2025年4月の法改正により、一般事業主行動計画の策定義務が拡大され、企業にはより実効性の高い取り組みが求められるようになりました。
本記事では、一般事業主行動計画の背景や具体的な対応方法、ブランディングや採用にもつながる活用法まで詳しく解説します。
一般事業主行動計画とは何か?法的背景と求められる企業の対応
一般事業主行動計画とは、労働者の職業生活と家庭生活の両立支援や、次世代育成、女性の活躍推進を目的として、企業が策定・実行する計画のことです。
2025年4月の改正では、策定義務の対象が拡大し、企業の社会的責任や採用広報の観点からも注目が集まっています。
制度の成り立ちと法律上の位置づけ
一般事業主行動計画は、2005年に施行された「次世代育成支援対策推進法」を背景に始まりました。
これは少子化対策の一環として、子育てと仕事を両立できる社会の実現を目指し、企業に対して職場環境の改善や働き方改革の推進を促すものです。
その後、2016年に「女性活躍推進法」が施行され、女性活躍を推進する観点から、雇用機会の拡大やキャリア形成の支援も計画に含まれるようになりました。
一般事業主行動計画の策定は努力義務であるものの、一定規模以上の企業には実質的な義務が課されており、対応の有無が企業評価や採用活動に影響するケースが増えています。
対象企業と策定義務の範囲
2025年4月の法改正により、一般事業主行動計画の策定義務が拡大されました。
従来は従業員数101人以上の企業が対象でしたが、改正後は従業員数が50人超の企業にも策定・届出義務が課されるようになりました。
策定範囲は、計画期間、目標に加え、取組内容や実施時期も含まれます。これにより、書類作成にとどまらず、実効性のある取り組みが求められるようになりました。
また、策定後には厚生労働大臣への届け出、社内への周知、そして自社ホームページなどでの外部公表も必要です。
他制度(女性活躍推進法・次世代育成支援対策推進法)との違い
「女性活躍推進法」は、企業における女性の活躍を促進するための法律で、女性管理職比率の向上や、採用・昇進における男女格差の解消などが焦点です。
一方「次世代育成支援対策推進法」は、子育て支援や仕事と家庭の両立を目的としており、男女問わず家庭との両立支援が主な目的です。
両法に共通するのは、企業が自ら行動計画を策定し、公表・実施していくことです。
ただし、対象企業の範囲や策定内容には、細かい違いがあります。
2025年の改正では、両制度を総合的に捉えたうえでの対応が求められるようになっており、人事担当者は制度の趣旨を理解し、企業に応じた計画策定が必要です。
2025年4月改正のポイントと企業へのインパクト
2025年4月の法改正では、実効性と継続性がより強く求められるようになりました。
従来の「策定して終わり」ではなく、現状の把握から課題分析、目標設定、定期的な見直しを実施・運用することが前提となります。
これにより、企業は体制整備と定期的なデータ管理、分析体制の見直しが求められ、人事部門への実務負荷が増す可能性があります。
新たな把握義務事項の追加内容
大きな改正点は「課題把握に必要な情報の把握・分析」です。
これまでは計画策定にあたって、企業ごとの判断で必要とされる情報を収集していましたが、改正後は「採用者数」「勤続年数」「男女別の職種・役職割合」など、厚生労働省が示す具体的な項目について、把握・分析することが義務化されました。
これにより、感覚的な課題認識ではなく、数値に基づいた現状分析が求められるようになります。
人事データを収集・可視化する環境が整っていない企業にとっては、システム整備やデータ管理体制の見直しが急務です。
分析・数値目標の策定が必須に
従来の行動計画では、目標の有無や数値設定にばらつきがあり、形骸化が課題とされてきました。
そこで今回の改正では、把握したデータをもとに課題を分析し、それに基づいた数値目標を設定することが必須となり、より実効性のある計画づくりが求められます。
たとえば「女性管理職の割合を3年以内に10%にする」といった明確な数値目標の場合、そこに至るまでの育成施策や登用プロセスの整備なども計画する必要があります。
具体的なKPI設定が求められるため、各企業は人材戦略全体の見直しにもつながる改正です。
PDCAサイクルの強化と継続的改善への期待
改正後は、策定した計画が機能しているかどうかを評価し、必要に応じて改善する仕組みが求められます。
これまで以上に「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)」の各段階を意識した運用が必要になるのです。
一方、PDCAを継続し続けるためには、人事部門だけでなく経営層の関わりも不可欠です。
進捗確認や評価指標・報告フォーマットなども整備する必要があり、制度運用のためのリソース配分が課題となるでしょう。
行動計画の策定手順とスムーズな進め方
一般事業主行動計画の策定は「現状把握」「課題の抽出」「目標設定」「取組内容の決定」「社内への周知・届出・公表」のステップを、関係部署と連携しながら進めていくことが重要です。本章では、実務担当者が押さえておきたい各フェーズの進め方を具体的に解説します。
現状把握~課題抽出の方法
始めは、自社の現状を客観的に把握します。
厚生労働省が指定する把握事項(採用者数、男女別の職種・役職割合、育児休業の取得率など)をもとに、社員構成や制度利用実績などの数値データを収集します。
社員アンケートやヒアリングを併用することで、数字だけでは見えにくい職場の雰囲気や課題意識も掴めるでしょう。
次に、収集した情報をもとに課題を整理します。
たとえば「育休取得率が低い」「女性管理職が少ない」「制度はあるが利用されていない」など、定量・定性両面からの分析が効果的です。
課題は1つに絞らず、優先順位をつけて整理すると、計画に落とし込みやすくなります。
目標設定の具体的アプローチ(例:育児休業取得率など)
目標設定では課題に対して「どこまで・いつまでに改善するか」を明確に定めることがポイントです。
厚労省は目標を「数値」と「期限」で設定することを推奨しているため、実効性の高い行動計画が求められています。
たとえば「男性の育児休業取得率が低い」といった課題場合、「次年度末までに取得率を20%に引き上げる」と具体的な目標を設定たうえで「管理職への研修」「社内での取得者インタビューの共有」など、目標達成のための取組内容を考えます。
社内巻き込みのポイントと部署連携
行動計画は人事部門だけで完結するものではなく、全社的に取り組む必要があります。
特に重要なのが、現場マネージャーや管理職の理解と協力です。
たとえば、育休や時短勤務に対する偏見が根強い現場では、制度があっても利用しにくい雰囲気が残っているためです。
巻き込みの第一歩は「目的の共有」です。
単なる法令対応ではなく「働きやすい職場づくり」や「優秀な人材の確保・定着」、多様な人材が活躍できるダイバーシティ推進につながる取り組みであることを明確に伝えます。
また、管理職や各部門との対話の場を設け、目標達成のための現実的な施策を一緒に考える姿勢が大切です。
公表義務と情報公開のベストプラクティス
一般事業主行動計画を、自社の取り組みとしてわかりやすく発信することで、採用活動や企業ブランディングにつながります。特に若年層や子育て世代にとって、働きやすさや企業の柔軟性は重要な判断基準になるため、採用広報として積極的に活用しましょう。
どこに何を公開すべきか(厚労省サイトや自社サイトなど)
行動計画の公表は①社内での周知 ②厚生労働省への届出 ③社外への公開という3つがあります。
特に社外への公開は、求職者や取引先への企業姿勢のアピールにもつながるでしょう。
たとえば、厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」への投稿です。
このサイトは様々な企業の行動計画が検索できるため、制度対応の有無を検索する人も多いはずです。
加えて、自社のホームページ内にも専用ページを設け、計画内容やその背景、今後のビジョンなどを掲載するとより効果的でしょう。
情報開示の内容と表現の注意点
行動計画の公開にあたっては、数値や取り組みを羅列するだけでなく「読み手にどう伝わるか」を意識する必要があります。
記載内容は、計画期間、数値目標、取組内容とその実施時期が基本ですが、企業の理念や目的とのつながりも補足すると、説得力が増すでしょう。
そのためには、「何を・誰のために・どう改善しようとしているのか」を明確にすることが重要です。
実際に、株式会社ユーグレナでは、育児支援の取り組みに関して「男性社員の育休取得を歓迎する風土づくり」「男性社員育休取得率100%」など、ストーリー性をもたせた表現で注目を集めています。
ステークホルダーからの評価につながる工夫
職者・既存社員・取引先など「誰のために」「何を目指しているのか」といったステークホルダーの視点を意識した工夫も大切です。
たとえば、求職者は「実際に制度が活用されているか」「自分らしく働ける環境があるか」が重要な判断材料となるため、育休取得率の実績や社員の体験談を併せて伝えることが効果的です。
また、サステナビリティやESGへの意識が高まるなかで、IR資料や統合報告書などに行動計画を紐づけて紹介する企業も増えています。
誰にどう見られるかを意識した情報設計が、企業価値向上にも直結するでしょう。
まとめ
本記事のまとめを記載してください。
目安文字数:200~250文字程度
一般事業主行動計画は企業にとって義務である一方、チャンスでもあります。
策定と公表を通じて、自社の価値観や働きやすさを発信できれば、採用競争力や企業イメージの向上にもつながるからです。
広報戦略の一つとして捉え、今後の人材確保・定着へと結びつけましょう。