や増員も見据えたレイアウトにする必要があるため、専門家に相談しながら決めましょう。

 

4.ネットワークやセキュリティ対策の環境整備

ABWには、ノートPCなどの持ち運び可能なデバイスが欠かせません。

 

その上で、自宅やカフェといったオフィス外からの社内ネットワークに接続する場合、ネットワーク環境を整備する必要があります。

 

たとえば、

  1. 仮想デスクトップ方式
  2. リモートデスクトップ方式
  3. クラウドアプリ方式

など、さまざまな方法があるため、自社に適した方法を選びましょう。

 

加えて、情報漏洩やデバイスの盗難・紛失リスクに備えたセキュリティ対策も必要です。

 

具体的には、

  1. セキュリティソフト入りのPCを支給する
  2. 紛失に備えてGPSで追跡できるようにしておく
  3. 個人情報や機密情報を取り扱う業務はオフィス内のみに制限する

といった対策やルールの明文化を行いましょう。

 

5.制度やルールの見直し

ABWを導入する際は、勤務時間や在宅勤務、通信費に関する規定などの就業規則はもちろん、人事評価制度の見直しが欠かせません。

 

ほかにも、

  1. 席の占有時間の上限
  2. スケジュールや業務進捗情報の共有方法
  3. 社外への持ち出しルールの明文化

などが挙げられます。

 

集中ブースや、ミーティングスペースといった人気の高い席は埋まりやすいため、より多くの人が利用できるよう、占有できる上限時間を決めておくのがおすすめです。

 

また、円滑に仕事を進めるには、チーム内での情報共有が欠かせません。

 

誰がどこで何の業務を行っているのか、メンバー同士で互いの状況を確認できるよう、スケジュールを共有しましょう。

 

ほかにも、アクセス権限や書類の持ち出しといったルールづくりも必要です。

 

ABWの導入事例

さいごに、ABWの導入事例についてご紹介します。

 

株式会社イトーキ

ABWを実践する社員の声vol.1~ABWをきっかけにオープンな人事部へ!人事が実践するペーパーレスな働き方とは~

引用:イトーキ『ABWを実践する社員の声vol.1~ABWをきっかけにオープンな人事部へ!人事が実践するペーパーレスな働き方とは~

 

2018年10月イトーキは、都内に分散していた4つのオフィスを新本社「ITOKI TOKYO XORK」に集約し、ABWへの取り組みをスタートしました。

 

従来の全員が固定席で働く「島型対向式」から、

  1. 1人用の集中ブース
  2. 2人作業専用のブース
  3. コワークスペース
  4. Web/会議スペース
  5. 知識共有用スペース
  6. りチャージスペース

など、自分の活動に合わせてさまざまな空間で働けるようになり、社員のモチベーションが向上したそうです。

 

また、ABWの導入にあたってペーパーレス化も進め、移転前と比較すると90%減のペーパーレスに成功しています。

 

コクヨ株式会社

コクヨ『ABW導入事例-ABW導入によってオフィスはこう変わる-』

引用:コクヨ『ABW導入事例-ABW導入によってオフィスはこう変わる-

 

コクヨでは、国内の主要拠点8か所のうち、品川SSTオフィスにてABWを導入しました。

 

執務デスクや会議室といった一般的なスペース以外に、

  1. 集中ブース
  2. ハンモックスペース
  3. コミュニケーションスペース
  4. カフェスペース

など、業務や気分に応じて働く場所を選べるよう、さまざまなスペースを用意することで自律性を促しています。

 

ABWの導入によって柔軟な働き方を促進した結果、「有効に活用できた時間(可処分時間)」は35%向上、「時間に対しての意識」は、移転前から15%上昇したそうです。

 

また、社員が運動不足にならないよう、個人ロッカーやプリンタースペースなどの配置にも工夫が施されています。

 

ABWの導入で生産性の高い環境を構築

社員の裁量で働く時間と場所を選べるABWは、自由度の高い働き方です。

 

業務内容やそのときの気分に応じた環境で働くことができれば、高い集中力を発揮できるため、生産性向上が期待できます。

 

社員の意見を取り入れつつ、ABWの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

 

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