社会保険料とは、病気やケガ、老後の生活保障、失業など働く人の暮らしを支えるための公的制度に必要な費用です。
本記事では、社会保険料の仕組みや種類、計算方法、加入条件についてわかりやすく解説します。
社会保険料とは?
社会保険料とは、医療費の負担軽減や老後の生活保障など、働く人の生活を支える公的制度の費用です。
健康保険、厚生年金、介護保険、雇用保険などが含まれ、労働者と雇用主が負担します。
また、2024年から適用範囲が拡大し、加入対象者が増加しました。
加入は原則強制で、一般的には給与から天引きされます。
また、病気やケガで働けなくなった場合の保障や、老後の生活資金の確保など、将来の生活を支えるためのセーフティーネットとしての役割も担っています。
社会保険料の種類と対象となる範囲
社会保険料の種類 |
対象となる範囲 |
給付内容の代表例 |
健康保険 |
病気やケガによる医療費の負担軽減 |
医療費自己負担割合の軽減 |
厚生年金保険 |
老後の生活費の確保 障害を負った場合の所得保障 遺族への年金給付 |
年金 |
雇用保険 |
失業した場合の生活費の確保 再就職支援 |
失業手当 |
労災保険 |
業務上のケガや病気、通勤途上の災害に対する補償 |
療養補償給付 休業補償給付 |
社会保険料は、主に健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険の4種類があります。
健康保険は、病気やケガによる医療費の負担を軽減するもので、被保険者と扶養家族が対象となります。
厚生年金保険は、老後の生活費や障害を負った場合の所得保障、遺族への年金給付をおこなうものです。加入者は会社員や公務員が中心で、将来の生活設計において重要な役割を果たします。
雇用保険は、失業した場合の生活費の確保や再就職支援をおこない、労災保険は業務上のケガや病気、通勤途中の災害に対する補償制度です。
従業員と企業の負担割合の仕組み
社会保険料は、原則、従業員と企業が折半で負担します。
健康保険・厚生年金保険、雇用保険は、それぞれ定められた保険料率の半分を従業員が、残りの半分を企業が負担します。
労災保険は、業務上の災害に対する補償であるため、企業が全額負担します。
また、40歳以上の従業員には介護保険料の負担も発生します。
介護保険は、高齢者の介護サービスに必要な費用を賄うための制度で、健康保険料と同様に、従業員と企業が保険料率の半分ずつを負担します。
社会保険料の計算方法と押さえておきたいポイント
社会保険料の計算方法は、各保険制度によって異なります。
健康保険・厚生年金保険は、標準報酬月額に基づいて計算されます。
標準報酬月額とは、毎月の給与(基本給、残業代、通勤手当などを含む)を一定の幅で区切った金額のことです。
これにより給与の変動に左右されることなく、保険料を公平に計算することができます。
標準報酬月額にそれぞれの保険料率を掛けて算出されます。
社会保険料を計算する上で重要なポイントは、標準報酬月額を正しく把握することです。
標準報酬月額は、年に一度決定されるため、給与の変動があった場合は見直す必要があります。
社会保険の加入条件は?従業員と企業で異なる基準を解説
社会保険は、一定の条件を満たす従業員と企業に加入義務が生じます。
従業員の場合、正社員だけでなく、パートやアルバイトといった短時間労働者も、週の労働時間や月収が一定の基準を満たすと加入対象となります。
企業の場合、法人事業所や従業員数が一定数を超える事業所は社会保険への加入が義務付けられています。
従業員(パート・アルバイト含む)の加入基準
従業員の社会保険加入条件は、以下の2つの要件を共に満たす必要があります。
- 労働時間:週の所定労働時間が正社員の4分の3以上
- 雇用期間:見込みも含めた雇用期間が1年以上
正社員と同様に、パートやアルバイトも上記条件を満たす場合は、社会保険への加入しなければいけません。
「週の所定労働時間」とは、休憩時間や残業時間を除いた、契約上または就業規則で定められた1週間の労働時間のことです。
企業(事業所側)の加入条件(強制適用・任意適用)
原則として、従業員を1人以上雇用しているすべての事業所は、健康保険・厚生年金保険、雇用保険、労災保険に加入する義務があります。これを強制適用といいます。
しかし例外として、国家公務員や地方公務員などは強制適用の対象外です。
また、従業員数が5人未満の個人経営の事業所などの場合は、健康保険・厚生年金保険の加入が任意とされています。これを任意適用といいます。
任意適用の場合でも、従業員の加入要件を満たしていれば、事業主と従業員の同意のもと加入することができます。
2024年10月の適用範囲拡大で何が変わった?
2024年10月からは、パート・アルバイトを含む従業員の社会保険の適用範囲が拡大されました。
改正前は、従業員数501人以上の企業で働く、週20時間以上勤務する短時間労働者が対象でした。
改正後は企業規模に関わらず、週20時間以上勤務し、月収8.8万円以上(年収106万円以上)の短時間労働者が社会保険の加入対象となったのです。
これにより、中小企業で働く多くのパート・アルバイトも社会保険に加入できるようになりました。
社会保険の加入手続きと必要な書類について
社会保険に加入するには、従業員と企業の双方で手続きが必要です。
手続きには、従業員が自身でおこなうものと、企業が代行するものがあります。
手続きを怠ると保険給付を受けられない可能性があるため、必要書類をしっかり確認し、スムーズに進めましょう。
従業員側の社会保険加入手続きと注意点
入社時に企業から社会保険に関する説明を受け、必要書類を提出します。
主な書類は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」です。
この書類には、氏名、住所、生年月日、扶養家族の有無などの個人情報に加え、以前の勤務先で社会保険に加入していた期間などを記入します。
扶養家族がいる場合は、扶養家族の氏名、生年月日、続柄などを記入する「健康保険・厚生年金保険被扶養者(異動)届」も必要です。
企業側がおこなう加入手続きと必要書類の一覧
従業員が入社し、社会保険の加入要件を満たした場合、所定の期日までに管轄の年金事務所や健康保険組合に必要書類を提出します。
主な必要書類は以下です。
-
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
従業員の氏名、住所、生年月日などの基本情報に加え、標準報酬月額を記載します。
健康保険・厚生年金保険被扶養者(異動)届
被扶養者がいる場合に必要です。被扶養者の氏名、生年月日、続柄などを記載します。
雇用保険被保険者資格取得届
従業員の氏名、住所、生年月日などの基本情報に加え、雇用契約の内容などを記載します。
労働保険関係成立届
事業の開始や従業員の雇い入れなど、労働保険に関する事項を届け出る際に使用します。
賃金台帳
従業員の賃金や労働時間などを記録した台帳です。
社会保険料の計算や労働基準法に基づく管理に必要です。
これらの書類は、従業員から提出された情報に基づいて作成します。
また、従業員の氏名や住所、生年月日などの個人情報だけでなく、標準報酬月額や雇用契約の内容なども正確に記入する必要があります。
他の事業所で社会保険に加入している場合の対応方法
すでに他の事業所で社会保険に加入している場合、新しい勤務先で重複して加入することはできません。
そのため、以前の勤務先で加入していた社会保険を脱退し、新しい勤務先で加入する手続きが必要になります。
以前の勤務先で加入していた社会保険の資格喪失証明書を新しい勤務先に提出し、新しい勤務先で資格取得の手続きをおこないます。
新しい勤務先には、以前の勤務先で社会保険に加入していたことを必ず伝える必要があります。
社会保険料の支払いと税金(所得控除)との関係
社会保険料は給与から天引きされるため、手取り額が減るというイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、支払った社会保険料は所得控除の対象となり、税金の負担を軽減できます。
年末調整や確定申告で社会保険料控除を申請することで、課税対象となる所得を減らすことができるのです。
社会保険料は所得控除の対象になる?仕組みを解説
社会保険料は、所得税や住民税の計算において所得控除の対象となります。
所得控除とは、課税対象となる所得から一定額を差し引くことで、税負担を軽減する制度です。
社会保険料控除は、実際に支払った社会保険料の全額が控除の対象になります。
控除を受けるためには、年末調整や確定申告の際に、支払った社会保険料の金額を証明する書類が必要です。
勤務先から交付される源泉徴収票には、年間の社会保険料控除額が記載されているので、確定申告の際は忘れずに添付しましょう。
社会保険料の免除が適用されるケースとは?
社会保険料の支払いが免除される代表的な例は、災害や病気、失業などにより経済的に困窮している場合です。
失業や収入の著しい減少、生活保護の受給などが挙げられます。
免除を受けるには申請が必要で、収入状況や資産状況などを総合的に判断されます。
対象となるかどうかは、各市区町村の窓口に問い合わせて確認しましょう。
申請が承認されると、一定期間、社会保険料の支払いが免除されます。
また、会社が倒産した場合など、やむを得ない理由で社会保険料を支払うことができない場合も、免除の対象となる可能性があります。
社会保険未加入のリスクについて
社会保険に未加入のまま病気やケガで働けなくなった場合、医療費の負担が大きくなり、生活が困難になる可能性があります。
また、老後の生活資金を確保することも難しくなります。
万が一の事態に備え、社会保険には必ず加入しておきましょう。
従業員だけでなく企業にとっても、社会保険の未加入は大きなリスクです。
従業員が病気やケガで働けなくなった場合、企業は損害賠償責任を負う可能性があるためです。
また、社会保険に加入していないことが発覚した場合、罰則が科せられることもあります。
法的な義務だけでなく、従業員の生活を守るため、そして企業を守るためにも、社会保険への加入は必要不可欠です。
まとめ
社会保険には、健康保険や厚生年金、雇用保険など、それぞれ異なる役割があり、病気や老後、失業といったリスクから私たちを守ります。
また、社会保険料は給与から天引きされるだけでなく、所得控除の対象となり、税負担を軽減するメリットもあります。
2024年の適用範囲拡大によって、パート・アルバイトの方も社会保険に加入しやすくなりました。これからの時代、社会保険制度の理解はますます重要になることでしょう。