派遣や業務委託は、人材の確保や業務を依頼できる非常に便利なサービスです。
「人手が足りない」「この業務をできる人が社内にいない」などの場合、派遣や業務委託を利用する企業も多いでしょう。
両者は、どちらも外部に依頼する形態のため混同されがちですが、その内容は全く異なり、違いを理解していないと、トラブルに発展する可能性があります。
この記事では、派遣と業務委託それぞれの特徴やメリット・デメリットなど、派遣契約と業務委託契約について詳しく解説いたします。
契約書の記載事項や派遣雇用の禁止事項、偽装請負とみなされるケースについてもご紹介していますので、是非ご覧ください。
派遣とは?
派遣とは、派遣会社が雇用している従業員を派遣先企業に派遣し、特定の業務を行う契約です。
一定期間、派遣先企業の指揮命令に従って業務を遂行しますが、正社員や契約社員などのように、派遣先企業と派遣スタッフが雇用契約を結ぶわけではありません。
そのため、福利厚生の適用や就業規則、給料・社会保険料の支払いは、派遣元の規定に準じることになります。
派遣を利用するメリット
では、企業が派遣を利用するとどのようなメリットを得られるのでしょうか。
コスト削減に繋がる
自社従業員に支払う給料には、各種社会保険料や福利厚生費など様々な費用が含まれています。
しかし、派遣スタッフと派遣先企業の間に雇用関係はないため、派遣先企業が支払うのは派遣会社から提示された「時間単価×実働時間」のみです。
また、派遣は業務量に応じて必要な期間だけ依頼することができます。
派遣を利用すると固定費削減に繋がるため、正社員を雇用するよりもコストを抑えられるのです。
業務効率化が実現する
決算期や年末調整、サービス業の繁忙期など、時期によって業務量が変わる企業は多いです。
しかし、新たに人を雇用するとなるとコスト増大に繋がりますし、既存社員のみで回すとしても、長時間労働の発生や多忙による人為的ミスが発生しやすくなります。
一方、派遣は業務内容に適した人材を、必要な時期に必要な人数だけ派遣してもらえるサービスです。
書類整理や伝票処理といった定型業務を派遣スタッフに任せれば、既存社員は高度な判断が要求されるコア業務に専念できるようになるため、業務効率化が実現します。
また、人手が増えて既存社員の負担が減少すれば、長時間労働や人為的ミスの防止にも繋がるでしょう。
採用活動の期間を短縮できる
求人募集を行う場合、求人原稿の作成や応募者対応、面接などの工程が発生するため、採用活動開始から勤務開始まで2~3週間を要するのが一般的です。
しかし、派遣であれば、仕事を依頼するだけで業務に応じた適切な人材が、派遣会社から派遣されてきます。
業務によっても異なりますが、早ければ依頼してから数日で必要な人材を確保することが可能です。
採用活動に掛かる工程を大幅に削減できるため、採用担当者の負担も軽減できるでしょう。
派遣を利用するデメリット
派遣を利用すると、様々なメリットがあることが分かりました。
正しく理解するためにも、派遣を利用するデメリットについても把握しておきましょう。
育成コストが掛かる
派遣を利用するデメリットとして、育成コストが挙げられます。
派遣スタッフへの指示や教育、引き継ぎの説明などは、派遣先企業が行わなくてはなりません。
また、有期雇用派遣の場合「派遣3年ルール」により、長期間の勤務ができないため、派遣スタッフが変わるたびに育成コストが掛かることは念頭に置いておきましょう。
業務が制限される
派遣スタッフは、派遣者労働法によって「契約書に記載された業務」のみを行うよう規定されているため、正社員のように柔軟に業務を依頼することはできません。
また、派遣スタッフは就業期間に定めがあるため、長期的なプロジェクトに関わる場合、途中で派遣契約が終了してしまうこともあります。
引き継ぎが十分にできていないと、トラブルが発生する可能性もあるため、長期間に渡る重要な業務は適していません。
ただし、派遣期間終了後に直接雇用することを前提とした「紹介予定派遣」や「無期雇用派遣」であれば、長期間の勤務が可能です。
帰属意識が希薄
派遣スタッフは限られた期間だけその企業で働くため、自社の社員と比べると帰属意識が低い傾向にあります。
契約終了後に情報漏えいが起こる可能性も考えられるため、
- コンプライアンスやセキュリティに関する研修を行う
- 派遣スタッフがアクセスできる範囲を限定的にする
といった、対策を講じる必要があるでしょう。
もちろん、派遣スタッフ全員の帰属意識が低いわけではありませんが、万が一の事態を想定した対策は重要です。
業務委託とは?
業務委託とは、自社で対応できない業務を外部(他企業・個人)に委託する契約のことです。
雇用契約は結ばず、相手側が業務を受託することで契約が成立します。
実務上、業務委託契約という名称を使うことは多いですが、日本の法律に「業務委託契約」の名が付く契約はありません。
業務委託契約は「請負契約」「委任契約」「準委任契約」を総称する言葉です。
派遣と違い、業務委託契約は発注者側に指揮命令権がないため、業務の進め方や労働時間などの指示は行えません。
この違いを認識していないと、大きなトラブルに発展してしまうため、派遣と業務委託では、指揮命令権が異なることを理解しておきましょう。
請負契約
請負契約とは、成果物に対して報酬を支払う契約のことです。
例えば、
- ロゴマークのデザインを外部に依頼
- 社内システムの構築を外部に依頼
- マイホームの建築を工務店に依頼
などが請負契約に該当します。
請負契約は成果物を納品する責任を負うため、期日までに完成させなくてはなりませんし、成果物にミスや欠陥があった場合、損害賠償を請求されることもあります。
委任・準委任契約
委任・準委任契約とは、行為の遂行に対して報酬を支払う契約のことです。
委任・準委任は、依頼する業務内容が法律行為かどうかによって異なります。
具体的には、弁護士や税理士など士業へ依頼する業務は「委任契約」、法律行為とは関係ない業務を依頼する場合が「準委任契約」です。
委任・準委任契約には、
- 税理士に会計業務を依頼(委任)
- ビル清掃を依頼(準委任)
- サイトの保守管理を依頼(準委任)
などが該当します。
委任・準委任契約は「行為の遂行」のみを求められるため、請負契約のように成果物に対する責任は負いません。
業務委託を利用するメリット
つづいて、業務委託を利用するメリットについて見ていきましょう。
社内の人材を有効に活用できる
業務委託は、「専門知識やスキルが必要な業務を依頼する」「定型的な業務を依頼する」など、特定の業務を外部に依頼することができます。
社内の人材に合わせて必要な人材を手配することができれば、自社の人材を有効に活用しながら新規事業や新サービスの提供も実現できるでしょう。
また、負担の大きかった定型業務から解放されることで、自社従業員の負担が軽減され、コア業務に注力できるようになります。
コストを削減できる
専門性の高い人材を社内で育てるとなると、相当な手間と時間が掛かりますし、こういった人材は採用難易度が高いため、採用コストも高くなりがちです。
また、正社員として雇用すれば毎月人件費が発生しますが、業務委託は雇用契約を結びません。
必要な時だけプロに依頼し、支払いは成果物や業務遂行に対する報酬のみで済むため、採用・教育・常時雇用に掛かるコストを削減できます。
必要な時だけ依頼できる
業務委託は、必要な時だけ依頼することができる柔軟性の高さが大きなメリットです。
継続的に依頼しなくてはならないわけではないため、依頼した成果物などの結果を見て、契約を続けるかどうか判断することができます。
業務委託を利用するデメリット
では、業務委託を利用するとどのようなデメリットがあるのでしょうか。
社内にノウハウが蓄積されない
業務委託の場合、受託者は自社従業員ではないため、依頼した業務の知識やノウハウが自社に蓄積されることはありません。
知識やノウハウのない業務を委託した場合、その業務は継続的に委託することになってしまうため、コストが高くなる可能性もあります。
依頼する業務にもよりますが、定例ミーティングやレポート提出の実施を契約内容に盛り込んでおけば、ある程度の知識やノウハウを得ることも可能でしょう。
報酬が高くなることもある
業務委託の報酬は、知識やスキルを要するものほど高くなるのが一般的です。
そのため、専門性の高い業務を依頼する場合、従業員を雇用するよりもコストが高くなる可能性があります。
また、イレギュラー対応が必要となった場合、追加料金の発生によって支払う報酬が高額になることもあります。
委託する業務の選定や自社従業員で賄う手間・コストを加味した上で、利用を検討しましょう。
派遣契約について
派遣と業務委託の違いやそれぞれのメリット・デメリットが分かりました。
ここでは、派遣会社と派遣先企業で締結される「労働者派遣契約」についてご紹介いたします。
個別契約
個別契約とは、派遣スタッフの就業条件を取り決めるための契約です。
個別契約では、
- 業務内容
- 就業先の企業情報
- 派遣期間
- 就業日/就業時間/休憩時間
- 派遣人数
などの具体的な就業条件が記載されています。
尚、基本的には個別契約だけでも契約は成立します。
但し、同種の個別契約が頻発する場合は、以下で説明する基本契約を結んだ上で、各スタッフに合わせて個別に契約を締結すれば契約作業の効率化を図ることができます。
基本契約
基本契約とは、企業間で取引に関する基本事項を取り決めるための契約です。
基本形では、
- 契約期間
- 派遣料金の計算・支払い方法
- 守秘義務
といった、派遣元と派遣先の両社が確認すべき、基本的な事項が記載されています。
契約書の記載事項
「個別契約」と「基本契約」の違いが分かったところで、それぞれの契約書に盛り込むべき記載事項について把握しておきましょう。
個別契約
個別契約は、派遣スタッフの就労条件に結びつくため、法律で記載するよう定められている「法定事項」が主な記載事項です。
個別契約書の記載事項例
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事項 | 内容 |
---|---|
派遣先 | 派遣先企業の名称や住所 |
就業場所 | 就業場所や部署名、電話番号 |
指揮命令者 | 指揮命令者の部署名や肩書き、氏名 |
派遣先責任者 | 派遣先責任者の部署や肩書き、氏名 |
派遣元責任者 | 派遣元企業の名称、責任者の部署や肩書き、氏名、電話番号 |
業務内容 | 具体的な業務内容 |
派遣期間 | 就業期間を年月日で記載 |
受け入れ制限の抵触日 | 派遣受け入れ期間の制限に抵触する日にち |
就業条件 | 就業日や就業時間、休憩時間 |
時間外労働 | 休日労働や時間外労働の有無、程度 |
安全・衛生 | 安全衛生に関する事項 |
苦情処理 | 派遣先・派遣元双方の苦情受付者の情報 |
派遣人数 | 派遣してもらう人員数 |
料金 | 請求単価や超過単価、残業単価など |
支払い方法 | 締め日や支払い日 |
許可・届出受理番号 | 派遣元の許可・届出番号 |
※参考:厚生労働省「第7 労働者派遣契約」
尚、個別契約書に関する詳細に関しましては、厚生労働省「第7 労働者派遣契約」をご参照ください。
基本契約
基本契約書には、労働者派遣に関する取引の基本的な事柄を記載するため、一般的には派遣先企業が変わっても同じ内容で契約が交わされます。
基本契約書の記載事項例
事項 | 内容 |
---|---|
目的 | 契約締結の趣旨 |
個別契約 | 個別契約締結や個別契約で定める事項など |
受け入れ期間 | 派遣労働者の受け入れ期間の制限や抵触日通知など |
適正な就業の確保 | 安全性の確保や指揮命令など |
労働者の交替 | 派遣労働者を交替させる場合の事項 |
業務上災害 | 業務上の災害における取り扱いなど |
派遣料金 | 派遣料金の計算や支払い方法、支払い時期など |
有給休暇 | 有給申請時の対応方法 |
守秘義務 | 業務上知りえた企業・個人情報の守秘 |
契約期間満了の予告 | 契約更新しない際の予告 |
直接雇用の禁止 | 派遣期間中の直接雇用を禁止する定め |
損害賠償 | 派遣先に損害を与えた際の損害賠償 |
契約解除 | 契約解除や中途解除の定めなど |
有効期間 | 契約の有効期間など |
合意管轄 | 紛争時の管轄裁判所 |
※参考:厚生労働省「第7 労働者派遣契約」
尚、基本契約書に関する詳細に関しましては、厚生労働省「第7 労働者派遣契約」をご参照ください。
派遣の禁止事項
派遣には、労働者派遣法などで禁止されている事項がいくつか存在します。
トラブルを回避するためにも、事前に把握しておきましょう。
契約の解除
労働者派遣法により、派遣労働者の国籍や性別、信条、社会的身分といった、正当な理由なく労働者派遣契約を解除することを禁じています。
不当な解雇と判断された場合、損害賠償請求される可能性があるため、注意が必要です。
また、派遣先の都合で契約解除をする場合、休業手当の支払いに必要となる費用負担など、労働者の雇用を安定させるための措置を講じなくてはなりません。
事前面接禁止
派遣労働者の直接雇用を前提とした「紹介予定派遣」を除き、派遣先企業が派遣労働者を特定して受け入れることはできません。
例えば、
- 就業開始前の面接
- 履歴書などの提出要請
- 性別の限定
などが挙げられます。
このような行為は「派遣労働者保護に反する恐れがある」として、労働者派遣法で禁じられていますので、注意が必要です。
派遣の引き抜き
派遣の引き抜き自体を禁ずる法律はありませんが、ほとんどの派遣会社は契約書に「直接雇用の禁止」を盛り込んでいます。
直接雇用を禁じられているにも関わらず、派遣期間中に派遣労働者を引き抜いてしまうと、違約金や損害賠償を請求される可能性があります。
ただし、労働者派遣法では、下記の通り雇用関係終了後の雇用制限を禁止しているため、契約期間満了後であれば、直接雇用を禁ずることはできません。
第33条(派遣労働者に係る雇用制限の禁止)
“派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者(派遣先であつた者を含む。次項において同じ。)又は派遣先となることとなる者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない。”
二重派遣
二重派遣とは、派遣契約を結び労働者を受け入れた企業が、自社の業務に就かせることなく、別の企業へ派遣する行為のことです。
例えば、
- A社からB社に派遣されたスタッフをC社に派遣し、報酬を得る
- 発注企業と異なる企業が派遣スタッフに直接指揮命令を行う
などの場合が二重派遣に該当します。
派遣社員がたらい回しにされてしまったり、契約上の指揮命令者と実務上の命令者が異なったりすると、労働搾取や責任の所在が曖昧になるといった事態が生じます。
そのため、職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)、労働基準法第6条(中間搾取の排除)により、明確に禁じられているのです。
二重派遣と判断された場合、懲役または罰金刑が科される可能性があります。
偽装請負
偽装請負は、請負(業務委託)で契約したにもかかわらず、実態は注文者の指揮命令下にあることを言います。
業務委託と派遣の大きな違いは、指揮命令権の有無です。
業務委託契約は注文者に指揮命令権がないため、指揮命令を行った上で業務に従事させる場合「派遣」または「直接雇用」に該当します。
このように、契約と実態が異なる状況を請負偽装と言い、労働者派遣法により禁じられています。
偽装請負と判断された場合、労働者派遣法や職業安定法違反となり、懲役または罰金刑が科される可能性があるため、注意が必要です。
また、二重派遣や偽装請負が行われた場合、受け入れた側は「労働契約申込みみなし制度」の適用を受ける可能性があります。
これは、派遣先が派遣労働者に直接雇用の申し込みをしたとみなす制度のことで、派遣元と同一の雇用条件で当該労働者を雇用する義務が生じるものです。
偽装請負とみなされるケース
偽装請負の判断は、「指揮命令の実態がどこにあるか」がポイントです。
そのため、
- 注文者が直接指揮命令を行っている
- 就業時間や残業時間を指定する
- 注文者が業務遂行者を指定する
- 自社の服務規程を守るよう通達する
といったケースは、偽装請負とみなされます。
注文者が直接指揮命令を行っている
業務委託契約で受託先に求められることは、業務の遂行・納品です。
業務進め方や労働時間は受託先の裁量に一任されるため、注文者に指揮命令権はありません。
例えば、「システム開発を依頼した注文者がエンジニアに対して、業務の細かい指示を出している」などは、偽装請負とみなされます。
就業時間や残業時間を指定する
業務委託契約で業務に従事する労働者は、外部の人材です。
直接雇用していない外部の労働者に対して、始業・終業・休憩といった就業時間や残業時間、休日を指定することはできません。(労働時間を把握することは可能)
受託先企業が労働者へ指示する分には問題ないため、労働時間に対する要望がある場合は、受託先の責任者に相談しましょう。
注文者が業務遂行者を指定する
業務委託契約の場合、従事させる人材を選定するのは受託先企業です。
注文者が「この仕事を○○さんに任せたい」「この業務には〇人で当たってほしい」と指定することはできません。
また、従事する労働者の評価を行うことも偽装請負とみなされてしまうため、注意が必要です。
自社の服務規程を守るよう通達する
先述の通り、業務委託契約によって従事する労働者は、受託先企業の従業員であり、注文者に指揮命令権はありません。
そのため、受託先の労働者に対して、自社の服務規定に従うよう通達したり、管理しようとしたりする行為は、偽装請負とみなされます。
ただし、受託先企業が自社従業員に対して、注文者の服務規定を通達する行為は問題ありません。
派遣と業務委託の違いをしっかり認識することが重要
派遣と業務委託の大きな魅力は、企業の都合に合わせて人員を確保したり、仕事を依頼したりできる点です。
必要な時だけ業務遂行に適した人材に依頼できるため、コスト削減に繋がります。
派遣と業務委託は、どちらも外部に依頼するため混同されがちですが、その性質は全く異なります。
両者は「指揮命令権の有無」によって区別されるため、この違いを認識していないと「知らないうちに請負偽装をしていた」という事態に陥りかねません。
どのような違いがあるのかを把握した上で、派遣や業務委託を利用しましょう。