グローバル化が進み、海外進出する企業が増えてきましたが、文化や言葉の壁につまずくケースも少なくありません。
海外でビジネスを展開するには、両国の橋渡し役となる「ブリッジ人材」が必要です。
そこで、ブリッジ人材への理解が深まるよう、ブリッジ人材の概要や必要とされるケースについて詳しく解説していきます。
また、ブリッジ人材に求められるスキルや育成方法、ブリッジSEについてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。
ブリッジ人材とは?
ブリッジ人材とは、日本と異なる文化圏の人たちと交流・取引を行う際、円滑なコミュニケーションを実現させる役割を担う人のことです。
近年、人口減少による国内マーケットの縮小や、グローバル化の影響から、新たなマーケットを求めて海外進出する企業が増加しています。
しかし、日本と海外では、「言葉」「文化」「商習慣(ビジネスにおいての常識)」といった常識が違うため、「現地の言葉を話せる」だけでは、不十分です。
例えば、通販サイトから注文された商品を顧客へ送る場合、インフラが整備され、配送状況の追跡も可能な日本では、問題なく商品が到着するでしょう。
しかし、インフラ整備されていない途上国の場合、確実に届く保証はありません。
また、現地の人材をマネジメントする際も、その国の文化を理解せず、日本の常識を押し付けてしまうと反発を招きます。
つまり、日本と現地の文化や商習慣、インフラ事情、気質といった、細かいところまで理解した上で、双方の橋渡しを行うのが「ブリッジ人材」なのです。
ブリッジ人材が必要とされるケース
ブリッジ人材が必要とされるケースは、
- 越境EC
- ビジネスアナリシス
- マネジメント
などが挙げられます。
越境EC
越境ECとは、インターネットの通販サイトを利用した国際的な電子商取引(EC)です。
インターネットやスマートフォンの普及などによって、年々EC市場は活性化しています。
事実、令和元年(2019年)に行われた経済産業省の調査によると、日本・米国・中国の3ヶ国間における越境ECの市場規模は、
日本⇒3,175億円(前年比8%増)
米国⇒1兆5,570億円(前年比8%増)
中国⇒3兆6,652億円(前年比3%増)
と、すべての国で増加しました。
また、中国が日本から越境EC購入した額は、1兆6,558億円(前年比7.9%増)、米国では、2兆94億円(前年比16.3%増)という結果が出ています。
このように、越境EC市場は拡大傾向にありますが、日本と海外ではインフラ環境が異なりますし、国際輸送の場合、日本のみならず販売先の法律にも注意しなくてはなりません。
そのため、越境ECでは、現地のインフラ環境やルール、規制、商習慣などへの深い理解が求められます。
こうした現地の事情を把握した上で、必要な対応・対策を考えていかなくてはならないため、ブリッジ人材が必要とされるのです。
参考:経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果をとりまとめました」
ビジネスアナリシス
ビジネスアナリシスとは、経営者が実現したいことを客観的に分析・設計し、それをエンジニアなどのIT人材に適切に伝え、実行していく仕事です。
具体的には、
- ユーザー企業の各部門へのヒアリング
- 部署間の要望調整
- ベンダー(製造元)への伝達
などを行っています。
ビジネスアナリシスには、「コミュニケーションの仲介者」としての役割があるため、それぞれの意図が正確に伝わるよう、対象者に適した形に変換しなくてはなりません。
開発を行うIT人材は、外国人であることも少なくないため、商習慣や文化のギャップを埋めた上で、システム開発の目的や仕様を分かりやすく伝える必要があります。
関係者間のコミュニケーションが上手くできていない場合、「当初の目的とは異なるシステムが納品される」「期日までに納品されない」など、トラブル発生のリスクが高まります。
トラブルを回避して完成度を高めるには、関係者間での柔軟かつ円滑なコミュニケーションが欠かせないため、ビジネスアナリシスにブリッジ人材が求められるのです。
マネジメント
日本と海外では、言葉をはじめとしてあらゆる前提が異なるため、現地人に対しても日本流のやり方でマネジメントしようとしても上手くいきません。
例えば、日本では、同僚やお客様の前で叱責されるケースも決して少なくありませんが、海外ではタブーです。
人前で叱責すると、相手のプライドを傷つけることになりますし、言い方によっては訴訟などのトラブルが発生する可能性もあります。
また、日本では、「ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)」がビジネスの基本とされていますが、アメリカなどのジョブ型雇用が一般的な国では、「ホウ・レン・ソウ」はありません。
というのも、その分野のプロが配置されるため、逐一上司の判断を仰ぐ必要性がないのです。
こういった国では、目標や役割を上司に伝えたら、あとは報告を待つのが一般的なため、日本流のやり方を通そうとすると、モチベーション低下につながります。
現地人をマネジメントする場面においては、日本の文化や商習慣などを理解した上で、それを現地で働くスタッフに分かりやすく伝えることや、現地の常識を日本人に教えられるブリッジ人材が必要なのです。
ブリッジ人材に求められるスキルや条件
ここでは、ブリッジ人材に求められるスキルについてご紹介します。
もちろん、業界・職種によって、何を求められるかは異なりますが、どのブリッジ人材にも共通して求められるスキルや条件もあります。
具体的には、
- 語学力
- 海外と日本の文化や商習慣の理解
- コミュニケーションスキル
- コンサルティングスキル
です。
語学力
海外企業や現地のスタッフとの間には言葉の壁があるため、彼らと意思疎通を図るには、語学力が欠かせません。
そのため、互いの意図が伝わるよう現地の母国語や日本語、英語といった、語学力が求められます。
海外と日本の文化や商習慣の理解
海外と日本では、文化や商習慣、インフラ環境など、あらゆる面が異なります。
そのため、どちらか一方の常識に当てはめて考えているだけでは、相手側に受け入れられません。
課題解決や目標を実現するには、双方の国の事情をきちんと把握・理解した上でギャップを埋め、進めていく必要があります。
そのため、ブリッジ人材には、現地と日本の文化や商習慣への深い理解が求められるのです。
コミュニケーションスキル
ビジネスにおいて、共通認識を持つことは非常に重要です。
しかし、外国人とコミュニケーションを取る場合、常識や言葉の違いなどにより、認識の齟齬が生まれ、トラブルに発展することもあります。
こういったリスクを回避するには、発信者の意図を正しく理解し、それを分かりやすく相手へ伝えなくてはなりません。
そのため、ブリッジ人材には、「相手の理解度や立場を考慮して適切に伝える」「双方が納得するよう折り合いをつける」といった説明力や調整力のようなコミュニケーションスキルが求められるのです。
コンサルティングスキル
ブリッジ人材には、コンサルティングスキルも求められます。
言葉や文化の異なる国で成果を上げるには、その国の気質や課題、経済動向を踏まえて施策を練り、現地のネットワークも構築しなくてはなりません。
しかし、これらを現地に詳しくない日本人だけで行うには限界があります。
そのため、現地と日本について深く理解している、ブリッジ人材ならではの提案やアドバイスが期待されているのです。
ブリッジ人材を育成するには?
ブリッジ人材への理解が深まったところで、どのようにしたらブリッジ人材が育つのか、みていきましょう。
ブリッジ人材を育成するには、「海外派遣」「研修」の方法があります。
海外派遣
入社後数年以内の若手社員を海外へ派遣させ、現地で異文化体験をさせることが重要です。
若いうちに現地の人と同じように暮らし、彼らと交流を深めることで、その国の文化や習慣、考え方の違いを実感することができます。
日本と現地の違いを理解し、そのギャップを埋めるにはどうしたら良いのか、粘り強く考えて問題解決に当たるようになるため、ブリッジ人材の育成に有効なのです。
また、若手社員を海外派遣することで、適性の見極めや異文化への免疫もつきます。
研修
国内外での訓練を実施する方法です。
専門的スキルやマネジメントスキルの向上、語学習得などの座学・実技研修が挙げられます。
また、海外では民族や価値観、政治的背景を起因とする問題も起こるため、異文化の問題を解決させるプログラムを組むことが重要です。
日本人と比べると海外の人は主張が強いため、彼らをマネジメントするには、強いリーダーシップや高いマネジメントスキルがないと務まらないでしょう。
本人の意向や適性を見極めて、早期から訓練していく必要があります。
ブリッジSEとは?
ブリッジSEとは、オフショア開発(海外企業へシステム開発を委託すること)において、文化や言葉が障壁とならないよう、説明や調整、管理を行う仕事です。
人員不足対策や開発コストの低減を目的として、海外の人材を活用する企業が増えているため、彼らとの調整役となるブリッジSEが重宝されています。
ブリッジSEは、発注側としてプロジェクトに参画し、「仕様の説明」「成果物の確認」など、設計内容や課題を適切に現地スタッフへ伝え、スムーズに進行するよう運営します。
そのため、ブリッジSEには、システム開発の専門性はもちろんのこと、両国の言語や文化、商習慣を熟知した上で分かりやすく伝える力も求められるのです。
ブリッジ人材を活用しよう
日本と海外では、言語や文化、商習慣が異なります。
そのため、海外でビジネスを成功させるには、双方の橋渡し役となるブリッジ人材が欠かせません。
グローバル化や人口減少が加速する今後、海外進出する企業は更に増えていくと考えられます。
ブリッジ人材の育成には時間がかかりますが、先を見据えて、早期から取り組んでいく必要があるでしょう。