中期経営計画は、企業の中長期的な成長を支える重要な指針です。
特に人事・採用担当者にとっては、適切な人材確保や育成計画を立てるうえで欠かせない要素となります。
本記事では、中期経営計画の基本から立て方、社内での活用方法、よくある失敗例までを具体的に解説します。
1. 中期経営計画とは?基本と目的をわかりやすく解説
中期経営計画の定義と期間
中期経営計画とは、企業が今後3〜5年の中期的なスパンで目指す姿を明確にし、その実現に向けた戦略や行動計画をまとめたものです。
日々の業務に追われがちな中で、経営理念やビジョンを現実的な道筋に落とし込む手段として活用されます。
長期的な方向性を維持しながらも、柔軟に軌道修正できる点が特徴です。
たとえば、「5年後に売上を1.5倍に」「人員を20%増やす」といった具体的な目標を掲げ、その達成に向けて各部門が連携して動けるよう設計されます。
経営層だけでなく、人事や現場部門にとっても共通の指針となるため、企業全体の意思統一にもつながります。
中期計画が企業にもたらす役割
中期経営計画は、企業にとって「未来への地図」のような存在です。
先の見通しが難しい時代において、組織が方向性を見失わないための軸になります。
計画があることで、日々の業務が目先の成果にとどまらず、中長期的なビジョンと結びついた意味を持つようになります。
たとえば、売上の拡大だけでなく、人材育成や組織体制の強化など、企業の持続的な成長を見据えた取り組みを進めやすくなります。
また、各部門が個別に動くのではなく、計画をもとに連携を深められるため、リソースの最適配分や施策の優先順位も明確になります。
結果として、意思決定のスピードと精度が上がり、変化への対応力も高まるのです。
2. 中期経営計画が必要とされる背景とは
経営環境が変化し続ける中、企業は柔軟かつ持続的な成長戦略を求められています。
中期経営計画はその変化に対応しつつ、人材や資源を計画的に活用するための有効な手段です。
経営環境の変化と柔軟な対応
社会や市場の動きは年々スピードを増しています。
テクノロジーの進化、消費者のニーズ変化、法規制の見直しなど、企業を取り巻く環境は常に流動的です。
こうした状況において、短期的な対応だけでは限界があり、数年単位での方向性を定める中期経営計画が重要となります。
計画を持つことで、環境の変化に応じた柔軟な戦略転換がしやすくなり、不測のリスクにも備えやすくなります。
たとえば、サプライチェーンの変化に備えて代替案を盛り込む、人材不足に対応するための採用方針をあらかじめ用意しておくなど、先手の打ちやすさが変わります。
変化を読み、備え、行動するための土台として、中期計画は非常に有効です。
人材戦略の中期的視点の重要性
人材確保と育成は、企業の成長に直結するテーマです。
しかし、優れた人材を採用しても、育成や定着までには一定の時間がかかります。
そのため、人材戦略は1年単位ではなく、3~5年を見据えた中期視点で考えることが欠かせません。
たとえば、「3年以内に次世代リーダーを5名育成する」といった目標を掲げることで、人事部門は採用要件や育成プログラムを計画的に設計できます。
また、働き方改革や人材の多様化といった社会の流れにも合わせて戦略を練ることが可能です。
こうした中期的な取り組みが、組織の競争力を左右する時代に突入しています。
目先の人手不足に追われるだけでなく、将来の組織像を見据えた戦略的な人材マネジメントが求められています。
社内の共通認識を形成するためのツール
中期経営計画は、組織内で共通の方向性を持つためのコミュニケーションツールとしても機能します。
ビジョンや目標を明文化し、部門ごとの役割や期待を共有することで、意思疎通のずれを防ぐことができます。
特に人事・経営企画などの立場では、部門間の連携が重要です。
たとえば営業部門と人事部門が中期計画をもとに「今後3年間で営業人員を15%増やす」と共有できれば、採用活動の計画や人材育成のスケジュールも早期に調整可能です。
加えて、従業員が「自分の仕事が会社全体の成長にどう関わるか」を理解しやすくなるため、意識の統一やエンゲージメント向上にもつながります。
情報が断片的に共有されるのではなく、全社で同じ目標に向かう体制づくりに貢献するのが中期計画の大きな役割です。
3. 中期経営計画を構成する要素
中期経営計画は複数の要素で構成されており、特に人事部門は人員計画や組織設計といった部分に深く関与します。
計画の質が企業の未来を左右するため、各要素の理解と連携が欠かせません。
外部・内部環境分析(SWOT・PEST)
中期経営計画の出発点となるのが、外部・内部環境の分析です。
外部環境についてはPEST分析を使い、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の観点から企業を取り巻く要因を整理します。
一方、内部環境についてはSWOT分析により、自社の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を把握します。
この分析をもとに、企業が今後どこで勝負すべきか、どのリスクに備えるかが明確になります。
たとえば、労働市場の変化が脅威と判断されれば、人材確保や育成施策を重点強化すべきといった判断が可能です。
人事担当者はこの分析に積極的に関与し、実情に即した人員戦略や組織の強化策を提案する必要があります。
中期ビジョン・経営目標の設定
環境分析を経た後は、企業が中期的にどのような姿を目指すのかを明確にする段階です。
この「中期ビジョン」は、企業全体の方向性を示す旗印となり、組織内のあらゆる施策の土台となります。
ここで重要なのは、ビジョンが抽象的な理想にとどまらず、経営目標という形で具体化されていることです。
たとえば、「市場シェアの拡大」や「社員定着率の向上」など、測定可能かつ実現可能な目標に落とし込むことで、部門ごとの役割が明確になります。
人事部門では、この目標達成に向けた組織体制の設計や、人材戦略の方向づけを担います。採用や育成、評価の方針もこの段階で軸が定まり、経営との連携が求められる重要なフェーズです。
数値目標(売上・利益・人員など)
中期経営計画には、定性的なビジョンだけでなく、必ず数値目標を設定することが求められます。
売上や利益、ROE(自己資本利益率)などの財務目標に加えて、人員数や採用充足率、離職率といった人事関連の指標も含まれます。
こうした数値は、目標に対する進捗を定期的に評価する基準となるため、曖昧さを排除し、具体性と実現可能性を持たせることが重要です。たとえば「3年後に営業部門の人員を20%増加」といった明確な数値があると、採用計画や研修プログラムの立案もスムーズに進みます。
人事部門が果たすべき役割は、この数値目標を現実に即した形で設計し、組織全体に共有することにあります。
実行計画・KPIの設計
計画を「実行」に移すためには、具体的なアクションプランとKPI(重要業績評価指標)の設定が欠かせません。
実行計画は部門ごとの役割や期限を明記し、どの順序で何をおこなうのかを明確にします。
また、KPIは目標に対する進捗を数値で把握するための指標であり、「何を」「どこまで」達成すべきかを可視化します。
たとえば、「半年以内に新卒採用の面接プロセスを2週間以内に短縮」といったKPIを設定すれば、採用活動の改善状況が把握しやすくなります。
属人化を防ぐためにも、計画は誰が見てもわかる形で標準化し、運用体制を整えることが重要です。
人事部門は、KPIの進捗管理や課題抽出をおこない、PDCAサイクルを主導する立場として関わる必要があります。
4. 中期経営計画の立て方ステップ【実践編】
中期経営計画を実効性あるものにするには、ステップごとの設計と運用体制が欠かせません。
特に人事部門は、属人化を防ぎながらKPIとPDCAを回せる体制づくりを担う役割が求められます。
①経営理念とビジョンの整理
中期経営計画の第一歩は、企業の経営理念やビジョンを明文化し、方向性を明確にすることです。
これは単なるスローガンではなく、各部門が共通して目指す「行動の基準」となります。
人事部門においては、理念に基づいた組織文化の形成や、人材育成方針の整合性を取ることが求められます。
たとえば、ある製造業の事例では「技術で社会に貢献する」という理念に基づき、次世代エンジニアの育成計画を3年がかりで策定し、計画全体に理念を反映させた結果、定着率と技術継承率が大幅に向上しました。
このように、経営理念の整理は計画の骨組みとなります。
②現状分析(データ活用)
経営計画の策定において、現状の正確な把握は不可欠です。
主に売上や利益の推移、従業員数、離職率、採用充足率など、定量的なデータをもとに分析をおこないます。
人事部門では、人的リソースの偏りやスキルのギャップを把握するため、従業員データベースや人事評価結果を活用することが重要です。
ある小売企業の事例では、各店舗の人員配置と売上の関係を可視化し、非効率な配置を是正することで、コスト削減と売上向上の両立に成功しました。
感覚ではなくデータに基づいた分析が、戦略立案の質を左右します。
③戦略立案と目標設定
環境分析と現状把握を踏まえ、次は具体的な戦略と目標の設計に移ります。
この段階では「どの分野に集中するか」「何を優先するか」を明確にし、数値化できる目標に落とし込むことがポイントです。
たとえば、IT企業の事例では「3年以内にエンジニア比率を30%から50%に引き上げる」と明確な人材目標を設定し、人事部門と連携して採用戦略を再構築しました。
目標設定が曖昧だと、部門ごとのアクションプランも不明瞭になります。
人事は、戦略の整合性と現場の実行可能性を両立させる立場としての関与が不可欠です。
④実行計画への落とし込み
戦略を実行に移すためには、具体的な行動計画が必要です。
これは「いつ・誰が・何を・どの順でおこなうか」を明記したものであり、属人化を避けるためにも標準化された手順と役割分担が欠かせません。
人事部門では採用や研修、異動計画などの実施タイミングや責任部署を文書化し、部門横断での連携体制を構築します。
あるサービス業の事例では、マネジメント層の配置転換と合わせて育成プログラムを設計し、目標達成までの道筋を明確にしたことで、部門間の連携がスムーズになりました。
実行計画は「誰が見ても動ける」状態にしておくことが成功の鍵です。
⑤進捗確認と見直しの仕組み作り
計画は立てて終わりではなく、進捗管理と改善の仕組みづくりまで設計して初めて機能します。
PDCAサイクルを意識し、定期的なモニタリングと振り返りの場を設けることが重要です。
人事部門では、KPIの進捗を評価指標として活用し、未達項目があれば原因分析と改善案の提示を担います。
たとえば、採用KPIが未達成だった企業の事例では、求職者の応募動向を分析し、採用媒体と条件設定を見直すことで翌期に目標を達成しています。
柔軟な計画修正と情報共有の体制が整っていれば、状況の変化にもスピーディに対応できるでしょう。
5. 中期経営計画を活かすための社内展開・共有方法
中期経営計画を策定するだけでは十分ではありません。
全社に共有し、実行に移すことで初めて効果を発揮します。
特に人事部門は、従業員への浸透や評価制度との連動において重要な役割を担います。
従業員への伝え方の工夫
どれほど優れた中期経営計画であっても、従業員に理解されなければ意味がありません。
「なぜこの計画が必要なのか」「自分の業務とどう関係するのか」を明確に伝える工夫が求められます。
一斉説明会やイントラネットでの資料共有だけでなく、上司との1on1ミーティングなどを通じて双方向のコミュニケーションを図ることが有効です。
ある物流企業の事例では、従業員の職種ごとに異なる説明資料を用意し、自分事として受け止めてもらう工夫をした結果、現場からの改善提案が活発化し、計画達成に寄与しました。
伝え方次第で、計画は“絵に描いた餅”にも“実行の原動力”にもなります。
マネジメント層への巻き込み方
中期経営計画の実行を支えるのは、現場を動かすマネジメント層の存在です。
彼らが計画の趣旨を理解し、自らの言葉で現場に落とし込めるようになることが成功の鍵です。
そのためには、計画策定段階からマネージャー層を巻き込み、意見を反映させることが効果的です。
あるIT企業の事例では、マネージャーが部門ごとの戦略を提案する「計画共創ワークショップ」を実施したことで、計画に対する当事者意識が高まり、実行フェーズでの推進力が大きく向上しました。
上からの一方的な指示ではなく、現場が納得感を持って動ける仕組みづくりが必要です。
評価制度・育成計画との連動
中期経営計画の達成に向けた行動を促すには、評価制度や育成計画と計画内容を連動させることが不可欠です。
目指す人材像やスキル要件が明確になれば、それに合わせた研修設計やキャリアパスの提示がしやすくなります。
たとえば製造業の事例では、「生産技術の自動化推進」という中期目標に沿って、技術研修を評価項目に反映させたところ、習得意欲と研修参加率が大幅に向上しました。
人事部門は、このように中期経営計画と人事制度を橋渡しする立場として、現場が行動しやすい環境を整える役割を担います。
計画が現実の業務や評価に結びつくことで、従業員のモチベーションと実行力が引き出されます。
まとめ
中期経営計画は、企業が3〜5年先の未来に向けて戦略的に進むための道標です。特に人事部門は、人員計画や組織設計といった領域で大きな役割を果たします。
経営理念の明確化から現状分析、戦略立案、実行計画、そして進捗管理まで、各ステップを丁寧に構築することで、計画は具体性を持ち、実行可能なものになります。
中期経営計画は、単なる資料ではなく、企業と人材を成長へ導くための実践的なツールとして活用することが重要です。