近ごろ、「静かな退職」と呼ばれる働き方が注目を集めています。必要最低限の仕事を淡々とこなす働き方で、人事担当者の中にはこの言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。

 

Z世代を中心に使われている「静かな退職」は、比較的新しい概念であるため、その本質を理解しきれていない人も多いようです。

この記事では、なぜ「静かな退職」が急速に広まりつつあるのか、実態と原因、具体的な対策について解説します。

 

静かな退職とは?

「静かな退職(Quiet Quitting)」とは、組織に所属しているものの、本来の仕事に対する充実感を求めず、単調に業務をこなす働き方のことです。

 

退職はしないものの、仕事に対する情熱はなく、心理的または感情的に職務から離れていくような状態を指します。

 

アメリカのティックトッカーがきっかけで「静かな退職」が拡散され、これまで当然とされてきた「ハッスルカルチャー(全力で仕事に取り組む文化)」に一石を投じました。

プライベートを重視する人が増えた近年において、Z世代を中心に“頑張りすぎない働き方”が支持されています。

 

静かな退職の実態!日本はエンゲージメントが低い

近年、「静かな退職」を選ぶ従業員が増えています。

米国のギャラップ社が2017年に実施したエンゲージメント調査によると、「熱意のある社員」の割合が32%に対し、「やる気のない社員」は半数以上です。

 

日本ではその傾向がさらに顕著で、「熱意ある社員」の割合は6%程度で、「やる気のない社員」が70%にも及ぶと報告されています。

 

本来の価値観や社会への諦めから士気が低下している場合もあります。

そのため、従業員の不満に耳を傾け、改善策を検討することで、失われたモチベーションを取り戻すことができるかもしれません。

 

参考:Is Quiet Quitting Real?│ギャラップ

 

静かな退職が増えている原因

次に、静かな退職が増加している理由について説明します。

 

働き方の多様化

新型コロナウイルスの影響もあり、最近ではテレワークが増加して働き方の多様化が進んでいます。自宅で仕事をすることによって、個人の生活スタイルが見直され、ワークライフバランスを重視する人が増えています。

 

同時に、終身雇用制度の崩壊によって、大企業でも将来の安定が保証されない状況となりました。これにより、長期的なキャリアプランを描くことが難しくなったため、モチベーションの低下につながっていると考えられています。

 

社内にロールモデルがいない

従業員の成長意欲は、職場内に魅力的な「ロールモデル」が存在することで高まります。しかし、急速なビジネス環境の変化により、身近に目標とする「ロールモデル」を見つけることが難しくなっています。

 

そのため、従業員に対して多様なキャリアパスを提示したり、キャリアデザイン研修を提供したりするなどの取り組みが必要です。

職場に手本となるような「ロールモデル」がいないと、 適切な働き方の目標がなくなり、進むべき方向を見失う可能性があります。

 

業務範囲があいまい

日本企業では業務範囲が不透明なケースがよく見受けられます。業務範囲が明確でなく責任の所在があいまいな職場では、最終的には上司が責任を負うことが多いです。

 

こうした状況を見てきた若手従業員は、昇進を避け、キャリアアップを望まなくなることがあります。

 

同様に、業務範囲があいまいな環境では、他のメンバーと業務が重複したり、特定の人に業務が偏ったりすることがあり、ストレスの原因となります。

 

責任の押し付けや余計な業務の依頼など、「典型的な日本の職場」が静かな退職が増えている大きな要因となっています。

 

正当な評価を受けられない

日本企業の評価制度も「静かな退職」の一因となっています。正当な評価が受けられないと不公平感や不満が生じやすく、働く意欲を喪失させます。

 

さらに、年功序列による評価を行っている企業の場合、成果を上げなくても相応の評価と昇給が期待できます。

努力や成果が評価に反映されなければ、「頑張らなくても評価される」といった感情が生まれるのも不思議なことではありません。

 

静かな退職を放置するリスク

社内の「静かな退職」状態を放置していると、どのような影響が生じるのでしょうか。リスクについて解説します。

 

生産性が低下する

静かな退職により、従業員一人ひとりの生産性が低下すれば、組織全体の生産性も減少します。

 

静かな退職を選んだ社員は、基本的な業務はこなすものの、日常的な会議やアイデア出し、オフィス文化の構築などには積極的に参加しようとしません。

 

消極的な姿勢の社員が増えると、職場は活気を失い、新しい挑戦への意欲も減退します。結果として、企業の業績向上にも悪影響を及ぼすでしょう。

 

特定の人に負担が集中する

静かな退職を選び、そこそこの仕事しかこなさない従業員が職場にいると、その分の業務負担は周囲の同僚が引き受けることになります。

 

特に予測できないトラブルが発生した場合などは、業務の負担が急増し、チーム全体の士気が低下して職場の雰囲気が悪化する可能性があります。

 

従業員のストレスは増大し、チーム全体のモチベーションが低下するリスクも考えられます。

 

人材流出につながる

企業の発展にとって「優秀な人材の存在」は必要不可欠です。しかし、「静かな退職」が増えると優秀な人材たちも組織に対する不満を抱き、最終的には会社を離れてしまうかもしれません。

 

優秀な人材の流出は企業に大きな影響を与えるため、早めの対応が求められます。

 

静かな退職を見極める方法

従業員に以下のような兆候がないか確認してみましょう。

 

・求められている以上の仕事をこなさない

・企業への愛着や信頼を示さないことが増えた

・最低限の会話しかなく、業務への意欲が低い

・会議でほとんど発言しない

・他の従業員の業務量が増加している

 

これらの兆候が見受けられた場合には、原因を突き止め、早めに労働環境や評価制度の改善を検討する必要があります。

 

静かな退職の対策

企業が取り組むべき課題を一つずつ解説します。

 

従業員エンゲージメントの調査

従業員が「静かな退職」の兆候を示している場合、まずは従業員のエンゲージメントを調査しましょう。

 

調査手法としては、インタビューや個別面談などがあります。現在担当している業務に対する不満や、将来思い描くキャリアプラン、理想的な職場環境について徹底的に掘り下げます。

 

調査の結果、もし従業員エンゲージメントが低い場合は、その原因を明らかにし、早期に改善する必要があります。

 

職務範囲と評価基準の明確化

従業員の働く意欲を高めるためには、働きがいをもてる仕組みを構築することが重要です。

 

従来の年功序列での評価制度を見直し、仕事への貢献度や個人目標の達成度合いをもとにした公平で透明性のある評価制度を導入することで、従業員の評価に対する納得感が高まります。

 

また、評価に関連する指標を明確にすることで、目標の設定も容易になり、従業員はモチベーションを保ちやすくなります。

 

キャリアパスに多様性を持たせる

エンゲージメントを向上させるためには、従業員が希望するキャリアプランを実現できる環境を整える必要があります。

 

従業員のキャリアプランが不透明だとエンゲージメントが低下する傾向があります。

 

そのため、定期的な上司との面談を通して、キャリアプランを明確にすることは重要です。各従業員が自らの希望を伝えられる機会を得られることで、エンゲージメントの向上が期待できます。

 

社内コミュニケーションの強化

定期的な1on1ミーティングを実施し、従業員の声に耳を傾けることも欠かせません。従業員が抱えている問題や不満をヒアリングし、それにもとづいて適切なアドバイスやフィードバックを提供しましょう。

 

これらの機会を多く設けることで、社内コミュニケーションが強化され、従業員は組織内での存在感をより感じやすくなります。

 

まとめ

「静かな退職」は従業員の意欲やモチベーション低下を示す重要な兆候です。近年の働き方改革によってワークライフバランスを重視した働き方が広まる中で、ますます増加傾向にあります。

 

「静かな退職」を実践する従業員が増加すると、企業の労働生産性が低下する可能性があり、企業としては回避したい課題です。そのため、早期に兆候に気づき、対策を考える必要があります。

 

従業員の不満や社内の評価制度など現状を改善し、従業員エンゲージメントの向上につなげましょう。

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