キャリアドリフトとは、キャリアの計画を立てず、その時々に起こる変化に身を任せる考え方です。
「何を目指すのか」よりも「どのように働きたいのか」に重点を置くのがキャリアドリフトの特徴です。
そこで、本記事ではキャリアドリフトとは何か、キャリアデザインとの違いやメリット、実践方法を解説します。ぜひ、最後までご覧ください。
キャリアドリフトとは
キャリアドリフトとは、将来のキャリアについて、あえて詳細な道筋を立てず節目ごとに起こる変化を楽しみ、自然の流れに身を任せる考え方です。
従来のキャリア観では、キャリアプランを設定することが重要とされてきました。
そのため、「キャリアデザイン」や「キャリア開発」では、3年後、5年後、10年後といった節目で「What(何になるのか)」を設計することが多いです。
一方、キャリアドリフトは節目のみをデザインしたら、あとは偶発的な出来事に合わせて柔軟に対応する「ドリフト(Drift:漂う)する」キャリア観です。
また、キャリアドリフトでは、価値観など働く上での軸を定めておく「キャリアアンカー」が重要とされています。
「How(どのように働きたいか)」を決めておくことで、予測不能な変化にも柔軟に対応できるようになります。
キャリアドリフトの関連語
次に、キャリアドリフトに関連している言葉の違いを解説します。
キャリアデザインとの違い
キャリアドリフトとキャリアデザインは、対義語として扱われることが多いですが、厳密には異なります。
キャリアデザインとは、将来なりたい姿や理想像を明確にした上で、主体的に構想を練り設計することです。
スキルや経験、ライフスタイル、労働市場の状況などを考慮して、仕事を通じて理想像を実現するためのプロセスを明確にしていきます。
キャリアドリフトは、キャリアの方向性だけを決めておき、偶然の出会いや出来事に柔軟に対応しながら、キャリアを積んでいく考え方です。
つまり、キャリアドリフトはキャリアデザインより余白が多い柔軟なキャリア設計なので、キャリアデザインの方法の1つと言えます。
キャリアアンカーとの違い
キャリアアンカーは、船のいかりを意味する「アンカー」の言葉通り、キャリアを選択する際の軸となる価値観や欲求のことです。
キャリアドリフトでキャリアを構築する際、自身の価値観や軸となるキャリアアンカーが重要な指標になります。
プランド・ハップンスタンス(計画的偶発性)との違い
プランド・ハップンスタンス(計画的偶発性)とは、スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱した理論です。
偶発的に起こる出来事をポジティブに捉え、そこからスキルや経験を積みキャリアへつなげる考え方です。
キャリアドリフトを成功に導くには、プランド・ハップンスタンスが欠かせません。
クランボルツ教授によるとプランド・ハップンスタンスには、
- キャリアの8割は偶然の出来事によって形成される
- 偶然の出来事を利用して、キャリア形成に役立てる
- 自ら偶然の出来事を引き寄せるよう働きかけ、積極的にキャリア形成の機会を創出する
といった3つのポイントがあると述べています。
キャリアドリフトのメリット
では、キャリアドリフトにはどんなメリットがあるのでしょうか。
環境の変化に対応しやすい
キャリアデザインで構成した理想像に固執してしまうと、偶然舞い込んできたチャンスを見逃してしまうかもしれません。
変化の激しい現代においては、10年先のキャリアを描いても、1、2年後には常識が覆り、設計した未来が崩れてしまう可能性もあります。
キャリアドリフトは、節目ごとの大まかなキャリア設計で余白をつくります。
自然の流れに身を任せて必要に応じて方向修正していくため、環境の変化に対応しやすいです。
計画にない出来事もチャンスとして捉えられるので、新しいキャリアの可能性も広がるでしょう。
モチベーションを維持しやすい
設計したキャリアイメージに固執してしまうと、想定外の仕事や役割を与えられたときに理想と現実のギャップでモチベーションが低下する可能性があります。
キャリアドリフトであれば、予期せぬ出来事や障壁をチャンスと捉え、前向きに対応できるので、モチベーションを維持しやすいです。
キャリアドリフトの方法
次に、キャリアドリフトの実施方法を紹介します。
1.キャリアの方向づけ
まずは、キャリアの方向づけをしましょう。
長期的な目標を探しながら、数年単位で達成したい短期的の目標を節目ごとに修正します。
長期的な目標が見つからない場合は、「どんな人でいたいか、どんな状態でいたいか」を基準に方向を定めても構いません。
また、方向づけには、
- 子どもの頃、夢中になっていたもの
- 時間を忘れてできること
- 人より簡単にできること
- 嫌いなこと
- 周りに自分の長所を聞く
- 新しいことに挑戦する
といった、好き嫌いから決める方法もあります。
2.節目を意識してキャリアデザインする
結婚などの節目を意識してキャリアデザインしましょう。
目標を修正する際に重要なことは、自分で意思決定した「自己決定」の意識を忘れないことです。
自己決定の感覚が欠けるとキャリアドリフトは、ただ環境の変化に流されるだけになってしまいます。
節目ごとに、何を目標にするのか、どんな働き方をしたいのか、どんな人でいたいのかなどを自問して、キャリアを自覚的に選択することが大切です。
3.アクションを起こす
目標を定めたら、自己決定に従ってアクションを起こしましょう。
キャリアドリフトは、変化に身を任せるとはいえ、一定の時間と労力を投じてMER(最低必要努力量)を超えなければ、成果は出ません。
適性や能力の発見・開発も難しいでしょう。
「やってみなければ、何が起きるかわからない」「逆境に屈せず、あきらめない」といった考え方とともにアクションを起こします。
4.ドリフトも偶然も楽しみながら取り込む
キャリアドリフトのポイントは、「計画に縛られ過ぎずに環境の変化を漂うこと」です。
綿密な計画に息苦しくなったり、視野が狭くなったりしないよう、偶然やってきた機会を楽しむ気持ちを持ちましょう。
たとえば、
- 唯一無二の仕事をしようとしない
- 先が見えないことを不安に思わない
- 選択肢を絞り過ぎない
- 想定外の出来事を前向きに捉える姿勢でいる
- 目の前のことに集中する
といった心構えを持っておくと、偶然を楽しむことができます。
キャリアの節目とは
最後に、キャリアデザインのタイミングであるキャリアの節目を解説します。
年齢
20代、30代、40代など年齢を節目に、キャリアデザインする方法があります。
年齢によって、自身の目指すゴールや理想像も環境とともに変化していくので、30歳、40歳など、区切りの良い年齢でキャリアデザインを考え直すのがおすすめです。
危機感
「自分はこのままでいいのだろうか」と感じたときに、キャリアデザインしましょう。
危機感は、ひとつの節目です。
自身が危機感を覚えたときは、理想とのギャップを素直に受け止め、改めてキャリアデザインします。
ライフイベント
結婚・出産・介護などのライフイベントがあったときも、キャリアデザインしましょう。
ライフイベントが変化すると、仕事や家族との関わり方など、多くの変化が発生するため、人生の節目もキャリアデザインを再検討するタイミングです。
助言
助言をもらったときも、キャリアの節目になる可能性があります。
上司やメンターなどとキャリアの話をすると、自分の適性や自社で実現可能なキャリアパスを考慮した客観的な助言をもらえます。
ただ話をするだけでも考えが整理できるので、キャリアデザインを再検討しやすくなるでしょう。
キャリアドリフトで柔軟なキャリア形成を
終身雇用の崩壊やリモートワークの普及など、環境が変わることは珍しくありません。
詳細なキャリアデザインは実現が難しくなったり、時代に合わなくなったりする可能性が高いです。
柔軟に対応していくためにも、キャリアドリフトを実践して、無理なくキャリア形成を行ってみてはいかがでしょうか。