このページでは、採用、育成、組織開発など人事領域のさまざまなテーマについて、株式会社人材研究所 シニアコンサルタント 安藤健さんに解説していただいています。
人事領域は、会社ごとに環境や課題が異なるため、担当者自身が積極的に情報を吸収していくことが求められます。
ぜひ、参考にお読みいただき、普段の業務に生かしていただければ幸いです。
人事評価の目的は給与を決めるだけではない
人事評価は、前期までの成果や能力を評価し、次期の新給与を決めるためだけのものではありません。
本来、人事評価は、能力開発や自己啓発も目的としています。
そのためには、「あなたは今期評価が●●なので、次期から給与は○○円です」という上司の一方通行的な評価結果と新報酬の通達だけでは不十分であり、面談を通じてきちんと評価を受けた方へ、どこが良くて、どこに課題・改善点があったのかをフィードバックしなければなりません。
評価を受ける側は、今後の努力目標を提示され、更なる改善の必要性を自覚する必要があります。
つまり、人事評価ときちんとしたフィードバックはセットとして行われる必要があるのです。
但し、フィードバックのやり方によっては、評価を受ける側の誤解や不信感を招くことにもなりかねません。
そのため、評価を行う管理職などは、適切なフィードバックの技術を身に付けておく必要があります。
性格や能力ではなく、行動に対してフィードバックする
一般に、フィードバックには、ポジティブフィードバックとネガティブフィードバックがあります。
特に、人事評価後の面談においては、良かったことだけでなく、評価を受ける側にとって耳をふさぎたくなるような辛いこと、つまりネガティブフィードバックも必要になることが多いでしょう。
評価者である管理職の中には、この点にいつも苦心されている方も多いのではないでしょうか。
まずフィードバックで重要なのは、受け手の性格や能力ではなく、実際にとった行動に対してのみフィードバックを行うことです。
これは、性格や能力は、評価者の主観や印象に評価が左右されることが多いためです。
逆に言えば、行動のみが「実際に見えている事実」なのです。
採用の世界でも、昨今、エビデンスベースドインタビュー(事実に基づいた面接)が重要であると叫ばれていますが、評価のフィードバックも同様です。
単に「あなたは不真面目だ」と伝えるのではなく、「この行動に問題がある」とフィードバックすることで初めて、具体的な改善の必要性を自覚することができるのです。
このように文字にしてみると、さも当たり前のように感じますが、心理学では「行為者・観察者バイアス」というものがあり、人は他人の問題行動の原因を、その人の性格や能力にあると考える傾向があります。
そのため、多くの管理職にとって、行動ベースのフィードバックはまさに「言うは易く行うは難し」なのではないでしょうか。
ネガティブフィードバックが利く人材と利かない人材
また、実は、ネガティブフィードバックは、それを行うことが有効に働く人材もいれば、そうでない人材も存在します。
結論から言えば、ネガティブフィードバックが最も刺さる人は「成長志向」を持っている人です。
フィードバックについてのある研究によれば、フィードバックを受ける時のモチベーションは4つに分かれるといわれています。
1つは、「自己改善動機」、つまり自分の課題点を改善し、更なる成長を目指してフィードバックを受けようとする動機です。
2つ目は、「自己査定動機」で、自分のことを正確に評価したい、という動機です。
3つ目は、「自己高揚動機」で、自分のことを高く評価したい、という動機です。
最後4つ目は、「自己確証動機」といって、自分が信じている自分の姿を確かめたい、という動機でフィードバックを受けようとするものです。
ここまでみてわかる通り、ネガティブフィードバックが刺さるのは「自己改善動機」と「自己査定動機」の人だけです。
むしろ積極的にネガティブフィードバックを求めるのは「自己改善動機」の人だけでしょう。
このように、「これからフィードバックする人は、どんな動機を面談に臨んでいるのか?」を考えてから、ネガティブフィードバックの出し分けを行う必要があります。
また、これらの動機は不変的なものではなく変わりうるものです。
上司としては、フィードバックを行う前の期中から、自己改善動機や自己査定動機を持つような動機づけを行っていく必要があるでしょう。
具体的には、その仕事の面白さを意味づけしたり、目標をスモールステップに分け成長実感を感じやすくさせることで更に成長したいと思わせるような働きかけなどが挙げられるかもしれません。
もちろん、ネガティブフィードバックができる人間関係が、日頃より築けていることも重要です。
「この人になら、厳しいことを言われても納得できる」という信頼関係が築けていなければ、どんなに具体的で良いアドバイスをしても心に刺さることはないでしょう。
評価面談の場で、言いにくいこともきちんと伝え、しかもそれが本人に刺さるようにするためには、先に挙げた「行動」をベースにフィードバックをするということに加え、評価前からの上司の働きかけ、つまり日常的なコミュニケーションが非常に重要なのです。
著者のプロフィール
株式会社人材研究所 シニアコンサルタント 安藤健
児童心理治療施設(旧情緒障害児短期治療施設)での約1年半の現場経験を経て、心理学が日常生活に困難をきたす様々な障害の治療に活きる現場を体験。
その後、心理学を逆に人間の可能性を最大化する方へ活かしたいと感じ、現職である人事コンサルティングに転向。
現在は新卒採用・中途採用をメインとして、育成教育配置、評価報酬制度などのコンサルティングに幅広く従事。
そのほかに人事のための実践コミュニティ「人事心理塾」運営、人事向けセミナー、若手・新入社員向けキャリアワークショップなども多数実施。
■ 株式会社人材研究所
2011年設立。代表取締役社長 曽和 利光
世の中のあらゆる組織における「人と組織の可能性の最大化」を目指している人事コンサルティング会社。
組織人事コンサルティング、採用コンサルティング、採用業務代行(RPO)、各種トレーニング(面接官トレーニング、評価者訓練、新入社員研修等)などを提供。
HP:株式会社人材研究所