このページでは、採用、育成、組織開発など人事領域のさまざまなテーマについて、株式会社人材研究所 シニアコンサルタント 安藤健さんに解説していただいています。
人事領域は、会社ごとに環境や課題が異なるため、担当者自身が積極的に情報を吸収していくことが求められます。
ぜひ、参考にお読みいただき、普段の業務に生かしていただければ幸いです。
「求める人物像」を「就活ペルソナ」に
求める人物像、つまり採用基準が固まった後は、できればそのままではなく、「就活ペルソナ」にまで落とし込むと良いでしょう。
「ペルソナ」とは、マーケティング用語で、「ある特徴を合わせ持った架空の人物像」を意味します。
マーケティングの世界では、『42歳、女性、既婚、沖縄在住』などまず顧客のペルソナを設定し、これに合わせて商品の企画や設計をしていくのが当然のように行われています。
実は、採用においても、これと同様に、求める人物像の「就活ペルソナ」化を行うのが効果的なのです。
求める人物像は、しばしば「チャレンジ精神が旺盛」「目標達成意欲が高い」「Java(プログラミング言語)ができる」など各抽象的コンセプトの積み重ねで成り立っていることが多いのですが、これを統合し全体論的な視点から見てみるのが「就活ペルソナ」化のイメージです。
具体的には「採用ターゲットは現実の環境の中では、どんな就職活動を行うだろうか」
と色々イメージしてみます。その際、考えるべき点は、以下の図の通り6つが挙げられます。
就活ペルソナで考えるべきポイント
- そもそもどの程度の就活活動量か
- いつ頃から活動をし始めるか
- 主に利用する情報収集チャネルは何か
- インターン、イベント、新しい採用手法等に参加しそうかどうか
- どんな価値観で、どんなメッセージが刺さるか
- 効く動機付け方法はどんなものか
そもそも、なぜこのような「就活ペルソナ」化が必要になってくるかというと、一つはターゲットとなる彼らが最も就活を活発化している時期を特定し、どんなチャネルを最も利用しているか目星がつくからです。
現在では、どんなに大手企業でも、採用活動のリソース(お金、人員)が潤沢にあるとはいえない場合がほとんどでしょう。
そんな中であらゆるチャネルを利用し、やみくもに採用活動を行っていてはどんなにリソースがあっても足りません。
限られた採用活動のリソースを集中投下し、効率的な採用活動を可能とするためには、「ペルソナ」を分析することが非常に重要なのです。
また、どんな価値観で、どんなメッセージが刺さるか、彼らに効く動機付け方法がどんなものか、などが想定できていないと、効果的な採用広報が打てなかったり、求める人物像に刺さるフォローができません。
「就活ペルソナ」で面接官同士の共通認識を作る
そして、もう一つ、「就活ペルソナ」を設定する非常に大きな理由があります。
それは、面接官同士、採用担当者同士で採用基準についての目線をすり合わせるためです。
上述した通り、求める人物像は、ともすれば抽象的コンセプトが中心で、各要素の集合で記載されていることが往々にしてあります。
対して就活ペルソナは、具体的イメージからなり、非常に全体論的な記載がなされます。
ここに注意が必要で、求める人物像を「就活ペルソナ」化するという作業を挟まなければ、同じ言葉に対して、面接官同士で違うイメージを持ってしまうのです。
特に、しばしば求める人物に挙げられる「ストレスに強い」「頭が良い」「コミュニケーション能力が高い」といった言葉は様々な捉え方ができる多義的なキーワードです。
例えば、「ストレスに強い」という要件に対して、ある面接官は“嫌なことがあっても肯定的に意味づけできること”というイメージを持っているかもしれませんが、別の面接官は“そもそもストレスを感じない鈍感さ”というイメージを持っているかもしれません。
こういったイメージは、面接官が持つ主観に基づいて形成されていることが多い分、放っておくと面接官の数だけ認識が違う、なんてことも起きてしまいます。
また、このように共通認識をもっていないと、1次面接ではストレス耐性があると思って合格にした候補者が、2次面接官からは「全然ストレスに強そうじゃないじゃないか!」と叱責されることにも繋がります。
これでは、決して効率的に候補者を見極めされているとはいえないでしょう。
このように「就活ペルソナ」化をすることで、「うちでは“ストレスに強い”とはこう感じ、こういう行動をとることだよね」、という共通認識を採用に関わる人すべての間に作るのが、「就活ペルソナ」の非常に大切な狙いなのです。
これを踏まえると、求める人物像を決める過程で、経営や現場から「ストレスに強い」「頭が良い」「コミュニケーション能力が高い」などの言葉がでたら、きちんと「それはこういう場面でこう行動するイメージですか?」と確かめるようにするにも良いでしょう。
また理想としては、抽象的な概念レベルでのすり合わせを行うのではなく、具体的な人の事例で擦り合わせを行えると非常に良いかと思います。
著者プロフィール
株式会社人材研究所 シニアコンサルタント 安藤健
児童心理治療施設(旧情緒障害児短期治療施設)での約1年半の現場経験を経て、心理学が日常生活に困難をきたす様々な障害の治療に活きる現場を体験。
その後、心理学を逆に人間の可能性を最大化する方へ活かしたいと感じ、現職である人事コンサルティングに転向。
現在は新卒採用・中途採用をメインとして、育成教育配置、評価報酬制度などのコンサルティングに幅広く従事。
そのほかに人事のための実践コミュニティ「人事心理塾」運営、人事向けセミナー、若手・新入社員向けキャリアワークショップなども多数実施。
■ 株式会社人材研究所
2011年設立。代表取締役社長 曽和 利光
世の中のあらゆる組織における「人と組織の可能性の最大化」を目指している人事コンサルティング会社。
組織人事コンサルティング、採用コンサルティング、採用業務代行(RPO)、各種トレーニング(面接官トレーニング、評価者訓練、新入社員研修等)などを提供。
HP:株式会社人材研究所