このページでは、採用、育成、組織開発など人事領域のさまざまなテーマについて、株式会社人材研究所 シニアコンサルタント 安藤健さんに解説していただいています。
人事領域は、会社ごとに環境や課題が異なるため、担当者自身が積極的に情報を吸収していくことが求められます。
ぜひ、参考にお読みいただき、普段の業務に生かしていただければ幸いです。
二つの人の集め方「オーディション型」と「スカウト型」
採用広告で求人を出しても、エントリーが全くない。エントリーがあっても、実際に説明会を開いてみると、誰もこない。
こういった事例が実際に数多く存在します。
せっかく100万円近くのコストをかけて募集をしたにも関わらず人が集まらない、もちろんその結果、採用にも結びつかない、という最悪のシナリオですが、昨今地方企業や中小企業などに特に多いようです。
これを打破する方法はあるのでしょうか。
まず、人を集める際の方法としては、大きく「オーディション型」と「スカウト型」に分かれます。
オーディション型というのは、広く公募し、向こうから寄ってきた人をジャッジする方法です。
逆にスカウト型は、ターゲットを特定した上で、会社側から候補者にピンポイントでアプローチする方法です。
これらの手法について、まず手間という点で考えてみます。
本来、効率が最も良い採用活動というのは「1人応募して1人決まる」というもののはずですので、オーディション型は多数に接触できる反面、その中から1人を選ぶための選考の手間があります。
そのため選考合格率は相対的に低くなります。
スカウト型は、まさに1人応募して1人決まるものですが、オーディション型とは異なりこちらからスカウトを行う手間があります。
もちろん合格率は高くなるでしょう。
このようにどちらも手間は相応にかかるものなので、これだけでどちらが良い悪いは決められません。
一方で、スカウト型にあって、オーディション型にないものもあります。
それはなにかというと、「自社の採用ブランド力に依存するか否か」です。
例えば、芸能タレントの発掘という例で考えると、オーディション型は、ジャニーズやホリプロが何百人と人を集めてタレントを見つける方法です。
一つ広告を出せばすぐに何百人と集まるのですが、それは彼らが強力な採用ブランド力を持っているからです。
逆に、立ち上げたばかりの○○芸能事務所といった採用ブランド力のない会社がオーディションをしても誰も来ません。
こういった会社は、街に出て直接良い人を探し、声をかけるスカウト型を採ります。
このようにそれぞれオーディション型に向いている企業と、スカウト型に向いている企業があるのです。
冒頭に挙げた地方企業・中小企業などが苦戦しているのは、労働力人口が多かった昔はそれでも人が集まって採れていたオーディション型採用を、現在でもそのまま行ってしまっているからかもしれません。
特に若い労働力人口の減少に拍車がかかり、人材の獲得競争が熾烈な現在では、採用において様々なパラダイムシフト(認識の変換)が必要です。
むやみに選考のハードルを上げていないか
これはオーディション型でも、スカウト型でも有効な手段ですが、まず選考に参加するためのハードルをむやみに高めてはいないか、という点を考える必要があります。
例えば、説明会を選考参加のための必須条件とせず任意参加とする。
これだけで選考参加率がぐっと上がります。
もし「面接のときに、うちの会社のことを全然わかっていないのは困る…」ということであれば、説明会と同じ内容の資料をweb上などで配布し、面接対策として事前に読んできてね、とアナウンスすれば、多くの学生がきちんと読み込んできます。
またエントリーシートも、事前提出を必須とせずに、来社してから冒頭30分で簡易的なものを書かせる、というのもハードルを下げる手段の一つです。
実は、説明会への参加社数においても、エントリーシートの提出数においても、年々学生の就職活動量は減少しているのです。
19卒の説明会への参加数は平均12.83社(18卒14.29社)、19卒のエントリーシートの提出数は平均13.46社(18卒は15.82社)でした(就職みらい研究所「就職白書2019」)。
逆にいえば、説明会参加必須やエントリーシート事前提出必須としている限り、学生からこの12~13社以内に選ばれなければならないのです。
一方で、説明会やエントリーシートを上記のような形に変えることで、学生から選考を受けてみようと選ばれる可能性はぐっと高まります。
自社の採用ブランドを超える人材を獲得するなら「スカウト型」
最後に、「人が集まる」ということと同時に、人材の質により重きを置くのであれば「スカウト型」へのシフトもお勧めします。
上述したように、スカウト型はオーディション型と異なり、集まる人材の質が自社の採用ブランドに依存しません。
つまり、待っていたら自然と集まる層よりも、高いレベルの人材にアプローチすることができるのです。
スカウト型についてはまた別途ご紹介しますが、こちらの手法を取る場合、オーディション型で是とされていたことがそうではなくなるため、大きく認識を変える必要があります。
例えば、スカウト型では、合格率は高まりますが、辞退率も同時に高まります。
候補者の方から興味があってエントリーしてきたのではなく、こちらから彼らに声をかけているからです。
そうなると、重要なのは、ジャッジよりもフォローです。
辞退率が低いことは、採用成功の指標にはなりません。
むしろ辞退率が高いほうが、より優秀な人材へ背伸びしてアプローチできているという証拠になるでしょう。
実際に、こういったオーディション型の認識のままスカウト型をとって、つまずいている企業も多いように感じます。
このように、「募集をかけても人が集まらない」といった課題に対しては、オーディション型、スカウト型、どちらの手法を取る場合もまずは認識を大きく変える必要が、これからの採用担当者に求められているように思います。
著者プロフィール
株式会社人材研究所 シニアコンサルタント 安藤健
児童心理治療施設(旧情緒障害児短期治療施設)での約1年半の現場経験を経て、心理学が日常生活に困難をきたす様々な障害の治療に活きる現場を体験。
その後、心理学を逆に人間の可能性を最大化する方へ活かしたいと感じ、現職である人事コンサルティングに転向。
現在は新卒採用・中途採用をメインとして、育成教育配置、評価報酬制度などのコンサルティングに幅広く従事。
そのほかに人事のための実践コミュニティ「人事心理塾」運営、人事向けセミナー、若手・新入社員向けキャリアワークショップなども多数実施。
■ 株式会社人材研究所
2011年設立。代表取締役社長 曽和 利光
世の中のあらゆる組織における「人と組織の可能性の最大化」を目指している人事コンサルティング会社。
組織人事コンサルティング、採用コンサルティング、採用業務代行(RPO)、各種トレーニング(面接官トレーニング、評価者訓練、新入社員研修等)などを提供。
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