女性の社会進出が活発化するのにしたがって、ポジティブ・アクションに取り組む企業が増えています。
ポジティブ・アクションによる男女格差是正の取り組みは、政府も推進を呼びかけているため、取り組み方や具体例について知りたい方も多いでしょう。
この記事では、ポジティブ・アクションの概要や目的、メリット・デメリット、具体例について解説します。
ポジティブ・アクションへの取り組み方や企業事例についてもご紹介しますので、ぜひご応募ください。
ポジティブ・アクションとは?
ポジティブ・アクションとは、性別の役割分担意識をなくし、男女の格差是正を目的として企業が独自に行う取り組みのことです。
元々日本には「男女雇用機会均等法」が定められています。
しかし、この法律はあくまで雇用機会における男女格差を禁止する法律のため、組織内での部署や役職の性差までは、対象となりません。
そのため、
- 特定の部署にしか女性が配置されていない
- 女性の管理職が少ない
など、男女の労働者間で差が生じているケースも多いです。
こうした中、組織内における男女格差の是正に向けて、ポジティブ・アクションに取り組む企業が増えています。
なお、格差による不利益は女性が被る機会が多いため、ポジティブ・アクションは「女性だけもの」と思われがちですが、女性の多い職場では男性に対して用いられます。
アファーマティブアクションとの違い
アファーマティブアクション(積極的格差是正措置)とは、女性や障がい者といった、社会的マイノリティを救済するための措置です。
一定の範囲内で社会的マイノリティに特別な機会を提供する取り組みを指し、ポジティブ・アクションと同等の意味で用いられます。
ただし、日本でのポジティブ・アクションは、女性労働者に対する是正措置として用いられることが多いです。
ポジティブ・アクションの目的
ではなぜ、ポジティブ・アクションを行う必要があるのでしょうか。
活躍の機会を平等にするため
引用:男女共同参画局「我が国及び諸外国における女性の参画状況等」
日本の就業者に占める女性の割合は42.2%と、諸外国と同程度の水準となっており、数多くの女性が働いていることが分かります。
しかし、管理職に就いている女性の割合を見ると、日本は11.9%で、韓国の9.4%に次いで低い割合となっています。
諸外国が3割程度で推移していることからも、日本の役職者における性差は未だに根強く残っていることは明らかです。
また、役職に性差があれば、当然賃金格差も生じます。
こうした格差を是正するには、働く意欲と能力を有する女性が活躍できるよう、ポジティブ・アクションで実質的な機会の平等を確保する必要があります。
多様性を確保するため
ポジティブ・アクションは、単に女性を優遇する取り組みではありません。
性別に関係なく、各々が能力を存分に発揮できるよう、活躍の機会を平等に与えることを目的とした取り組みです。
性別役割分担から解放され、従業員それぞれが適材適所で存分に能力を発揮できれば、多様性の確保につながります。
多様な人材の発想や能力の活用は、組織力の強化や活性化に役立つため、企業の持続的な発展にも貢献できるでしょう。
また、ポジティブ・アクションを通して日本企業の多様化が進めば、日本の国際競争力も高まると考えられます。
ポジティブ・アクションは男女雇用機会均等法に抵触しない?
男女雇用機会均等法では、性別を理由として募集・採用に差を設けることを禁じているため、原則として採用活動における男女格差は不可です。
ただし、ポジティブ・アクションは、男女の労働者間で生じている格差を是正する措置なので、一定の条件を満たせば法律違反にはなりません。
具体的な条件は、「募集する職種の女性比率が4割を下回っている状況であること」です。
従業員全体の女性比率が4割を下回っていても、募集職種で4割以上の場合は適用できないため、注意しましょう。
女性比率が4割を下回っていれば採用活動の際に「女性歓迎」の表現を使用できます。ただし、ポジティブ・アクションによる性別の限定であることを明記しなければいけません。
なお、条件に合致する場合であっても「ただ単に女性社員が欲しい」など、男女雇用機会均等法の趣旨にそぐわない目的での募集・採用は、違法に当たります。
条件に合うかどうか不安な場合は、労働局の雇用環境・均等室に問い合わせましょう。
ポジティブ・アクションに取り組むメリット
ポジティブ・アクションに取り組むことで、得られるメリットについてご紹介します。
女性社員のキャリア意識向上
企業が女性管理職の登用や育成、職域拡大に取り組めば、性別に関係なく、個人の能力を存分に発揮できる環境を提供できます。
また、仕事と家庭の両立支援は女性社員の長期間就労を促し、本人が望むキャリアを実現しやすくなります。
そのため、ポジティブ・アクションへの取り組みは、女性社員のキャリア意識向上だけでなく、モチベーションや企業への貢献意欲アップにも効果を発揮するでしょう。
労働力不足の解消につながる
女性は、出産や育児といったライフイベントがキャリアに大きな影響を及ぼします。
ポジティブ・アクションへの取り組みで男女による就労の格差がなくなり、女性が働きやすい環境が整えば、女性社員の長期就労が促されます。
また、こうした職場環境は、ライフイベントを控えた女性やキャリア志向の強い求職者にとって非常に魅力的です。
従業員の定着だけでなく、求職者へのアピールにもつながるため、労働力不足の解消に役立ちます。
企業イメージの向上
ポジティブ・アクションは、SDGs(持続可能な開発目標)の「ジェンダー平等を実現しよう」にも共通する取り組みです。
男女間の格差を解消し、適材適所での能力発揮や育成に取り組むことで「SDGsに取り組む先進的な企業」「人を大切にしている企業」というイメージを世間にアピールできます。
企業イメージがアップすれば、事業運営や採用活動に好影響をもたらすでしょう。
多様性の確保や社内の活性化
女性をはじめとする様々な人材が活躍できる機会の提供は、多様性の確保につながります。
多様な価値観から生み出されるアイデアは、新たな製品・サービスの開発に役立ちますし、他の従業員への良い刺激にもなるため、社内の活性化に役立ちます。
ポジティブ・アクションのデメリット
ポジティブ・アクションに取り組むデメリットは、男性社員が不満を募らせる可能性がある点です。
採用や管理職への登用、育成などで女性を優遇するあまり、男性を疎かにしてしまうと、男性社員から反発を招く恐れがあります。
実際、ポジティブ・アクションに取り組む海外では「能力よりも性別(女性)が優先され、生産性が低下している」などの問題も出てきています。
ポジティブ・アクションの具体例
では、どのようにポジティブ・アクションに取り組めば良いのでしょうか。
ここでは、ポジティブ・アクションの具体例についてご紹介いたします。
女性の採用拡大
女性の採用を拡大すれば、自社における男女割合の差を埋めることができますし、女性社員が増えれば、女性管理職の比率も高められます。
女性の採用を拡大するには、女性の応募者数を増加させる必要があります。
そのため、
- 社内で活躍する女性社員を積極的に紹介する
- 採用担当者に女性社員を含める
- 女性求職者を対象とした職場見学会の実施
- 女性が働きやすい制度を整えた上で、求人にも記載する
といった施策を講じると良いでしょう。
女性比率の数値目標を部署ごとに設定するのも一つの手です。
女性の職域拡大
営業職や技術職など、女性社員が少なかった部署・職種にも、積極的に女性を配置することで、活躍の場を広げることができます。
女性ならではの視点や意見がもたらされれば多様性も生まれるため、組織の活性化や顧客ニーズへの柔軟な対応もしやすくなるでしょう。
また、女性の採用拡大と職域拡大は密接に関係しているので、両方に取り組むことで女性の管理職増加も効率的に進められます。
女性の職域を拡大させる際は、本人だけでなく、受け入れ先の環境も整備することが重要です。
例えば、
- 配置する女性に教育訓練を行う
- 女性を複数配置する
- 対外的な業務に配置する際は、事前に取引先へ説明する
- 男女ともに使いやすい器具や設備を導入する
- 作業方法や作業工程の見直し
- 女性の受け入れ経験が少ない管理職へ研修を実施する
などが挙げられます。
従業員が自ら手を挙げられるよう、自己申告制度や社内公募制度といった制度を整えておくと、女性の職域を拡大させやすくなるでしょう。
女性の管理職増加
女性の管理職を増やすには、性別に関係なく、個人の能力が正当に評価される制度を整備する必要があります。
具体的には、
- 人事考課・昇進・昇格の条件を見直し、明確化した上で周知する
- 公正な人事考課を行うための評価者研修の実施
- 管理職候補の女性社員をリストアップし、個別に育成
- ロールモデルとなる女性社員の育成と提示
といった施策が挙げられます。
また、先輩社員が1対1で後輩社員の相談に乗る「メンター制度」の導入も、女性の管理職増加に有効です。
仕事と家庭の両立支援
女性に限らず、従業員に長く働いてもらうには、働きやすい環境を整えることが重要です。
両立支援策としては、
- 法を上回る育児・介護休業制度や短時間勤務制度の導入
- 休業しても昇進・昇格ができるような人事評価制度の導入
- 職場復帰をしやすくするための講習を実施
- 長期勤続に向けた生活設計に関する相談窓口の設置
などが良いでしょう。
職場環境・風土の改善
せっかく制度を導入しても「男性は基幹的業務、女性は補助的業務」のように、性別役割分担意識が根づいたままでは、ポジティブ・アクションは進みません。
そのため、男女の役割分担意識を解消させる「意識啓発研修」などの実施によって、意識改革を進めていきましょう。
ポジティブ・アクションへの取り組み方
ポジティブ・アクションの具体例が分かったところで、具体的な取り組み方について見ていきましょう。
1.現状分析
ポジティブ・アクションへの取り組みは、現状分析による問題点の把握からはじめましょう。
「社内全体・部署・職種ごとの男女比」「女性管理職の割合」「出産や育児を理由とした離職率」などを分析すると、問題点の洗い出しができます。
また、社内アンケートや個別のヒアリング、グループディスカッションを行うと、現場のリアルな声を集められます。
2.目標と取り組み計画の策定
改善が必要な問題を把握したら、目標と取り組み計画の策定です。
例えば、
女性の管理職がいない…女性管理職の割合を〇%増加させる
女性の離職率が高い…出産・育児に伴う女性社員の離職率を〇%低下させる
のように、具体的な目標を設定しましょう。
目標を設定したら、「管理職候補の女性社員を個別に育成」「独自の子育て支援制度を導入」など、目標達成に向けた具体的な取り組み内容を検討します。
3.具体的な取り組みの実施
ポジティブ・アクションの具体的な取り組み計画が決まったら、それに沿って施策を実施していきます。
施策は必ずしもスムーズに進むとは限りません。
課題に直面したときや計画がスムーズに進まないときは、一旦立ち止まって「なぜこうした問題が起きるのか」現状を見直した上で、改善策を考えましょう。
状況に合わせて柔軟に修正していくことで、目標達成に近づきます。
振り返りと見直し
施策実施後は、一定の期間ごとに振り返りと見直しを行いましょう。
「どのような成果が出たのか」「どの部分で変化が表れているか」「目標に対する達成度合い」などを効果測定します。
また、効果測定と合わせて「成果が出た理由」「出なかった理由」を検証し、改善点を洗い出すと、施策をブラッシュアップしていけます。
なお、ポジティブ・アクションへの理解・協力を促すためにも、成果は社内で共有しましょう。
ポジティブ・アクションの企業事例
ポジティブ・アクションに取り組む企業は、年々増加しています。
ここでは、厚生労働省で紹介されているポジティブ・アクションの取り組み好事例をご紹介します。
日本アイ・ビー・エム株式会社
アイ・ビー・エムでは、「社員の女性比率16%アップ」「係長職以上の管理職比率倍増」「課長職以上の管理職比率13ポイントアップ」などを、目標に掲げました。
目標達成に向け、採用権限のあるポジションへの女性配置と、全採用面接への女性面接官配置を行った結果、女性社員比率が1998年の13%から5年後には15.7%にまで上昇しています。
また、女性社員を対象とした「ネクスト・ステップ・セミナー」など、女性管理職育成のセミナーやフォーラムも多数実施しており、約5年間で大幅に女性管理職が増加しました。
住友スリーエム株式会社
住友スリーエムでは、採用拡大や職域拡大、管理職登用に関する取り組み目標を定めています。
1次・2次面接への女性面接官の配置や、販売職の女性社員増加に向けた「3Mセールス・カレッジ」「キャリアチャレンジ説明会」「キャリアカウンセリング」などを実施しました。
その結果、販売職の女性社員は、2002年12月の15名から2003年3月には25名まで増加しています。
株式会社平和堂
女性職域拡大や女性管理職の増加といった取り組み目標を定める平和堂では、女性面接官の増加や業務見直しによる負担の軽減、新人事制度の導入などを行っています。
結果として、食品部門の女性比率は2001年の2%から翌年には4.5%にまで上昇、女性の店長・バイヤー候補者も多数育成に取り組めるようになったそうです。
ポジティブ・アクションで女性活躍を推進
男女格差の是正を目的とするポジティブ・アクションへの取り組みは、女性が活躍する場を広げることができます。
性別に関係なく、適材適所で能力を発揮できるようになれば、従業員のモチベーションだけでなく、企業イメージ向上による事業・採用活動への好影響も期待できるでしょう。
女性の社会進出が進む今後、ポジティブ・アクションは人材確保にも役立つため、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。