終身雇用制度の崩壊により、「エンプロイアビリティ(雇われる力)」の重要性が高まっています。

 

雇われる側はもちろん、雇う側にとっても、従業員のエンプロイアビリティ向上への取り組みは大きなメリットがあるため、理解を深めておきましょう。

 

この記事では、エンプロイアビリティとは何か、種類や構成要素、メリット・デメリットについて解説します。

 

エンプロイアビリティ向上の支援策についてもご紹介しますので、ぜひご覧ください。

 

エンプロイアビリティとは

エンプロイアビリティとは「Employ(雇用する)」×「Ability(能力)」を組み合わせた言葉で、企業に雇用される能力や可能性のことです。

 

厚生労働省では「就業能力」と定義されています。

 

エンプロイアビリティは、転職が一般化した現代において、ビジネスパーソンとしての市場価値を測る指標の一つとなっています。

 

エンプロイアビリティが注目されている背景

ではなぜ、エンプロイアビリティが注目されるようになったのか、背景を見ていきましょう。

 

終身雇用制度の崩壊

エンプロイアビリティの注目が高まった背景として、終身雇用制度の崩壊が挙げられます。

 

定年まで勤め上げる終身雇用が一般的だった日本企業では、自社にフィットする社員を育成していたため、スキルの汎用性は高くありませんでした。

 

しかし、終身雇用の崩壊により人材の流動化が進んだため、労働者にはどの組織でも通じるスキルを身につける必要性が高まったのです。

 

半永久的な雇用を約束できない代わりに、従業員のエンプロイアビリティ向上に取り組む企業が増えています。

 

企業と従業員の関係性の変化

終身雇用制度の崩壊によって、雇用を守る代わりに都合よくジョブローテーションを行う主従のような関係から、スキルに紐づいた対等な関係に変化しています。

 

自分の求める環境を探して転職する人が増加したため、エンプロイアビリティへの注目度が高まりました。

 

エンプロイアビリティが高いほどビジネスパーソンとしての市場価値は高いため、雇用を継続できなくなっても、転職先が見つかりやすくなります。

 

また、エンプロイアビリティが高ければ、社内での評価も得やすくなるので、長期雇用を見込めます。

 

エンプロイアビリティの種類

エンプロイアビリティには、様々な種類があります。

 

スキルの価値では「絶対的」「相対的」の2種類、スキルの汎用性では「内的」「外的」に分類されます。

 

では、それぞれの種類について詳しく見ていきましょう。

 

絶対的エンプロイアビリティ

絶対的エンプロイアビリティとは、時代の変化や景気に左右されにくいスキルのことです。

 

医療や法律といった専門性の高い知識やスキルは、時代や景気の変動に関係なく、常に必要とされています。

 

よって、士業のような国家資格を有する人材は、どのような状況下でも安定的に仕事を獲得できるため、絶対的エンプロイアビリティを持っていると言えます。

 

相対的エンプロイアビリティ

相対的エンプロイアビリティとは、時代の変化や景気によって必要性が左右されるスキルのことです。

 

例えば、「数年前に習得した技術の需要が大幅に減った」ということもあるでしょう。

 

技術発展やニーズの多様化が進んだ現代では、多くのスキルが相対的エンプロイアビリティに該当します。

 

そのため、労働者自らが時代や景気に応じて、ニーズに合ったスキルを身につける必要があります。

 

内的エンプロイアビリティ

内的エンプロイアビリティとは、働いている企業で雇用され続けるスキルのことです。

 

商品知識など、その企業で必要とされる独自の知識やスキル、経験が内的エンプロイアビリティに該当します。

 

内的エンプロイアビリティは利益につながりやすいため、人事評価の向上やリストラの回避にも効果的です。

 

外的エンプロイアビリティ

外的エンプロイアビリティとは、どの企業でも通用するスキルのことです。

 

具体的には、マネジメントスキルやコミュニケーションスキル、汎用性・専門性の高い資格などが外的エンプロイアビリティに該当します。

 

労働市場の活発化に伴い、外的エンプロイアビリティの重要性が高まっています。

 

エンプロイアビリティの要素

厚生労働省「エンプロイアビリティの判断基準等に関する調査研究報告書について」では、エンプロイアビリティの要素を3つに分類しています。

 

知識・技能

その業務を遂行するにあたって、特定の知識やスキルが必要となります。

 

従事する職務に関する知識やスキル、資格、その業界の専門知識といった、客観的に判断しやすい要素です。

 

思考特性・行動特性

エンプロイアビリティには、協調性や積極性、柔軟性、コミュニケーションスキルなどの思考特性や行動特性も含まれます。

 

労働者に求める特性は「販売職では柔軟性やコミュニケーションスキル」「企画職では計画性や協調性」のように、職種や企業理念によって異なります。

 

動機・人柄・性格・信念・価値観など

エンプロイアビリティには、動機・人柄・性格・信念・価値観といったパーソナリティも含まれます。

 

エンプロイアビリティとは無関係に見えるかもしれませんが、信念や価値観がマッチしない組織で働いてもパフォーマンスを十分に発揮できませんし、長続きもしません。

 

このように、パーソナリティはモチベーションやパフォーマンスに大きな影響を及ぼすのです。

 

とはいえ、パーソナリティのような潜在的な個人属性は、客観的に判断できないため、エンプロイアビリティの評価基準に盛り込むのは適切ではありません。

 

「知識・技能」「思考特性・行動特性」で評価するのが適切と考えられています。

 

従業員のエンプロイアビリティを高めるメリット・デメリット

従業員のエンプロイアビリティ向上に取り組むと、様々なメリットがあります。

 

もちろん、メリットばかりではないので、デメリットについても把握しておきましょう。

 

メリット①従業員の能力開発

エンプロイアビリティの考えを従業員に伝え、エンプロイアビリティ向上の施策を実施することで、従業員の能力開発につながります。

 

安定的な雇用にはエンプロイアビリティが不可欠であることを知れば、自分のキャリアについて真剣に考え、主体的かつ意欲的にスキル向上に取り組むようになるでしょう。

 

スキル向上を意識した取り組みは、将来への不安を和らげるだけでなく、モチベーションや生産性の向上にもつながります。

 

メリット②優秀な人材が集まりやすくなる

現代の労働者には「就職したら定年まで勤め上げる」という価値観は薄く、転職もキャリアに組み込んで働いています。

 

そのため、積極的にエンプロイアビリティの育成に取り組んでいることをアピールすると、成長意欲の高い優秀な人材が集まりやすくなります。

 

労働人口が減少していく今後、優位に採用活動を進めるには、エンプロイアビリティへの取り組みがますます重要になってくるでしょう。

 

メリット③従業員の定着率向上

終身雇用が崩壊した現代では、いつ自分が人員整理の対象となっても困らないよう、ビジネスパーソンとしての価値を高めておく必要があります。

 

働きながらエンプロイアビリティを高められる職場は、それほど多くないので、労働者にとって魅力的に映るでしょう。

 

こうした施策を講じることで従業員エンゲージメントの高まりも期待できるため、定着率が向上することもあります。

 

デメリット①人材流出のリスクが高まる

エンプロイアビリティへの取り組みは、人材流出のリスクを向上させる可能性があります。

 

というのも、エンプロイアビリティが高まるほど、市場価値の高い魅力的な人材になるため、雇用主との関係が対等に近づくからです。

 

市場価値の高い人材は転職先も見つかりやすいので、より良い条件を求めて転職する可能性が高くなります。

 

特に、仕事や能力に見合った条件を提示できない場合は、転職されやすいです。

 

そのため、優秀人材の流出を防ぐには、「ここで働きたい」「働き続けたい」と思ってもらえるような取り組みを行う必要があります。

 

エンプロイアビリティに取り組む前に、エンプロイメンタビリティ(選ばれる力)を磨きましょう。

 

 

エンプロイアビリティのチェックシート

厚生労働省では、エンプロイアビリティのレベルが確認できるチェックシートを「総合版」「簡易版」の2種類用意しています。

 

エンプロイアビリティチェックシートは、若者に求められる就業能力をもとにした「就職基礎能力」「社会人基礎能力」から成り立っています。

 

就職基礎能力

就職基礎能力とは、人材採用にあたって労働者に求める能力のうち、短期間で向上できるもののことです。

 

エンプロイアビリティチェックシートでは、

 

責任感…社会の一員として役割の自覚を持っている

向上心・探求心…働くことへの関心・意欲を持ち、進んで課題を見つけて、レベルUPを目指せる

職業意識・勤労観…職業や勤労に対する広範な見方・考え方を持ち、意欲や態度で示せる

 

の3つを基本スキルとしています。

 

「責任感」と「向上心・探求心」では、社会人として求められている行動が理解できているか、積極性や向上心を持っているかについてチェックできます。

 

「職業意識・勤労観」は、自分にとっての理想的な働き方を見直せます。

 

社会人基礎能力

社会人基礎能力とは、「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」の3分野と、それに伴う12の能力のことです。

 

前に踏み出す力(アクション)

一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力のことです。

 

前に踏み出す力には、「主体性」「働きかけ力」「実行力」が含まれます。

 

考え抜く力(シンキング)

疑問を持ち、考え抜く力のことです。

 

考え抜く力には、「課題発見力」「計画」「創造力」が含まれます。

 

チームで働く力(チームワーク)

多様な人々とともに、目標に向けて協力する力のことです。

 

チームで働く力には、「発信力」「傾聴力」「柔軟性」「状況把握力」「規律性」「ストレスコントロール」が含まれます。

 

チェックシートでは、12の能力に関する設問が設けられているため、回答することで自分の強みや弱みを把握することができます。

 

参考:厚生労働省「エンプロイアビリティチェックシート 総合版

参考:厚生労働省「エンプロイアビリティチェックシート 簡易版

 

従業員のエンプロイアビリティ向上に向けた支援

最後に、従業員のエンプロイアビリティを向上させる施策についてご紹介します。

 

学習環境の整備

研修やeラーニング、自己啓発セミナーなどを実施して、従業員が自分の希望に応じて参加できるよう学習環境を整えましょう。

 

自己啓発セミナーを実施すると、将来を見据えた理想的なキャリアを計画しやすくなりますし、他の受講者との交流によって課題や目標の発見にもつながります。

 

理想のキャリアを築くために必要となるスキルや経験、獲得方法について把握できれば、高いモチベーションで業務に取り組めるでしょう。

 

制度の整備と実践機会の提供

研修のように現場から離れた教育も重要ですが、経験を通して得られる学びは非常に大きいため、実践機会も提供しましょう。

 

実践機会を提供する際は、社内で募集をかける「社内公募制度」や、従業員自身が配属希望の部署に自らを売り込む「社内FA制度」などの導入がおすすめです。

 

社内公募制度や社内FA制度を導入すると、従業員のキャリア実現を支援できます。

 

要件の明確化と開示

職種によって求められる知識やスキル、コンピテンシーは異なります。

 

そのため、

  1. 職種ごとにどういった知識やスキル、コンピテンシーが必要なのか
  2. どの程度のレベルを求めているのか

を明確化した上で、従業員に開示しましょう。

 

要件が明確化すれば、従業員は現状とのギャップを確認できますし、具体的な目標を持って取り組めるようになるため、効率的にエンプロイアビリティを高められます。

 

従業員のエンプロイアビリティ向上は企業にとっても重要

終身雇用制度が崩壊した現代において、エンプロイアビリティは、労働者にとって重要な能力です。

 

企業が積極的にエンプロイアビリティ向上に取り組むと、従業員の能力開発や人材定着、生産性の向上といった効果を期待できます。

 

また、採用活動にも好影響を与えるため、企業にとっても重要な取り組みと言えるでしょう。

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