女性の社会進出とともに、産休・育休復帰後の女性社員がキャリアアップしづらくなる「マミートラック」が増えてきました。
マミートラックは、キャリア志向の強い子育て中の女性にとって大きな悩みの種であり、モチベーション低下や離職にもつながるため、企業にとっても大きなデメリットです。
女性の活躍が進む今後はさらに、重要な問題となるでしょう。
この記事では、マミートラックの概要や問題点、メリットについてご紹介いたします。
マミートラックの対策方法についてもまとめていますので、ぜひご覧ください。
マミートラックとは
マミートラックとは、産休・育休復帰後の女性に対して責任の軽い仕事ばかりを与え、出世とは縁遠いコースに乗せてしまうことです。
マミートラックの発祥
マミートラックは、NPOカタリスト初代代表のフェリス・シュワルツ氏が「家庭との両立を望むワーキングマザーには育児休業などの制度が必要だ」と提案したのがきっかけです。
これを受けたジャーナリストが「mommy(母)」と「track(陸上競技の周回コース)」をかけ合わせて作ったことから「マミートラック」という言葉が生まれました。
このように、本来マミートラックは「仕事と子育てを両立させるために時間や業務量に配慮した働き方」を進める過程でできたものです。
しかし、近年では女性のキャリア促進を阻害する意味合いで用いられることが多くなっています。
マミートラックの問題点
マミートラックにはどういった問題点があるのでしょうか。
企業と当事者それぞれの問題点を見ていきましょう。
当事者(子育て中の女性社員)
まずは、マミートラックに乗る問題点をご紹介します。
責任のある仕事を任せてもらえない
小さな子どもは抵抗力が弱いため、体調を崩しやすいです。
また、集団感染による臨時の休園・休校になることもあり、当日欠勤や遅刻・早退をすることもあります。
そのため、急なスケジュール変更にも対応できるよう、子どもを持つ女性社員には単純作業やサポート業務といった、責任の軽い仕事が割り振られることが多いです。
出世コースから外れることで、他の従業員に対して劣等感を感じてしまう人もいます。
モチベーションが低下する
これまでの仕事内容よりも責任の軽い仕事ばかりを割り当てられると、仕事に対するやりがいや達成感は得づらいです。
責任の軽い仕事が多くなれば、必然的に昇進・昇給といった出世の機会も減少しますし、モチベーション低下につながります。
業務内容や職位の変更により、給料が大幅に減少するケースも少なくありません。
また、子育てに手のかかるうちはマミートラックに納得していても、育児が一段落して余力が出ると物足りなさを感じてやる気を失ってしまう人もいます。
居心地が悪くなることもある
出世コースから外れると「後輩が自分の上司になる」「同期と比べて簡単な仕事ばかり任される」といった状況になる可能性が高いです。
以前と状況が変わることで居心地の悪さを感じ、離職してしまう人もいます。
企業
つづいて、マミートラックは企業にどういったデメリットをもたらすのかを見ていきましょう。
適材適所の配置やキャリア形成が困難になる
育児を理由に業務を変更した場合、本人の適性を無視した配置となるため、活躍の機会を奪うだけでなく、生産性低下につながる可能性があります。
例えば、営業で高い成果を出していた女性社員にバックオフィス業務を任せても、事務的な業務が得意とは限りませんし、能力を最大限活かすことはできません。
また、単純作業や軽微な仕事ばかりではキャリアアップの判断材料が少ないため、出産後のキャリア形成が困難になります。
モチベーション低下による離職
本人の意向と関係なくマミートラックに乗せてしまうと、キャリアプランとズレが出てしまうため、モチベーション低下を招きます。
モチベーション低下による退職や、キャリアプラン実現のために理解のある職場に転職する可能性があるため、注意が必要です。
優秀な人材ほど離職によって企業が被る損失は大きくなるため、本人の意向を確認した上で早めに対応しましょう。
マミートラック自体が悪いわけではない
本来マミートラックは、仕事と家庭を両立できるよう環境を整える施策の一つなので、決してネガティブなものではありません。
実際、家庭を優先して働きたい女性の中には、マミートラックを選択する人も多いです。
マミートラックに乗るメリット
では、マミートラックに乗るとどういったメリットを得られるのでしょうか。
仕事と家庭を両立できる
産後もこれまでと同じように働くとなれば、遠方への出張や残業などが発生することもあるでしょう。
もちろん、家庭と仕事が両立できないとは限りませんが、これまでの業務に加えて育児もこなさなければなりません。
精神的・身体的な負担は大きくなりますし、仕事に無理が生じる場合もあるでしょう。
あえてマミートラックに乗れば、無理な残業や持ち帰りの仕事もなくなるため、無理なく仕事を続けられます。
家族との時間や自分の時間を確保できる
マミートラックに乗れば勤務時間や業務負担が軽減されるため、家族と過ごす時間を多く取れるようになります。
また、休息に充てたり趣味などに時間を使ったりして、リフレッシュすることも可能です。
他の従業員への負担を減らせる
子育て中は自分に問題はなくても、子どもの都合でやむを得ず欠勤や遅刻・早退をしなければならないこともあります。
子育て中も通常勤務を続ける場合、当日欠勤や遅刻・早退といった急な予定変更により、サポートする従業員の負担が増える可能性もあります。
時短勤務を活用すれば、無理なくサポートできる体制を作れるため、従業員全体の負担軽減にもつながるでしょう。
マミートラック問題を解決する方法
マミートラックには問題点もある一方で、メリットもあります。
では、マミートラックの問題点をクリアするには、具体的にどうしたら良いのでしょうか。
キャリアパスの希望と現状の確認
キャリア志向は人によって様々です。
マミートラックを希望する従業員もいれば、キャリアアップをしたい従業員もいるため、産後希望する働き方について必ず確認しておきましょう。
また、「フルタイム希望の場合、子育てに協力してくれる人はいるのか」「周りへの負担軽減のためにどういう対処法を考えているか」についても確認しておくと良いでしょう。
既にマミートラックの問題が起こっている可能性もあるため、子育て従業員に現状調査をするのも大切です。
従業員ごとの希望や現状を把握できれば、本人の意向に沿った配置やキャリアプラン実現のための環境を提供しやすくなります。
従業員全体に育休・産休の理解を促す
社会で活躍する女性は増えましたが、「女性は出産したらキャリアコースを外れるもの」といったバイアスを持っている人も多いです。
中には「子育て中なら負担の少ない業務にした方が良いだろう」と善意でマミートラックに乗せてしまうこともあるでしょう。
本人の意向に反したマミートラックは様々な問題をはらんでいるため、女性のキャリア・働き方は多様であることを、全従業員に理解してもらう必要があります。
こうした取り組みは、ダイバーシティの推進にもつながります。
女性社員同士のコミュニティ
女性社員同士のコミュニティもマミートラック問題の有効な解決策の一つです。
育児中の女性社員だけでなく、今後育児を行う若手社員や育児が一段落した社員など、女性社員同士が集まることで様々な知識や経験を共有し合うことができます。
特に、マミートラック経験者からの時間の使い方や仕事の進め方、制度の活用は、育児を控えている社員にとって非常に参考になるでしょう。
長時間労働の是正
働き方改革の推進によって長時間労働を是正する動きが活発化しています。
しかし、未だに長時間の残業が行われている企業も数多く存在しており、中には残業を評価するケースもあります。
こうした「残業するのが当たり前」になっている環境では、時短勤務や定時で帰ることに後ろめたさを感じる社員もいるため、長時間労働の是正は必須でしょう。
また、IT化や業務の見直し、タイムマネジメントへの意識を高めることで、業務効率化や残業時間減少にもつながるため、組織にとっても大きなメリットです。
社内制度の構築
育児中の女性が仕事と家庭を両立するには、会社のサポートが欠かせません。社内制度を構築した上で、従業員全体に周知しましょう。
短時間勤務制度
法律により、子育てでフルタイム勤務が難しくなった従業員は「短時間勤務制度」を利用できることが定められています。
制度の対象となるのは、フルタイムで働いていた正規雇用の従業員で、3歳未満の子どもを育てている人です。
法律上では、3歳以上の未就学児童を持つ労働者に対する時短制度の実施は「努力義務」となっていますが、3歳を過ぎたら急に手がかからなくなるわけではありません。
人員数によっては難しいこともあるでしょうが、女性社員に長く働いてもらうためにも、法律以上の制度準備は必要でしょう。
フレックスタイム制度
フレックスタイム制度は、自分の都合に合わせて日々の始業・終業時刻、労働時間を決められる勤務制度です。
出勤していなければならない「コアタイム」が設けられている場合もあります。
未就学児童を持つ従業員は保育園への送り迎えをしなければなりません。
しかし、始業・終業時刻が固定されていると、送り迎え自体が難しいケースもあります。
フレックスタイム制度を導入していれば、通勤時間を決められるため、無理なく送り迎えができます。
会社の近くに子どもを預けている場合は、ラッシュ時間を避けることもできるので、親と子にかかる負担を軽減できるでしょう。
裁量労働制
裁量労働制は、労働時間が労働者の裁量にゆだねられている働き方で、「みなし労働時間制」の一つです。
簡単に言うと、労働時間が長くても短くても、定められた労働時間分働いたとみなす制度です。なお、裁量労働制の対象となる職種は決められています。
労働時間に関係なく一定の給料を得られるため、効率よく仕事を進められれば、拘束時間を短縮できます。
裁量労働制を選択してマミートラックを脱出した事例もあるため、導入する価値はあるでしょう。
リモートワークやサテライトオフィス
子どもを持つ従業員の場合、自分の体調不良だけでなく、子どもの体調不良や休園・休校などが発生することもあります。
こうした事態が発生しても、リモートワークであれば自宅で仕事を進められるため、他の従業員への負担も軽くなります。
また、長時間の通勤に大きな負担を感じている従業員もいるでしょう。
リモートワーク導入やサテライトオフィスの設置をしていれば、遠くのオフィスまで出勤せずに仕事ができるため、従業員の負担軽減や効率化につながります。
結果的に生産性向上や従業員の心身の健康維持にも役立つため、企業にとっても大きなメリットを得られるでしょう。
ワークシェアリング
これまで1人で担当していた仕事を複数人で分ける「ワークシェアリング」の導入も、マミートラック問題に有効です。
複数人で業務をシェアするようになれば、属人化を防げますし、1人にかかる負担も軽減されるため、急な予定変更があってもカバーしやすくなります。
成果によるキャリアアップ制度
マミートラック問題を解決するには、評価制度の見直しも必要でしょう。
「短時間勤務だから評価が下がっても仕方ない」という認識では、従業員のモチベーションを低下させてしまいます。
短時間勤務であっても成果を出すことは可能です。
「質的な目標は変えずに、量的な目標を勤務時間に応じて設定し評価する」など、昇進・昇格の基準を成果で決定する制度を導入すれば、育児中でもキャリアアップできます。
正当な評価がされれば従業員のモチベーション向上だけでなく、対外的なアピールにもなるため、人材確保の面でも役立つでしょう。
育児休業制度
法令上の制度である育児休業制度では、子どもが1歳になるまで休業できます。
待機児童問題を受け、2017年には2歳到達時まで再延長が可能になりました。
育休は女性だけでなく、男性も取得可能です。
法令上の育休期間にプラスαで育休が取れる制度を設ける企業が増加しています。
育休期間が延びることで預け先を見つけやすくなるため、復帰しやすくなります。
保育施設やベビーシッター制度
ワーキングマザーにとって子どもの送り迎えは、負担が大きいものです。
そのため、福利厚生などで保育施設やベビーシッター関連の制度を導入すれば、女性社員の負担を大幅に軽減できます。
こうした制度を導入すれば、土・日・祝日に勤務できる従業員も確保しやすくなりますし、子育て中の女性社員もフルタイム勤務を選択しやすくなります。
各自のキャリア観に沿った対応が重要
マミートラックはネガティブな意味合いで使われることが多いですが、本来はワーキングマザーをサポートする施策から生まれた言葉です。
マミートラックを望まない女性もいれば、あえてマミートラックに乗って過程を優先したい女性もいるため、しっかりと本人の意向を確認した上で対応しましょう。
また、意向に関係なく子育てには会社のサポートが欠かせません。ご紹介した内容を参考にして、従業員の負担を軽減しましょう。