一時帰休は、経営状況が悪化した企業が一時的に従業員を休業させる取り組みです。

 

あまり良いイメージはありませんが、立て直しを図る上では重要な取り組みとなります。

 

ただし、従業員に与える影響も大きいため、実施には慎重な判断と正当な手順が欠かせません。

 

この記事では、いざというときに活用できるよう、一時帰休の概要や休業手当の計算、支援制度について解説いたします。

 

また、実施手順や注意点についてもまとめていますので、ぜひご覧ください。

 

一時帰休とは?「一時解雇(レイオフ)」「リストラ」「自宅待機」との違い

一時帰休とは、業績悪化などで経営難に陥った企業が、人件費削減のために従業員を一時的に休業させる「雇用調整」の一種です。

 

一般的には、売上が減少すると仕事量も減るため、人員が余ります。

 

そのため、余剰人員を休ませて人件費を軽減することで、雇用を維持しながら業績が回復するまでの間をしのぐことができます。

 

ただし、一時帰休はあくまで「休業扱い」のため、企業は従業員に一定以上の補償をしなくてはなりません。

 

労働基準法第26条によると、

(休業手当)

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

e-Gov法令検索「労働基準法

と規定されています。

 

したがって、一時帰休を含めた休業期間中は、当該労働者に「平均賃金の60%以上の賃金」を支払う必要があります。

 

一時解雇(レイオフ)との違い

「一時解雇(レイオフ)」とは、再雇用を前提として、一時的に従業員を解雇する制度です。

 

一時帰休は「休業」であるため、当該従業員との雇用契約は継続しています。

 

一方、レイオフは「整理解雇」に当たります。

 

当該従業員との雇用契約は一旦解消されるため、解雇期間中の賃金支払い義務はありません。

 

ただし、レイオフを実施するには、

  1. 人員削減の必要性
  2. 解雇回避努力
  3. 人選の合理性
  4. 解雇手続きの妥当性

の要件をクリアする必要があります。

 

さらに、「30日以上前の解雇予告」もしくは「解雇予告手当(平均賃金30日分以上)の支払い」も義務づけられています。

 

レイオフは海外で一般的に行われる手法ですが、日本の場合、労働者保護の観点から厳しい基準が設けられているため、一時帰休を選択する企業が多いです。

 

リストラとの違い

リストラ(リストラチャニング)とは、「事業の再構築」を意味する言葉です。

 

本来は、減給や退職の勧奨、配置転換といった、解雇以外のものも含まれます。

 

しかし、解雇によって人件費を削減する企業が多いことから、日本では「リストラ=整理解雇」という意味合いで使われるのが一般的です。

 

よって、整理解雇を意味するリストラと休業扱いの一時帰休では、その性質が全く異なります。

 

また、リストラは再雇用を前提としていないため、レイオフとも違うものです。

 

自宅待機との違い

自宅待機は、労働者の出勤を禁止し、使用者が労務の提供を拒否することです。

 

「使用者の責に帰すべき理由」で自宅待機させる場合は、一時帰休と同様に休業扱いとなるため、休業手当を支払う必要があります。

 

一時帰休中は平均賃金の60%以上を支給!

「使用者の責に帰すべき理由」によって従業員を一時帰休する場合、当該従業員には、最低でも平均賃金の60%以上を休業手当として支払わなくてはなりません。

 

平均賃金の計算方法は、「原則」と「最低保証額」の2種類で、どちらか高い方が平均賃金として採用されます。

 

平均賃金の計算(原則)

労働基準法第12条では、平均賃金は「事由の発生した日以前3カ月間において、当該労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(歴日数)で割った金額」と定めています。

 

原則の計算式=「事由発生日以前の3カ月間の賃金総額÷その歴日数」

 

例)

賃金締切日:月末締め、事由発生日:4月15日、月給:25万円(手当含む)

 

1月~3月までの3カ月間に支払われた賃金総額…「25万円×3カ月=75万円」

1月~3月までの歴日数…「31日+28日+31=90日」

 

平均賃金:「75万円÷90日=8,333円33銭」

50銭未満は切捨て、50銭以上は切上げが原則となるため、例題の平均賃金は8,333円です。

 

賃金の総額には、「通勤手当」「精皆勤手当」「年次有給休暇の賃金」「通勤手当」「食事補助」といった月ごとの各種手当が含まれます。

 

一方で、

  1. 臨時に支払われた賃金(結婚手当や退職金など)
  2. 3カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  3. 労働協約で定められていない現物給与

については、賃金総額に含みません。

 

平均賃金の計算(最低保証)

出勤日数の少ない労働者や、月給制以外の労働者の場合、平均賃金が少なくなりやすいため、彼らが不利益を被らないよう最低保証額が設定されています。

 

最低保証額は、「自由が発生した日以前の3カ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の労働日数で割った金額の60%」です。

 

最低保証額計算式=「事由発生日以前の3カ月間の賃金総額÷その間の実労働日数×60%」

 

例)

賃金締切日:月末締め、事由発生日:4月15日、賃金総額:45万円(手当含む/日給制)、実労働日数計:45日

 

①原則による計算⇒「45万円÷90日=5,000円」

②最低保証額の計算⇒「45万円÷45日×60%=6,000円」

①と②を比較すると②の最低保証額の方が高いため、この場合の平均賃金は6,000円です。

 

一時帰休で活用できる支援制度

経営状況の悪化によって一時帰休を実施する場合は、「雇用調整助成金」や「中小企業緊急雇用安定助成金」を受けることができます。

 

雇用調整助成金

雇用調整助成金とは、事業活動の縮小を余儀なくされた場合、雇用維持のために休業などの「雇用調整」を実施する企業に対して、国が助成金を支給する制度です。

 

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、2020年4月1日~2021年9月30日まで「緊急対応期間」として特例措置が設けられています。

 

緊急対応期間中は、「助成率拡大」や「受給要件の緩和」といった措置を受けられます。

 

特例以外の通常時と合わせた、雇用調整助成金の簡易的な内容を表にまとめましたので、ご覧ください。

 

  特例以外の通常時

緊急対応期間中

(2020年4月1日~2021年9月30日)

対象となる事業主 経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主 新型コロナウイルス感染症の影響を受ける事業主
生産指標要件 3カ月10%以上減少 1カ月5%以上減少
助成率

中小企業:2/3

大企業:1/2

 

日額上限額:8,370円

※2021年8月1日以降は8,265円

中小企業:4/5

大企業:2/3

 

日額上限額:13,500円

被保険者期間 6カ月以上 要件の撤廃
支給限度日数

1年間:100日

3年間:150日

左記+緊急対応期間中に受給した日数
休業規模要件

中小企業: 1/20

大企業:1/15

残業相殺

中小企業:1/40

大企業:1/30

残業相殺停止

教育訓練

中小企業:2/3

大企業:1/2

 

加算額:1,200円

中小企業:4/5

加算額2,400円

 

大企業:2/3

加算額1,800円

参考:厚生労働省「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)

助成金の内容は、雇用情勢を踏まえて検討されるため、変更になる可能性があります。

 

利用する際は、必ず厚生労働省HP「事業主の方のための雇用関係助成金」をご確認ください。

 

中小企業緊急雇用安定助成金

中小企業緊急雇用安定助成金は、事業活動の縮小を余儀なくされた中小企業事業主が、雇用を維持するために休業などを行った場合の手当や賃金の一部を助成する制度です。

 

【支給内容】

休業…休業手当または賃金相当額×4/5

 

教育訓練…上記に加えて訓練費が加算

事業所内訓練の加算:1日当たり1,500円/1人

事業所外訓練の加算:1日当たり6,000円を加算/1人

 

出向…出向元事業主が負担した賃金相当額×4/5

 

※支給限度日数は、1年間で100日、30年間で300日です。

 

【支給対象事業主】

  1. 雇用保険の適用事業所の中小企業事業主
  2. 直近3カ月間の売上高または生産量の月平均値が前年同期に比べ10%以上減少している
  3. 次のいずれにも該当する休業等または出向を行う事業主

a.対象期間内に実施されるもの

b.労使間の協定によるもの

c.事前に管轄の都道府県労働局に届け出たもの

d.同一の事業主のもとでの雇用保険被保険者期間が6カ月超の労働者を対象

e.休業手当の支払いが法令違反していない(休業の場合)

f.通常行われる教育訓練ではない(教育訓練の場合)

g.出向労働者の同意を得ている(出向の場合)

 

一時帰休の実施手順

一時帰休を実施すると、雇用を維持したまま人件費を抑えることができます。

 

ただし、いくら休業手当が支払われるといっても、給料が減ることに変わりはないため、従業員にとっては大きな痛手です。

 

実施する際は、慎重な判断と正当な手順が欠かせません。

 

実施条件の明確化

一時帰休は、あくまで一時的な休業です。

 

無期限で休ませるものではないので、「どの程度休業させるのか」「休業の実施によってどのくらい業績を回復させられるのか」を見極めなくてはなりません。

 

ある程度見通しを立てておかないと従業員に具体的な説明ができず、不信感を与えてしまいます。一時帰休の正当性を証明するためにも、実施条件の明確化は重要です。

 

見込まれる売上や行政からの休業要請など、一時帰休実施の判断材料を決めた上で、「○月時点で売上がいくらに到達しなければ休業」のように、実施条件を明確化しましょう。

 

一時帰休者の選択

「外国人だから」「女性だから」のように、国籍や性別といった差別的な理由による選定は、トラブルの原因となります。

 

一時帰休させる部署もしくは従業員個人を選定する際は、「どういった理由で休業させるのか」合理的な理由が必要です。

 

なお、特段の理由がない限り、一時帰休者は専門的な知識や技術を必要としない職種から選定するのが適切でしょう。

 

というのも、エンジニアなどの専門職に従事する従業員を休業させると、事業の継続に影響を及ぼす可能性があるからです。

 

一時帰休の期間決定

一時帰休中も従業員には一定の給与が支払われますが、平常時よりも受け取れる金額は減少します。

 

当該従業員に与える経済的な影響も考慮した上で、できる限り短期間に設定してください。

 

また、経営状況悪化による一時帰休を実施した企業には、国から休業手当の一部が助成されます。

 

助成金には、受給条件や支給限度日数が設定されているため、条件をよく確認して期間を検討しましょう。

 

雇用調整助成金では、支給限度日数が1年間で100日、3年間で150日が上限(緊急対応期間中の実施はこの期間に含めず)とされています。

 

一時帰休中の条件

一時帰休中の休業手当は、「平均賃金の60%以上」の範囲内で自由に決めることができます。

 

最低限のラインさえ満たしていれば法律違反には当たりませんが、給与が4割もカットされれば当然家計には大きなダメージを与えます。

人によっては生活が成り立たなくなることもあるでしょう。

 

そのため、従業員の状況に合った条件を提示することが重要です。

 

多く支払うのが難しい場合は、副業を認めるなどの柔軟な対応を行い、従業員が生活に困らないようにしましょう。

 

実施に向けた協議・説明

休業に関する労使協定が締結されている場合は、その内容にしたがって協議を行い、従業員に説明した上で一時帰休を実施します。

 

労使協定が締結されていない場合は、従業員に休業の必要性を説明した上で、労働組合または労働者の代表と労使協定を締結してください。

 

雇用調整助成金の申請に必要となるため、労使協定は大切に保管しましょう。

 

一時帰休の注意点

ここでは、一時帰休実施時の注意点についてご紹介いたします。

 

非正規労働者も同様の扱い

労働基準法第26条で定められている休業手当の対象者には、正社員はもちろん、派遣社員や契約社員、アルバイト・パートも含まれます。

 

そのため、会社都合での休業の場合、雇用形態にかかわらず同様の扱いをしなくてはなりません。ただし、派遣社員の場合は、派遣元の事業主が休業手当を支給します。

 

また、雇用調整助成金の受給対象者は、雇用形態に関係なく「雇用保険被保険者期間が6ヵ月以上」です。

 

※新型コロナウイルスの特例では、学生アルバイトなどの雇用保険未加入者も「緊急雇用安定助成金」の助成対象となります。

 

有給の取り扱い

原則、有給休暇は労働義務のある日に取得できる休暇です。

 

そのため、一時帰休や休日のように、そもそも労働義務がない日の有給取得は不要であり、有給取得を認める義務もありません。

 

とはいえ、会社都合で一時帰休させていることを考慮すると、希望者には有給休暇の取得を認めるのが妥当でしょう。

 

副業の認可

一時帰休中は収入が減少するため、従業員の生活を圧迫させます。

 

給料をカットした上で副業も認めないようでは、従業員からの反発は免れないでしょう。

 

よって、従業員の生活を保護するためにも、休業時における副業は認可するのが適切です。

 

一時帰休は慎重な判断が必要

一時帰休は、業績回復までの間、雇用を維持したまま人件費を削減できる取り組みです。

 

ただし、従業員に与える経済的なダメージも非常に大きいため、「本当に実施するべきか」を十分に検討した上で、期間や対象者、手当の額を慎重に判断しなくてはなりません。

 

また、休業時の対応によっては、そのまま退職されてしまうこともあります。

 

従業員の生活保護や離職対策のためにも、副業や有給休暇の取得といった柔軟な対応を心がけましょう。

 

 

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