偏見や差別に対する意識が世界的に高まる中、日本でも頻繁に「ポリコレ」が取り上げられるようになりました。

 

ダイバーシティの推進にも役立つことから、ポリコレを意識した中立的表現を用いる企業が増えている反面、ポリコレを巡る問題も起きています。

 

そこでこの記事では、ポリコレの概要や注目されている背景、採用選考や職場での注意点について解説いたします。

 

ポリコレへの取り組み事例もご紹介しますので、ぜひご覧ください。

 

ポリコレとは

ポリコレとは、「ポリティカル・コレクトネス(political correctness)」の略です。

 

「政治的・社会的な公正中立」を意味する言葉で、人種や民族、性別、性的指向などによる偏見や差別から、当事者たちを守るために生まれた考えです。

 

この考えから派生し、現在では容姿や年齢、婚姻関係、職業なども含めた、特定の個人や集団に配慮した表現を用いることを指します。

 

簡単に言うと、社会的弱者やマイノリティを守るための概念や表現がポリコレです。

 

ポリコレの歴史

ポリコレの歴史は、1950年~60年代のアメリカで起きた「公民権運動」がきっかけです。

 

当時アメリカでは、公共施設やホテル、公衆トイレなど、あらゆるものが黒人用・白人用に分離されており、人種差別が当たり前に行われていました。

 

こうした状況を脱却するために、自由と平等を求めて行われたのが公民権運動であり、この活動によってポリコレの考えが広まりました。

 

1980年代になるとポリコレの動きは鈍化しますが、1990年代に著名な作家やニューヨーク・タイムズ紙に取り上げられたことで、再び注目が集まります。

 

ポリコレによる様々な変化

ポリコレによって、古くから使われていた言葉や名称が数多く変化しています。

 

英語では、

 

白人…「white」⇒「Caucasian」

黒人…「black」⇒「African American」

ネイティブアメリカン…「American Indians」⇒「native Americans」

警察官…「policeman」⇒「police officer」

目が不自由な人…「blind」⇒「Visually impaired」

女性の敬称…「(既婚)/Miss.(未婚)」⇒「Ms.」

 

などです。

 

日本語では、

 

ビジネスマン⇒ビジネスパーソン

カメラマン⇒フォトグラファー

看護婦・看護士⇒看護師

保母・保父⇒保育士

スチュワーデス⇒客室乗務員orキャビンアテンダント

肌色⇒うすだいだいorペールオレンジ

 

などが挙げられます。

 

また、学校の服装規定の緩和もポリコレによる変化の一つです。

 

「男性はズボン、女性はスカート」という一律の規定ではなく、女性の制服選択を認める学校や、学生の私服通学を認める学校が増えてきています。

 

企業がポリコレに注目している背景

ポリコレに高い関心を寄せる企業が増えていますが、なぜ近年ポリコレが注目されているのでしょうか。

 

労働人口減少に伴う人手不足

少子高齢化が進む日本では、労働人口が減少し続けているため、優秀な人材は今後さらに確保しづらくなります。

 

そのため、数ある企業の中から優秀人材に選んでもらえるよう、魅力的な企業にならなくてはなりません。

 

人種や国籍、民族、宗教、LGBTQなど、ポリコレへの対応に取り組むことで、採用や離職防止といった人材確保に役立ちます。

 

ダイバーシティの推進

ポリコレが注目される理由として挙げられるのが、ダイバーシティの推進です。

 

スマートフォンの普及による価値観の多様化や、終身雇用の終焉、女性の社会進出、高齢者、外国人の活用などの影響で、様々な人材が社会に増えました。

 

今後は多様な人材が社内に増えるため、制度や環境整備といったハード面だけでなく、人間関係などのソフト面にも配慮した対策が求められます。

 

つまり、ポリコレの公正性や中立性がダイバーシティの推進に役立つため、注目されているのです。

 

ポリコレを巡る問題

ポリコレは、差別や偏見から当事者たちを守るために重要な概念ですが、過度な反応は様々な問題を引き起こします。

 

ここでは、ポリコレによってどういった問題が起きているのかをご紹介します。

 

ポリコレが問題になった事例

まずは、ポリコレにより炎上してしまった企業事例を見ていきましょう。

 

商品ブランド名『お母さん食堂』

ファミリーマートのお惣菜ブランド『お母さん食堂』は、「家事は女性がするものだ」というアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を助長するとして、抗議活動が起こりました。

 

2020年女子高生3人が『お母さん食堂』の名称変更を求めて、ネット上で署名活動を行いました。

 

SNS上でも大きな反響を呼び、様々な議論を巻き起こしましたが、結局署名の目標数には届いていません。

 

しかし、2021年10月には『お母さん食堂』は廃止され、加工食品なども一本化した『ファミマル』というブランド名に変更されています。

 

ファミリーマート側は、名称変更は「抗議活動と無関係」としています。

 

 

CM『動かしつづける。自分を。未来を。』

2020年11月頃にナイキジャパンが放映したCMで、日本国内の人種差別について実話をもとに描かれています。

 

3人の少女がサッカーを通じて自信を深め、差別に立ち向かい未来を切り開いていくというストーリーで、ポリコレを全面に打ち出した内容です。

 

マイノリティを尊重するあまり、ポリコレの中立性が損なわれ、あたかも日本が「差別のひどい国」であるかのような印象を与えることから、炎上しました。

 

ウイグル人の強制労働事件を起こした企業が作った点も、さらなる批判の原因となっています。

 

トランスジェンダーのトイレ使用問題

女性として生活している経産省職員が、職場の女性用トイレの利用を制限されたことを不当な差別として国を訴えました。

 

1審の東京地裁では、原告の訴えを認めて、女性用トイレの自由な使用と130万円の賠償を命じました。

 

2審の東京高裁では「トイレの使用制限は違法ではない」と一転し、上司の「性転換しないなら男に戻っては」などのセクハラ発言のみの賠償を命じています。

 

今回の判決では認められませんでしたが、性的マイノリティに配慮した司法判断は増えてきています。

 

行き過ぎたポリコレが引き起こす問題

つづいて、行き過ぎたポリコレがどういった問題を引き起こすのか、見ていきましょう。

 

表現の自由を奪う

ポリコレは、社会的弱者やマイノリティを差別・偏見から守るために必要な考えですが、エスカレートすると言葉狩りや表現の自由を奪うことにもつながります。

 

個人の何気ない一言でさえ批判の的になることも多く、社会全体が窮屈さを感じているのも事実です。

 

アメリカでは、宗教差別につながるとして「メリークリスマス」ではなく「ハッピーホリデー」と表現することが多くなり、クリスマスソングを廃止する学校も増えています。

 

また、ボストンの美術館では、着物を着た白人女性を描いた『ラジャポネーズ』の前で、来場客に着物を着せるイベントが開かれましたが、「アジア人へのフェチを助長する」として、中止されました。

 

どちらも、元々差別的な意図はないことは明白ですが、ポリコレによって表現が大幅に制限されていることが分かります。

 

ポリコレ棒

ポリコレ棒とは、何気ない言葉に対しても「差別・偏見だ」とむやみやたらに攻撃したり、ポリコレに反論する人を叩いたりすることです。

 

ポリコレを笠に着て他人を叩くことから「ポリコレは人を叩く棒」と言われるようになり、日本ではネットスラング的にポリコレ棒と呼ばれるようになりました。

 

ポリコレ発祥の地であるアメリカは、ポリコレへの意識が高い反面「ポリコレ思想を強く嫌悪している人は8割近く存在する」という調査結果も存在するほどです。

 

2016年の大統領選挙で、ポリコレに真っ向から反論したトランプ氏が勝利したことも“ポリコレ疲れ”の証明とも言えるでしょう。

 

採用活動におけるポリコレの注意点

ポリコレに配慮した採用活動を行うためにも、関連する法令の順守を徹底しましょう。

 

なお、法令は変更になる可能性があるので、定期的に情報をアップデートすることが大切です。

 

求人募集

男女雇用機会均等法により、性別による差別は禁止されています。

 

例えば、

  1. 特定の性別を連想させる表現(営業マンなど)
  2. 特定の性別に限定した募集(女性歓迎など)
  3. 性別で募集や採用人数に差を設ける(男性2名、女性1名など)
  4. どちらかの性に異なる条件を出す(女性は未婚のみなど)

などです。

 

もちろん、「男性:スーツ、女性:オフィスカジュアル」といった、性別による服装の指定も認められません。

 

また、雇用対策法により、年齢を限定するような求人募集も禁じられています。

 

「高校生不可」「20代歓迎」といった間接的な表現も禁止されているため、注意が必要です。

 

ただし、性別・年齢ともに制限が認められるケースもあります。

適用除外に当たるかどうか判断に悩む場合は、都道府県労働局雇用環境・均等部に相談しましょう。

 

参考:厚生労働省「男女均等な採用選考ルール

参考:厚生労働省「その募集・採用年齢にこだわっていませんか?

 

採用選考時

厚生労働省「公正な採用選考の基本」では、本人の適性や能力に関係のない事項に関する質問を控えるよう、呼びかけています。

 

具体的には、以下のような質問です。

 

本人に責任のない事項 本来自由であるべき事項

本籍・出生地に関すること

家族に関すること

住宅に関すること(間取りや周辺施設など)

生活環境・家庭環境に関すること

宗教に関すること

支持政党に関すること

人生観・生活信条に関すること

尊敬する人物に関すること

思想に関すること

労働組合・学生運動・社会運動に関すること

購読新聞・雑誌・愛読書に関すること

これらの質問は、応募者の緊張を解きほぐす目的であっても、就職差別につながる恐れがあります。

 

ポリコレに配慮するためにも、本人の適性・能力と無関係な質問は控えましょう。

 

職場におけるポリコレの注意点

多様な価値観を持つ人材が安心して働ける環境を提供することが重要です。

 

ハラスメント

2020年6月にはパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が施行され2022年4月からは、中小企業も対象となります。

 

同法では、セクハラ・マタハラに関する対策措置も義務づけられているため、多くの企業ではハラスメント防止に取り組んでいるでしょう。

 

とはいえ、何気ない一言がトラブルになる可能性もあるので、

  1. 「女性なのだから家庭を優先するべき」
  2. 「男性なのに育児休暇を取るのはおかしい」
  3. 「○○人はルーズだ」

といった性別や人種、民族に関連づけた発言はしないよう、周知徹底するなどハラスメントへの知識をインプットすることが重要です。

 

参考:厚生労働省「パワーハラスメント対策が事業主の義務となりました!

 

アウティング

性的指向や性自認の揶揄や否定はもちろん、アウティングもハラスメントに当たります。

 

アウティングとは、個人の性的指向や性自認(SOGI)を許可なく第三者に暴露することです。

 

アウティングが原因で自殺してしまった事例では、司法によりアウティングの違法性が認められています。

 

性的指向やSOGIは極めてセンシティブな情報のため、本人からカミングアウトされても第三者に伝えてはいけません。

 

アウティングを防ぐためには、SOGIハラやアウティングに関する教育研修を実施することが重要です。

 

職場環境の整備

職場環境の整備もポリコレには欠かせません。

 

例えば、

  1. 女性社員のキャリア育成プログラム
  2. 出産・育児・介護を目的とした休暇・休業制度の整備
  3. 福利厚生の見直し
  4. 評価制度の見直し
  5. 柔軟な働き方
  6. 宗教への配慮(祈祷室の設置、休暇など)

などが挙げられます。

 

ポリコレへの取り組み事例

最後に企業が行っているポリコレへの取り組みをご紹介します。

 

日本航空(JAL)

JALでは、2016年4月にダイバーシティ推進グループを人事部内に新設し、LGBTQの研修などを実施し多様な価値観を受け入れる企業風土づくりに取り組んでいます。

 

2020年10月から「ladies and gentlemen.」を廃止し、「good morning everyone.」といった性的マイノリティに配慮した表現に変更しました。

 

また、女性リーダーやグローバル人材の育成、障がい者の雇用、定年退職後のシニア社員の再雇用にも注力しています。

 

ユニリーバ

ユニリーバでは、ブラック・ライブズ・マター運動をきっかけに、2020年6月いち早く「ホワイトニング」などの美白表現を撤廃しました。

 

「白い肌=美しい」というステレオタイプの助長や人種差別への配慮から、美を包括的に捉えた中立的な表現に変更し、2021年3月には「ノーマル」の表現も削除しています。

 

また、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する同社では、「顔写真のない履歴書」や性的マイノリティに配慮した制度など、多様な取り組みを行っています。

 

ポリコレの取り組みでダイバーシティが推進

ポリコレは社会的弱者やマイノリティを守るための概念・運動です。

 

誰もが気軽に情報発信できる現代において、ポリコレへの意識が低いと批判の的となる可能性があります。

 

よって、消費者や求職者からの信頼を得るためにも、ポリコレ対策は必要不可欠です。

 

ダイバーシティの推進にもつながるため、経営者だけでなく従業員一人ひとりに至るまでポリコレへの意識を高めましょう。

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