2006年にフランスで可決された「初回雇用契約(CPE)」をご存じでしょうか。
今回は、「不安定な雇用を招く」として、多くの国民から猛反発を受けたCPEについて、ご紹介していきます。
CPEの概要や撤回に至った背景、代替案についてまとめていますので、ぜひご覧ください。
初回雇用契約(CPE)とは?
初回雇用契約(CPE「le contrat(契約)×premiere(初回)×embauche(雇用)」)とは、フランスで2006年に法制化された若年雇用促進策の一つです。
CPEは、26歳未満の若者を雇用する場合、2年間の試用期間を設け、期間中は理由を明示せずに解雇できる雇用契約です。
15日以前の予告は必要なものの、解雇理由が不要であることから、「解雇の乱発や雇用の不安定化につながる」と、労働組合や学生からの猛反発を受けて撤回されました。
初回雇用契約(CPE)が撤回された背景
CPE撤回の背景は、「新規雇用契約(CNE)」と「大規模なデモ活動」が関係しています。
新規雇用契約(CNE)とは、従業員20人未満の企業に適用され、2年間の試用期間中は理由を明示せずに解雇できる雇用契約です。
もともとフランスには、
-
期間の定めがない雇用(無期限雇用契約)
-
期間の定めのある雇用(有期雇用契約)
の2種類があり、有期雇用契約の締結は、法律で定められた範囲内でしか認められていません。(現在は、規制緩和されつつあります。)
そのため、政府は従来の雇用契約を柔軟化させることで、雇用を促進させようとしたのですが、「雇用の不安定性」などを理由に批判が集中しました。
否定的な意見が多い中、政府は若年層の雇用促進策として、CNEを改変した初回雇用契約(CPE)を展開したのです。
これに対し、学生や労働組合は「解雇規制が緩和されれば、解雇の乱発や雇用の不安定化につながる」と反発し、抗議運動が全国に広がりました。
2006年3月に学生団体や労働組合の反対を押し切る形で、CPEを含む雇用関連の法案が強行採決されますが、強引な決定に反発が強まり大規模デモに発展しました。
この大規模なデモ活動により、政府は「CPEの撤回と代替策の上程」を決断することになったのです。
初回雇用契約(CPE)の撤回後に取られた代替策は?
CPEの主な代替策は
- 企業における若年者契約
- 職業教育を取り入れた契約
- 社会活動参入契約(Civis)
の3つです。
企業における若年者契約
バカロレア(大学などに入学するための資格・国家試験)以下の学歴しか持たない若年者を対象とした、期間の定めのない契約の一つです。
代替策では、同契約の対象となる若年者を拡大し、国から企業への助成金が引き上げられました。
【助成金】
契約締結1年目:400ユーロ/当該労働者1人あたり
契約締結2年目:200ユーロ/当該労働者1人あたり
職業教育を取り入れた契約
契約時間のうち25%を職業訓練に充てる雇用契約で、学業を終えた16~25歳若者と26歳以上の失業者が対象です。
無期・有期どちらの雇用契約でも可能ですが、無期限雇用契約を締結した場合、雇用主は助成金を受けることができます。
【助成金】
契約締結1年目:月200ユーロ/当該労働者1人あたり
契約締結2年目:月100ユーロ/当該労働者1人あたり
社会活動参入契約(Civis)
16~25歳の低学歴を対象とした有期雇用契約の一種で、1年ごとの更新が可能です。
同契約では、
18歳以上の若年者が無給になった場合⇒年間900ユーロを上限として支給
Civis終了後に安定した職を見つけた場合⇒1年間の個人指導が受けられる
といった、サポートを受けられます。
CPE代替策でも、若年者の失業率の改善はみられていない
EU統計局の2020年1月の発表によると、フランスの若年層失業率は約19%(2019年11月)と、深刻な状況であることが分かります。
フランスでは、「無期限雇用契約」が原則であるため、企業は経験の少ない若年層を積極的に採用しません。
そのため、短期契約などの職を転々とする若者が多いことから、なかなか失業率が改善しないのです。
CPE代替策も既存制度の改善にすぎず、根本的な解決には至っていないとする見方が多いです。