新規求人倍率をご存じでしょうか。
この記事では、新規求人倍率について詳しく解説していきます。
新規求人倍率とは何か、有効求人倍率との違いについて、新規求人倍率の変化を近年の推移や地域別・職業別にご紹介します。
また、求人倍率の計算方法や注意点もまとめていますので、ぜひご覧ください。
新規求人倍率とは?
新規求人倍率とは、「求職者1人あたりに対して、どれくらいの求人があるか」を示す割合の一つです。
新規求人倍率は、全国の公共職業安定所(ハローワーク)へ、
新規求人数:当月新たに受け付けた求人数
新規求職者数:当月新たに受け付けた求職者数
をもとに、算出されます。
一方、有効求人倍率は、
-
月間有効求人数:前月から繰り越された求人数に、新規求職者数を足したもの
-
月間有効求職者数:前月から繰り越された求職者数に、新規求職者数を足したもの
をもとに、算出されます。
「新規求人倍率」と「有効求人倍率」は、どちらもハローワークに届け出られた求人数と求職者数をもとに算出されており、労使の需給バランスを表しています。
有効求人倍率との違い
新規求人倍率と有効求人倍率の大きな違いは、算出期間です。
先述の通り、新規求人倍率と有効求人倍率は、どちらも労使の需給バランスを表しています。
新規求人倍率は「当月のみの求人数・求職者数」をもとに算出されているため、より直近の景気や雇用状態を把握できます。
例えば、景気が回復し始めると企業は雇用を増やすため、「新規求人数」が増加することから、新規求人倍率は景気に先行して動く特徴(先行指数)があるのです。
一方、有効求人倍率は、「有効期限内(2か月間)の求人数・求職者数」をもとに算出されます。
そのため、有効求人倍率は、算出時点で既に求人を掲載している企業と、求職活動をしている人の動向を知ることができるため、景気と一致して動く特徴(一致指数)があるのです。
また、日本では労働者の地位や権利を守るため、解雇に厳しい制約があるため、増収などのポジティブな見込みがないと、企業は求人を出しません。
したがって、労働情勢を把握するには、有効求人倍率だけでなく新規求人倍率にも着目する必要があります。
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求人倍率と関連している「景気動向指数」とは
景気動向指数とは、景気の状況を把握する際に使われる経済指標のことです。
産業や労働、金融などの経済活動に、重要かつ景気に敏感に反応する景気指標をもとに算出されています。
景気動向指数は、
- 先行指数:景気の動きを先読みする指数(新規求人倍率など)
- 一致指数:景気の現状を示す指数(有効求人倍率など)
- 遅行指数:景気に遅れて動く指数(完全失業率など)
の3種類です。
また、
改善:景気拡張の可能性が高い
足踏み:現状の景気が継続する可能性が高い
局面変化:事後判定される景気の変動が、数ヶ月以内にあった可能性が高い
悪化:景気後退の可能性が高い
下げ止まり:景気後退の動きが下げ止まっている可能性が高い
を基準に判断され、この動きを把握することで景気の状況を分析できます。
近年の新規求人倍率の推移
ここでは、新規求人倍率の変化を直近の年度ごとや地域別、職業別にご紹介いたします。
求人倍率の推移
参考:政府統計の総合窓口e-Stat「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」
上記のグラフは、一般職業紹介状況(職業安定業務統計)パート含む一般【季節調整値】をもとに作成した、2013年~2019年までの新規求人倍率と有効求人倍率の推移です。
これを見ると、2013年の新規求人倍率は1.47倍でしたが、年々増加し続けて2019年には2.41倍となっています。
有効求人倍率は、2013年時点では0.93倍ですが、2019年には1.60倍となっており、新求人倍率同様、年を追うごとに増加していることが判明しました。
アベノミクスなどの経済政策により、2013年頃から景気は緩やかに回復していましたが、それと連動するように求人倍率も増加していることが分かります。
次に、2020年の求人倍率を月ごとに見てみましょう。
参考:政府統計の総合窓口e-Stat「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」
上記は、一般職業紹介状況(職業安定業務統計)パート含む一般【季節調整値】をもとに作成した、2020年の新規求人倍率と有効求人倍率の推移を月ごとに表したグラフです。
これを見ると、2020年1月時点では、
新規求人倍率:2.04倍
有効求人倍率:1.49倍
と高い水準を保っていました。
しかし、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が発令された4月には、
新規求人倍率:1.85倍(前月比-0.41ポイント)
有効求人倍率:1.32倍(前月比-0.07ポイント)
と、大幅に減少しています。
前月と比較すると、新規求人倍率が大幅にダウンしていることから、今後の企業活動を見据えて、雇用に対する姿勢が大きく変化したことが分かります。
求人倍率は下がり、6月には
新規求人倍率:1.72倍、
有効求人倍率:1.11倍
となりました。
有効求人倍率は、2014年10月以来5年8ヶ月ぶりの低水準を記録していることから、求人数の減少や失業者の増加が見て取れます。
都道府県別の新規求人倍率
つづいて、都道府県別の新規求人倍率をご紹介します。
参考:参考:政府統計の総合窓口e-Stat「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」
上記のグラフは、一般職業紹介状況(職業安定業務統計)をもとに作成した、2020年6月の都道府県別の新規求人倍率です。
全国平均は1.72倍となっており、1.0倍を下回る地域はありません。
新規求人倍率の高い地域は、
鳥取県(26倍)
島根県・広島県(22倍)
福井県(19倍)
です。
一方、新規求人倍率の低い地域は、
沖縄県(16倍)
滋賀県・神奈川県(23倍)
青森県(35倍)
です。
鳥取県では、全国平均よりも0.54ポイント高く、沖縄県では、全国平均よりも0.56ポイント低いという結果になりました。
地域によって、人口分布や産業構造などが異なるため、求人倍率にも差は出ますが、鳥取県と沖縄県では1.1ポイントも差が出ていることから、労働情勢に大きな開きがあることが分かります。
また、一般的には、地方よりも都市部の方が求人倍率は高くなります。
職業別の新規求人倍率
最後に、職業別の新規求人倍率を見てみましょう。
参考:参考:政府統計の総合窓口e-Stat「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」
上記は、一般職業紹介状況(職業安定業務統計)をもとに作成した、2019年6月と2020年6月の新規求人倍率を職業別に表したグラフです。
2019年6月と比較して、新規求人倍率が増加した職業はなく、全ての職業で前年を下回る結果となりました。
また、下げ幅が大きかった職業は、
サービスの職業(前年比-56ポイント)
保安の職業(前年比-31ポイント)
輸送・機械運転の職業(前年比-0ポイント)
です。
一方、下げ幅の小さかった職業は、
運搬・清掃・包装等の職業(前年比-13ポイント)
事務的職業(前年比-15ポイント)
建設・採掘の職業(前年比-23ポイント)
でした。
先述のように、接客や給仕の仕事が含まれるサービス業や、商業施設やオフィスなどの保安を行う職業では、大幅に新規求人倍率が減少しています。
これは、新型コロナウイルスによる営業自粛の影響を受けて、求人数が減少したことが主な原因と言えるでしょう。
新規求人倍率、有効求人倍率ともに減少傾向にあり、昨年と比較すると失業者も増加しています。
現在は、求職者数よりも求人数の方が多いですが、雇用情勢は厳しい状況になってきていることから、今後は更に動向に注視する必要があるでしょう。
新規求人倍率の計算方法
新規求人倍率の計算方法は、
です。
また、有効求人倍率は、
によって、算出できます。
例えば、求人数が100で求職者数が50人だった場合、
倍求人数が100で求職者数が100人だった場合、
求人数が50で求職者数が100人だった場合、
となります。
求人倍率は、「求職者に対する求人数の割合」を表しているため、1.0倍を超える場合⇒求職者<求人数となり、求職者優位の「売り手市場」1.0倍を下回る場合⇒求職者>求人数となり、企業優位の「買い手市場」であることが分かるのです。
求人倍率を見る時の注意点
先述の通り、求人倍率は雇用の指標となりますが、「ハローワーク以外の求人数・求職者数は含まれない」「正社員以外の求人も含まれている」ことを忘れてはいけません。
ハローワーク以外の求人数・求職者数は含まれない
新規求人倍率・有効有人倍率ともに、ハローワークに登録された求人数・求職者数をもとに、厚生労働省が算出しています。
そのため、民間の求人サイトや求人情報誌など、ハローワーク以外での求人・求職者情報は反映されませんし、新卒者の求人・求職者情報も含まれません。
正社員の求人以外も含まれている
求人倍率は、正規・非正規の区別なく、全ての雇用形態を対象としています。
パートやアルバイトを除いた求人倍率も別途用意されていますが、派遣社員や契約社員は含まれているため、正社員のみの求人倍率ではありません。
非正規雇用の場合、長期間安定して働ける仕事ばかりではなく、数ヶ月で雇用契約が終了するものも含まれています。
そのため、一時的に求人数または求職者数が増加しても、すぐに減少することも考えられます。
したがって、「求人倍率が雇用や景気の動向を正確に示している」とは言い切れないのです。
新規求人倍率を確認して直近の雇用や経済状況を把握
新規求人倍率は、ハローワークへ新たに登録された求人数・求職者数をもとに算出される労働統計です。
また、景気に先行して動く特徴を持つため、より直近の雇用や経済状況を把握するのに役立ちます。
しかし、ハローワークに登録されたデータのみが対象であり、なおかつ全ての雇用形態を対象として算出しています。
そのため、求人倍率だけで状況を判断するのは危険でしょう。
直近の雇用や経済状況を把握する際は、指標の一つとして、新規求人倍率をチェックしてみてはいかがでしょうか。