MBOで人材マネジメントを行っている企業は多いですが、ビジネス環境が目まぐるしく変化する近年、MBOでの対応に限界が来つつあります。
そこで注目されているのが、より短期的に面談を行う「パフォーマンスマネジメント」です。
この記事ではパフォーマンスマネジメントの概要や特徴、MBOとの違い、メリット・デメリットについて詳しく解説いたします。
またパフォーマンスマネジメントの必要性や導入のポイント、注意点、企業事例もご紹介しますので、ぜひご覧ください。
パフォーマンスマネジメントとは?
パフォーマンスマネジメントとは、従業員一人ひとりの能力やモチベーションを引き出し、チームや企業の目標達成に結びつけることを目的とした人材マネジメント手法です。
パフォーマンスマネジメントでは、「どうしたら目標達成につながるか」を部下と一緒に考え、実際の行動結果をもとに上司がフィードバックやコーチングを行います。
上司は、部下が自主的に考えて行動することで気づきを促し、能力やモチベーションの向上につながるように導きます。
一方、部下には「目標達成のためにはどうしたら良いか」を把握し、試行錯誤しながら成長していく自主性が必要です。
海外では、MBO(目標管理制度)に代わるマネジメント手法として注目されており、多くの企業で取り入れられています。
パフォーマンスマネジメントのサイクル
一般的なパフォーマンスマネジメントは、計画~計測・評価のステップを繰り返し行います。
計画
従業員一人ひとりと期待値のすり合わせを行い、「組織の目標達成に向けて何をするべきか」目標を定める
観察
行動結果をもとに適切なフィードバックを行い、必要に応じて目標を修正する
レビュー・向上
目標に対する進捗状況の確認と、達成に向けたコーチングを行う
計測・評価
目標達成度合いの計測と評価を行う
このステップを繰り返し行い、従業員のモチベーションやパフォーマンスの向上を目指します。
パフォーマンスマネジメントの特徴
パフォーマンスマネジメントには、
- コミュニケーションを頻繁に行う
- コーチングを重要視する
- 短期スパンのフィードバック
- 強みを重視する
といった特徴があります。
コミュニケーションを頻繁に行う
パフォーマンスマネジメントは、上司と部下のコミュニケーションが活発です。
というのも、パフォーマンスマネジメントは、部下が行動した結果に対して適宜フィードバックを行うため、必然的にコミュニケーションが頻繁になります。
定期的なコミュニケーションを行うことで、
- 業務進捗の確認ができる
- 軌道修正が容易で、目標達成に導ける
- フィードバック内容を参考に業務をするため、効率よく進められる
- 良好な人間関係を築ける
などの効果が期待できます。
コーチングを重要視する
パフォーマンスマネジメントにおいて重要なのは、フィードバックやコーチングです。
パフォーマンスマネジメントの主軸は「目標達成のためにどうするべきか」であるため、基本的に面談で過去の評価を話し合うことはありません。
例えば、「次はこんな風にしてアプローチしてみよう」「こういう対策を取り入れて目標達成を目指そう」のように、未来視点で伝えられます。
部下の自主性を尊重し、目標達成に向けてどんな風に成長していけば良いのかを対話によってコーチングするのが特徴です。
短期スパンのフィードバック
MBO(目標管理制度)は、半年または1年ごとの長期スパンで、フィードバックを行います。
一方、パフォーマンスマネジメントは、メンバーのアクション結果に対して適宜フィードバックを行うため、数週間~数ヶ月ごとの短期スパンです。
フィードバックのスパンが短いため、目標の再設定やアクションプランの変更も容易に行えます。
強みを重視する
パフォーマンスマネジメントでは、主に目標達成に向けた取り組みについての話し合いが行われます。
目標達成には、各メンバーの強みを把握した上で、その能力が発揮できるような機会を作ることが重要です。
よって、パフォーマンスマネジメントは、各メンバーの強みを重視するのが特徴です。
目標管理制度(MBO)との違い
MBO(目標管理制度)とは、「目標設定・アクション・結果・評価」のステップを繰り返す人材マネジメント手法です。
1サイクルを1年と考え、評価は1サイクル中に1~2回程度行います。「行動計画通りに行動できているか」「目標達成できたか」を評価します。
パフォーマンスマネジメントも同様のステップを踏みますが、結果に至るまでのプロセスについても評価する点が異なります。
またパフォーマンスマネジメントは、評価・フィードバックの回数も限定しないため、面談の頻度も大きな違いでしょう。
MBOの問題点
従来はMBOによるマネジメントが活発に行われてきましたが、近年ではパフォーマンスマネジメントに切り替える企業が増えています。
なぜ、パフォーマンスマネジメントにシフトしつつあるのかMBOの問題点を見ていきましょう。
ビジネス環境にそぐわない
MBOは半年~1年の活動結果を評価し、処遇や育成計画に反映する手法です。
こうした長期スパンのサイクルは、ビジネス環境の変化が緩やかな時代には問題なく機能するものの、変化スピードの速い環境には向いていません。
近年のビジネス環境はインターネットの普及やグローバル化の影響により、変化スピードが非常に速くなっています。
刻々と変わるビジネス環境に対応するには、世の中の変化に合わせて柔軟に対応しなくてはなりません。
半年や1年ごとのサイクルで目標管理を行っても、変化についていけず他社に後れを取ってしまうため現在のビジネス環境にそぐわなくなりました。
評価にかかる時間と労力が膨大
MBOは半年または1年ごとに評価を行うため、評価者は膨大な手間と時間をかけて、部下の行動や成果を確認しなくてはなりません。
評価対象者が多いほど、評価にかかる時間や手間は増えますし、時間が経ちすぎていて記憶が薄れてしまうこともあるでしょう。
また時間の経過が長くなるとフィードバックの具体性も失われやすくなるため、被評価者である部下の納得感低下や不満につながります。
モチベーション向上や成果に結びつきにくい
長期サイクルで行うMBOは、評価やフィードバックの具体性が失われがちです。
具体性のない評価・フィードバックを行っても部下に納得感を与えることはできないため、組織への不信感につながる可能性があります。
また実態に即したフィードバックでなければ、学びに結びつけることも困難でしょう。
よって、MBOはモチベーション向上や成果に結びつきにくいマネジメント手法と言えます。
パフォーマンスマネジメントの必要性
日本では、少子高齢化の影響による人材不足が深刻化しています。
採用競争が激化している中、企業が生き残るには刻々と変化するビジネス環境への柔軟な対応や、既存従業員の生産性向上が欠かせません。
また変化スピードの早いビジネス環境においては、状況に応じて計画を変更し世の中のニーズに対応する柔軟性も必要です。
パフォーマンスマネジメントは、組織の戦略や目標を従業員一人ひとりの目標と連動させます。
そして部下が結果を出したらすぐに上司がフィードバックを行うため、スピード感のある経営が実現します。
評価内容を学びに結びつけやすく生産性向上にもつながるため、ビジネス環境の変化スピードが速い現代において、フィードバックマネジメントの必要性が高まったのです。
パフォーマンスマネジメントのメリット
ここでは、パフォーマンスマネジメントを取り入れるメリットについてご紹介いたします。
従業員エンゲージメントの向上
パフォーマンスマネジメントは定期的に面談でフィードバックを行うため、上司と部下のコミュニケーションが活発化します。
コミュニケーションが活発化すると上司や組織への理解が深まるため、従業員エンゲージメントの向上につながります。
実際、NeuroLeadership Instituteの調査結果によると2年以上パフォーマンスマネジメントに取り組んでいる大半の企業で、会話の質・量ともに向上していることが判明しました。
さらにエンゲージメントを公式に追跡調査している企業においては、「100%エンゲージメント(企業への愛着心)に向上が見られた」と発表されています。
エンゲージメントと企業の収益性は相関関係にあることから、従業員エンゲージメントが高まれば、企業の収益増大にもつながるでしょう。
またエンゲージメントの向上は、離職率低下にも役立ちます。
従業員のモチベーションや主体性の向上
パフォーマンスマネジメントを行うと、部下は面談を通じて行動結果への自覚や自分の役割、取り組むべき課題について正確に把握することができます。
また上司からサポートも受けられるため、「目標を達成したい」「評価してもらいたい」という心理が働きやすくなり、主体的に仕事に取り組むようになります。
このように、パフォーマンスマネジメントは、従業員のモチベーションや主体性を向上させる効果が期待できるのです。
上司と部下の信頼関係構築
パフォーマンスマネジメントは部下が行動結果を出す度に上司がフィードバックを行うため、必然的にコニュニケーションの量や質が向上します。
上司は目標に対する進捗状況や成長度合い、能力などをタイムリーに把握することができるため、部下への理解が深まるでしょう。
部下は自分を理解してくれる上司から具体的なコーチングを受けられるため、高いモチベーションで仕事に取り組めるようになります。
コミュニケーションの量や質が高まることで、意見交換しやすくなるため、信頼関係を構築しやすくなります。
パフォーマンスマネジメントのデメリット
パフォーマンスマネジメントを導入すると、様々な効果を得られる反面、デメリットも存在します。
パフォーマンスマネジメントの効果を最大限発揮するためにも、デメリットを把握しておきましょう。
評価者のエンゲージメント低下
パフォーマンスマネジメントはフィードバックやコーチングを行いますが、基本的にMBOでは部下をコーチングしません。
そのため、MBOからパフォーマンスマネジメントに切り替えた場合、評価者である上司が混乱する可能性があります。
パフォーマンスマネジメントはコミュニケーションありきのマネジメントなので、コミュニケーションが苦手な評価者の場合、エンゲージメント低下を招くこともあるでしょう。
大幅にマネジメント手法が変わる場合は、
- コーチング方法のマニュアルを作成する
- コーチング研修を実施する
など、管理者がスムーズに対応できるよう工夫することが重要です。
コストと効果が釣り合わない
パフォーマンスマネジメントは結果が出たらすぐに面談を行うため、それなりに評価者や被評価者の時間が取られます。
面談中は実務を行えないので、人件費だけがかかっている状態です。
時間をかけて面談を行っても必ず成果に結びつくとは限らないため、コストの方が高くつく可能性があります。
評価・フィードバック・コーチングの工夫や、人材管理ツールの活用で、面談時間を短縮させる必要があるでしょう。
パフォーマンスマネジメントを導入する際のポイント
ここでは、パフォーマンスマネジメントの導入時のポイントについてご紹介いたします。
目標設定
パフォーマンスマネジメントは、企業の目標・戦略と個人の目標が結びついていることが重要です。
したがって、まずは経営戦略や事業目標の把握から行う必要があります。
企業の目標・戦略が分かったら、それに対する個人・チームの目標と取るべき行動を考え、上司と部下が話し合って「目標」と「成果の基準」を決定します。
このとき部下にやらせたいことを押しつけないよう注意しましょう。やらされている感が出てしまうとモチベーション低下につながります。
コーチング
パフォーマンスマネジメントには、コーチングが欠かせません。
コーチングに慣れていない場合、上司から部下に対して、一方的に目標や目標達成のための行動を伝えてしまうことがあります。
しかし上司が答えを伝えてしまうと、部下の気づきの機会を奪い、当事者意識を持たせることが困難になるため、注意が必要です。
コーチングを行う際は、あらかじめ部下の能力やパフォーマンスを把握しておき、上司は聞き役に徹しましょう。
相手の答えを引き出すよう、問いかけや提案を行いながらサポートすることで、主体性を育むことができます。
フィードバック
パフォーマンスマネジメントは、従業員へのフィードバックやコーチングを重視したマネジメント手法です。
そのためフィードバックマネジメントでは、従業員のランクづけや振るい分けによる評価は行いません。
個人の目標達成度よりも、一人ひとりが目標と、それを達成するためのプロセスを理解した上で、各々が能力を発揮できる環境を作ることが大切です。
データや数値にもとづいたフィードバックを行うと課題や解決策が見えやすくなるため、部下に納得感を与えられます。
また、パフォーマンスマネジメントには能力やモチベーションを引き出す目的もあるため、従業員のモチベーションが低下しないよう十分配慮する必要があります。
パフォーマンスマネジメント導入時の注意点
つづいて、パフォーマンスマネジメントを導入する際の注意点についてご紹介いたします。
評価者の意識改革を行う
評価者である管理職の意識改革を行いましょう。
というのも、パフォーマンスマネジメントは、目標達成に向けて部下のパフォーマンスやモチベーションが向上するよう導かなくてはなりません。
評価者である上司が「何をどのように伝えるか」によって、部下のモチベーションや意識が変わってきます。
パフォーマンスマネジメントの成否は、評価者次第と言っても過言ではないため、評価者の意識改革が必要不可欠なのです。
管理職のコミュニケーション力を向上させる
パフォーマンスマネジメントは、フィードバックやコーチングを行うため、コミュニケーション力が必要です。
しかし、現在管理職に就いている世代は、コミュニケーションの重要性を説かれる前に社会人になった層が多いため、コミュニケーションに課題を抱えているケースもあります。
したがって、パフォーマンスマネジメントを導入する前に、研修などで管理職のコミュニケーション力を向上させる必要があります。
会社全体で取り組む
パフォーマンスマネジメントは、組織の目標達成に向けて、チームや個人に目標を落とし込みます。
簡単に言うと、「KGI(最終目標)が組織の目標達成」で、「KPI(中間目標)が個人の目標達成」というイメージなので、会社全体で取り組まなければ意味がありません。
従業員が主体的に動けるよう、経営ビジョンや経営戦略、目標を明確にしましょう。
パフォーマンスマネジメントの導入事例
ここでは、他社がどのようにパフォーマンスマネジメントを取り入れているのか、事例をご紹介いたします。
スターバックスコーヒージャパン株式会社
スターバックスコーヒーのスタッフには、4ヶ月に1度人事考課面談が行われています。
スタッフは個人の成長目標と4ヶ月の振り返り、次の目標を設定した上で面談に臨むため、気づきの獲得機会創出や主体性の育成につながっています。
アドビ株式会社
アドビでは2021年に従来の評価制度を廃止し、マネージャーと部下がフィードバックし合う「Check-in」制度を導入しました。
新人事評価制度の導入に伴い、3ヶ月に1度上司と部下で面談を行うようになってから、従業員エンゲージメントの向上に成功しています。
ゼネラル・エレクトリック
ゼネラル・エレクトリックでは、
- 「9ブロック(仕事の達成度に応じたランクづけによる評価)」
- ランク下位の人材の配置転換やリストラ制度
を廃止し、パフォーマンスマネジメントに移行しました。
新しいマネジメント手法の「パフォーマンス・デベロップメント」では、上司と部下による1on1面談を通じて、従業員のパフォーマンス向上を図っています。
株式会社三栄建築設計
三栄建築設計では、年に2回のフィードバックと5段階評価を廃止、四半期ごとの面談に切り替えました。
これまでの評価を主軸とした面談ではなく、コーチングやサポートによる育成を目的とした面談に取り組んでいます。
ビジネス環境の変化が速い今こそパフォーマンスマネジメントが重要
グローバル化やインターネットの普及により、ビジネス環境は刻一刻と変化しています。
従来のMBOでは、ビジネス環境の変化スピードに対応できないため、パフォーマンスマネジメントへの移行は避けられないでしょう。
パフォーマンスマネジメントは、従業員のモチベーションやパフォーマンス向上につながるため、結果的に組織力の強化にも役立ちます。
MBOを行っている企業は、パフォーマンスマネジメントへの切り替えを検討してみてはいかがでしょうか。