【人事担当者向け】リスキリング補助金の申請から報告までの実務


DX(デジタルトランスフォーメーション)や労働市場の変化に対応するため、企業にとって従業員のリスキリング(学び直し)は課題です。

この記事では、リスキリングに取り組む企業の人事担当者に向けて、政府や自治体が提供する補助金・助成金を活用するための実務を網羅的に解説します。

 

補助金の種類や基礎知識から、計画策定、申請、研修実施、実績報告に至るまでの一連のプロセスを具体的なステップに分けて紹介し、戦略的な人材育成を実現するためのノウハウを提供します。

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 なぜ今、企業のリスキリングと補助金活用が重要なのか

AIやIoTといったデジタル技術の急速な進展は、既存の事業モデルや業務プロセスを根本から変革し、新たなスキルセットを持つ人材の需要を高めています。

多くの企業では、従来のスキルだけでは対応できない「スキルギャップ」が深刻化しており、これが生産性停滞や競争力低下の一因となっています。この課題を解決する鍵が、従業員が新しい役割や業務に適応するための「リスキリング」です。

 

リスキリングは、単なるスキルアップではなく、企業の事業戦略と連動した計画的な人材再配置を可能にします。

外部からの採用だけに頼らず、既存の従業員を育成することで、企業文化を理解した人材を確保し、エンゲージメントや定着率の向上にもつながります。

 

しかし、質の高い研修プログラムの導入には相応のコストがかかるため、特に中小企業にとっては大きな負担となります。

そこで戦略的なツールとなるのが、国や自治体が提供する補助金・助成金です。これらを活用することで、企業は研修コストの負担を大幅に軽減し、より大胆な人材投資をおこなうことが可能になります。

政府も「人への投資」を重要政策として掲げており、豊富な支援制度が用意されています。この機会を捉え、補助金を活用して計画的にリスキリングを進めることが、持続的な企業成長を実現するうえで極めて重要です。

リスキリングで活用できる補助金・助成金の基礎知識

具体的な補助金・助成金の検討に入る前に、その土台となる基本的な用語を正しく理解しておくことが重要です。

ここでは、本稿で頻出する「リスキリング」の定義と、混同されがちな「リカレント教育」との違いを明確にします。

 

そもそもリスキリングとは?リカレント教育との違い

本稿において「リスキリング」とは、技術革新や事業モデルの変化に伴い、今後新たに発生する業務で必要となるスキルや知識を習得すること、またはそのための訓練を指します。

 

重要なのは、既存の職務の延長線上にあるスキルアップ(アップスキリング)とは異なり、全く新しい職務や役割に適応することを目的としている点です。

たとえば、事務職の従業員がデータサイエンティストになるためにプログラミングや統計学を学ぶケースが典型例です。多くの場合、企業主導で戦略的におこなわれます。

 

一方、「リカレント教育」は、個人がキャリア形成の過程で、一旦仕事から離れて大学などの教育機関で学び直し、再び仕事に戻るというサイクルを繰り返す、より広範な生涯学習の概念です。

目的は必ずしも新しい職務への転換に限定されず、個人の興味やキャリアプランに基づき、自主的におこなわれることが一般的です。

 

リスキリングが「企業の要請による職務転換のための学び」であるのに対し、リカレント教育は「個人の生涯にわたる学び」という点で大きく異なります。

 

「補助金」と「助成金」の違いとは?

「補助金」とは、主に経済産業省や地方自治体などが管轄し、国の政策目標(例:DX推進、新規事業創出、地方創生)に合致する事業を支援するために支給される資金です。

 

特徴は、公募期間が定められており、予算の上限があるため、申請内容を審査したうえで採択・不採択が決まる「競争採択方式」である点です。

事業計画の新規性や政策への貢献度が重視されるため、質の高い申請書を作成する必要があります。

 

一方、「助成金」は、主に厚生労働省が管轄し、雇用の安定、労働環境の改善、人材育成など、企業の労働に関する取り組みを支援するために支給されます。

最大の特徴は、定められた要件を満たしていれば原則として支給される点です。通年で申請可能なものが多く、企業規模や業種を問わず活用しやすい制度と言えます。

 

リスキリングにおいては、人材開発支援助成金などが代表的です。

人事担当者としては、DX推進など特定の事業転換が目的であれば「補助金」を、従業員のスキルアップや雇用維持が主目的であれば「助成金」を、というように目的によって使い分ける視点が重要です。

両者の性質を理解し、自社の状況に合った制度を選択しましょう。

 

【企業向け】主要なリスキリング補助金・助成金の種類

企業のリスキリングを支援する補助金・助成金には、さまざまな種類があります。

それぞれ管轄省庁、目的、対象となる経費、助成率などが異なるため、自社の計画に最も適したものを選ぶことが成功の鍵です。

 

ここでは、特に多くの企業で活用されている代表的な制度として、厚生労働省の「人材開発支援助成金」と中小企業庁の「IT導入補助金」、そして地方自治体の独自制度の例として東京都の助成金を取り上げ、それぞれの特徴と活用方法を具体的に解説します。

 

 人材開発支援助成金(厚生労働省)

人材開発支援助成金は、厚生労働省が管轄する、従業員の職業能力開発を支援するための代表的な助成金制度です。

企業が従業員に対して、職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるための訓練(Off-JT)を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。

 

この助成金は、企業の生産性向上と労働者のキャリア形成支援を目的としており、複数の「コース」に分かれています。

それぞれのコースで対象となる訓練や助成内容が異なるため、自社の目的や育成したいスキルに合わせて最適なコースを選択する必要があります。

 

以下では、特にリスキリングとの関連性が高い主要なコースについて詳しく見ていきましょう。

 

事業展開等リスキリング支援コース

「事業展開等リスキリング支援コース」は、企業の持続的な発展を目指し、新規事業の立ち上げや、デジタル・グリーンといった成長分野への事業転換に伴う人材育成を強力に支援するコースです。

既存事業の枠にとらわれない、大胆な事業展開に必要なスキルを従業員に習得させることが目的とされています。

 

このコースの大きな特徴は、高い助成率にあります。新規事業やDX化(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)化に関連する訓練に対して、中小企業であれば経費の75%、大企業でも60%が助成されます(1事業所あたりの上限額があります)。

さらに、訓練時間に応じて賃金の一部も助成されるため、企業は従業員を訓練に送り出しやすくなります。

 

対象となる訓練は、デジタル技術、脱炭素技術、新商品開発など多岐にわたります。

活用例として、製造業の企業が工場にIoT(モノのインターネット)を導入し、スマートファクトリー化を進めるケースが挙げられます。

 

この場合、工場の作業員に対して、IoT機器の操作方法や取得したデータの分析手法に関する研修を実施する費用が、本コースの助成対象となります。

これにより、企業はコストを抑えながら、DX化に対応できる人材を育成できます。

 

人への投資促進コース

「人への投資促進コース」は、企業の持続的な成長のために、従業員の能力開発を幅広く促進することを目的とした、非常に使い勝手の良いコースです。

従来の訓練体系に加えて、国民の自発的な学び(リスキリング)を促し、企業がそれを支援する仕組みを後押しする点が特徴です。

 

このコースは5つの類型に分かれています。

 

①高度デジタル人材等を育成する「高度・重点成長分野訓練」

②IT分野未経験者を育成する「未経験者訓練」

③従業員が自発的に受講した訓練費用を負担する「自発的能力開発訓練」

④教育訓練休暇制度等を導入し活用する「教育訓練休暇等付与」

⑤月額定額制の研修サービス(サブスクリプション型)を利用する「定額制訓練」

 

 

特に注目すべきは「定額制訓練」で、Udemy BusinessやCourseraといったオンライン学習プラットフォームの利用料も助成対象となります。

これにより、従業員は時間や場所を選ばずに多様な講座の中から自分のニーズに合ったスキルを学ぶことができ、企業は体系的な教育制度を低コストで構築できます。

 

たとえば、営業部門の社員がデータ分析スキルを、開発部門の社員が最新のクラウド技術を、それぞれオンラインで学ぶといった柔軟な活用が可能です。

 

IT導入補助金(中小企業庁)

「IT導入補助金」は、中小企業・小規模事業者の生産性向上を目的として、ITツール(ソフトウェア、アプリ、サービス等)の導入費用の一部を補助する制度です。

管轄は経済産業省(中小企業庁)であり、競争採択方式の「補助金」に分類されます。

 

この補助金の主目的はあくまでITツールの導入ですが、導入するツールに関連する研修やコンサルティング費用も補助対象となる場合があるため、デジタル分野のリスキリングに活用できます。

特に「通常枠」や「インボイス枠(インボイス対応類型)」などにおいて、会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフトといったツールの導入費用とともに、そのツールを従業員が使いこなすための導入研修の費用も補助対象に含まれることがあります。

 

ただし、研修費用単体での申請はできず、あくまでITツールの導入が主であることが前提です。

人材開発支援助成金が「訓練そのもの」を支援するのに対し、IT導入補助金は「ツールの導入とそれに付随する教育」を支援するという違いがあります。

 

したがって、新しいソフトウェアやクラウドサービスを導入し、その操作方法を従業員に一斉に教育したい、といった場合に有効な選択肢となります。

 

 

【東京都の例】DXリスキリング助成金

国の制度に加えて、各都道府県や市区町村といった地方自治体も、地域経済の活性化や地元企業の競争力強化を目的として、独自の補助金・助成金制度を設けています。

これらの制度は、国の制度よりも対象地域や業種が限定される一方で、より地域のニーズに即した手厚い支援が受けられる場合があります。

 

その代表例が、東京都中小企業振興公社が実施する「DXリスキリング助成金」です。

この助成金は、都内の中小企業等がDX推進のために従業員にリスキリング研修を受講させる際の経費を助成するものです。

 

対象となるのは、民間の教育機関が提供するeラーニングや集合研修の受講料で、助成率は経費の最大2/3、上限額も定められています。

従業員のDXスキル向上を直接的に支援する、非常に人気の高い制度です。

 

このように、自社が拠点を置く地方自治体のウェブサイト(産業振興課や商工労働局など)を定期的にチェックすることは非常に重要です。

東京都以外にも、神奈川県、大阪府、福岡県など多くの自治体が同様のリスキリング支援策を展開しています。

国の制度と併用できる場合もあるため、積極的に情報収集をおこない、活用を検討しましょう。

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【完全ガイド】リスキリング補助金の申請から実績報告までの5ステップ

補助金・助成金を活用したリスキリングを成功させるためには、思いつきで行動するのではなく、体系的かつ計画的にプロセスを進めることが不可欠です。

申請書類の不備や計画の曖昧さが原因で、本来受けられるはずの支援を逃してしまうケースは少なくありません。

 

ここでは、人事担当者の方が迷うことなく実務を進められるよう、一連の流れを大きく5つのステップに分解して解説します。

 

Step1:社内計画の策定

補助金活用の成否は、この最初のステップである「社内計画の策定」が重要な要素となります。

補助金申請は、あくまでこの計画を実現するための手段です。

 

最初に「なぜリスキリングが必要なのか」「それによって何を実現したいのか」という骨子を固めることが、説得力のある申請書の作成と、研修成果の最大化につながります。

この段階では、補助金のことは一旦忘れ、純粋に自社の課題解決と成長戦略に焦点を当てて計画を練り上げることが重要です。

 

目的とゴールの設定(何を解決したいのか)

リスキリング計画の出発点は、「解決したい経営課題」を明確に定義することです。

 

たとえば、「新規のEC事業を立ち上げたいが、社内にデジタルマーケティングの知見を持つ人材がいない」「RPAを導入して間接部門の業務を効率化したいが、使いこなせる従業員がいない」「顧客データの分析基盤を構築したが、データを活用できる企画担当者が不足している」といった具体的な課題を特定します。

 

次に、その課題を解決した後の「あるべき姿」を、測定可能なゴールとして設定します。

ここで有効なのが「SMART」のフレームワーク(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性、Time-bound:期限付き)です。

 

「6ヶ月以内に営業担当者10名がMAツールを習得し、新規リード獲得数を前年比で20%向上させる」といった形で、誰が、何を、いつまでに、どのレベルまで達成するのかを具体的に記述します。

この明確なゴール設定が、後の研修プログラム選定や効果測定の基準となります。

 

研修対象者と育成スキルの明確化

目的とゴールが定まったら、次に「誰に」「何を」学んでもらうのかを具体化します。

まず、研修対象となる従業員を選定します。これは、新しい事業部門のメンバー、業務内容が大きく変わる部署の全員、あるいは公募制で意欲のある社員を選ぶなど、計画に応じて決定します。

対象者の現在のスキルレベルや適性を考慮することも重要です。

 

次に、育成すべきスキルを具体的に定義します。

ここでは「スキルギャップ分析」という手法が有効です。

対象者の現在のスキル(As-Is)と、ゴール達成のために必要なスキル(To-Be)をリストアップし、その差分(ギャップ)を明確にします。

 

たとえば、「DX推進」といった曖昧なテーマではなく、「Pythonを用いたデータ前処理と可視化」「SQLによるデータベース操作」「Google Analyticsを用いたアクセス解析」のように、具体的な技術やツール名まで落とし込むことが、申請書の説得力を高め、最適な研修を選ぶうえで不可欠です。

 

研修プログラムの選定と見積もり取得

育成スキルが明確になったら、それを最も効果的に習得できる研修プログラムを選定します。

選択肢は、外部の専門機関が提供する集合研修、オンラインのeラーニング、サブスクリプション型の動画学習プラットフォーム、あるいは講師を社内に招聘する形式など多岐にわたります。

それぞれのメリット・デメリット(コスト、時間的制約、カスタマイズ性など)を比較検討し、対象者の働き方や学習スタイルに合った最適な方法を選びましょう。

 

プログラムの候補がいくつか挙がったら、必ず研修ベンダーから正式な「見積書」を取得します。

ほとんどの補助金・助成金の申請では、この見積書の提出が必須となります。

 

見積書には、研修カリキュラムの詳細、総時間数、1人あたりの費用、実施期間などが明記されている必要があります。

複数のベンダーから相見積もりを取ることで、コストの妥当性を比較検討し、申請書類の客観的な根拠とすることができます。

 

Step2:補助金の選定と要件確認

綿密な社内計画が策定できたら、次はその計画の実現を後押ししてくれる最適な補助金・助成金を探すフェーズに入ります。

ここで陥りがちなのが、補助金・助成金の知名度や助成額の大きさだけで安易に決めてしまうことです。

 

重要なのは、自社の計画内容、企業規模、所在地、研修内容といった条件と、各制度の要件が完全に一致しているかを見極めることです。

計画に合わない制度に無理に合わせようとすると、本来の目的からずれた非効率な研修になってしまうため注意が必要です。

 

自社の状況に合った補助金の比較検討

まずは、厚生労働省、経済産業省、中小企業庁、そして自社が所在する都道府県や市区町村のウェブサイトなどを参照し、利用できそうな制度をリストアップします。

そのうえで、各制度の情報を比較検討するための一覧表を作成することをお勧めします。

 

項目としては、「制度名」「管轄」「対象企業(規模・業種)」「対象となる経費」「助成(補助)率」「上限額」「申請期間」「主な要件(例:賃上げ要件の有無)」などを設けると良いでしょう。

この一覧表を基に、自社の計画と照らし合わせながら絞り込みをおこないます。

 

たとえば、中小企業であれば中小企業向けの制度を、DX人材育成が目的ならDX関連のコースを、月額制のeラーニングを使いたいならサブスクリプション型に対応した制度を、といった具合にフィルタリングしていきます。

このプロセスを経ることで、客観的な視点から最も有利で実現可能性の高い制度を特定できます。

 

募集要項の熟読と対象要件のチェック

候補となる補助金・助成金を絞り込んだら、申請を検討している制度の公式な「募集要項」や「公募要領」を徹底的に読み込みます。

これらの公式ドキュメントには、申請に必要な全ての情報が記載されており、いわば「ルールブック」です。一字一句見逃さずに熟読し、内容を完全に理解することが、採択への第一歩です。

 

特に注意深く確認すべきは、「対象事業者の要件」「対象経費の範囲」「対象となる訓練の要件」「申請手続きの流れ」「提出書類」といった項目です。

たとえば、対象事業者の要件として「雇用保険適用事業所であること」、訓練の要件として「総訓練時間数が10時間以上であること」、対象経費として「入学金や受講料は対象だが、テキスト代は対象外」といった細かな規定が定められています。

これらの要件をひとつでも満たしていないと、申請は受理されないか、不採択となります。

 

少しでも不明な点や解釈に迷う部分があれば、決して自己判断せず、必ず募集要項に記載されている問い合わせ窓口(事務局やコールセンター)に電話やメールで確認しましょう。

また、多くの制度では公式な説明会が開催されるため、積極的に参加して最新情報を収集し、疑問点を解消することが重要です。

 

Step3:申請書類の作成と提出

最適な補助金・助成金を選定し、要件をすべて確認したら、いよいよ申請書類の作成に取り掛かります。

このステップは、これまでに練り上げた社内計画を、審査員に明確かつ説得力をもって伝えるための重要なプロセスです。

求められる書類を正確に揃え、記入漏れやミスがないよう、細心の注意を払って進める必要があります。書類の完成度が採択・不採択を直接左右するため、丁寧な作業が求められます。

 

必要書類一覧と入手方法

申請に必要な書類は制度によって異なりますが、一般的には以下のようなものが求められます。

まず、制度指定の「計画届」や「申請書」は、公式サイトからダウンロードします。次に、会社の基本情報を示す書類として、法務局で取得する「履歴事項全部証明書(登記簿謄本)」や、税務署で取得する「納税証明書」などが必要です。

 

また、計画の具体性を示すために、研修ベンダーから取得した「見積書」や「カリキュラムがわかる資料」も提出します。

さらに、従業員に関する書類として、「労働者名簿」や、労働局への届出が必要な制度の場合はその控えなども準備します。

 

これらの書類は、それぞれ取得場所や発行にかかる時間が異なるため、募集要項の提出書類一覧をチェックリスト化し、早め早めに準備に着手することが肝心です。

直前になって慌てないよう、計画的に進めましょう。

 

計画届・申請書の書き方ポイント

申請書の中でも特に重要なのが、事業計画や研修計画を記述する部分です。

審査員は、この計画が「なぜ必要なのか」「具体的に何をするのか」「それによってどのような効果が期待できるのか」という一連のストーリーを評価します。

Step1で策定した社内計画を基に、説得力のある文章を作成しましょう。

 

記述する際のポイントは、専門用語を使いすぎず、誰が読んでも理解できる平易な言葉で書くことです。

そして、目標や成果は可能な限り定量的に示すことが重要です。

 

「生産性を向上させる」ではなく、「〇〇の導入研修により、一人あたりの業務処理時間を平均15%削減する」のように、具体的な数値を盛り込むことで計画の信頼性が格段に高まります。

また、申請書全体を通して、記述内容に矛盾がないか、募集要項の趣旨と合致しているかを何度も確認しましょう。第三者に読んでもらい、客観的な意見をもらうのも有効です。

 

電子申請と郵送申請の違い

申請書類の提出方法は、主に「電子申請」と「郵送申請」の2種類があります。

近年、政府は行政手続きのデジタル化を推進しており、多くの補助金・助成金で電子申請が推奨または必須となっています。

 

代表的な電子申請システムが「jGrants」で、これを利用するには事前に「gBizIDプライム」という認証IDの取得が必要です。

ID取得には2〜3週間程度かかる場合があるため、早めに手続きを済ませておきましょう。電子申請のメリットは、24時間いつでも提出でき、書類の郵送コストや手間が省ける点です。

 

一方、従来通りの郵送申請が求められる制度もあります。

郵送の場合は、締切日に注意が必要です。「締切日必着」なのか「締切日の消印有効」なのかを必ず確認してください。

 

書類の到着が1日でも遅れると、それだけで審査の対象外となってしまいます。

提出する際は、配達状況を追跡できる「特定記録郵便」や「簡易書留」を利用し、発送の証拠を必ず手元に残しておくようにしましょう。

 

Step4:研修の実施と進捗管理

無事に計画が採択(または受理)されたら、いよいよ研修の実施フェーズに入ります。

ここで重要なのは、「申請した計画通りに研修を遂行すること」です。

 

採択の連絡を受けると安心してしまいがちですが、最終的に補助金・助成金を受給するためには、計画通りの実施を証明する客観的な記録を残すことが絶対条件となります。

この段階での適切な管理が、最後の実績報告をスムーズに進めるための鍵となります。

 

研修開始前には、受講者へのオリエンテーションを丁寧におこない、研修の目的、期間、内容、そして評価方法などを明確に伝えることが大切です。

特に、補助金・助成金を利用している場合は、その趣旨や企業としての期待値も共有することで、受講者のモチベーション向上と責任感の醸成につながります。

 

また、研修中に予期せぬトラブルが発生した場合に備え、事前に対応フローを定めておくことも重要です。

たとえば、受講者の体調不良や急な業務対応などで研修を欠席する場合の連絡方法や、振替受講の可否などを明確にしておくと、円滑な研修運営が可能です。

 

研修中の勤怠管理と記録

研修期間中は、受講者一人ひとりの勤怠管理を徹底する必要があります。

これは、特に賃金助成が含まれる助成金において、最も厳しくチェックされる項目のひとつです。

 

受講者が研修に参加した日時を証明するため、「出勤簿」や「タイムカード」の写しを必ず保管してください。

eラーニングの場合は、学習システムのログイン履歴や受講時間ログが証拠となります。

 

さらに、勤怠記録と合わせて「研修日報(訓練日誌)」を作成することも不可欠です。

日報には、研修日、実施時間、研修内容、講師名、受講者の所感などを記録します。

 

これは、単に参加しただけでなく、「計画通りの内容の研修が、計画通りの時間数おこなわれたこと」を証明するための重要な証拠書類となります。

フォーマットは制度によって指定されている場合もあるため、事前に確認しておきましょう。

 

また、集合研修の場合は、研修中の写真撮影も推奨されます。

写真には、受講者全員が写るように工夫し、日付や場所がわかるように記録しておくことで、客観的な証拠として活用できます。

 

受講者へのフォローアップとモチベーション維持

特に長期間にわたる研修の場合、受講者のモチベーションを維持するための工夫が求められます。

人事担当者は、研修を「やらせっぱなし」にするのではなく、定期的に受講者とコミュニケーションを取ることが重要です。

 

1on1ミーティングなどを通じて、学習の進捗状況や困っている点などをヒアリングし、必要なサポートを提供しましょう。

たとえば、学習内容でつまずいている受講者には、追加の参考資料を紹介したり、社内の有識者とのメンタリング機会を設けたりすることも有効です。

 

また、研修で学んでいるスキルが今後のキャリアにどのように活かされるのか、会社のどの事業に貢献するのかを具体的に示すことも、モチベーション向上につながります。

「会社から言われたから受ける」のではなく、「自分の成長と会社の未来のため」という当事者意識を持たせることが、学習効果を最大化し、ひいてはリスキリングプロジェクト全体の成功に不可欠です。

 

受講者同士のコミュニティを作り、学び合いを促進するのも良い方法です。

社内SNSの活用や、定期的なランチ会などを企画し、情報交換や相談ができる場を提供することで、連帯感が生まれ、学習意欲の維持に貢献します。

 

研修終了後も、学んだスキルを実践する機会を積極的に提供し、現場での活用を促すことが、リスキリングの効果を定着させるうえで非常に重要です。

 

Step5:実績報告と助成金の受給

計画していた全ての研修が完了したら、最終ステップとして事務局への「実績報告(または支給申請)」をおこないます。

この報告書が受理・審査されて初めて、助成金の支給額が確定し、入金手続きに進みます。

 

申請時に提出した計画に対して、実績がどうであったかを、客観的な証拠書類とともに報告する重要な手続きです。

最後まで気を抜かずに、正確な書類作成を心がけましょう。

 

報告書作成のポイントと注意点

実績報告書は、基本的に申請時の計画書と対になる形で作成します。

「計画」ではこうだったが、「実績」はこうなった、という形式で記述します。

 

計画通りに実施できた場合はもちろん、やむを得ない事情で計画に変更が生じた場合(例:受講者が1名減った、研修日が変更になった等)は、その理由を明確に説明する必要があります。

事前に軽微な変更届などを提出している場合は、その旨も記載します。

 

報告書では、研修の成果を具体的に示すこともポイントです。

たとえば、「〇〇の資格を〇名が取得した」「アンケートの結果、受講者の90%が研修内容に満足と回答した」「研修で開発した試作品が社内コンペで受賞した」など、定量的・定性的な成果を盛り込むことで、事業の有効性をアピールできます。

 

提出前に、すべての記入内容が添付する証拠書類と一致しているかを必ず確認してください。

 

 経費の証拠書類(領収書など)の整理方法

実績報告において、経費に関する証拠書類(証憑)の提出は必須です。

審査では、実際に費用を支払ったことを証明できなければ、その経費は助成対象として認められません。

 

一般的に必要となるのは、①研修ベンダーからの「請求書」、②実際に支払いをおこなったことがわかる「銀行の振込明細書」や「当座勘定照合表」の写し、そして③研修ベンダーが発行した「領収書」の3点セットです。

 

これらの証憑は、研修プロジェクト専用のファイルを作成し、発生日順に整理して保管することをお勧めします。

支払い一件ごとに、請求書、振込明細、領収書をクリップでまとめておくと、報告書作成時に非常にスムーズです。

 

また、多くの制度では、助成金受給後も数年間(通常5年間)の証憑保管が義務付けられています。

監査が入った際にすぐ提示できるよう、ファイリングを徹底しておきましょう。

 

 支給決定後の手続き

実績報告書と証拠書類を提出し、事務局での審査が終わると、「支給決定通知書」という書類が送付されてきます。

これには、審査の結果認められた助成金の確定額が記載されています。

 

この通知書を受け取ったら、記載内容に誤りがないかを確認します。

通知書の内容に問題がなければ、最後のステップとして、指定された様式の「精算払請求書」を作成し、事務局に提出します。

 

この請求書に基づき、記載した企業名義の銀行口座に助成金が振り込まれます。

通常、請求書を提出してから実際に入金されるまでには、数週間から1ヶ月程度の時間がかかります。

これで、補助金・助成金の活用プロセスはすべて完了となります。

 

補助金活用を成功に導く3つのポイント

補助金・助成金の申請から受給までの一連の実務プロセスを理解したうえで、次に重要となるのが、プロジェクト全体の質を高め、真の成果につなげるための戦略的な視点です。

単に制度を利用して資金を得るだけでなく、リスキリングという投資の効果を最大化するためには、いくつかの重要なポイントが存在します。

 

ここでは、プロジェクトを成功に導くために人事担当者が押さえておくべき3つの秘訣を解説します。

 

ポイント1:経営層を納得させる「投資対効果」の示し方

リスキリングは企業にとって重要な「投資」です。

 

特に、補助金・助成金を活用する場合でも、企業側の自己負担は発生しますし、従業員の研修時間という見えないコストもかかります。

そのため、プロジェクトを始動させるには、経営層の理解と承認が不可欠です。

 

人事担当者は、この投資がどれだけの効果(リターン)を生むのかを、客観的なデータに基づいて説明する責任があります。

投資対効果(ROI)を示す際には、定量的な側面と定性的な側面の両方からアプローチします。

 

定量的には、「総研修費用〇〇円に対し、助成金〇〇円が見込めるため、実質負担は〇〇円。研修により生産性が〇%向上すれば、年間〇〇円の人件費削減効果があり、〇年で投資回収可能」といった試算を提示します。

定性的には、「従業員のエンゲージメント向上」「離職率の低下」「採用市場における企業ブランドの向上」「イノベーションの創出」といった、数字では表しにくい価値を訴求します。

 

これらの根拠をまとめた簡潔な企画書を作成し、経営会議で承認を得ることが、全社的な協力体制を築く第一歩となります。

 

ポイント2:目的達成につながる研修ベンダーの選び方

研修の成果は、どの研修ベンダー(教育機関)と組むかによって大きく左右されます。

補助金の対象になるからという理由だけで安易に選ぶのではなく、自社が設定したリスキリングの目的とゴールを達成するために、最適なパートナーはどこかという視点で慎重に選定する必要があります。

 

良いベンダーを見極めるための評価軸はいくつかあります。

まず、育成したいスキル分野における「専門性と実績」です。

 

講師陣の経歴や、過去の研修事例、導入企業によるレビューを確認しましょう。

次に、「カリキュラムの質と柔軟性」です。画一的な内容ではなく、自社の課題に合わせて内容をカスタマイズしてくれるか、実践的な演習が豊富に含まれているかは重要なポイントです。

 

さらに、「受講者へのサポート体制」も確認が必要です。研修中の質問対応や、研修後のフォローアップが手厚いベンダーは、学習効果を高めてくれます。

複数の候補ベンダーと面談し、可能であれば体験セミナーなどに参加して、実際の研修の質感を確かめることをお勧めします。

 

また、補助金申請の実績が豊富なベンダーであれば、書類作成に関するアドバイスがもらえる場合もあり、事務的な負担軽減にもつながります。

 

ポイント3:「補助金獲得」をゴールにしないための注意点

補助金・助成金制度は非常に魅力的ですが、最も注意すべき落とし穴が「補助金獲得そのものが目的化してしまう」ことです。

 

これを「補助金ありきの研修」と呼びます。

本来解決すべき経営課題や育成すべき人材像が曖昧なまま、「あの補助金が使えそうだから、この研修をやろう」という発想でプロジェクトを進めてしまうと、多くの場合失敗に終わります。

 

このような目的と手段の逆転は、さまざまな弊害を生みます。

たとえば、自社の戦略とは関係のない研修を実施してしまったり、受講する従業員の目的意識が低く学習効果が上がらなかったり、結果としてスキルが身につかず現場で全く活かされない、といった事態を招きます。

 

これでは、たとえ補助金がもらえたとしても、自己負担分の費用と従業員の貴重な時間を無駄にしてしまうだけです。

常に忘れてはならないのは、補助金はあくまで「手段」であり、真のゴールは「リスキリングを通じて企業の競争力を高め、持続的な成長を実現すること」であるという原則です。

必ず「自社の課題は何か(Why)」からスタートし、その解決策として「リスキリング(What)」を計画し、その実行を支援するツールとして「補助金(How)」を活用するという順番を厳守してください。

リスキリング補助金に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、リスキリングに関する補助金・助成金を検討する人事担当者から特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。

制度の併用、申請から受給までの期間、不採択だった場合の対応など、実務を進めるうえで疑問に思いがちな点について解説します。

 

 

複数の補助金は併用できますか?

原則として、同一の経費に対して、国や自治体から複数の補助金・助成金を重複して受け取ることはできません。

これは「二重受給の禁止」と呼ばれるルールで、ほとんどの制度の募集要項に明記されています。

 

ただし、プロジェクト全体で経費の内訳が明確に分かれている場合は、それぞれの経費に対して異なる制度を適用できる可能性があります。

 

たとえば、「研修Aの受講料」については厚生労働省の人材開発支援助成金を活用し、「研修Aで使うための専門ソフトウェアの購入費」については経済産業省のIT導入補助金を活用する、といった使い分けです。

このように、支援対象が異なる制度を組み合わせることで、プロジェクト全体の自己負担をさらに軽減できる場合があります。

 

併用を検討する際は、各制度の事務局に重複受給にあたらないかを事前に確認することが不可欠です。

 

申請から受給までどのくらいの期間がかかりますか?

補助金・助成金の種類や申請のタイミングによって大きく異なりますが、一般的に、最初の計画を立て始めてから最終的に入金されるまでには、1年かそれ以上の期間を見込んでおくのが現実的です。

具体的なタイムラインの目安は以下の通りです。

 

  1. 社内計画策定・補助金選定・申請書作成:1~3ヶ月
  2. 申請後の審査期間:1~3ヶ月
  3. 研修実施期間:計画による(例:3~6ヶ月)
  4. 実績報告書の作成・提出:研修終了後1ヶ月
  5. 実績報告後の審査・支給額確定:1~3ヶ月
  6. 支給決定後の入金:請求書提出後1~2ヶ月

このように、資金が手元に入るまでにはかなりの時間がかかります。

助金・助成金は後払いが基本であるため、研修費用などは一旦企業側で全額立て替える必要があります。

キャッシュフローを圧迫しないよう、資金計画は慎重に立てましょう。

 

不採択だった場合、再申請は可能ですか?

多くの場合、再申請は可能です。

 

特に、競争採択方式の「補助金」において不採択となった場合、次回の公募期間に再度申請することができます。

不採択の理由は通常開示されませんが、考えられる原因(例:事業計画の具体性不足、費用対効果の説明が不十分など)を推測し、申請書の内容を全面的に見直してブラッシュアップすることが重要です。

 

審査員が変わる可能性もあるため、諦めずに挑戦する価値は十分にあります。

 

一方、要件を満たせば原則採択される「助成金」で申請が通らなかった場合は、多くが書類の不備や記載ミス、要件の解釈違いといった事務的なエラーが原因です。

この場合は、事務局からの指摘事項を修正し、正しく書類を整えれば、再提出後に受理されることがほとんどです。

 

いずれの場合も、一度の失敗で諦めず、原因を分析して次善の策を講じることが大切です。

 

補助金・助成金を探すなら「人事バンク」で一括検索

自社に最適な補助金・助成金を見つけるためには、厚生労働省、経済産業省、各都道府県や市区町村など、さまざまなウェブサイトを横断的にチェックする必要があり、多大な時間と手間がかかります。

 

また、情報は常に更新され、新たな制度が始まることもあるため、最新情報をキャッチアップし続けるのは容易ではありません。

こうした人事担当者の悩みを解決するのが、当サイト「人事バンク」です。

 

人事バンクでは、全国のリスキリングや人材育成に活用できる補助金・助成金の情報を一元的に集約し、検索できるデータベースを提供しています。

エリアや目的、キーワードなどで絞り込むことで、自社のニーズに合った制度を効率的に見つけることが可能です。

 

情報収集の時間を大幅に短縮し、より戦略的な企画立案に時間を割くために、ぜひ人事バンクの検索機能をご活用ください。

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まとめ:計画的な補助金活用で、戦略的な人材育成を実現しよう

本記事では、企業のリスキリングを成功に導くための補助金・助成金の活用法について、基礎知識から具体的な申請プロセス、成功のポイントまでを網羅的に解説しました。

激変する事業環境の中で企業が勝ち残るためには、変化に対応できる人材の育成、すなわち戦略的なリスキリングが不可欠です。

 

政府や自治体が提供する補助金・助成金は、そのための大きな推進力となります。

しかし、その恩恵を最大限に受けるためには、「補助金獲得」を目的化せず、あくまで自社の経営課題解決という本来の目的を見失わないことが重要です。

 

明確な計画を立て、適切な制度を選び、丁寧な手続きを踏むことで、コスト負担を抑えながら企業と従業員の双方にとって価値のある人材投資が実現します。

この記事で紹介した5つのステップと3つのポイントを参考に、ぜひ貴社の未来を拓く戦略的な人材育成への第一歩を踏み出してください。

 

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