採用候補者に対して、ただ何となく内定通知書を送付していませんか?
内定通知書とはそもそもどのような役割を持つ書類なのか、正しく認識している人事労務担当者は多くないかもしれません。
企業の内定の意思を採用候補者に示す内定通知書は、送付にあたっていくつか注意すべきポイントがあります。
本記事では、内定通知書の概要や他の書類との違い、送付時の注意点などを詳しくご紹介します。
内定通知書の概要
「内定通知書」とは、企業が採用候補者に対して採用することを知らせるための書類です。
そもそも「内定」とは、企業と採用候補者の労働契約が公になる前に、内々で決まることを意味します。
法的には労働契約が締結された状態を指し、企業から内定者へ「労働契約の承諾」を求める内定通知書を発行します。
ここでは内定通知書の概要を紹介します。
企業が内定通知書を送付する意味
一般的に「内定」というと、企業が採用することを知らせるだけと思う人は多いですが、法的には「内定時に雇用契約が成立する」とされています。
労働基準法第15条第1項および労働基準法施行規則第5条第1項では、企業が労働者を雇うとき、書面で労働条件を明示するように義務付けられています。
つまり、内定した時点で企業は内定者に対して労働条件を明示しなければなりません。
ただし、内定から入社までの期間が長いケースは多いため、正式入社前は簡易的な明示も認められています。
具体的には、初任給は見込額で示すといった対応をしている企業が存在します。
内定通知書の送付は、内定者との雇用契約の成立と簡易的な労働条件の通知といった意味を持ちます。
労働条件を明示する方法は、
- 内定通知書に記載する
- 内定通知書に労働条件通知書を同封する
などがあります。
内定通知書の法的な効力
労働契約法第6条では、労働契約は「労働者と使用者が合意することによって成立する」と規定されています。
つまり、企業と内定者が入社について合意する「内定」も、労働契約とみなされるのです。
内定通知書が送付されると、企業と内定者との間に「始期付解約権留保付労働契約」が成立します。
これは、契約の開始時期が決定していて、内定取り消し事由に基づく労働契約の解約権が企業に留保されている状態です。
内定者にとって懸念点である内定取り消しは、労働契約の解約(解雇)にあたります。
労働契約法第16条では解雇権の濫用は禁止されているため、正当な理由がない限り内定取り消しはできません。
内定取り消しが認められる理由として、以下が挙げられます。
- 在籍校の卒業資格が得られなかった(留年した)
- 業務で必要な免許や資格が取れなかった
- 健康状態の悪化で就業ができなくなった
- 経歴や各種書類に虚偽記載があった
- 罪を犯した
内定通知書を送付した時点で、内定者との雇用契約が成立し、客観的に正当な理由がない限りは簡単に内定取り消しができない点に注意しましょう。
内定の承諾後でも内定辞退は可能なのか
民法第627条1項を参照すると、内定者は入社する2週間前までに申し出れば、内定を辞退できます。
内定通知書を発行して労働契約が成立しているとしても、タイミングによっては内定者から内定辞退の申し出があるかもしれません。
入社2週間前であれば内定辞退を企業は拒否できないため、内定辞退を防ぐようにフォローアップをする必要があるでしょう。
例えば、
- 内定者同士の懇親会の開催
- 先輩社員との交流会の実施
- スキルアップセミナーへの招待
- 人事担当者との面談
などが有効です。
内定者の疑問や不安を解消する機会を定期的に設け、自社への熱意が冷めないよう配慮することが大切です。
発行義務の有無
内定通知書は必ずしも発行される書類ではありません。
内定通知書の発行義務はないため、送付するかどうかは各企業の判断に委ねられます。
ただし、雇用契約の成立とともに労働条件の明示が義務付けられている点は注意が必要です。
中途採用者にも送付されるのか
内定通知は新卒採用者のみと思われがちですが、中途採用者にも送付されるケースは多くあります。
しかし内定通知書の発行義務はないため、中途採用だからといって必ずしも内定通知書を作成する必要はありません。
中途採用者にも送付するかどうかは、企業の判断に委ねられます。
内定通知書に同封する書類
内定通知書を内定者に送るとき、同封されることの多い書類が2つあります。
それは、
- 内定承諾書
- 労働条件通知書
です。
「内定承諾書」とは、採用候補者が企業からの内定に同意するための書類です。
企業から内定通知書を発行し、採用候補者が内定承諾書を記入することで、内定通知書に記載の労働条件に合意が得られたと言えます。
「労働条件通知書」は、入社後の待遇について記載された書類です。
具体的には、
- 就業場所
- 業務内容
- 給与の目安
- 休日
などの労働条件が記載されています。
労働基準法において、労働者に労働条件を明示することは企業の義務とされています。
労働契約が成立する内定時に労働条件を明示する必要があるため、内定通知書とともに送付されるケースが多いでしょう。
内定通知書と労働条件通知書は1つにまとめることも可能です。記載内容に不足がないように注意しながら書類を作成しましょう。
労働条件通知書と採用通知書との違い
採用候補者へ送付する書類は複数あり、それぞれ役割が異なります。
内定通知書とよく似た書類に
- 労働条件通知書
- 採用通知書
があります。
これらとの違いを解説します。
内定通知書 | 労働条件通知書 | 採用通知書 | |
目的 | 内定を知らせる (労働契約を結ぶ) |
入社後の労働条件を明示 ※入社後の変更は任意 |
採用決定を知らせる (企業から一方的な通知) |
発行義務 | なし | あり | なし |
法的効力 | あり | あり | なし |
内定通知書も採用通知書も、採用候補者に採用を知らせる書類です。
内定通知書を送付するのは入社の意思が確認できている段階であるため、内定通知書を送付後に取り消しはできません。
一方、採用通知書は企業から一方的に送付する書類です。採用候補者は採用通知書を受け取ってから、入社するかどうか検討します。
そのため、内定通知書と違って採用通知書は法的効力を持ちません。
なお、内定通知書と採用通知書は発行義務がありませんが、労働条件通知書は発行が義務付けられているのも大きな違いです。
内定通知書の記載内容
内定通知書の発行は任意のため、様式は企業によって異なります。
自由度が高いからこそ記載内容は迷いやすいものです。
内定通知書には、以下の項目を含めると良いでしょう。
- 発行日
- 採用候補者の氏名
- 社名
- 代表取締役の氏名
- 応募に対するお礼の言葉
- 採用決定のお知らせ(通知本文)
- 入社年月日
- 就業場所
- 入社までに提出が必要な書類
- 書類の提出期限
- 内定承諾書の返送期限
- 内定取り消し事由
- 採用担当者
- 採用担当者の連絡先
内定通知書には、これらの内容を記載するのが一般的です。
労働条件通知書と兼用するなら、上記の項目に加えて、就業時間や給与などの条件を明記しましょう。
内定通知書を送付するタイミング
内定通知書はいつまでに送付しなければならないといった決まりはありません。送付のタイミングは各企業の判断で決められます。
一般的には、最終面接の7日から10日後までに送付されます。
あまり時間を置くと、その間に優秀な人材が他社に内定する可能性があるため、内定通知書の送付はスピーディに行われます。
採用候補者にとっても早期に内定通知書が届くと、安心感と企業への愛着心が増大するため、好印象を与えます。
ただし、早ければ良いとは言い切れない点は注意が必要です。
新卒採用者への内定通知は「卒業・修了年度の10月1日以降」でなければ送付できません。
これは、日本政府によって内定通知時期が定められているためです。
内定通知書に関してよくある質問
内定通知書に関して、以下の2つの疑問を抱く人は多いです。
- 内定通知書に押印は必要?
- 正社員以外に対しても内定通知書は必要?
これらはフォーマットや明確なルールがないからこそ、迷いやすいポイントです。
それぞれ解説します。
内定通知書に押印は必要?
内定通知書に押印は必要ありません。
記載内容に決まりはないため、押印してもしなくても良いと言えます。
「内定通知書の送付で雇用契約が成立するなら押印が必要なのでは?」と疑問に思うかもしれません。
雇用契約は口頭でも成立するとされており、押印がないからと言って契約不成立とはならないのです。
ただし、可能なら押印をすることをおすすめします。
企業が発行した書類だと証明しやすくなりますし、悪用を防ぐことができます。
正社員以外に対しても内定通知書は必要?
内定通知書を発行する対象は、様式や送付タイミングと同様に企業が自由に決定できます。
そのため、正社員以外の雇用形態であっても発行して問題ありません。
企業によっては、正社員のみに内定通知書を発行したり、正社員のほか契約社員にも発行しているところがあります。
内定通知書は、書面でやり取りを残せる点でメリットがあります。
内定者は正式な書面を受け取ることで仕事への意欲を高められるので、可能な限り内定通知書を発行すると良いでしょう。
まとめ
内定通知書の概要や作成や送付時のポイントをお伝えしました。
類似する書類もいくつかあるので、それぞれの役割と違いを意識しながら使い分けましょう。
内定通知書は、内定者と企業の意思を確認する大切な書類です。
本記事を参考に、採用活動や内定者獲得に役立ててください。